eki_docomokiraiの音楽制作ブログ

作編曲家のえきです。DTM/音楽制作で役立つTIPSを書いています。

スペクトラムアナライザの調整が大切な理由

(人気記事!)DTMに関する記事です。

サウンドを目視でチェックするためのスペクトラムアナライザ(スペアナ)はとても便利なものですが、実はスペアナのモデルによって表示はかなり違います。

ここでは計測器の特性チェックと調整方法について書いておきます。

(2018年10月9日更新)

 

■はじめに 

途中で話が脱線しまくりますが、どれも関連性の極めて強いことがらなので、1つの記事に同居させておきます。

 

・そもそもの話

なんか誤解している人がいるようなので序盤に断り書きを書いておきます。

この記事は「音楽クリエイターの実務の話」です

オーディオリスナー視点ではありません。

建築屋の話でもありません。

スペクトラムアナライザはいろいろな分野で使われる「ものさし」です。あなたの活動フィールドの期待に沿った内容ではないかもしれません。

 

・盗用記事ではありません

過去に別のブログサイトで書いていた内容を修正・統合した記事です。盗用記事ではありません。同じ人が管理していたページです。

 

・計測目的ではありません

本記事で使用しているスペアナ画像は異なる楽曲のものです。

同一楽曲の同一タイミングを比較したものではありません。

ガチ計測目的ではないので、入力ソースはその都度変わっています。画像を制作した時期もかなりばらついているので、統一感はありません。

そういうデータを求める人は自分で作ってみると良いと思います。たぶん作ってる途中で「あ、これは不毛な作業じゃね?」と悟るはずです。あんまり意味がありません。

  

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■モデルによる大きな違い

デフォルト状態での表示が異なるということ以外は、実は大差ありません。

 

スペアナについて言及している人の多くがこのことをまったく配慮せず「◯◯社のスペアナのプラグインの方が高性能だ」とか言っています。

フリーのSPANとかMeldaでもちょっと設定を変更するだけでいろいろな表示モードにできます

 

ただ、実際問題として、DTMをやっている人のすべてがカスタマイズ好きというわけではありません。

 

スペアナに限らず、コンプやEQでさえ、本当に精密な使い方をしているわけではない人がとても多いです。少なくとも私が知る限りそういう人の方がプロアマ問わず多数派です。みんな結構適当ですよ。

そういう人たちが悪いという意味ではなく、その程度でも素晴らしい音楽はちゃんと作れるということです。

手軽に使いたい人たちをメインターゲットとした商品は、「デフォルト状態の使いやすさ」「デフォルト状態での見た目の良さ」「プリセットの良さ」をしっかり作り込んでいる傾向があります。

逆に、初期状態は雑だけど、手入れしてあげることで多彩な機能を発揮するものもあります。

 

DTMだけではなく、生楽器の演奏家の人でも、驚くほど楽器の構造に無知な人がいたりします。音楽史や作曲家の背景、楽曲名などについては、プロの演奏家よりも評論家や聞き専人たちの方が詳しいのはみなさんも知っての通りです。

 

■低域の表示精度

デフォルト設定は「音楽的な用途に向いている」表示にしてあるだけです。

やろうと思えば無料のVovengo SPANなどでも高精度表示が可能です。

 

なお、いかなる表示設定も一長一短なので、どの表示モードが優れているという優劣はまったくありません

 

俊敏な動作で見やすくする、平均値で見えるようにする、なだらかな分布を長期間で測定する、などの用途によってどんどん使い分けるべきです。

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このように、フリーのSPANでも上の画像のように低域を高精度表示できます。

デフォルトでは可視化されない40Hzあたりのピークがくっきりと浮かんでいますね。

 

ただし、高精度表示を行うということは、それだけ表示の反応速度が低下するということです。これはPC・CPUのスペックなどの問題ではなく計測の原理からくるものです。

 

■表示の精度

たいていのスペアナはデフォルトだと高速表示モードです。ドラムが「バン!」と鳴った瞬間に、ほぼ同時にスペアナに表示されるので、音楽的に扱いやすいです。

まともなスペアナなら設定を変えると高精度表示モードにできます。

 

・反応速度

どのスペアナでも高精度モードでは反応速度が遅くなります。

ご存知の通り、高い周波数は1回の振幅にかかる時間が早く、低音はその波長1回の時間が長いです。

1つの波形を、そこに含まれる様々な周波数に分解して帯域ごとに表示をするのがスペアナの原理ですから、低域を精密に表示させると遅くなるのは当然です。早くすることは物理的に不可能です。

これを早くすることは未来予測をするしかないということですから絶対に不可能です。レスポンスが悪く、見た目もカクカクになるのは原理的に当然です。(逆に言えば、データ先読みができる時代になればタイミングを一致させた表示が可能になります。未来に期待しましょう。)

 

そういう部分を補間表示するアニメーションでうねうね動かしすことで高性能のように見せかけているスペアナ(のモード)がありますが、それって計測じゃなくて演出ですよ。上述のとおり原理的に必ずカクカクになるんです。

 

スペアナは作業してる時の気分を盛り上げるためのデスクトップマスコットではありません。鳴らしている音を可視化してサウンドチェックするためのツールです。

見やすくするためのアニメーション処理ならともかく、高精度にみせかけるためのアニメーション表示はまったく無意味です。

 

あと、高精度モードはCPU負荷がかなりかかります。音がプチプチする原因がスペアナだった、ということが稀にあります。割り切って低解像度モードで使うのも決して悪いことではありません。完璧なスペアナなど存在しないんです。状況に応じて表示モードを使い分けるのが正しい使い方です

 

・平均表示1

最高品質で細かく表示していると、余計な情報が多く、また、動きが速すぎて使いにくいです。

音楽作品を作る場合、下の画像のようにやわらかい表示にしたほうが良いケースもあります。1/3オクターブなどに丸めて表示するモードです。

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突発的なピークを検出する目的ではなく、バランスを整えることを重視する際にはこういう表示のほうが良いということです。ギザギザすぎて意味分からないこと、ありませんか?

