eki_docomokiraiの音楽制作ブログ

作編曲家のえきです。DTM/音楽制作で役立つTIPSを書いています。

小さな選択肢の神話 ~ 音楽制作における「パレート法則」(Sonic Scoop翻訳記事)

DTM、MIXに関する記事です。
海外(英語)のミックス情報を許可済みの上で翻訳・要約して紹介する内容です。
今回は微調整に関するお話です。
この記事は執筆者でSonic Scoopのディレクターの(Justin Colletti氏(リンク))に正式に許可を貰った上で要約・加筆した内容を紹介するものです。

全体・部分の引用は控えてください。

 

■はじめに(訳者から)

今回の原文は英語的な言い回しが多く、そのまま訳しても意味が分かりにくいと思いました。

そのため、大幅に意訳・補足加筆していることを始めにお断りしておきます。

意訳を嫌う場合、原文で読んでください。

www.sonicscoop.com

([to Justin] I decided that I can not make sense in Japanese. So, I made a substantial translation. In order not to impair the original meaning, we will guide you to original text as promised.)

 

パレートの法則(80%&20%ルール)

今回の海外記事を読む前に、パレートの法則について知っておく必要があります。

 

パレートの法則 - Wikipedia

社会学、経済学の用語です。もしあなたが経済学部の大学生かサラリーマンなら、ビジネス書や研修ですでに知っている人もいるかもしれません。

 

パレート法則とは、「8割のアレは、2割のソレによってナニされている」という法則です。

 

Wikipediaから引用(一部編者強調)すると、

現代でよくパレートの法則が用いられる事象

  • ビジネスにおいて、売上の8割は全顧客の2割が生み出している。よって売上を伸ばすには顧客全員を対象としたサービスを行うよりも、2割の顧客に的を絞ったサービスを行う方が効率的である。
  • 商品の売上の8割は、全商品銘柄のうちの2割で生み出している。→ロングテール
  • 売上の8割は、全従業員のうちの2割で生み出している。
  • 仕事の成果の8割は、費やした時間全体のうちの2割の時間で生み出している。
  • 故障の8割は、全部品のうち2割に原因がある。
  • 所得税の8割は、課税対象者の2割が担っている。
  • プログラムの処理にかかる時間の80%はコード全体の20%の部分が占める。
  • 全体の20%が優れた設計ならば実用上80%の状況で優れた能力を発揮する。

 

 

この手の経済学用語は必ずしも正しいとは限りません。しかし、多くの状況において正しさが証明されている汎用性のあるノウハウなので、文字通り「8割の状況で通用する」と思っておいて良いでしょう。

少々のミスがあるからと言って「そんな知識役に立たないよ」と全否定するのは、勉強する人の姿勢ではありまえん。ゼロか100かで正しいか間違いかを判断するのではなく、何割くらいの正当性があるのかをパーセントで考える方が良いでしょう。

 

(全否定することで自分を偉そうに見せたがる人、多いですよね……)

(私が普通のサラリーマンをやっていた時にも「コンサルタントの言うことは役に立たない」とか言って全否定するだけの人、本当に多かったです。)

 

音楽制作において必要なのは音楽の理論だけではありません。心理学や経済学などの知識を身に着けておくと、音楽の理論だけでは解決できない不安がスッキリするかもしれませんよ!

 

というわけで、今回の海外記事はこのパレートの法則」が音楽エンジニアリングでも起きている、という内容です。

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本編。

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パレートの法則を踏まえて

音楽制作では1000を超える膨大な数の作業・操作が積み重ねられていきます。

 

細かな操作が連続する中で、1/4デシベルの音量差や、EQの位置が少々違うことについて悩む人は多いでしょう。

録音で言えば、マイクの位置や角度をわずかに変えてみたりするより、違うプリアンプを使う選択をするべきです。

 

作業の選択肢の中には、実は重要ではない項目が山ほどあるという事実について考えてみてください。それらの中から何を選択するかという俯瞰の作業において、「8割のサウンドは2割の選択で構築される」という真実です。

 

今触っているツマミを微調整し続けるのが本当に正しいのか?

