よくある間違ったEQの使い方と、正しい使い方について書いておきます。
つーても私は短期的にエンジニアに教わった&作家業務レベルなので、本当に正しいEQの使い方を習得している人にとってはネットによくあるド素人の戯言でしかありません。
(2022年1月22日更新)
(2022年2月15日 「レゾナンス削りの具体例」を追記。)
- ■ご感想をいただいた。
- ■来たぜキラーコンテンツ
- ■削るのは「基音ピーク」ではなく「レゾナンス」である
- ■間違ったEQの使い方
- ■削らない勇気
- ■プラグインの数値と見た目はあてにならない
- ■細く削ることの持つ意味
- ■無意味に繊細な加工
- ■プリセットや数値のモノマネは無意味
- ■聞くだけでEQがうまくなる曲を作った
- ■関連記事
■ご感想をいただいた。
DTMレッスンでEQに悩む生徒さんの9割はこれに陥ってることが多いです。是非目じゃなく、耳でMIXしてほしい。
— NSN Studio@釧路 (@nsn946guitar) 2021年10月27日
私の場合まずはローもハイもシェルビングで音を狙います。
ローカットやピークカットは必要と感じた時のみ。
EQの使い方、の前に。(1)ピーク探しの落とし穴 https://t.co/fttfu3i4q3
(改行強調、編者)
ほんとこれ。
みんなEQを使いすぎです。
色気づいた田舎女子高生が、自分で前髪や眉毛をいじって悲惨なことになるのに似ています。初心者ほどやりすぎるんです。
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というわけで本編開始。
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■来たぜキラーコンテンツ
とにかくこれを見ろ。英語だけど気にするな。
(時間指定再生。1分40秒~)2分15秒か、3分過ぎまで見れば十分。
この動画に出てくるEQプラグイン「fabfilter Pro-Q3」は、動画が作られた2020年9月28日の時点で「ギョーカイ標準」「最先端」と言われ絶賛されたものです。非常に高機能で洗練されたGUIのダイナミックEQです。
そういう高性能EQを使っておきながらあえて、素人に普及している「スイープして不快な部分を下げまくる」というおかしな方法を強調した皮肉動画です。
バンドは増やせるだけ増やし、一番デカいところを削り続けた結果がこれ。
この状態をEQオンオフで聞いて冷笑しているところがこの動画の頂点で、初心者ミックスあるあるジョークです。
バンド数無制限の高性能EQ。
めちゃ細く削れる高性能EQ。
スペアナ表示付きの高性能EQ。
どこかで聞いた「EQはカットで使う!」というメソッド。
どこかで聞いた「スイープで不快な音を探して削る!」というメソッド。
だからと言って、全て削れば削るほど良い音になるわけではありません。
■削るのは「基音ピーク」ではなく「レゾナンス」である
この記事の後半で「レゾナンス」という言葉が何度も出てきますのでご注目ください。
なんならページ内検索で「レゾナンス」と書かれている付近だけ読むだけでも構いません。
非常に誤解が多いので、まず一言。
レゾナンスとは一番出っ張っているピークではありません。
あらゆる音色は「倍音」のバランスで構成されています。倍音の中で一般的に最も大きいのは「基音」です。
この最も大きい基音のバランスを下げてしまったり、倍音のバランスを著しく変えてしまうと、原音が損なわれます。
EQは細かく使えば使うほど音が良くなるものではありません。むしろ逆で、基本的には使うほど音は悪化します。
悪化させてでも何かをしたい時、しなければならない時にだけ使うべき劇薬だと思っておいてください。(あらゆる薬は使う量を間違えれば毒です!)
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一番わかりやすく言うと、レゾナンスとは部屋鳴りのことです。
理解できない人はバケツに顔を突っ込んで喋ってみると分かるはずです。
バケツという部屋の形状によって、声に不必要なバケツ共鳴が追加されてしまいます。
その周波数を特定して削るのが正しいピーク取りです。
自分の声のピーク(基音)を削るのは間違ったピーク取りです。
もしくはクセの強いリバーブ(特にIRリバーブ)を使った時に「特定の周波数だけが常に鳴ってしまって使いにくい」と感じたことがあるなら、それこそがレゾナンスです。IRを作った時に収録されたその空間の共鳴音です。
・レゾナンス削りの具体例
非常に分かりやすい実例の動画を見つけたので追記します。
EQでのピーク削りの実例において、下の動画が極めて優れているポイントは、
- EQの解説動画ではないので、実際の作業スピードを見ることができる
- どのような状況でレゾナンスピークが発生したかが明確
です。
時間を指定しつつ、解説していきます。
3分で終わりますので、必ず下の文章と一緒に見てください!