MIXでは楽器ごとの「帯域」の住み分けを管理する際にEQを使いますが、こういう表示の方が「このあたりを占めている音」を見分けやすいです。

フル表示でギザギザにしていると、線が多い場所が多く鳴っているかのように錯覚してしまいがちです。

細いEQであちこち削ってしまう癖のある人は、表示をソフトしてみると良いはずです。細かいギザギザが見えなければあなたは反応しなくなり、より音楽的なEQ処理ができるようになるはずです。

「スペアナなんか使ってミックスすると云々」と言っている人は、たぶんギザギザ表示しかやったことが無い人なんだと思います。 車のレースや100メートル走は1/100秒の計測が必要ですが、フルマラソンは秒単位で十分だということです。「過ぎたるは及ばざるが如し」です。

 

なお、平均表示だと瞬間的なピークが表示されません。これに対処するためには複数の表示モードを重ねる設定方法を煮詰めてください。面倒なので説明は書きません。上の画像は最大値と平均値、MとSを表示し、合計4本の曲線が表示されている状態です。

 

・平均表示2

マスタリング時など、さらにゆるい表示にすることがあります。

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ここまでソフトにすれば、細すぎるQで加工しようという気も起きなくなるでしょう。

また、帯域のソフトさだけではなく、音量に対する反応時間もソフトにしておくと、マスタリング作業に適した視覚情報を得られます。ソフトで小さなEQ加工に適しています。また、ダイナミクス管理にも適しています。

 

  ■表示モードについてまとめ

  1. 高精度モード=検査目的
  2. 平均表示=音楽的にミックスバランス
  3. さらに平均表示=マスタリング

という3種類の使い分けをちゃんとやりましょう。

 

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■間違ったスペアナの使い方

高精度モードにして表示していると、ハイエンドにこういう突出が起きているのを発見できることがあります。耳では聞こえない超高周波数帯域です。

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上の画像はわかりやすくするために10k以上だけを表示した 状態です。

こういうのを見つけたからといってマスターのEQでハイカットすると、常に超高域が小さなサウンドになってしまいます。

 

削るべきはこの音の原因になっているトラックの個別処理です。

もしくはマスターでダイナミックEQ/マルチバンド処理で対応しましょう。

こういう狂った突出はサンプルの不良

 

・ロールオフ

ハイが無くなってしまったサウンドは、抽象的な言葉では「曇った音」とか言われています。

実務の中では「過剰なロールオフ」とも言います。適度なロールオフは一般的に好ましいサウンドだとされています。一切のロールオフの無い、高域がフラットすぎるサウンドは「硬いサウンド」とか「痛いサウンド」と呼ばれています。これはデジタル環境では容易に出せてしまうサウンドで、デメリットのほうが大きいので、一般的避けるべきです。スペアナで確認し、適度にロールオフされたサウンドにするべきです。

 

・低域の処理でよくある勘違い

同様に、ロングのサブキックで「ドゥーーン……」と鳴らす時。

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ドラムのステムやマスター付近でまとめてローカットをしてしまうと、通常時のキックやベースまで下がってしまいます。気をつけましょう。

 

・ローの削りすぎ

生録音したものは低域に音楽的に不要な低音が録音されてしまいます。

これを除去する方針として「とりあえず全トラック100以下をローカット」というメソッドが広く普及していますが、半分間違いなので要注意!

フロアミュージック(ダンスミュージック)の普及により、100ではなく60とかが標準的な時代です。

 

昔の伝説のロックバンドとかの音ってロー無いでしょ?

ローをスピーカーで正しく再生できる環境が普及したのは概ね90年台に入ってからで、それまではもっとチープな再生環境で「ベターな音」が追求されていました。

興味がある人は下の記事をどーぞ。

eki-docomokirai.hatenablog.com

 

 

が、問題はシンセの音。いわゆるドラム音源とか、オーケストラ音源。

「生楽器を録音し、サンプルを鳴らすシンセ」では、製品化の段階ですでにローカットされていることがあります。

そういうローカット済みシンセの音をさらにローカットするとひどい音になります。

「 なんでも100Hzでカット」という考え方は「生録音のミックス」の話です。

近年のDTMで一般化してきている「打ち込み音楽」の場合にはうまく読み替える必要があります。

 

「そのローカット、本当に必要ですか?」ということです。

eki-docomokirai.hatenablog.com

 

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 スペアナ話に戻りましょう。

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■スロープ、ホワイトノイズ、ピンクノイズ

では本題!スペアナの基準値を設定します!

