コンプとリミッターの話をいろいろ書いておきます。
ここで使われている画像は「あくまでも模式図」であることをあらかじめお断りしておきます。
(2023年1月28日更新)
- ■概要
- ■コンプの効果
- ■リミッタのみでの処理の弊害
- ■コンプとリミッタの併用
- ■マルチバンドコンプ
- ■MBコンプ後のリミッタ(シングルバンド)
- ■MBコンプ後のリミッタ(マルチバンド)
- ■コツ
- ■関連記事、コンプ関連
■概要
動作原理の話ではありません。
パラメタの話ではありません。
コンプとリミッタ、マルチバンドを
「何のために使うか?」
というお話です。
ここに書かれていることの些細な誤りを指摘できる人にとっては、まったく不要な記事です。
--------------------
前記事もあるのでどーぞ。
eki-docomokirai.hatenablog.com
■コンプの効果
一部を下げて、全体を上げる。
「コンプレッサー」そのものの効果は「一定以上の音量になったら下げる」だけです。
たいていのコンプには「ゲイン」がついています。
下げたことによって余白ができるので「ゲイン」によって、全体を大きくできます。
結果として、全体が「太い」音になります。
コンプを使う時は「どこまでを潰し、どの程度上げるのか?」を考えましょう。
単に「大きくする道具」と思って使うと絶対に失敗します。
欲しい音量のために使うのではなく、崩さない最低限に使うか、崩すことによって得られる効果のために使いましょう。
単に大きくしたいだけなら、フェーダーを上げましょう。
フェーダーを上げる余白が無いなら、他を下げましょう。
・アタックを強調したいならトランジェントも使う
コンプだけでアタックを出す時代は終わりました。
eki-docomokirai.hatenablog.com
ジャンルにもよりますが、「アタック感を出したいなぁ」と思ったら、旧来の繊細なコンプのテクニックを駆使するより、トランジェント系エフェクタで一発でやった方が良いこともあります。
■リミッタのみでの処理の弊害
上図はよくある失敗例です。
たんに「大きくする道具」と思って使うと絶対に大失敗します。
コンプと同様、たいていのリミッタにもゲインがついています。
潰さなくても、単にゲインするだけで音量は上がります。
上がった時にはみ出す部分を削るだけで、十分な音量になるはずです。
・クソなマスタリング屋に備える
雑なマスタリング屋や、オンラインマスタリングでは極めて雑な方法でマスタリングされてしまいます。だから「2mixを丁寧に作れ」といわれています。
彼らは曲の内容など聞かず、音量を上げた結果の数字しか見ていません。
メジャーレーベルの仕事でもない限り、理想的なマスタリング屋に出会うことはまずありません。クソマスタリングされることを前提に活動した方がプラスが多いです。
eki-docomokirai.hatenablog.com
もしあなたが「真のプロ」 と呼べるマスタリング屋と定期的に仕事をできているなら、その幸運に感謝するべきです。うらやましか。
■コンプとリミッタの併用
コンプとリミッタを併用することで「程よく潰し、ほどよく大きくする」ことができます。
あらかじめ適度なコンプがされていると、雑なマスタリングでもそれなり以上の仕上げリを期待できます。
・個別トラックでのリミッタ運用
なお、個別トラックでもリミッタを使っても全く問題ありません。
個別トラックでは、万が一の突出に備える「保険リミッタ」が消極的な使い方が一般的です。
積極的な方法では、リミッタにブチ当てることで「音色を作る」ことさえあります。
絶対にメロディ楽器より大きくならない楽器は、早々に抑え込んでしまっても問題ありません。
例えばオーケストラのミックスで、バズーンがトランペットより大きな音になることは絶対にありえない、ということです。
「リミッタはマスタリングの道具」と思い込んでいた人は悪い意味でマジメすぎます。
・先読み処理
高機能なコンプ、リミッタには「先読み」できるものがあります。
音が入力されてから処理しても手遅れなので、一瞬早くデータを読み取らせて、事前に守りを固めるスタイルのものです。手持ちのプラグインの性能について、もう一度調べ直してみてください。ついているものは意外と多いです。
これは一長一短です。
・異なる設定のコンプを何度も通す
コンプは2回かけてもOK!
eki-docomokirai.hatenablog.com
1回の処理だけで完了しなくても良い、数回に分けて加工すれば良いんだ、と思っておけば、すでに持っているコンプだけでも様々な加工ができます。
■マルチバンドコンプ
「マルチバンド」は周波数帯域ごとにコンプとゲインを使えます。
上図では最終的なピーク音量が同じになっていますが、もちろん自由に変えて構いません。
ついついハイが出すぎてしまう人は下げましょう。
キックの音量感が不足していると感じるなら、ローを……と考えがちですが、ハイのアタックを強調するのが正解かもしれませんよ?