7分28秒~ デスメタルのベースの音色作り(マルチバンドディストーション)をしています。この時点ではEQのは使いません。この時のサウンドを覚えておいてください。
8分5秒~ キャビネットシミュ(IR型)を立ち上げます。先程のサウンドにアンプの音が追加されます。
8分40秒~ キャビネットのIRを変更しました。演奏している音程と無関係に常に高い音程が加わっています。これがレゾナンスです。このサウンドを覚えておいてください。
9分1秒~ EQを立ち上げます。ここからの作業スピードを見てください。素人がやるようにピーク位置が右往左往することはありません。すでに除去したいレゾナンスを聞いているので、その音にまっすぐ向かっています。「ピークを探す」とはこういうことです。目的も無くうろうろしてはいけません!
9分22秒 レゾナンス除去の作業が完了しました。
9分59秒~ もう少し除去するためにQを太くする作業です。
さらに強めにカットが行われ、さらに実用的な仕上がりになりました。
これが適切な「EQでのピーク除去」です。
キャビネットのIRを変更して不快な音が追加されてしまいましたが、全体的にはこのサウンドが欲しい。でも余計なレゾナンスがある。じゃあそれをEQで除去しよう!という流れです。
IRが変更された直後の音を不快だと感じて、別のIRにするという選択肢もあります。しかし「EQでレゾナンスを除去すればイケる」と判断できれば何も問題無いわけです。
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このように、EQで削るべきは録音物に含まれている「レゾナンス(共鳴)」です。
キャビネットシミュの他にも、できの悪いサンプリング素材にもレゾナンスが含まれていることがあります。
レゾナンスをどのくらい除去するかは、料理で「じゃがいもの皮をどこまで残すか?」に似ています。皮付きの方がおいしいこともあるでしょ?
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EQに不慣れ、あるいは過剰な期待をしている人は「皮むき」をしすぎてしまいます。
一生懸命にEQをやると、ほぼ例外なく皮むきをしすぎてしまいます。
レッスン時に使う別の例えは「眉毛のお手入れ」です。
中高生の女の子が色気づいてくると眉毛のお手入れや化粧をするようになります。そしてほぼ例外なく眉毛を剃りすぎてしまいます。
真の美人はメイクなどしない。
汚れが無い果物はそのまま食べてOKということです。
・ピークを削るのはもっと先の話
EQで処理するべきもう1つの要素は「ピークを削る」処理です。
ピークというのは一番出っ張っている部分で、これはスペアナで瞬時に確認できます。
しかし、「一番出っ張っている部分」を片っ端から削ると、必ずおかしな音になります。
よくあるEQメソッドの「ピークを削りましょう」の意味を誤解していませんか?
ピークはいかに削り取るかではなく、どのくらい残すかがコツです。
・音色の差とはピークとそれ以外の部分の差である
あらゆる音色は「倍音」の配分でできています。
ここでは倍音については細かく書きませんが、ほぼ全ての音色に共通するのは「倍音は一番下(基音)が一番大きい」ということです。また、ほぼ全ての音色では下から2番目が2番目に大きいです。
音色ごとのピークを誤った認識のまま削ると、この1番目と2番目を大きな部分を「ピークを削る」と勘違いしてしまいます。削るべきは音色特性と無関係に生じているレゾナンスであって、最大部分ではありません。
ピークは削るのではなく、残すものです。
ほぼ例外なく、音色ごとのピークは削ってはいけません。
いつ、どこで、誰が言ったのかはわかりませんが、今日の国内DTM界では「ピークを削る」という言葉だけが独り歩きしています。
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以下、過去記事そのまま。
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■間違ったEQの使い方
ネットのアマチュア間で流通している方法はほぼ例外なく間違いだらけです。
国内で安易に入手できる、いわゆる「DTMer」向け、ネットで声の大きい素人騙しのミックス手法は片っ端から疑うべきです。
で、死ぬほどありがたいレベルの内容を持つ記事を書いている人がいるので、死ぬまで繰り返し読むことをおすすめします。非常に分かりやすく丁寧に噛み砕いた書き方で、本当にすばらしいです。