 

スペアナについている「スロープ(Slope)」はオクターブ高く(低く)なった距離で何dBの傾斜をつけるか?というパラメタです。

モデルによって傾斜の軸位置は違います。たとえばSPANだと1000Hzで、Meldaだと一番左が基準点になっています。

 

スロープが狂っているとどうなるかというと、

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Meldaのスペアナの一時停止機能で完全に同じ部分を異なるスロープで表示しています。スロープを±2程度変えることによって見え方がこんなにも違ってくるということです。

 

そういう状態で作業をしているとどうなるのかというと……

 

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これが「スペアナなんか使ってたらクソ音にしかならない」と言われる最大の理由です。

こういうケースで本当に必要なのはスペアナはなくリファレンスです。

 

eki-docomokirai.hatenablog.com

 

 

例えば上の画像の左下部分で「ローカットしろよ情弱w」と書いた部分をローカットしてしまうと低音はスカスカになってしまうということです。

適度にローが残っていないとおかしなサウンドになってしまうのは皆さんご存知の通りです。

同様にハイが上がりすぎると「耳に痛いサウンド」になってしまうわけです。

 

更に言うと、同様の問題はモニター環境(スピーカー、ヘッドホン、部屋鳴り等)によっても生じます。

ご自慢の重低音スピーカーで聞きながらミックスすると「低音出過ぎかな→低音下げよう→低音の薄いミックス」になってしまいます。

 

上下の帯域の再生能力が高い高性能なスピーカーだけで作業していると、チープな環境で再生した時に超ローと超ハイにサウンドが偏っていて、中域だけ聞いてもキックが聞こえないという「あるある」な状態になってしまいます。ショボい再生環境でのチェックは高級モニター機材より大事です

eki-docomokirai.hatenablog.com

 

・ピンクノイズに合わせる

ピンクノイズは全ての帯域が水平になるノイズです。

ホワイトノイズ、ピンクノイズについては下のリンクを参照。

ホワイトノイズ、ピンクノイズ : 音響技術と機器開発 用語補足解説

 

全帯域で「シャー」と鳴るノイズのことを総称してホワイトノイズだ、と言う人もいますが、厳密には大きな間違いです。

例えばエレクトロ系ジャンルで頻出する効果音としてのノイズは一般的にどれもホワイトノイズと呼ばれています。そういう場面ではどっちの呼び方でも構いませんし、おおむねホワイトノイズと呼ばれるだけです。

 

この記事では測定的なこと、基準値の話なので「ホワイトノイズ」と「ピンクノイズ」は完全に別のものだと区別してください。

 

光学の分野ではホワイトノイズが基準にされることがありますが、音響の分野、とくにミックスの分野ではピンクノイズを基準にした方が便利です。

 

・見た目で指摘してくる人に気をつけよう

過去にニコ生のDTMを見ていたら、コメントで「ローカットしろよ」と叫んでいる人がいたのですが、それは配信者の画面に出ているスペアナを見て指摘していただけだった、という事案がありました。

 

スペアナの設定によっては、どんなにローカットしても低音が暴れているように「見える」ものがあります。低解像度モードだとどんなに低音をカットしても、ローが暴れているように「見える」ものです。

それを「見た」からローカットするというのは完全に間違いです。

 

たとえばWaves PAZのデフォルト状態だと、

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このようにローの解像度は非常に低いです。

さらに言えば、解像度が低いわりに対数表示に近い状態(中央が250~500Hzあたり)ですから、なおさら低音が暴れているように見えてしまいます。

LF resを変えることで250以下の表示を高解像度化できますが、Waves PAZの品質は今の時代ではお話にならないレベルだと言わざるを得ません。時代を感じますね。

 

 

よくミックスの教科書では「低音が暴れている(rumble)」と表現されていますが、これはスペアナの視覚上で「低音が暴れている」ことではありません!スペアナで完全に低音が消えて見えるとしたら、それはローカットしすぎです。

スペアナの見た目で加工してしまうタイプの人の場合は、ローはどこから下を消すかではなく、いかに残すか?と考えた方が良いかもしれません。

スペアナに罪はありません。その表示を見た人が、どう判断し、次にどういう加工をするかの問題です。

 

 ・図形で判断するのをやめよう

スペアナを見る場合に、パッと見た状態で全体の図形で判断するのではなく、縦横の軸をちゃんと見ましょう。

 

横軸=周波数。

スペアナの見た目の中央がサウンドの中央ではありません。左端だけがローではなく、中央あたりからすでにローに片足つっこんでることもあります。上のWaves PAZの画像を良く見て、「見た目の中央」が周波数でいくつなのかをちゃんと見てください。中央は250と500の中間あたりなので以下略。とにかく見た目の印象だけで考えるのは絶対にダメです!

縦軸=音量。

スペアナのモデルと設定によって非常に大きな差があります。一般的に-80dBともなると、とても耳が良い人が注意深く聞かないかぎり聞こえないです。それ以下の小さい音量は各種エフェクトによって生じるノイズであることがほとんどです。だからと言って-40~-80の可聴域の表示だけにしていると、上下の範囲が大きくなりすぎて見えてしまうことがあります。表示範囲を広くすることで、全体を緩やかな表示にすることができる効用もあることを忘れてはいけません。

 

 

そこで重要になるのがスロープの設定なわけです。

スロープを変えると、縦軸の音量の数字がアテにならないことになってしまいます。

 

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スロープの話に戻します。

 

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Voxengoはスロープ4.5dB/oct.がベストだと判断し、それを初期値として提供しています。

この「Voxengoの4.5dB傾斜」で参考楽曲を聞いてみると、明らかにハイ上がりに表示されます。

(下画像。白はミッド、青はサイドを重ねて表示しています。)

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このスロープを変更して3.0にした方が良いよという人がいます。

それに対する反論として「3dBスロープで曲を作ると雑音にしかならないぜ?」という話もありますが、それは屁理屈でしかありません。最終的にはリファレンスを使って調音していくので、どのスロープでも問題ありません。

が、

 

 

■そもそもフラットって何よ?