そもそもフェーダーをグッと大きく下げるべきではないか?

ということです。

 

サウンドメイキングの80%は、全体の20%の大胆な操作(フェーダーをグッと上げ下げする)で出来上がるということです。

 

■オーディオの「80/20ルール」

最初はこの考え方(パレート法則)を不快な決めつけだと感じることでしょう。「ミックスはそんな大雑把なものではない!繊細で職人的なセンスが無いとダメ!」という具合に。

このように1000の小さな作業の積み重ねこそが良い曲につながると信じたくなるのがエンジニアの性格です。

 

こう考えてみます。

 

もう一度同じ作業をしたとして、それらの小さな選択肢のたびに、本当に同じ選択をするでしょうか?逆の判断をするかもしれません。

どっちを選択してもミックスの仕上がりにはそれほど影響が無いということです。

つまり、影響力の小さい細かな選択に時間を費やすこと自体が無駄な労働かもしれないという着眼点を持つことが大事ではないか?ということ。

 

この方針を受け入れることさえできれば、パレート法則はとても力強いものとなります。

20%の作業で80%の結果を生み出しましょう。

 

■大きな成果を

成果は小さな選択の積み重ねの結果ではありません。

大きな影響力を持つわずかな選択が大事です。

 

■1,休憩し、メモを取る

不思議に思うかもしれませんが、ミックスをしていない時に最高のミックスができます

運転しながらカーステレオでチェックする時、散歩しながらイヤホンでチェックする時、離れたソファの上で。あるいは動画サイトにアップした直後に。

 

「ああっ!ボーカル聞こえねえ!ミックスした奴バカじゃねーの!誰だよ!俺だよ!ボーカルはがっつり上げろよ!基本だろうが!」

 

このように機器に触れられない距離にいる時に、最も決定的な選択肢を得ることができます。

 

悩んだ時には作業場から離れ、

決定的なワンポイントについて

メモを取りましょう。

 

■2,重要な要素から開始する

ボーカル曲はボーカルが主役なので、主役のボーカルから開始しましょう。

バンドが強力な曲では、主要な楽器から。

リズミカルな曲はパーカッションから。

その曲の主役は何ですか?

 

曲を推進させるパワーを持っている楽器があり、それを阻害しかねない楽器があります。

 

これは録音でもミックスでも、あるいは作曲・編曲でも同じでしょう。

最も重要な要素を大事にしましょう。

 

■3,モニターし、参照する

ちゃんと音が聞こえていないと選択肢は間違いだらけになります。

良いモニター機器とモニター環境は重要ですが、さらにリファレンス資料(参考曲)を使うことです。

 

リファレンスをどのくらいの頻度で聞いていますか?

自分の部屋で作っている音と、部屋の外で聞かれている音について知りましょう。

リファレンスを聞いて世界のサウンドルールを得て、自分のサウンドメイキングに戻ると、すぐにリファレンスの音を忘れてしまうものです。リファレンスは頻繁に聞きましょう。

 

リファレンスの音から離れたオリジナルサウンドを作るとしても、どのくらいリファレンスから離れているのかについて考えましょう。

 

制作に没頭し続けるより、作業の途中にもっとリファレンスを聞くべきです。

 

■4,スピーディな作業

無数の選択肢に悩み、手を止めないでください。

どのような音楽を作るとしても、勢いは大事です。

 

分析は仕事の前か後にやるものです。

分析は将来の問題解決のためです。クリエイティブな思考ではありません。

意思決定ができない時には『1,休憩し、メモを取る』に戻ってください。

 

■5,限られた選択肢=素早い決断

EQではあまりにも多くの音情報が耳に入ってきます。

上げ過ぎと下げ過ぎを試し、バランスの良いところを素早く見つけてください。

バランスを取る作業でも、上げ過ぎと下げ過ぎを聞いてみて、ベストなバランスのあるポイントを素早く見定めてください。

微調整で正解に向かうより、両極端を実際に耳で聞くことで正解のあるポイントをすぐに察知できるはず。

 