上記事を読んでサッパリだという人は、そもそもエンジニアリングに向いていないと自覚し、無難にミックスをするにとどめておいたほうが、「やりすぎて変になった」という悪夢を回避できるはずです。
スマホで下らないことやってる間にこういうのを読む習慣をつけましょう。まじで。その10分の積み重ねが1年後に圧倒的な差になってきます。
■ピーク探しの間違い手順「間違ったスイープ」
まず間違い例1。
パラメトリックEQを使う場合「不快な帯域を探すためにピークを細くして探す」という手法がありますが、
1,Qが細いと、どの帯域でも不快に聞こえる
2,上げすぎると、どの帯域でも不快に聞こえる
この「スイープ」と呼ばれる手法は多くの書籍で書かれています。しかし、極端に細い/強いスイープはどこを聞いても不快に聞こえてしまいます。
スイープの弊害についてちゃんと書いている本では「狭すぎ、上げすぎは絶対にNGです!」という注意も説明されています。
さらに言えば、海外でのミックス技術指南では「そもそもスイープという手法自体、おかしくね?」と言われていることさえあります。だって変な音を聞いてから作業するんですから。
スイープは補助的な手法でしかありません。「聞いて探して削る」ではなく、「削る前に判断できるように能力を伸ばしておく」のが正しい、と紹介されていることさえあります。
ついでにもうひとつ挙げておきたいミス例として、
3,動かしている間にたまたま大きい音程に触れただけ
というのもあります。
そりゃそうですよ。細すぎるピークを上げて聞き続けていれば、たまたま特定の音程が鳴った時に「ビーン!」って不快な音に聞こえて当然です。
これは海外のTIPS動画でもかなり多いのですが、特定のフレーズやコードだけをリピート再生しながらピークを探し、「ここが大きいです」と言って下げるものがあります。それらは完全な間違いです。だって、音が鳴っていたらその音の部分が大きいに決まっているじゃないですか。
それは除去するべき雑音ではありません。おかしなスイープをした結果、おかしな音に聞こえただけです。
結論。
スイープは方法としてはアリだけど、
使い所が間違っている。
というわけで、下も続けてどうぞ。
■スイープはソフトにチェックしてみる
少なくとも下のように、
- Qは少し太め(オクターブ間に影響が出るくらい)
- ゲインは6dB~12dB程度
という、ソフトなスイープを使うべきです。
細くて高すぎる状態だと、どこを聞いてもおかしな音に聞こえてしまいます!
どこを聞いてもおかしいのだから、どんなに探しても全部おかしいです。おかしい音だけを聞き続けるので、耳がおかしくなります。
別の言い方をします。
- どこを聞いてもおかしな超音波が聞こえてくる
- 数秒うろうろして「まぁ数分調べたし、ここで良いや。実際変な音だし」と諦めているだけ。
- 飽きて手を止めただけで、実は何も判断していない。
・プロの作業を見る
実際にプロのリアルな作業を見てみましょう。
11 EQ MISTAKES (don't ruin your mixes) - YouTube の2分58秒から再生します。(下の埋め込み)
どのくらいの「Q幅」「ゲイン」を行っているかを画面を大きくして正確にチェックしてください。
使用しているEQはPro-Q2で、Qは1.0、ゲインは+5dB程度だということが確認できます。
行っている作業は2つ。
「ローミッドの濁った帯域を識別し、カットしましょう」と言った後に、ボーカルとギターが出入りする区間をリピート再生しながらスイープし始めます。
作業を精密に観察すると、下のような作業結果になっています。
数値は重要ではありません!
ワイドなQを使っていること
ゲイン/カットは小さい
という点に注目してください。
そしてこの動画でRob氏がどのようなスピードで音を判断し、どのような操作手順で数値を決定しているかに注目するべきです!
(上の画像を抜き出す際、私はかなりシビアに一時停止を行いました。なぜならRob氏の操作スピードが速いからです。)
氏は一連の作業いちいち数値を言ったりせず、作業を一通り行って見せるリアルさが氏の動画の優れた点だと私は感じています。
ダメなレッスンをやる人は作業を途中で止めて解説をしてしまいます。
私が、そしてRob氏が何を伝えたいのかと言うと、「本当に重要なのはスピードだ」ということです。
丁寧にやっているふりをする必要はありません。聞こえた音を即座に判断し、細かすぎる操作をしないんです。丁寧に時間をかけても耳が慣れてしまうのでスピードが大事です。
(個人的に付け加えたいのは、声を出しながらなんて論外です!)