スペアナのスロープの傾斜と関連する話なので書いておきます。

 

フラットというのは状況によって様々に変化する、極めて曖昧な言葉です。

ためしに全ての帯域が「フラット」なミックスを作ってみれば良いですよ。わけわからない音になりますから。私もミックスやり始めの頃に「フラットに作って」と言われて信じられないくらいまっすぐな状態にしたら変な音でした。それを先生に聞いてもらったら、上のような指導を受けたわけです。「お前ねー、たしかにこれは『フラット』だけど、そうじゃないんだよ」という具合に。フラットに作るだけなら初心者にでもできるんです。

ドンシャリというとネガティブな意味で捉える人もいますが、どんな音楽でもある程度は「上下の山と中央の凹みのあるドンシャリ」であったり、「中央が膨らんだカマボコ型」です。論より証拠なので、手持ちの市販曲をスペアナに通してみると良いですドンシャリという言葉を悪い意味で使うことがあるのと同じで、フラットというのも悪い意味になることがありますよ、というお話。

 

同様に、全てのモニター機器はその特性が「フラット」ではありません。いろいろな山谷のある音響特性に作られています。やろうと思えば簡単に「フラット」にできるのだそうですが、それだとおかしな音に聞こえてしまうから、意図的に山谷を作っているのだそうです。にも関わらず、「フラットなモニターじゃないとダメ!」という言説があります。この声が言わんとしているのは「聴感上の適度なフラット感」であって、測定器で表示して水平になるという数学的な均一さではないです。スピーカーという商品はオカルトまみれのピュアオーディオに隣接していることもあり、抽象的で無意味な言葉が多く流通しているので気をつける必要があります。そういう「気をつけなきゃ」「根拠を提示しろ」という、いわゆる理系な考え方として測定結果という動かぬ証拠を突きつけて性能を論じるわけですが、それが「フラット」なら高性能かといえばそういうわけではありません。このあたりを分別して考えられないと「オーディオ沼」にはまりこんでしまうので気をつける必要があります。フラットという言葉があまりにも流通しすぎていて初心者が惑わされてしまう時代です。情報過多ですね。

 

「フラットなサウンド」「フラットなミックス」と言っても、全ての帯域が均等に鳴っているのがフラットという意味ではありません!だからフラットという言葉を使うと「あー、この人アレだ……」って思われるんです。音響機材を扱うお店の店員さん曰く「このスピーカーはフラットですか?」「フラットなヘッドホンください」と言われても「あー、またそういう客だ」と思っているそうです。お気をつけください。

 

■Voxengo SPANの初期値は4.5dBスロープ

 

閑話休題

 

あらためてVoxengo SPANの話に戻す。

 

SPANにピンクノイズを通してみます。

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SPANの初期スロープ値(Slope)は4.5dB/oct.です。

ピンクノイズは3.0dB/oct.ですから、SPANでピンクノイズを水平に表示するためにスロープを変更する必要があります。

 

4.5-3.0で差は1.5dB/oct.です。が、実際には数値通りではありません。

下のようにSlopeを2.2~3.0くらいに補正すると、ピンクノイズが水平になります。

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 「え?4.5-3.0だから1.5じゃないの?」

 

と思うかもしれませんが、これがモデルと表示モード(解析モード)による差というものです。

 

こういう差はスペアナのメーカー、モデルによっていろいろあります。要するに数値はメーカーによってまちまちなので今ひとつアテにならないということです。

こういう差はスペアナのFFT解像度によっても現れます。

水平にしたはずなのに、高解像モードにすると傾斜がずれるのはFFTの仕様です。

 

また、ノイズの生成方式によってもある程度の差が出ます。

 

・2.2なのか2.7なのかの件

えーと、この記事に対してツッコミをしていた人がいたので補足しておきます。

 

Block Sizeを上げて高解像度にしている場合には2.7だと完全に右上がりになります。

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高解像度の場合には2.2の方がストレートに近くなります。

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この記事をちゃんと読んだなら分かってもらえるはずです。

ちょっとした設定の差によってもピンクノイズの水平さは失われます。

「どの設定が正しいのか?」ではなく「設定は変えるもの」という点だけが大事です。

 

あと、アベレージで見るか、最大ピークで見るかによっても当然変わってきます。

というか、リファレンスとの比較だけが重要です。

 

 

■モデルによる3.0スロープの違い

同じノイズジェネレーターで作ったピンクノイズを表示させた例です。f:id:eki_docomokirai:20170329132351p:plain

 

左上、Voxengo SPAN。スロープ3.0。音量拡大表示。やや右上がりです。

右上、Steinberg MultiScope。スロープ無し。完全に右下がりです。(ホワイトノイズで水平になるモデルです。)

左下、Melda MAnalyzer。スロープ3.0。ほぼ水平です。

右下、Melda MAnalyzer。スロープ3.0。高解像モード。右上がりです。(高解像モードで表示が乱れる、ということ)

 

また、近年評判の良いOzoneですが、Ozoneのスペアナは飾りにしかなりません。

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傾斜がホワイトノイズのピーク=水平なのはともかく、縦横の軸が全く不明です。これでは音楽を作る道具として役に立ちません。傾斜の変更もできませんから、多用な表示モードも実質的に使い道がありません。

 

念の為フォローしておきますが、Ozoneそのものは極めて高機能で優れたプラグインだと断言できます。ただし、iZotopeの設計思想としてスペアナ等の視覚情報を重視していないということです。

Ozoneを使う人は内蔵スペアナを使わずに、必ず他のスペアナを用意しましょう。

 

 

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このように、メーカーやモデル、解析モードの違いによって表示は大きく異なります

