eki_docomokiraiの音楽制作ブログ

作編曲家のえきです。DTM/音楽制作で役立つTIPSを書いています。

スペクトラムアナライザの調整が大切な理由(更新2017-0817、分割予定)

DTMに関する記事です。

サウンドを目視でチェックするためのスペクトラムアナライザ(スペアナ)はとても便利なものですが、実はスペアナのモデルによって表示はかなり違います。

ここではそれらのチェックと調整方法について書いておきます。

過去に別のブログサイトで書いていた内容を修正・統合した記事です。

 

■モデルによる大きな違い

 

デフォルト状態での表示が異なるということ以外は、実は大差ありません。

スペアナについて言及している人の多くがこのことをまったく配慮せず「◯◯社のスペアナのプラグインの方が高性能だ」とか言っています。

フリーのSPANとかMeldaでもちょっと設定を変更するだけでいろいろな表示モードにできます。

 

ただ、実際問題として、音楽をやっている人のすべてがカスタマイズ厨なわけではないです。

スペアナに限らず、コンプやEQでさえ、本当に精密な使い方をしているわけではない人がとても多いです。そういう人たちが悪いという意味ではなく、その程度でも素晴らしい音楽はちゃんと作れるということです。

 

DTMだけではなく、生楽器の演奏家の人でも、驚くほど楽器の構造に無知な人がいたりします。音楽史や作曲家の背景、楽曲名などについては、プロの演奏家よりも評論家や聞き専人たちの方が詳しいのはみなさんも知っての通りです。

 

■低域の表示精度

デフォルト設定は「音楽的な用途に向いている」表示にしてあるだけです。

やろうと思えば恐ろしく高精度な表示をすることができます。

なお、いかなる表示設定も一長一短なので、どの表示モードが優れているという優劣はまったくありません

俊敏な動作で見やすくする、平均値で見えるようにする、なだらかな分布を長期間で測定する、などの用途によってどんどん使い分けるべきです。

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このように、フリーのSPANでも上の画像のように低域を高精度表示できます。

 

ただし、高精度表示を行うということは、それだけ表示の反応速度が低下するということです。これはPC・CPUのスペックなどの問題ではなく計測の原理からくるものです。

ご存知の通り、高い周波数は1回の振幅にかかる時間が早く、低音はその波長1回の時間が長いです。波長を検出し、いろいろ合わせて計算してから表示をするのがスペアナの原理なので、低域を精密に表示させると遅くなるのは当然です。これを早くすることは未来予測をするしかないということですから絶対に不可能です。カクカクになるのは原理的に当然です。

そういう部分を補間表示するアニメーションでうねうね動かしすことで高性能のように見せかけているスペアナがありますが、それって計測じゃなくて演出です。

スペアナは作業してる時の気分を盛り上げるためのデスクトップマスコットではありません。鳴らしている音を可視化するためのツールです。

 

 

■平均表示1

音楽作品を作る場合、下の画像のようにやわらかい表示にしたほうが良いケースもあります。1/3オクターブなどに丸めて表示するモードです。

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突発的なピークを検出する目的ではなく、バランスを整えることを重視する際にはこういう表示のほうが良いということです。ギザギザすぎて意味分からないこと、ありませんか?

MIXでは楽器ごとの「帯域」の住み分けを管理する際にEQを使いますが、こういう表示の方が「このあたりを占めている音」を見分けやすいです。フル表示でギザギザすぎると、線が多い場所が多く鳴っているかのように錯覚してしまいがちです。

 

■平均表示2

マスタリング時など、さらにゆるい表示にすることがあります。

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■スロープ、ホワイトノイズ、ピンクノイズ

では本題。スペアナの基準値を設定します。

 

スペアナについている「スロープ(Slope)」はオクターブ高く(低く)なった距離で何dBの傾斜をつけるか?というパラメタです。モデルによって傾斜の軸位置は違います。たとえばSPANだと1000Hzで、Meldaだと一番左が基準点になっています。

 

ピンクノイズは全ての帯域が水平になるノイズです。

ホワイトノイズ、ピンクノイズについては下のリンクを参照。

ホワイトノイズ、ピンクノイズ : 音響技術と機器開発 用語補足解説

 

スロープが狂っているとどうなるかというと、

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Meldaのスペアナの一時停止機能で完全に同じ部分を異なるスロープで表示しています。スロープを±2程度変えることによって見え方がこんなにも違ってくるということです。

