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eki_docomokiraiのブログ

作編曲家のえきです。DTM、音楽制作TIPS、およびゲーム(Diablo3RoS)の話を書いています。

スペクトラムアナライザの調整が大切な理由

DTMに関する記事です。

サウンドを目視でチェックするためのスペクトラムアナライザ(スペアナ)はとても便利なものですが、実はスペアナのモデルによって表示はかなり違います。

ここではそれらのチェックと調整方法について書いておきます。

過去に別のブログサイトで書いていた内容を修正・統合した記事です。

 

■モデルによる解像度の違い

スロープという値に違いがあります。

また、解像度によっても計測結果に違いが出るモデルがあります。

手持ちのスペアナがどういう特性を持っているのかを知っておくことは大切です。

■スロープ、ホワイトノイズ、ピンクノイズ

まずはじめに、基準値の話から。

スペアナについている「スロープ(Slope)」は1000Hzを中心軸として、オクターブ高く(低く)なった距離で何dBの傾斜をつけるか?というパラメタです。ピンクノイズは全ての帯域が水平になるノイズです。

ホワイトノイズ、ピンクノイズについては下のリンクを参照。

ホワイトノイズ、ピンクノイズ : 音響技術と機器開発 用語補足解説

 

Voxengoはスロープ4.5dB/oct.がベストだと判断し、それを初期値として提供しているのですが、ピンクノイズは3.0dBです。そして、上のとおり、4.5dBの傾斜で参考楽曲を聞いてみると、明らかにハイ上がりになります。

反論として「3dBスロープで曲を作ると雑音にしかならないぜ?」という話もありますが、それは言葉尻を取った屁理屈です。

「フラット」と言っても、ドンシャリの上下の山がフラットという意味であって、全ての帯域が均等に鳴るという意味ではありません。ドンシャリというとネガティブな意味で捉える人もいますが、どんな音楽でもある程度は「上下の山と中央の凹みのあるドンシャリ」であったり、「中央が膨らんだカマボコ型」です。論より証拠なので、手持ちの市販曲をスペアナに通してみると良いです。

・Voxengo SPANの初期値は4.5dBスロープ

SPANにピンクノイズを通してみます。

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SPANの初期スロープ値(Slope)は4.5dB/oct.です。

ピンクノイズは3.0dB/oct.で水平になるべきですから、差は1.5dB/oct.です。

 

下のようにSlopeを2.2くらいに補正すると、ピンクノイズが水平になります。

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1.5を引いた3.0で水平にならないのは仕様です。こういう差はスペアナのメーカー、モデルによっていろいろあります。要するに今ひとつアテにならないということです。

こういう差はスペアナのFFT解像度によっても現れるようですが、正確なところは作った人にしか分からないんじゃないでしょうか。

■参考楽曲でチェックしてみる

SPANが4.5になっている理由は「実際に楽曲を調整する際、4.5dB.oct.で水平になるから」とのことですが、それって本当かよと思いますよ!

 

ためしに今時のリファレンス曲で試してみます。

 

下の画像は2曲を2種類のスロープで表示したものです。

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あるドンシャリのメタル系のインスト曲(ミックスが非常に良いとのことで、エンジニアの知人から教えてもらった曲です)と、あるEDMのヒット曲のドロップ(サビ)部です。

短い数秒の区間をリピート再生しながら作ったスクショなので、微妙に違いは出てしまっていますが、4.5スロープだとおおむね右上がりになってしまいます。

これを根拠に、私は2.2でフラットになるくらいが今時の音になるんじゃないかなぁ、と考えています。

4.5dB/oct.で作っていると「スペアナではハイが出過ぎているから、EQでハイを下げよう」というミックスになります。結果はハイが下がった暗いサウンドです。良く言えば落ち着いたサウンドです。それは今風のサウンドではありません。

「最近のサウンドはハイが出過ぎで耳が痛い」と言う人がいますが、実際にハイがそのくらい出ているサウンドが今の時代に支持されているのですから、「最近の若者は!」と言っているのと同じくらい滑稽なことです。で、Voxengoの人たちが4.5dB/oct.のスロープにしたのも、彼らがおっさん耳だからなのでしょう。

というわけで、SPANを使っている人はスロープを3.0かそれ以下に下げましょう。

・リファレンス曲が大事だね、というお話なんです!