ミックスのレッスン動画を見る時や、DTM作業配信を見る時に、そういう点に注目して見てみると非常に勉強になるはずです。
(私の場合はレッスン仕事をしている都合もあり、「初心者がどうして初心者なのか?」を観察するために見ていることがあります。これはこれで非常に良い資料となります。)
ブログ記事を読み進める前に、もう一度上にスクロールして、動画の作業を5回くらい確認してみてください。
言うまでもありませんが、こういう動画を見る時に考えてはいけないのは「このDAW何だろう?」「Pro-Q2かっこいいなー」という余計なことへの興味を持たないことです。講師が教えようとしていることに集中することだけが大事です。どうでも良い情報は情報ではなくノイズです。S/N比の良い接し方をするのが良い学習姿勢です。
他の動画では、
https://www.youtube.com/watch?v=qV1mAwJJkoE
このくらいの幅でチェックしていることを確認できます。
・プロでも変なやり方の人
よくあるプラグイン紹介やMIXのTIPS動画で、限界まで細く、最大まで上げている人がいます。そういうやり方をして「ね?音がクリアになったでしょ?」と同意を求める人が本当に多いです。
が、よくよく聞いてみてください。特定の音程が小さくなっただけで、ミックス的にはなにも改善されていません。
たとえばこれ。
典型的な「スイープやるよ」+「ほら、良い音になったでしょ?」系です。
時間指定、12分あたりで、ピアノのローノイズ除去をやっている場面。
https://youtu.be/jMoP2q0jafM?t=727
この動画では96.5411Hz、すなわちG#を細く削っていますが、これは間違いだと断言できます。
もし細く削りたいのであれば、Amキーなので除去するべきはオクターブ下のA110Hz以外にありえません。
主和音の基音オクターブ下を除去することで、後の工程で派生する可能性のある倍音を低減し、マスキングを軽減させることができます。実際に演奏しているオクターブ上のAmキーを邪魔するノイズが軽減されます。
というか、ルームアンビエンスの除去作業ではないのだから、スイープする必要が無いんです。曲のキーと演奏内容から削るべき周波数は算出可能なんです。
・そもそもピークカットといナイフで良いのか?
というか、そもそも、このケースでのローノイズの音域はピアノの演奏外音域です。ゴツゴツした音程の無い幅広いノイズをピークで削るのが間違いで、ローカットで100程度から削るのが音響・数学的には正解です。
もしくは、キーノイズをほどよく残したい場合にはローカット角度をゆるくするか、もしくはシェルビングがベターだと言えます。
とはいえ、この曲はこの循環コードのままずっと進行するだけなら、ピークカットだろうと、ローカットだろうと、出音に大差無いので問題無いとも言えます。
この記事でさんざん言っているとおり、特定の周波数を細く削るとその音名を弱くすることになるので、もしこのAmキーの曲でオクターブ下のG#音程が使われたとしたら、著しくサウンドがデコボコになる、というところまで想像してください。
ついでにコード理論の抜き打ちテストもしてみてください。
問1、Amキーで使われる頻度の高いG#を含むコードを可能な限り列挙せよ。
問2、1において、その前後に接続される可能性の高いコード進行を記述し、ファンクションを解説せよ。
・ダメな例をもう一発
1分過ぎから。
拡大。
166HzはE1です。この曲のキーはEmで、このメタルリフはE音を連発します。そりゃEが大きいに決まってますね。
この後、彼は「ギターキャビネットのレゾナンスが云々」と言っていますが、166Hzはキャビネットのレゾナンスではなく、単にE1の音程です。
この動画のダメな点は、E音程のリフだけをミックスしていることです。もしリフのつなぎでドミナント音程(EEEE→F→EEEE等)が使われたり、下属調(A)に遷移したらどうするんでしょうね。せめてコード進行の生じる長さでEQを当てないと、次の小節で必ず崩壊します。8小節とか16小節とか、そういうスパンで加工をチェックするべきです。
実際の曲の中で見せず、わずかな部分だけの加工で「ね?良くなったでしょ?」系は、全部まとめてクソTIPSだとさえ言えます。どんなに綺麗な動画編集だとしても真に受けてはいけません。
ついでに言うと、2049Hz周辺を削っているのはギター単体で生じるレゾナンスでも何でもなく、メタル系で削る定番の周波数というだけのことです。レゾナンスとはまったく関係ありません。この動画のコンセプトとまったく関係のない作業です。
このケースでやるべきことは。メタルらしいギターサウンドのために、低域をマルチバンドコンプ(ダイナミックEQ)等で平たくすることだけです。Soothe2は必要ありません。166Hzを削る意味はまったくありません。何をやりたいのかはっきりしない内容です。
と、分かった上で、上のダメ動画をもう一度すべて見てほしいです。
何がダメなのかを的確に判断できるようになることは、「プロはこうする」「この周波数を何dB下げる」「このプラグインは音が良い」という情報を仕入れるよりも重要です。判断力の向上はあなたを常に助ける、ネットのクソ情報からあなたのを防護してくれることでしょう。
・本当に特定箇所だけがおかしい場合
そこだけオートメーションでEQを当ててください。
1曲通して同じEQ設定であることにこだわる必要はありません。
ライブ演奏でのPA仕事なら話は別ですが、スタジオワーク(DTM)であればオートメが使えるので、どんどん使うべきですし、操作方法をマスターしておくべきです。
・「ダメ資料」に気をつけろ!