 

そういう状態で作業をしているとどうなるのかというと……

 

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という判断をしてしまうことになります。

見た目で

これが「スペアナなんか使ってたらクソ音にしかならない」と言われる最大の理由です。使うのはスペアナの見た目ではなくリファレンスです。

 

過去にニコ生のDTMを見ていたらコメントで「ローカットしろよ」と叫んでいる人がいたのですが、それは配信者の画面に出ているスペアナに騙されているだけじゃないかなぁ、と思いました。スペアナのモデルや設定によっては、どんなにローカットしても低音が暴れているように「見える」からです。

例えば上の画像の左下部分で「ローカットしろよ情弱w」と書いた部分をローカットしてしまうと低音はスカスカになってしまうということです。中央くらいに適度にローが残っていないとおかしなサウンドになってしまうのは皆さんご存知の通りです。(余談ですが、100Hz以下は全部カットと言われているのは、生の録音物を扱うミックスの話です。シンセに収録されている音はすでにローカット済みです。)

 

更に言うと、同様の問題はモニター環境(スピーカー、ヘッドホン、部屋鳴り等)によっても生じます。重低音のスピーカーで聞いていると「低音出過ぎかな」となってしまうということや、上下の帯域の再生能力が高い高性能なスピーカーだけで作業していると、チープな環境で再生した時に超ローと超ハイにサウンドが偏っていて、中域だけ聞いてもキックが聞こえないという「あるある」な状態になってしまいます。ショボい環境って大事ですよ。

 

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スロープの話に戻します。

 

 

Voxengoはスロープ4.5dB/oct.がベストだと判断し、それを初期値として提供しているのですが、ピンクノイズは3.0dBの傾斜です。そして、上のとおり、4.5dBの傾斜で参考楽曲を聞いてみると、明らかにハイ上がりになります。これについては次項で後述します。

反論として「3dBスロープで曲を作ると雑音にしかならないぜ?」という話もありますが、それは言葉尻を取った屁理屈です。後述しますが、最終的にはリファレンスを使って調音していくので、どのスロープでも問題ないと言えば問題無いんです。

 

■そもそもフラットって何よ?

スペアナのスロープの傾斜と関連する話なので書いておきます。

「フラット」と言っても、全ての帯域が均等に鳴っているのがフラットという意味ではありません!だからフラットという言葉を使うと「あー、この人アレだ……」って思われるんです。

市販の、というか、あなたの好きな曲をスペアナを通してチェックしてみてください。水平な見た目のミックスにはなっていないはずです。

 

フラットというのは状況によって様々に変化する、極めて曖昧な言葉です。

ためしに全ての帯域が「フラット」なミックスを作ってみれば良いですよ。わけわからない音になりますから。私もミックスやり始めの頃に「フラットに作って」と言われて信じられないくらいまっすぐな状態にしたら変な音でした。それを先生に聞いてもらったら、上のような指導を受けたわけです。「お前ねー、たしかにこれは『フラット』だけど、そうじゃないんだよ」という具合に。

ドンシャリというとネガティブな意味で捉える人もいますが、どんな音楽でもある程度は「上下の山と中央の凹みのあるドンシャリ」であったり、「中央が膨らんだカマボコ型」です。論より証拠なので、手持ちの市販曲をスペアナに通してみると良いです。ドンシャリという言葉を悪い意味で使うことがあるのと同じで、フラットというのも悪い意味になることがありますよ、というお話。

 

同様に、全てのモニター機器はその特性が「フラット」ではありません。いろいろな山谷のある音響特性に作られています。やろうと思えば簡単に「フラット」にできるのだそうですが、それだとおかしな音に聞こえてしまうから、意図的に山谷を作っているのだそうです。にも関わらず、「フラットなモニターじゃないとダメ!」という言説があります。この声が言わんとしているのは「適切なフラット感」であって、測定器で表示して水平になるという意味ではないです。オカルトまみれのピュアオーディオに隣接していることもあり、抽象的で無意味な言葉が多く流通しているので気をつける必要があります。そういう「気をつけなきゃ」「根拠を提示しろ」という、いわゆる理系な考え方として測定結果という動かぬ証拠を突きつけて性能を論じるわけですが、それが「フラット」なら高性能かといえばそういうわけではありません。このあたりを分別して考えられないと「オーディオ沼」にはまりこんでしまうので気をつける必要があります。フラットという言葉があまりにも流通しすぎていて初心者が惑わされてしまう時代です。情報過多ですね。