スロープがどうの、水平なミックスがどうの、という話ではありません。

リファレンス曲を用意し、その曲がスペアナでどう表示されるかに合わせてミックスするべきじゃないの?ということです。

絶対音感」のような「絶対ミックス感」を持っている人であれば、曲を聞いて周波数バランスを聞き分けることができるのでしょうが、私のような作家寄りの音楽家の場合は往々にして「絶対ミックス感」を持っていないので、その場その場の気分でミックスをしてしまいがちです。自分の欠点を自覚しているからこそ、自分の感覚をアテにせず、リファレンス曲を用意し、そのサウンドを目指していくというミックス手法を最重要視しています。

この「リファレンス曲に近づけるミックス方法」はレッスンでも教えています。自分が完璧ではないからこそ、レッスンを受ける人でも可能なスタイルを教えているわけです。

完璧なミックスをするためには「絶対ミックス感」や、完璧な環境は最低条件なのでしょう。しかし、ほとんどの人はそういう能力や環境を持っていません。「プロはこうする」「プロならこのくらい持っててあたりまえ」という、どこかの雑誌やネット掲示板で拾ってきた雲の上のベストな知識ではなく、今の自分にできるベターな実行力こそ必要なのではないでしょうか。

理想ばかり語る人に言わせれば「スペアナなんか使っているようじゃダメ。耳で判断できないと良いミックスにならない。」と言うのでしょうが、それは理想でしかありません。「理想を語る」という点においてはとても正しいです。「不老不死が理想」「全ての異性にモテるのが理想」「空を飛べるのが理想」という意味においての理想語りです。無理ですね、そんなの。

■モデルによる3.0スロープの違い

同じノイズジェネレーターで作ったピンクノイズを表示させた例です。f:id:eki_docomokirai:20170329132351p:plain

 

左上、Voxengo SPAN。スロープ3.0。音量拡大表示。やや右上がりです。

右上、Steinberg MultiScope。スロープ無し。完全に右下がりです。(ホワイトノイズで水平になるモデルです。)

左下、Melda MAnalyzer。スロープ3.0。ほぼ水平です。

右下、Melda MAnalyzer。スロープ3.0。高解像モード。右上がりです。(高解像モードで表示が乱れる、ということ)

 

このように、メーカーやモデルによって表示はかなり異なります。

複数のスペアナを使う人は、設定を揃えておくのが良いでしょう。

1つしか使わない人は、3.0dB/oct.のピンクノイズを流し込んでみて、水平に出るかチェックしましょう。もし水平に出ないタイプの場合、そういうモデルなのだとしっかり覚えておきましょう。また、スペアナ画像を伴うミックス記事を読む場合に気をつけましょう。

スペアナの設定はSPANの初期設定のように「音楽的に味付け」されたものより、ピンクノイズを正しく水平に表示できるほうが良いと思います。なぜならプラグインの検査を行う時に正しくチェックできるからです。(プラグインのチェックについては、後日別の記事で書きます。たぶん。)

■スロープを調整できない場合は要注意!

で、大問題になるのが、上のSteinberg MultiScopeのように「スロープが不明、スロープを変更できないスペアナ」の場合です!

 

というのも、近年はEQにスペアナの透かしが入っているものが増えてきましたが、何を基準にしているのかが不明なものがあるからです。

透かしスペアナ付きのEQにピンクノイズを通してみてください。

その際、調整済みのスペアナも同時に表示して、比較してみてください。

そのEQの透かしスペアナがどういう表示をしているのか、ちゃんと確かめておきましょう。

■全てはマルチバンド処理、マスタリングのため

SPANのように音楽的な味付け表示になっていると、マルチバンドコンプ(リミッタ)に突っ込む際、斜めに当たってしまうからです。

下はピンクノイズ(水平)とホワイトノイズ(右上がり)をL3-16に突っ込んだ時の反応です。

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瞬間的な絵なのでブレが起きていますが、おおむねノイズの角度どおりにマルチバンドのリミッタが反応しています。

ピンクノイズの水平さは、マルチバンドリミッターを通過する時にも全帯域が反応しています。ホワイトノイズの場合は右上がりのハイだけが潰されています。

 