当ブログには「ダメ資料」という半ジョーク記事があります。
eki-docomokirai.hatenablog.com
ネットの情報の全てが正しいわけでも、間違っているわけでもありません。常に疑い、審査しましょう。私の言っていることも含めて。
日本人は「海外では」という言い方に弱く、堂々と見せられると鵜呑みにしてしまう傾向が強いのは誰もが認める実情として同意していただけると思います。(「日本人は」という大きな主語を使う事自体を叩いてくるネット民はいますが、そういう人はストレス発散したいだけの人種なのでまともに議論できる精神状態ではないと私は考えていますので、一切スルーしています。)
上で説明した通り、この動画はたいした内容ではありません。Like数が多いからと言って、映像が綺麗だから、声が良いからと言って、鵜呑みにしてはいけません。
■削らない勇気
ニコ生などで素人のミックス作業を観察し続けて分かったことがあります。
EQを刺してスイープをする人が非常に多く、そういうやり方をする人はほぼ例外なく「スイープした後に必ず削っている」ということです。なぜスイープの結果「やっぱり削らなくて良い」と判断しないのでしょうか?
それは「人間は道具を手に持ったら、使わずにはいられなくなる」性質があるからです。
スイープをした後には、「このくらいなら削る必要が無いかも?」と一度考えてみてください。
そもそもEQをかけるということは音を壊すということです。EQ使わないことで綺麗な音を保てるというメリットを得ることができると思ってください。そのメリットを捨てて、多少破壊してでもより大きなメリットを得ていることがある場合にだけEQを使いましょう。(使わないことは究極のエフェクト用法である!)
明確な目的で的確に使うなら音は「聴覚上」は良い方向に加工されます。しかし、どんなEQの掛け方でも「データ上」「位相的に」は必ず壊れて行きます。「やらないほうがマシかも?」と考えることだけは忘れないでください。
質の悪いEQのブーストで音がおかしくなるという話だけではなく、カットでも音はどんどん壊れます。カットすればするほど音が良くなると勘違いしている人は実在します。
ニコ生等で非常に多かったタイプの人は、
- ミックス=エフェクトをかけること
- EQは必ず使う
- EQのバンド数をすべて使う
- 細かく削れば良いサウンドになると思い込んでいる
- その作業を見たド素人が「音が良くなった!」と錯覚コメントをして持ち上げる
という悪手に陥っています。
これは化粧が上手ではない女の子がケバい化粧をしてしまうことに似ています。そりゃまぁお化粧を頑張って来た人に「やりすぎだよ」とは言えないので「かわいい!」と言うしかありませんね。
ミックスでもナチュラルメイクを心がけましょう。
わりとマジな話、あなたがおっさんだったとしても女の子向けのファッション誌を読んで、「ナチュラルメイク」のためにどういうことを心がけるべきかについて知るべきかもしれません。あからさまにEQをかけまくって位相がめちゃくちゃになった音を「ミックスがすごい」とは言いません。
また、そういう悪循環になっている界隈からは今すぐ抜け出すべきです。横付き合いを変えないかぎり、価値観を変えることはできません。
なお、当時ニコ生をやっていた知人エンジニアは上のような風潮を皮肉って、画面に表示したEQでいろいろ操作し、「じゃあみんな、EQをかけた音をかけてない音を聞いてみて」と言って順番に鳴らしました。リスナーは「かけた後の方が良くなってる!」とコメントしていましたが、実は彼はそのEQをどこにもアサインしていませんでした。どこにも作用しないEQなのに全員が騙されていたということです。
・職人ごっこをやめよう
なんとなくEQをさして、なんとなく適当な場所を削って、できるだけ繊細っぽく見せかける。そんな職人ごっこはやめましょう。ネットでDTM作業を配信している人のほぼ全てがこのミスをおかしています。そして、それを参考にしようとしている人も当然オフラインで同じようにやってしまっていると推測できます。下手くその構ってちゃん丸出しのド素人MIX師のやり方を真似するのはやめましょう。参考にするなら黙って黙々とやっている人の作業手順とそのスピードだけを参考にするべきです。ネットですぐに手に入る、口当たりの良い情報は全て間違っています。
削れば音が良くなるとか、削るなら細く削った方が精密な音になるとか、細くできるEQの方が高性能だ、などの先入観を捨てましょう。
私がミックスのレッスンをやっていて割りとよくあるのが下のような状況です。
こういう加工の結果に対して、私は「EQを使いすぎた音がする」と指導しています。
・細くたくさん削れば良いというものではない!