 

フレッチャーマンソン曲線(等ラウドネス曲線

また、スロープの基準位置が違うということは、ある帯域が0dBを示していたとしても、実際には0dBではないということです。

これの実験は音量0dBのスイープ波を動かしてみることで分かります。

つまりどういうことかというと、スペアナは音量を計測することには向かないということです。

極端な話をすると、思い切り左下げのスロープにして20Hzのサイン波を0dBで鳴らしてみましょう。当然これはスペアナ上では0dBには見えない、ということです。

 

興味がある人は「そもそも音量って何?」「デシベルって何?」「音量の単位ってなんだソレ?」いということについて調べてみると楽しく悩ましい時間を過ごせると思います。

さらに言えば、デシベルが整っている(いわゆるフラット)な音が果たして人の耳にとってフラットに聞こえるのか?という問題もあります。人間の耳は進化の過程で特定の周波数に対して敏感であり、また鈍感にできあがっています。

この辺の理解を数学的にアプローチするか、感覚的にアプローチするかでミックスの方針はかなり変わってきます。感覚的な基準のことを等ラウドネス曲線フレチャーマンソン曲線)と言います。

等ラウドネス曲線 - Wikipedia

数学的にすべての周波数がフラットなミックスは人間の耳にとってはフラットには聞こえないという矛盾に対する感覚的なアプローチがこのラウドネスという考え方です。

これはまだ研究も実装も模索の段階と言わざるをえない状況です。

専門の研究家にとっては重要な研究課題ですが、私たち音楽家は等ラウドネスについてはそれほど神経質にならなくても良いと思います。

神経質になるべきことは「音楽機材屋の言う『フラット』という言葉がいかに疑わしいものか」という、ノイズ情報に対する防衛でしょう。

奴らは「お前のモニター環境はフラットではない。この新製品を買えば良い」としか言いません。

制作をする人が本当に行うべきことは機材を買うことではなく、リファレンスを行える準備をすることです。たとえそのスピーカーがフラットでなかったとしても、同じスピーカーで鳴らせばリファレンスも同様にフラットではない鳴り方をするわけですから、それほど問題はありません。

 

 

■Voxengo SPANの初期値は4.5dBスロープ

 

閑話休題

 

SPANにピンクノイズを通してみます。

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SPANの初期スロープ値(Slope)は4.5dB/oct.です。

ピンクノイズは3.0dB/oct.で水平になるべきですから、差は1.5dB/oct.です。

 

下のようにSlopeを2.2くらいに補正すると、ピンクノイズが水平になります。

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1.5を引いた3.0で水平にならないのは仕様です。こういう差はスペアナのメーカー、モデルによっていろいろあります。要するに数値はメーカーによってまちまちなので今ひとつアテにならないということです。

こういう差はスペアナのFFT解像度によっても現れるようですが、正確なところは作った人にしか分からないんじゃないでしょうか。

 

■モデルによる3.0スロープの違い

同じノイズジェネレーターで作ったピンクノイズを表示させた例です。f:id:eki_docomokirai:20170329132351p:plain

 

左上、Voxengo SPAN。スロープ3.0。音量拡大表示。やや右上がりです。

右上、Steinberg MultiScope。スロープ無し。完全に右下がりです。(ホワイトノイズで水平になるモデルです。)

左下、Melda MAnalyzer。スロープ3.0。ほぼ水平です。

右下、Melda MAnalyzer。スロープ3.0。高解像モード。右上がりです。(高解像モードで表示が乱れる、ということ)

 

このように、メーカーやモデルによって表示はかなり異なります。

複数のスペアナを使う人は、設定を揃えておくのが良いでしょう。

1つしか使わない人は、3.0dB/oct.のピンクノイズを流し込んでみて、水平に出るかチェックしましょう。もし水平に出ないタイプの場合、そういうモデルなのだとしっかり覚えておきましょう。また、スペアナ画像を伴うミックス記事を読む場合に気をつけましょう。

スペアナの設定はSPANの初期設定のように「音楽的に味付け」されたものより、ピンクノイズを正しく水平に表示できるほうが良いと思います。なぜならプラグインの検査を行う時に正しくチェックできるからです。(プラグインのチェックについては、後日別の記事で書きます。たぶん。)

 

■スロープを調整できない場合は要注意!