スペアナ否定派の人は、たぶんそういう雑なスペアナしか使っていないから「スペアナなんか使っても無意味」と主張するのでしょう。出来の悪いカーナビなら使わない方がマシ!というのと同じことです。

 

でも、調整可能なスペアナを適切にセッティングすれば、スペアナは本当の価値を発揮できるようになります。

逆に、そこまでしなきゃいけないということは、世の中はあまりスペアナを推奨していない証拠だと言えます。そりゃそうですよ。まともなミックスはまともな環境で行われるのがホントなんですから。

 

こういう重要なな部分をすっ飛ばしてスペアナを勧めるのも、安易にEQに組み合わせた商品をリリースするのも無責任ではないか?と私は思います。

自動でピンクノイズを水平に表示する機能があれば世界は変わるはずです。誰か作れ。

 

 

複数のスペアナを使う人は、設定を揃えておくのが良いでしょう。

というか、揃えないと弊害の「害」の方が大きくなってしまいます。

 

1つしか使わない人は、3.0dB/oct.のピンクノイズを流し込んでみて、水平に出るかチェックしましょう。もし水平に出ないタイプの場合、そういうモデルなのだとしっかり覚えておきましょう。

 

また、スペアナ画像を伴うミックス記事を読む場合に気をつけましょう

eki-docomokirai.hatenablog.com

スペアナの設定はSPANの初期設定のように「音楽的に味付け」されたものより、ピンクノイズを正しく水平に表示できるほうが良いと思います。なぜならプラグインの検査を行う時に正しくチェックできるからです。(プラグインのチェックについては、後日別の記事で書きます。たぶん。)

 

・お前それで本当に分かるのかって話

まずこの記事を読みます。

behindthespeakers.com

その中で「バランスの良いミックスはこのようになる」という旨で、下の画像が挙げられています。

http://behindthespeakers.com/wp-content/uploads/2016/10/Voxengo-SPAN-Balanced-Mix-768x567.png

http://behindthespeakers.com/wp-content/uploads/2016/10/Voxengo-SPAN-Balanced-Mix-768x567.png

おいおい、そんな微妙に歪んだ山の曲率を記憶できるのか?

同様に「やや右下がりにミックスすると良いでしょう」とか書いてる本やサイトも多く、誤解が広まっているのが実情だと言わざるを得ません。

 

そういう「微妙な右下がり」を覚えるくらいなら、適正なミックスとリファレンスを表示した状態でスロープを水平にしておけって話なんです。

上画像のような微妙な右下がりが良いという話も、ミックスの教科書で散見されます。しまいにはその状態を耳で覚えろとか耳を鍛えろとかの最悪な根性論まで持ち出す始末。

そういう本にに限ってEQの0.1dBの微調整の話とかが力説されていて本末転倒です。だったら最初から感覚だけの話にしとけよと思います。思いませんか?

そんな努力しなくて良いからスペアナを水平にしようぜ?

 

・ピンクノイズを基準にする話

下のリンク先(英語)でも取り上げられています。

behindthespeakers.com

ただし、「あなたのミックスをぶっ壊す恐れのあるTIPS」としての紹介です。

ちょっと意地悪なタイトルの記事なので気をつけてください

上のリンク先記事では「ピンクノイズにぴったり合わせるとクソ音になるよ」と言っているだけです。

完全にフラットな帯域バランスでは音楽になりません。

大事なのはおおむねピンクノイズの水平を目指した上で、音楽的な山・谷を作ることです。そうした起伏についてはリファレンスミックスで対処するべきです。

 

 

 

■スロープを調整できない場合は要注意!

で、大問題になるのが、上のSteinberg MultiScopeやOzoneのように「スロープが不明、スロープを変更できないスペアナ」です。

 

というのも、近年はEQにスペアナの透かしが入っているものが増えてきましたが、何を基準にしているのかが不明なものがあり、とても不安です。しかも非表示にできないものが多く、EQしながら目に入ってくる基準の不明な情報で脳が混乱するだけです。

EQの透かしスペアナや、コンプの波形表示をするプラグインは必ず非表示モードを装備するように義務付けるべきだとさえ思います。

 

ためしに手持ちの透かしスペアナ付きのEQにピンクノイズを通してみてください。

その際、調整済みのスペアナも同時に表示して、EQについている透かしスペアナと比較してみてください。たぶん違った表示になっていて混乱するはずです。

 

そのEQの透かしスペアナがどういう表示をしているのか、ちゃんと確かめておきましょう。もし透かしスペアナの表示基準が不明なら参考程度にとどめた使い方をするようにしましょう

 

 

もうこれだけ言えば「スペアナが全部同じではない」ということは納得してもらえたはずです。

 

 

 

 

■リファレンス選びこそが大事

たびたび出てきた「リファレンス」という言葉。

音楽制作におけるリファレンスの意味は「参考曲」という意味です。

 

最終的にやるべきことはリファレンス曲を用意し、その曲がスペアナでどう表示されるかを確認しつつ、製作中の曲のサウンドを補正していくことです。と同時に、リファレンスとは異なる個性を出すことです。

 

・じゃあスペアナを使う理由って何よ?