何度も言いますが、下のようなEQは悪い例ですよ!
細く何箇所も削れば削るほど良い音になるという魔法のプラグインではありません。逆です。EQを含む全てのエフェクターは「加工すればするほど音はおかしくなっていく」と覚えておいてください。
EQしすぎた結果クソ音になり、相対的にすっぴんに近いトラックがまともな音だから違って聞こえるだけです。一生懸命細かく作り込んだから、その作業を無駄にしたくないという心理が働いているだけです。
こういう必要以上に精密なやり方を推奨している人が日本のネットで本当に多いです。ネット情報で独学で勉強するのは良いことですが、おかしな方法論に騙されないようにしましょう。
プロごっこをしている彼らの姿から学べることは反面教師であることだけです。
あと、世の中でどういう勘違いが起きているかの情報収集ができます。DTMに限らず、見せかけで騙す手法を使う人はどの業界にも多くいます。
次は海外動画でも出てきて笑われていた例。
いわゆる公開処刑、公開レッスン用の「やっちまったな」という晒しセッションファイルです。このエクストリームEQの他にも色々と過激な加工がされています。
下の人も「いやぁ、まずいとは分かってるんだけどね」と笑いながら弁明しています。講師は「オーマイガ!」。他にもさまざまな「やっちまった」設定が出てくる、興味深い内容になっています。
■プラグインの数値と見た目はあてにならない
Qなどの数字とその表示はモデルによってまちまちです。
モデルが違えば、書籍に書かれている「Qは2.0で」とかの話はまったく参考になりませんよ!
また、プラグインのEQのGUIに表示されている曲線もアテになりません。割りと適当に表示されているだけです。
近年はスペクトラムアナライザ付きのEQが増えてきましたが、その表示も割りと適当です。
スペアナについては関連記事を参照してください。
eki-docomokirai.hatenablog.com
eki-docomokirai.hatenablog.com
■細く削ることの持つ意味
細く削るということは、音階の特定の音(特定の倍音)だけを小さくするのと同じです。
あまりにも細く削ると、「ソ」の音の時だけ削られることになります。それって無意味どころかおかしい音になるだけですよ。
(もしくは、その周波数のソを倍音に持つ低い音が影響を受けて、特定の倍音ひとつだけを失った音になります。)
(追記。特殊な追跡型のEQの場合、その瞬間に演奏されている基音から算出される特定倍音のみをカットできるものもあります。が、まだまだ普及していません。)
「細いQにできるEQ=高性能」と思い込んでいる人は、細いQがどういう時に使われるかを根本的に勘違いしています。
・どういう状況で「細い削り」が必要なのか?
https://sonicscoop.com/2018/10/21/remove-noise-studio-setup/
ミックスの教科書で書かれている「雑音を細くカットする」「嫌な音を削る」というのは、録音物の話です。
電源ノイズ、機器由来の動作音、エアコンの音、部屋鳴り等の「レゾナンス」。
ミックスの教科書で書かれているのは、そういう雑音を除去しようね、という話です。こういう「録音時の障害を除去する」ことを「トリートメント」と呼ぶ人もいます。
つまり、シンセの音や、ちゃんと丁寧に作られた市販の生楽器音源などに対しては「トリートメント」のためのEQ処理は全く必要ありません。
下は”Should You EQ Virtual Instruments?”(生音系シンセ音源にEqualizerすべき?)
もちろん、他楽器とより良く共存させるための「ミックスバランスとしてのEQ」は必要です。これは狭い意味での「ミックス」です。
トリートメントを含む作業は、広い意味での「ミックス」です。
EQを「トリートメント」のために使うのか「ミックス」のために使うのか、そこをきっちり分けて考えましょう。
・レゾナンスを取り除くとはどういうことか?
上の記事では「除去するのはレゾナンスだよ」と言っています。
なんでもかんでもEQで下げて遊ぶのは間違いです。
何が有害な音なのかを理解せずにあちこち削るのは間違いです!