で、大問題になるのが、上のSteinberg MultiScopeのように「スロープが不明、スロープを変更できないスペアナ」の場合です!さすがにそういうのは使えないレベルだと言わざるを得ません。

 

というのも、近年はEQにスペアナの透かしが入っているものが増えてきましたが、何を基準にしているのかが不明なものがあるからです。

ためしに手持ちの透かしスペアナ付きのEQにピンクノイズを通してみてください。

その際、調整済みのスペアナも同時に表示して、EQについている透かしスペアナと比較してみてください。

 

そのEQの透かしスペアナがどういう表示をしているのか、ちゃんと確かめておきましょう。もし透かしスペアナの表示基準が不明なら参考程度にとどめた使い方をするようにしましょう

 

 

もうここまで読んだら「スペアナが全部同じではない」ということは分かってもらえますよね?

 

 

■参考楽曲でチェックしてみる

SPANのスロープ4.5になっている理由は「実際に楽曲を調整する際、4.5dB.oct.で水平になるから」とのことですが、それって本当かよと思いますよ!

 

ためしに今時のリファレンス曲で試してみます。

 

下の画像は2曲を2種類のスロープで表示したものです。

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あるドンシャリのメタル系のインスト曲(ミックスが非常に良いとのことで、エンジニアの知人から教えてもらった曲です)と、あるEDMのヒット曲のドロップ(サビ)部です。

短い数秒の区間をリピート再生しながら作ったスクショなので、微妙に違いは出てしまっていますが、SPANのデフォルト4.5スロープだとおおむね右上がりになってしまいます。

この結果がどういうことかというと、昔の曲に比べて今時の曲はハイ上がりになってきているということです。

 

面倒なので画像貼りませんが、同様の楽曲検査を膨大な数で行ってきています。手持ちの曲のファイルをDAWにつっこんで、片っ端からスペアナで見てみると良いと思います。

これは自分でやってみたほうが良いです!

なぜならあなたの作る曲はあなたの出会ってきた曲の遺伝子を受け継いでいるからです。私の趣味に合わせてはいけません!

 

 

こうした検査を根拠に、私はSPANではスロープ2.2でフラットになるくらいが今時の音になるんじゃないかなぁ、と考えています。

 

4.5dB/oct.で作っていると「スペアナではハイが出過ぎているから、EQでハイを下げよう」というミックスになります。

結果はハイが下がった暗いサウンドです。良く言えば落ち着いたサウンドです。それは今風のサウンドではありません。

 

「最近のサウンドはハイが出過ぎで耳が痛い」と言う人がいますが、実際にハイがそのくらい出ているサウンドが今の時代に支持されているのですから、「最近の若者は!」と言っているのと同じくらい滑稽なことです。で、Voxengoの人たちが4.5dB/oct.のスロープにしたのも、彼らが昔の曲に毒されたおっさん耳だからなのでしょう。

 

というわけで、SPANを使っている人はスロープを3.0かそれ以下に下げましょう。

 

■リファレンス選びこそが大事だね、というお話なんです!

たびたび出てきた「リファレンス」という言葉。

作編曲やミックス、音楽制作におけるリファレンスの意味は「参考曲」という意味です。

 

最終的にやるべきはスロープがどうの、フラットなミックスがどうの、ディップがどうの、という話ではありません。

リファレンス曲を用意し、その曲がスペアナでどう表示されるかに合わせてミックスするべきじゃないの?ということです。

 

スペアナを使う以上に適切なリファレンスを用意することの方がはるかに大事だと思います。

 

■じゃあスペアナを使う理由って何よ?

「え?リファレンス比較さえやれば良いってことは、スペアナの存在理由って何?」と思うかもしれません。

リファレンスを使った上でスペアナを使う理由はリファレンス無しで作れるようになるためです。

リファレンスを聞かずにスペアナを見ながら作り、リファレンスで答え合わせをします。それを繰り返していくと「スペアナ表示でこのくらいなら、今時のサウンドから離れすぎないよね」というサジ加減ができてきます。

 

また、リファレンス比較も完璧ではありません。なぜならリファレンス曲とあなたが作っている曲は違う曲だから、スペアナ上で完全に一致することが無いからです。

リファレンス曲がスペアナ上でどのように動くのかを見て覚えておくことで、自分の曲でもおおむね似たような動きをしていればまぁOKじゃねーの?ということです。

じゃあどういうことか?と言うと、スペアナの静止画像でストックしてもそれほど意味がないということです。もちろんリファレンスのサビの10秒とか、30秒とかの平均値で画像チェックすることは可能ですが、平均値はどこまで精査しても平均値です。どういう躍動感なのかを動きで知っておく必要があります。(逆に言えば、動画やGIFアニメ画像でストックしておくという方法は有効だと言えます。)