もちろんマルチバンドリミッターによるマスタリングは帯域を完全にフラットにするのが目的ではありません。リミッタにあたって潰れる部分と、素直な音のまま残す部分のバランスによって良い仕上がりになります。

で、その時にハイだけが潰れると、ハイだけが潰れたキンキンした耳の痛い音になるわけです。当たり前ですね。

 

いわゆる「まともな2mix」つまり「フラットな2mix」になっていれば、あとは普通に突っ込むだけで適度にマルチバンドに潰されて、それなりの仕上がりになるんです。

2mixの時点でバランスがおかしい音を、マスタリングでどうにかしようとしているから、「マルチバンドリミッターの使い方が分からない」「L3を買ったんだけど使い方が分からない」という悩みが出て来るんです。

そのために必要なのは普通の帯域バランスの2mixに仕上げること。つまり、スペアナを水平に調整しておいて、目視でフラットな2mixを作れる環境を作っておくことなんです。

・「マルチバンドぶっこみとか笑わすな」という声に対して

えぇ、わかります。とても良くわかります。

L3-16などのマルチバンドリミッターにぶっこんで「はい、マスタリングでござい!」というのがおかしいと言いたい人がいるのは良くわかります。その通りです。

でも、実際問題としてそういう処理を「自称マスタリング屋」の他人にされてしまうんです。

よほどのハイエンドの話でも無い限り、そんなもんなんです。

預かった曲をろくに聞きもしないで、音量レベルだけ見てマルチバンドのプラグインに丸投げして「はい、マスタリングできました」というのが実際に多いんです。プラグインじゃなくて実機でも突っ込んで汚してレベル処理しかやってくれない、ってのは同じ。

曲を理解した上で丁寧に処理するなんてことはやってくれないんです。それもまた「理想」でしかないんです。

だったら、そういう簡易的なマスタリングをされても破綻しないように作っておくべきなんです。仕上がりに文句を言っても後の祭りなので、ベストよりベターを目指すべきなんです。

もしこの意見が当てはまらない、妥協をしない理想的な音楽をやれている人がいるなら、それは幸せなことだと思います。でもそうじゃない人のほうが多いんです。

■まとめ

さて、チェックノイズの話→スペアナの調整→リファレンス曲の話→マルチバンド処理→マスタリングの話まで一気に書きました。

どれか1つの話にしようかな、と思っていたのですが、関連性が強いので1つの記事にまとめました。

 

プロアマ問わず、よく相談を受けるのが「マルチバンドリミッターの使い方が分からない」「L3を買ったんだけど使い方が分からない」というお悩み相談。ここまでちゃんと読んだ人ならもう分かると思います。マルチバンドリミッターの使い方が難しいのは、リミッターに入ってくる音が「ハイ上がり」などのように、おかしな偏りのある2mixだったからです。

そうなる原因は「耳が疲れたら目で音をチェックしよう」と思ってつかうスペアナ、その設定状態だということです。どんなに良いスピーカーやヘッドホンを使っていたとしても、必ず耳が疲れておかしな音に加工してしまうものです。それを避けるためにスペアナで目視してバランスチェックをすることと、リファレンス曲を用意することなんです。

リファレンス曲だけあれば良いように思われるかもしれませんが、耳が疲れている状況だと結局同じことになります。疲れた耳だとハイが聞こえにくくなるとか、そういう話ではなく、疲れてくると耳からの情報そのものが正しく認識できなくなるので、リファレンス曲+スペアナ目視という二重のチェックで確度をあげていくしかありません。もちろん全ての作業の間にしっかりした休憩を取ってリフレッシュできればそれがベストなのですが、そもいかないことのほうが多いです。

 

スペアナの設定というオタクくさい内容であることは自覚しています。普通はスペアナはポンと挿して、画面の隅においておくだけ、という人の方が圧倒的に多いと思います。そこで一手間かけておけば、2mixもマスタリングもスムーズに進むはずなんだけどなぁ、ということでこんな記事を書いたわけです。

 

そのうち気が向いたら、この記事でまとめて一気に書いた内容のそれぞれについて、個別に記事を書くかもしれません。

 

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