あちこち削りまくったら変な音になって当然です。
よくある間違った教え方に「EQは不快な音を削るものです」という言葉があります。確かに「不快」を「削る」のは100%正解なのですが、問題は「不快」と判断するのがあなただということです。
あなたが思っている「不快」と、ミックス的、エンジニア的な意味での「不快」は違います。
それは主に録音ミスによる過剰な部屋鳴りのことであって、決してスペアナで一番出っ張っている場所を削れという意味ではありません。そんなことをしたら、ドレミファソーーーーと鳴っている時にソを削ることになるだけです。
私は多くの人の作業を見聞きしてきました。
そして多くの人が「EQで削る」の意味を完全に間違っています。
どんなに高価なEQを使っていても、どんなに高価な音響システムを使っていても、間違った作業をすればおかしな音になります。
・ミックスは料理に例えられる
トリートメントは、野菜を畑から取って、汚れを落とす作業のことです。
トラクターを運転して一気に野菜を収穫する荒っぽい行為です。
せいぜい料理の途中でアク抜きをするような作業です。
もしくは、本格的な調理の前にやる塩抜きのような行為です。
それ以上のことは「トリートメント」の範疇を超えています。
狭い意味での、皆さんがやりたい「ミックス」は料理で言うと盛り付けです。
盛り付けの段階で大根の土を落とすような水圧で水をぶっかけることはありえません。じゃがいもをまるごと入れたカレーを盛り付けてから、皿の上でじゃがいもを切ることもありません。
「ミックスが料理に似ている」というのは、「手順と量を守れ」という程度の比喩でしかありません。
・手順を作り、守ろう
上達のためには「ミックス作業の手順」をきっちり分類しましょう。たとえば、
- 録音不良の修正(トリートメント)
- 録音環境由来の補正(トリートメント)
- 楽器ごとの色つけ(音色作り)
- 他の楽器との共存(ミックス)
- グループバス、マスタリングでの補正
どの段階のために、何を目的に、どのような理想に向かってEQを使うのかを意識しましょう。意識できないなら、その操作を即座にやめましょう。やらないほうが良いです。そして、ミックス作業における最強の判断がまさに「何もしない」という決断です。それは野球のピッチャーが変化球に頼らず、ド真ん中にストレートを投げるのと同じくらいカッコイイことです。
・複数のEQを使う意味
トリートメントのためのEQ、楽器個別のためのEQ、他の楽器との共存のためのEQ。それを分けるというだけのことです。
分けても問題ありません。
1つのEQでやっても全く問題ありません。
が、明確な意味を考えず「バンド数が足りないから2つ目のEQを持ってきた」というやり方は絶対に避けるべきです。
バンド数の少ないEQしか無いなら、トリートメントのEQを分割するべきです。
トリートメントで4バンド、ミックスで4バンドあれば十分すぎます。もしそれ以上のバンド数が常に必要になると思っているなら、それは根本的にミックスの方法が間違っていると断言できます。
なお、バンド数無制限のEQがありますが、それはEQの使い方が間違っている素人にも売り込むための過剰な性能だったり、高スペックだけを求める数値好きのためのものでしかありません。
・ノッチフィルター
notchは主にトリートメントのためのEQ用法です。
特定の音階(特定の倍音)に狙いを定めてカットするのは、音楽的なミックス目的ではありません。
極細のQは、電源ノイズ等の「特定位置に出現するピークノイズ」や「レゾナンス(共鳴)」を除去したい時に使うもので、俗に「外科手術ツール」という用法です。
それらの異音が特に強い場合には通常のベルシェイプでカットするだけではなく、ノッチフィルターを使うことも検討してみましょう。ノッチフィルターって何?と思った人は今すぐ検索してきてください。
・アナライザの見た目で細く削る時のミス
アナライザを見て細く削る場合によく見るミスが、アナライザで見つけたピークの高い部分を削るミスです。
その高いピークは単に音階を示しているだけではありませんか?
ソシレのコードを演奏しているなら、当然ソシレの音とそこから生じる倍音が高くなります。それを削る意味はまったくありません。
スイープで探す場合、たまたまそのコードに「ソ」の音が多い時にスイープが「ソ」の音に当たれば、当然不快に大きく聞こえます。そして、「ソ」を含まないコードの時には なんともないはずです。
スイープ作業をしたら何か削らなきゃダメ!と思い込んでいる人はこういうミスをしています。しかも、
- 明らかに不快に大きい音を削った!