 

やったことが無い人はためしにリファレンス比較をやってみれば分かります。リファレンスと自作曲とは、思ったほどスペアナ上での比較ができず「まぁこのくらいだよね」という選択をするしか無いということを体験できるはずです。

 

■マッチングEQについて

リファレンスの話を書いたので、今流行りの「マッチングEQ」についても所感を書いておきます。

てきとーに使っても役に立ちません。以上。

 

マッチングEQの運用では「リファレンスのどの部分を抽出するのか?」というセンスが問われます

上で述べた通り、リファレンスとあなたの曲は違う曲ですから、どの部分を抽出し、どの部分に適合させるのか?という選択を迫られます。で、どこか一箇所を抽出してマッチさせると、他の部分で乱れるわけです。

 

また、根本的な問題として、リファレンス曲はマスタリング済みです。あなたの2mix前の段階にかけても意味がありませんし、異なる仕上がりの2mixに同じEQをかけても、マスタリング結果が似ることはありません。

将来的にはリファレンスの複数の箇所にセットして、自作曲の対応した箇所に自動でマッチさせるようになるのでしょうが、現時点では使い物にならない、もしくは達人しか使えないように思います。

 

■「スペアナ使うな!」は強者の理屈

絶対音感」のような「絶対ミックス感」を持っている人であれば、曲を聞いて周波数バランスを聞き分けることができるのでしょうが、私のような作家寄りの音楽家の場合は往々にして「絶対ミックス感」を持っていないので、その場その場の気分でミックスをしてしまいがちです。自分の欠点を自覚しているからこそ、自分の感覚をアテにせず、リファレンス曲を用意し、そのサウンドを目指していくというミックス手法を最重要視しています。

 

この「リファレンス曲に近づけるミックス方法」は私のレッスンでも教えています。私が完璧なミックス能力を持っていないからこそ、レッスンを受ける人でも導入できる可能なスタイルを教えているわけです。

だって、うますぎる人って「耳で判断しろ」「耳を鍛えろ」しか言わないでしょ?クラシック作編曲のガチ勢だと「楽譜読め」しか言わないし。

それはイチローがバンバンヒット打って「ね?簡単でしょ?」と言っているのと同じです。そういう「強者の理屈」は一般人の学習者にとって役に立ちません。膝より低い球クソボールに手を出したり、インハイを流し打ちするイチローは野球少年の参考にならないんです。

ついでに言うとアレもありますね、「ビンテージアナログ機器を通せ」というミックス記事。それもう売ってないじゃんってなるだけの記事。ああいう記事ってコレクターとワナビ向けでしかなくて、現実問題として自宅で深夜にヘッドホンでミックスをしなきゃいけない私達にとってまったく無意味だと思うんです。

 

なお、格闘漫画「グラップラー刃牙」に登場する人物は「鍛えるなんて弱い奴のやることだから、俺は体を鍛えたり、技を覚えるなんてことはしない」というようなことを言っています。これが強者の理屈です。カッコイイんですけど、真似できる生き方ではありませんね。

 

 

完璧なミックスをするためには「絶対ミックス感」や、完璧な環境は最低条件なのでしょう。しかし、ほとんどの人はそういう能力や環境を持っていません。「プロはこうする」「プロならこのくらい持っててあたりまえ」という、どこかの雑誌やネット掲示板で拾ってきた雲の上のベストな知識ではなく、今の自分にできるベターな実行力こそ必要なのではないでしょうか。

 

理想ばかり語る人に言わせれば「スペアナなんか使っているようじゃダメ。耳で判断できないと良いミックスにならない。」と言うのでしょうが、それは理想でしかありません。「理想を語る」という点においてはとても正しいです。「不老不死が理想」「全ての異性にモテるのが理想」「空を飛べるのが理想」という意味においての理想語りです。無理ですね、そんなの。

 

 

■全てはマルチバンド処理、マスタリングのため

SPANのように音楽的な味付け表示になっていると、マルチバンドコンプ(リミッタ)に突っ込む際、斜めに当たってしまうからです。

下はピンクノイズ(水平)とホワイトノイズ(右上がり)をL3-16に突っ込んだ時の反応です。

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瞬間的な絵なのでブレが起きていますが、おおむねノイズの角度どおりにマルチバンドのリミッタが反応しています。