録音では複数のマイクで収録し、そこから1つのサウンドを選択します。1つのマイクの微調整に時間をかけるより、2つ3つのマイクで録音して、最終的に1つを選択すれば良い。

 

無数の選択肢で迷った場合には、上に書いた1~4を再確認してください。

  • 1,休憩とメモ

  • 2,重要な要素

  • 3,リファレンス

  • 4,スピード

     

■6,重要なことを決めて大胆に

例外的なジャンル※を除いて音楽には「主役」が存在します。(※BGMやアンビエントなどの音楽では中心要素を持たないボヤケたサウンドに価値が生じるケースがあります。)

一般的な音楽の制作では、重要な要素を「この曲の主役はこいつ!」と無慈悲なまでに決めつけてしまって良いものです。

重要な要素は1つの楽器の「ヒーロー性」のこともありますし、複数の「絡み合い」が重要なこともあります。

 

その「主役」表現のために過剰なことをするのを恐れないでください!

 

完璧なEQポイントを見つけるのではなく、ワイドなQ幅のEQ、シェルビングEQ(バクサンドールEQ)でグッと明確に操作してみてください。

コンプのアタックをミリセコンドで当てるのではなく、別のコンプを試したり、通すだけにしてみてください。(注:アナログ実機のサウンド味付けの話)

(編者注:要するに、アナライザを見ながら神経質で細い作業ではなく、大胆にやってみようぜ?と要約しておきます。)

 

 

■7,全体に耳を傾ける

ロボタンはあなたを騙します。

ソロで聞いて整えるのではなく、全体(context=文脈)を聞きながらやってみてください。

特に新しくトラックを追加する時に気をつけてください。パズルにピースをはめこむように注意してください。

今触っている新しい音を大きくはめこむとパズルは完成しません。

孤立したパーツはありません。

 

■8,機材は贅沢のため

「あの新しい機材、あのビンテージさえあれば!」という考え方をやめましょう。

基本的な装備さえあれば、あとは贅沢でしかありません。

 

贅沢について気苦労することに意味はありません。

新しい機材について考えるのは心配のためではありません。

高い機材は贅沢を楽しむために存在します。

 

■完璧主義?

必要不可欠な80%の行為が終われば、すでに音楽は安定した完成度に達しています。

残りの20%を突き詰めたくなる気持ちのことを「完璧主義」と言います。

 

完璧主義の反対の言葉は「そつなくこなす」「無難にやる」。

元の記事では英語のことわざ「perfect is the enemy of the good」と書かれています。直訳すると、「完璧は善の敵」ですが、日本の言葉だと妥当な訳が見つかりませんでした。「案ずるより有無が易し」もちょっと違うよなーと思い「そつなくこなす」「無難にやる」と訳しました。「手堅く行く」もどうかなぁ。

そつなく80%に仕上げられていれば、もう次の仕事に行くべきです。

 

「完璧」とは自分の力で達成できるものではありません。

あなたが好きな映画やレコードがあり、お金を払って見聞きしたにもかかわらず、あなたはそれらの作品を「まぁまぁかな」「自分ならあそこはこうやるね」などと言うでしょう。山ほどCDの入った棚、iTunesの中の曲のいくつがあなたにとって「完璧」ですか?

 

あなたがクリエイターであるなら「完璧主義」とは必ずしも良い意味だけではないことについて考えておき、答えを持っておくべきでしょう。

 

完璧主義者はいつまでも作品を作り終えません。

「作った!」「できた!」と宣言して先に進むことが偉大なキャリアへの道です。

 

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■おわりに

今後も海外のDTM関連記事で優れた内容のものがあったら、厳選して日本語に翻訳して紹介していきたいと思っています。ご期待ください!

 

誤訳についての指摘がございましたら、お手数ではありますがコメント等でお知らせ願います。

 

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