「え?リファレンス比較さえやれば良いってことは、スペアナの存在理由って何?」と思うかもしれません。

リファレンスを使った上でスペアナを使う理由はリファレンス無しで作れるようになるためです。

リファレンスを聞かずにスペアナを見ながら作り、リファレンスで答え合わせをします。それを繰り返していくと「スペアナ表示でこのくらいなら、今時のサウンドから離れすぎないよね」というサジ加減ができてきます。

 

また、リファレンス比較も完璧ではありません。なぜならリファレンス曲とあなたが作っている曲は違う曲だから、スペアナ上で完全に一致することが無いからです。

リファレンス曲がスペアナ上でどのように動くのかを見て覚えておくことで、自分の曲でもおおむね似たような動きをしていればまぁOKじゃねーの?ということです。

じゃあどういうことか?と言うと、スペアナの静止画像でストックしてもそれほど意味がないということです。もちろんリファレンスのサビの10秒とか、30秒とかの平均値で画像チェックすることは可能ですが、平均値はどこまで精査しても平均値です。どういう躍動感なのかを動きで知っておく必要があります。(逆に言えば、動画やGIFアニメ画像でストックしておくという方法は有効だと言えます。)

 

やったことが無い人はためしにリファレンス比較をやってみれば分かります。リファレンスと自作曲とは、思ったほどスペアナ上での比較ができず「まぁこのくらいだよね」という選択をするしか無いということを体験できるはずです。

 

 

■マッチングEQについて

ついでに流行りの「マッチングEQ」についても所感を書いておきます。

てきとーに使っても役に立ちません。以上。

 

・・・

 

マッチングEQの運用では「リファレンスのどの部分を抽出するのか?」というセンスが問われます

上で述べた通り、リファレンスとあなたの曲は違う曲ですから、どの部分を抽出し、どの部分に適合させるのか?という選択を迫られます。で、どこか一箇所を抽出してマッチさせると、他の部分で乱れるわけです。

 

また、根本的な問題として、リファレンス曲はマスタリング済みです。あなたの2mix前の段階にかけても意味がありませんし、異なる仕上がりの2mixに同じEQをかけても、マスタリング結果が似ることはありません。

将来的にはリファレンスの複数の箇所にセットして、自作曲の対応した箇所に自動でマッチさせるようになるのでしょうが、現時点では使い物にならない、もしくは達人しか使えないように思います。

 

新しいテクノロジーが好きな人は「近い将来、そういうことはAIがやってくれる時代になる」と言いますが、それは飲み屋で笑いながらする妄想の話です。

今はまだ未来ではないので私達は手動で音をリファレンスに近づける仕事をしなければいけません。

すでにリリースされている「なんちゃってAI」のミキシングツールを試した人はご存知でしょう。まるで役に立ちません。

 

現時点でAIが成し遂げたことは、商品を売るための宣伝文句で役立ったことくらいでしょう。「AI搭載!わずらわしい作業からあなたを開放し、週末のパーリィに参加できる自由な時間をもたらす夢のプラグイン!すべてのミックスを過去にする!」

某社AI搭載プラグインは稀に見るヒット商品だったそうですが、多くの人がガッカリしたのは誰もが知っています。

結果、「ああ、なるほどね。自分でやったほうがましだ。」とはっきり思い知らされ、自分以外に頼れるものなど無いと痛感したはずです。あんなミックスしかできない低能AIが人類に宣戦布告したとしても、たぶん人類の圧勝です。しばらくはミックスマスタリングの仕事が無くなる心配は無いでしょう。あと、作編曲AIもまるでお話にならないレベルですね。

 

 

■「スペアナ使うな!」は強者の理屈

絶対音感」のような「絶対ミックス感」を持っている人であれば、曲を聞いて周波数バランスを聞き分けることができるのでしょうが、私のような作家寄りの音楽家の場合は往々にして「絶対ミックス感」を持っていないので、その場その場の気分でミックスをしてしまいがちです。自分の欠点を自覚しているからこそスペアナを使うんです。

さらに私の場合はプレイヤー時代に爆音生活をしていたせいか、明らかに耳を痛めています。自分の感覚で作るとどうしてもおかしな音になってしまうんです。

自分の感覚をアテにせず、リファレンス曲を用意し、そのサウンドを目指していくというミックス手法を最重要視しています。

 

この「リファレンス曲に近づけるミックス方法」は私のレッスンでも教えています。私が完璧なミックス能力を持っていないからこそ、レッスンを受ける人でも導入できる可能なスタイルを教えているわけです。

だって、うますぎる人って「耳で判断しろ」「耳を鍛えろ」しか言わないでしょ?クラシック作編曲のガチ勢だと「楽譜読め」しか言わないし。

それはイチローがバンバンヒット打って「ね?簡単でしょ?」と言っているのと同じです。そういう「強者の理屈」は一般人の学習者にとって役に立ちません。膝より低い球クソボールに手を出したり、インハイを流し打ちするイチローは野球少年の参考にならないんです。

ついでに言うとアレもありますね、「ビンテージアナログ機器を通せ」というミックス記事。それもう売ってないじゃんってなるだけの記事。ああいう記事ってコレクターとワナビ向けでしかなくて、現実問題として自宅で深夜にヘッドホンでミックスをしなきゃいけない私達にとってまったく無意味だと思うんです。

 

■ベキ論は捨てて良い

何度も言いますが「スペアナを使うな!」を実践できる人はすれば良いんです。

それができないから道具の助けを借りるんです。

 

格闘漫画『グラップラー刃牙』の登場人物が「鍛えるなんて弱い奴のやることだから、俺は体を鍛えたり、格闘技の技を覚えたりしない。ていうか、避けない。ただ殴る。」というようなことを言っています。これが強者の理屈です。カッコイイんですけど、真似できる生き方ではありません。

 

「バットをガッ!って振ればボールがポーンと飛ぶ!」みたいな、出来る人は自然にできるけど、それじゃあ説明になってねーよ!というのを『強者の理屈』と言います。

 

車の話でパワステや四駆、オートマなんか車じゃねーよ!と言う人がいるのも同様です。

 