- すぐ見つけた俺すげえ!
- ミックスのセンスあるんじゃね?
- まだ初心者なのにEQ使いこなしてる!
- これで絶対良い音になった!
という心理バイアス(思い込み)が働いてしまい、悪循環に陥ります。
・コンプやリミッターを回避させるためのピーク取り
コンプやリミッターなど、ダイナミクス系のエフェクトは、演奏されている周波数で最も大きく突出したピークに反応します。この反応を避けるために、ピークを「均す(ならす)」必要があります。
しかし、あまりにも均しすぎると音色感が損なわれます。
そのピークは本当に除去する必要がありますか?
本当に必要だったのはEQでの帯域ピーク除去ではなく、コンプのアタック/リリースタイムの変更ではありませんか?
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■無意味に繊細な加工
目的を明確に決めて、それから加工するべきです。
よく見る悪いやり方は、スイープで探しているふりをし、数分聞いてみてもなんだか分からず、でも「EQはカットするもの」という知識だけをなにがなんでも使いたがることです。
結果として、聞いて判断できないけど「とりあえずカット」をした達成感だけで終わります。
その場合にセットになる間違った考え方が「EQはわずかに掛けるのがプロっぽい」というおかしな知識です。
聞いて差がわからないのに見た目で「細いQ」「小さい下げ」をすることで音が良くなるという「おまじないEQ」をしているだけです。
そのEQ、バイパスをオン/オフしてA/B比較で気がつくことができますか?
繊細っぽく操作することがミックスだと勘違いするようになってしまいます。
過去に見た重篤な患者さんは0.1dBの加工をやり続けていました。
細かすぎる加工に時間を使うのは無意味です。
明確に効果の出る作業を一瞬で完了しましょう。
という話が下のリンク先に書いてあります。
eki-docomokirai.hatenablog.com
・でもプロもそうやってるよね?
繊細そうに見せかけるための記事などで頻繁に見かけます。
0.5dB削っても、それをバイパスしても気が付かない人がほとんどです。
気持ち程度ならやらなくても同じです。
もし本当にゼロコンマの差を聞き分けられる能力があるならどうぞ。
できればそれができる人にお会いしたいです。
で、俺がランダムにバイパスするから、本当にゼロコンマを聞き分けできてるかその場で見せて欲しいです。
繊細すぎる加工でもたしかに音は変わります。変わりますが、体感できない変化に意味はありません。
「気持ち程度の加工」は自分の納得のためにやっているだけです。聞いている人には何も伝わらない自己満足です。
で、プロをdisる時に「そんな雑で良いのかよ」「プロならもっと細かくやれ」という、どうでも良いレベルの差で揚げ足取りをして勝ち誇るわけです。
深呼吸や背伸び運動をしたり、飲み物を一口飲んだ方が音の聞こえ方は変わります。
おかしな作業をが心身に染み付いてしまわないように、こまめに休憩をするべきです。そしてリフレッシュした状態をキープできる時間には限界があるので、ベストな体調の時にすばやく作業をしてください。「徹夜でミックスしたー!」なんてツイートしても、その頑張ってるアピールが音を良くすることは決してありません。
この記事を読んだ後に、「細すぎ、上げすぎは禁止!」という制限をつけて、幅広く浅いEQ運用だけで1曲ミックスをしてみてください。
その練習をやるだけでEQの使い方が以前より具体的になるはずです。
最新流行のプラグインに乗り換えなくてもしっかりしたミックスをすることは可能です!
■プリセットや数値のモノマネは無意味
EQは「今そこにある音」を加工する道具です。
「理想のあの音」に近づけるのは腕と知識と耳であって、プリセット名ではありません。
・生音用のEQプリセット
たとえばドラム音源に入っている音は最初からかなり加工済みです。
そこに「EQの教科書で見た設定」を当てはめても、加工された音をさらに加工するのでおかしな音になります。
録音された環境や、演奏の質によってもEQ設定は変わってきます。
・EQは万能ではない
昔は、90年代のいわゆるMIDI音源時代にはEQを自由に大量に使うことができませんでした。だから「EQさえあれば何でもできるじゃん!」と期待されました。それを鵜呑みにしたオジサンは今でも生きています。彼らは今でも「EQで何でもできる」と信じています。
■聞くだけでEQがうまくなる曲を作った
半分冗談ですが、半分はマジです。
eki-docomokirai.hatenablog.com
聞いてもらえれば「あー、なるほど。そういうことね。」と分かってもらえるはずです。
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