・全バンドを使う必要は無い
2バンドで十分なことは多いです。
全機能を使いこなそうと思わないことです。
まず2バンドでやってみてください。
2バンドでやってみて、不足を感じたら、明らかにさらに分割した方が良いと確信できたら、その時はじめて3バンド目を使ってください。
・均等に割り振る必要もない
ローを徹底的に加工したいなら、このように配置してもOKです。
・ダイナミックEQでも良い
近年はダイナミックEQが普及しています。
ダイナミックEQとMBコンプは事実上同じです。
動作原理が違うだけで、使う目的は同じです。
コンプとEQの悩みのほとんどはダイナミックEQで解決します。
eki-docomokirai.hatenablog.com
往々にして「EQ」プラグインの方が分割数が多いので、MBコンプよりも自由度が高いと言えます。
■MBコンプ後のリミッタ(シングルバンド)
マルチバンドコンプの後でシングルバンドのリミッタ。
シングルバンドでは「最も突出した周波数」の潰し率が、全体に適用されます。
メリットはバランスを崩さないこと。
デメリットは、突出した周波数があると、全体の音量がガタつくこと。
SBリミッタでよくあるミスは、
- 大きなキックの低音に反応してしまい、全体の音量がガタつく
- ボーカルが常に一番大きいミックスでは、伴奏の音量が不安定になる
- 一発ものの効果音が鳴った時に、全体の音量がドスンと落ちてしまう
SBリミッタを使う場合は、事前の丁寧な処理が不可欠だということです。
丁寧な2mixはシングルバンドのリミッターでも適切なマスタリング結果になります。(が、それを目指すべき時代ではない、とも言えます。)
シングルとマルチバンドのどちらのリミッタが良いかは「ジャンル、曲による」としか言いようがありません。
特定ジャンルに特化している専業エンジニアが「マルチバンドは音が酷い」と大声で言っていることがありますが、それはそういうジャンルの人だというだけのことです。
たしかにマルチバンドは内部で複数に切り分けてから処理するので、MBルーチンを通すだけで音の変化が起きてしまいます。
逆に言えば、最初からマルチバンドを通過した状態で聞きながら作っていれば、問題を最小限におさえることができます。
現在の音楽はそのほとんどがマルチバンドリミッタによる仕上げ音と言ってもほぼ間違いない時代です。「シングルバンドの方が優れている」という言葉だけに騙されるくらいなら、「最初から通した状態で作れ」という言葉に騙されたほうが近道だ、と私は指導しています。
そもそもの話、ミックスとマスタリングを分けて作業する必要のない時代ですし。
■MBコンプ後のリミッタ(マルチバンド)
マルチバンドのリミッタは常に全体が最大のパフォーマンスを維持できます。
MBのメリットは、雑に使っても破綻することが少ないです。
MBのデメリットは平坦なサウンドになりやすいことです。
でも、下手な2mixを下手にシングルリミッタ処理するより、総合的に上です。ベストよりベターのためにMBリミッタを使うのは悪くありません。
ただし、マルチバンドを「掛けすぎ」ると、各周波数帯域のバランスがめちゃくちゃになります。掛け過ぎればどんなエフェクタでもクソ音になるのは当然です。
「これ以上潰したらバランスが悪くなるなぁ」「でももっと音量が欲しい」と思ったら、手前の作業に戻って、各トラック・グループバスでの処理をやり直すべきです。
マルチバンドは高性能ですが、しょせんは1つのエフェクタでしかありません。何でも修正できるわけではありません。
■コツ
大きくすることだけを考えていると失敗します。
「崩したくない限界点」を常に意識すれば成功します。
マルチバンドのリミッターは個別の楽器に対して使っても全く構いません。
1回の処理だけではなく、複数回の処理で少しずつ潰した方が良い結果になることがあります。
1曲を1つのコンプ設定だけでやらねければならない、というルールはありません。
スレッショルドに対するオートメーションは非常に強力です。
■関連記事、コンプ関連
よくある誤解集。
eki-docomokirai.hatenablog.com
潰して大きくすることだけ考えているとおかしな設定になる。
eki-docomokirai.hatenablog.com
コンプの音量巨大化だけでやろうとするからおかしくなる。
サチュレーションによる音の巨大化「アナログ汚し」をマスターしよう。
eki-docomokirai.hatenablog.com
eki-docomokirai.hatenablog.com