完璧なミックスをするためには「絶対ミックス感」や、完璧な環境は最低条件なのでしょう。本職のエンジニアで、一流の仕事を生業にするならそうあってほしいものです。

しかし、ほとんどの人はそういう能力や環境を持っていません。「プロはこうする」「プロならこのくらい持っててあたりまえ」という、どこかの雑誌やネット掲示板で拾ってきた雲の上のベストな知識ではなく、今の自分にできるベターな実行力こそ必要なのではないでしょうか。

 

理想ばかり語る人に言わせれば「スペアナなんか使っているようじゃダメ。耳で判断できないと良いミックスにならない。」と言うのでしょうが、それは理想でしかありません。「理想を語る」という点においてはとても正しいです。「不老不死が理想」「全ての異性にモテるのが理想」「空を飛べるのが理想」という意味においての理想語りです。無理ですね、そんなの。

 

■アナライザ不要論

たとえばこういう記事です。

誤解が起きないように明確に断っておきますが、リンク先記事をdisるつもりは一切ありません。

soundevotee.net

これを理想的に実践できる人は、そのようにすてば良いです。

リンク先の人はそれができていると自信を持っているのですから、どうこう言う気はありません。(が、2017年11月22日までそれをしてこなかったと自白しているわけですが。)

 

「一流プロはこうするから」という理由だけで真似するのは危険だと思うんです。

初めて自転車に乗るなら補助輪を使いましょう。

何十年のキャリアがあるわけでもないのに、生まれつき才能があるわけでもないのに、一流のマネをするのはやめましょう。

 

・「プロはこうする」という理屈のおかしさ

演奏で考えると明快です。

「プロは数回の練習だけで本番をやる。」というワークフローをそのまま真似できる実力がすでにあるならやれば良いです。

そういう水準の演奏活動を実行できている人って、年間何回の演奏をしていて、そもそもどのくらいのキャリアを重ねてきたのかについて考えるべきでしょう。

 

もしあなたが音響エンジニアとしての基礎訓練を受けてきて、年間数百の仕事をこなしてきたキャリアがあるならやってみれば良いでしょう。

 

「スペアナなんか見るな!」と言われたなら、『今後も継続的な指導を希望します』と答えれば良いと思います。

 

  

 

■全てはマルチバンド処理、マスタリングのため

SPANの初期状態のように「音楽的な味付け表示」になっていると、マルチバンドコンプ(リミッタ)に突っ込む際、スレッショルドに対して「斜め」に当たってしまいます。高音か低音、あるいは中域のメロディがリミッタに反応してしまう状況です。

 

下はピンクノイズ(水平)とホワイトノイズ(右上がり)をL3-16に極端に突っ込んだ時の反応です。

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画像の右では低域が圧縮されていないことを確認してください。

大きな高音だけがスレッショルドに当たり、圧縮されています。

 

瞬間的な絵なのでブレが起きていますが、おおむねノイズの角度どおりにマルチバンドのリミッタが反応しています。

ピンクノイズ(水平)はマルチバンドリミッターを通過する時にも全帯域が反応しています。ホワイトノイズ(右上がり)だとハイだけが潰されています。

 

もちろんマルチバンドリミッターによるマスタリングは帯域を完全にフラットにするのが目的ではありません。リミッタにあたって潰れる部分と、素直な音のまま残す部分のバランスによって良い仕上がりになります。

で、この時にハイだけが潰れると、ハイだけが潰れたキンキンした耳の痛い音になるわけです。当たり前ですね。マルチバンドなんか使うなとか言われる理由もこの辺の誤解から来ているということです。(それを避けるために「マルチバンドリミッター用のミックスをするのが嫌だ!」という声もありますが、結局マスタリングでやることは以下略。)

 

いわゆる「まともな2mix」つまり「フラットな2mix」になっていれば、あとは普通に突っ込むだけで適度にマルチバンドに潰されて、それなりの仕上がりになるんです。

2mixの時点でバランスがおかしい音を、マスタリングでどうにかしようとしているから、「マルチバンドリミッターの使い方が分からない」「L3を買ったんだけど使い方が分からない」という悩みが出て来るんです。

そのために必要なのは普通の帯域バランスの2mixに仕上げること。つまり、スペアナを水平に調整しておいて、目視でフラットな2mixを作れる環境を作っておくことなんです。

 

慣れてくればスペアナ無しでもできるようになります。

それでも途中で目視チェックをしないと、自分の耳の特性に偏った2mixになり、雑なマスタリング工程(後述)でクソ音にされる、ということです。

 

・「マルチバンドぶっこみとか笑わすな」という声に対して

えぇ、わかります。とても良くわかります。

L3-16などのマルチバンドリミッターにぶっこんで「はい、マスタリングでござい!」というのがおかしいと言いたい人がいるのは良くわかります。その通りです。でも現実は「2mixが悪い」と言われるのがオチです。

ご存知の通り、マスタリングはドリームではありません。ダメな2MIXを神がかり的な仕上がりにするのがマスタリングではありません。

 

■マスタリング屋はあなたの曲の内容など聞いていない

でも、実際問題としてそういう雑な処理を「自称マスタリング屋」の他人にされてしまうんです。

よほどのハイエンドの話でも無い限り、他人にマスタリングを任せてしまうとそういう結果になります。

 

ものすごいぶっちゃけ話ですが、本当に良いマスタリング屋は本当に良いですが、まず当たることは無いです。

 

たいていのマスタリング屋は、預かった曲をろくに聞きもしないで、音量レベルだけ見てマルチバンドのプラグインに丸投げして「はい、マスタリングできました」というのが実際に多いんです。プラグインじゃなくて実機でも突っ込んで汚してレベル処理しかやってくれない、ってのは同じ。

曲を理解した上で丁寧に処理するなんてことはやってくれないんです。それもまた「理想」でしかないんです。

 

 

だったら、そういう簡易的なマスタリングをされても破綻しないように作っておくべきなんです。仕上がりに文句を言っても後の祭りなので、ベストよりベターを目指すべきなんです。

もしこの意見が当てはまらない、妥協をしない理想的な音楽をやれている人がいるなら、それは幸せなことだと思います。でもそうじゃない人のほうが多いんです。

 

 

そういうマスタリング屋はいなくなって当然の時代です。

(あえて「自称」とか揶揄する言葉は使いません。音楽、マスタリングに限らず、あらゆる業種において品質はピンキリです。F1マシンを作るのも車の仕事ですし、レンタル社用車のメンテをするのも車の仕事です。全ての「◯◯屋」が均質ではないのは当然です。)

自分の曲をちゃんと理解し、愛情を持って仕上げた方が、そこらのマスタリング屋にやらせるよりまともな仕上がりになるんですから、自分でやったほうが良いですよ。ほんと。

 

ただ、曲集として仕上げる場合には全ての曲が集まる場所にいる人が担当することになるので仕方ありません。上述のように適当なマスタリングをされて当然です。だから適当に扱われる前提で2MIXを仕上げる必要があるんです。で、そのためにはスペアナをきっちり調整し「マスタリング屋にとってフラットな」音にしておく必要があるということです。

 

・マスタリングで出来ること、出来ないこと

ちょっとでも丁寧な加工をしてくれるマスタリング屋なら、帯域バランスを「フラット」にした上でリミッタに突っ込んでくれるので、リミッタは適切に反応します。

しかし、ダメなマスタリング屋は「2mixの出来が悪い」という逃げをします。

とはいえ、やってみればわかるのですが、できの悪い2mixというものは確実に存在します。リミッタの前段階として帯域バランスをフラットにした結果、楽曲が崩れてしまうことがあるからです。

eki-docomokirai.hatenablog.com

リンク先記事にあるサンプル音源のように「フラット」にした結果、元音源のバランスの悪さが浮き彫りになってしまうわけです。

高域で「少し聞き取れれば良いだけのエアー感」が全体の帯域バランスの補正のために10dB持ち上げられ、シャリシャリした耳障りな音になってしまっています。

マスタリング工程では各帯域に含まれる成分を再構築することはできません。それはミックス工程でなければ絶対に修正できません。

そういうのを修正できるかのように謳っているプラグインもありますが、お察しください。

 

 

と、さんざんマスタリング屋をdisるようなことを書きましたが、彼らも時間的に仕方がないんです。仕事ですから。

入念で理想的、ドリームなマスタリングをして欲しいなら、拘束時間に相応の対価を払うのはもちろんのこと、立会するのが当然です。コンビニやファミレスに超一流の接客スキルを要求するのがナンセンスなのと同様、そういう丁寧な仕事に慣れたエンジニアを探すところから始めるべきです。

また、すべての「マスタリングできます」の人が、そういう過酷な要求に応じてくれるわけではありません。ダイナミクスレンジの広いクラシック系の音楽をまともにマスタリング出来る人は少ないです。(余談ですがミックスも同じです。あらゆるジャンルをミックスできる人は思ったほど多くありません。フレンチのシェフに中華を作れと言っても無理なのと同じです。作曲や編曲、演奏と同様に、ミックスやマスタリングにもジャンルはありますよ!)

 

 

■まとめ

さて、チェックノイズの話→スペアナの調整→リファレンス曲の話→マルチバンド処理→マスタリングの話まで一気に書きました。

どれか1つの話にしようかな、と思っていたのですが、関連性が強いので1つの記事にまとめました。

 

プロアマ問わず、よく相談を受けるのが「マルチバンドリミッターの使い方が分からない」「L3を買ったんだけど使い方が分からない」というお悩み相談。ここまでちゃんと読んだ人ならもう分かると思います。マルチバンドリミッターの使い方が難しいのは、リミッターに入ってくる音が「ハイ上がり」などのように、おかしな偏りのある2mixだったからです。

そうなる原因は「耳が疲れたら目で音をチェックしよう」と思ってつかうスペアナ、その設定状態だということです。どんなに良いスピーカーやヘッドホンを使っていたとしても、必ず耳が疲れておかしな音に加工してしまうものです。それを避けるためにスペアナで目視してバランスチェックをすることと、リファレンス曲を用意することなんです。

リファレンス曲だけあれば良いように思われるかもしれませんが、耳が疲れている状況だと結局同じことになります。疲れた耳だとハイが聞こえにくくなるとか、そういう話ではなく、疲れてくると耳からの情報そのものが正しく認識できなくなるので、リファレンス曲+スペアナ目視という二重のチェックで確度をあげていくしかありません。もちろん全ての作業の間にしっかりした休憩を取ってリフレッシュできればそれがベストなのですが、そもいかないことのほうが多いです。

 

スペアナの設定というオタクくさい内容であることは自覚しています。普通はスペアナはポンと挿して、画面の隅においておくだけ、という人の方が圧倒的に多いと思います。そこで一手間かけておけば、2mixもマスタリングもスムーズに進むはずなんだけどなぁ、ということでこんな記事を書いたわけです。

 

そのうち気が向いたら、この記事でまとめて一気に書いた内容のそれぞれについて、個別に記事を書くかもしれません。

 

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いずれの記事も、そのうち追記・編集・分割します。たぶん。 

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