ピンクノイズの水平さは、マルチバンドリミッターを通過する時にも全帯域が反応しています。ホワイトノイズの場合は右上がりのハイだけが潰されています。

 

もちろんマルチバンドリミッターによるマスタリングは帯域を完全にフラットにするのが目的ではありません。リミッタにあたって潰れる部分と、素直な音のまま残す部分のバランスによって良い仕上がりになります。

で、その時にハイだけが潰れると、ハイだけが潰れたキンキンした耳の痛い音になるわけです。当たり前ですね。

 

いわゆる「まともな2mix」つまり「フラットな2mix」になっていれば、あとは普通に突っ込むだけで適度にマルチバンドに潰されて、それなりの仕上がりになるんです。

2mixの時点でバランスがおかしい音を、マスタリングでどうにかしようとしているから、「マルチバンドリミッターの使い方が分からない」「L3を買ったんだけど使い方が分からない」という悩みが出て来るんです。

そのために必要なのは普通の帯域バランスの2mixに仕上げること。つまり、スペアナを水平に調整しておいて、目視でフラットな2mixを作れる環境を作っておくことなんです。

・「マルチバンドぶっこみとか笑わすな」という声に対して

えぇ、わかります。とても良くわかります。

L3-16などのマルチバンドリミッターにぶっこんで「はい、マスタリングでござい!」というのがおかしいと言いたい人がいるのは良くわかります。その通りです。

でも、実際問題としてそういう処理を「自称マスタリング屋」の他人にされてしまうんです。

よほどのハイエンドの話でも無い限り、そんなもんなんです。

預かった曲をろくに聞きもしないで、音量レベルだけ見てマルチバンドのプラグインに丸投げして「はい、マスタリングできました」というのが実際に多いんです。プラグインじゃなくて実機でも突っ込んで汚してレベル処理しかやってくれない、ってのは同じ。

曲を理解した上で丁寧に処理するなんてことはやってくれないんです。それもまた「理想」でしかないんです。

だったら、そういう簡易的なマスタリングをされても破綻しないように作っておくべきなんです。仕上がりに文句を言っても後の祭りなので、ベストよりベターを目指すべきなんです。

もしこの意見が当てはまらない、妥協をしない理想的な音楽をやれている人がいるなら、それは幸せなことだと思います。でもそうじゃない人のほうが多いんです。

■まとめ

さて、チェックノイズの話→スペアナの調整→リファレンス曲の話→マルチバンド処理→マスタリングの話まで一気に書きました。

どれか1つの話にしようかな、と思っていたのですが、関連性が強いので1つの記事にまとめました。

 

プロアマ問わず、よく相談を受けるのが「マルチバンドリミッターの使い方が分からない」「L3を買ったんだけど使い方が分からない」というお悩み相談。ここまでちゃんと読んだ人ならもう分かると思います。マルチバンドリミッターの使い方が難しいのは、リミッターに入ってくる音が「ハイ上がり」などのように、おかしな偏りのある2mixだったからです。

そうなる原因は「耳が疲れたら目で音をチェックしよう」と思ってつかうスペアナ、その設定状態だということです。どんなに良いスピーカーやヘッドホンを使っていたとしても、必ず耳が疲れておかしな音に加工してしまうものです。それを避けるためにスペアナで目視してバランスチェックをすることと、リファレンス曲を用意することなんです。

リファレンス曲だけあれば良いように思われるかもしれませんが、耳が疲れている状況だと結局同じことになります。疲れた耳だとハイが聞こえにくくなるとか、そういう話ではなく、疲れてくると耳からの情報そのものが正しく認識できなくなるので、リファレンス曲+スペアナ目視という二重のチェックで確度をあげていくしかありません。もちろん全ての作業の間にしっかりした休憩を取ってリフレッシュできればそれがベストなのですが、そもいかないことのほうが多いです。

 

スペアナの設定というオタクくさい内容であることは自覚しています。普通はスペアナはポンと挿して、画面の隅においておくだけ、という人の方が圧倒的に多いと思います。そこで一手間かけておけば、2mixもマスタリングもスムーズに進むはずなんだけどなぁ、ということでこんな記事を書いたわけです。

 

そのうち気が向いたら、この記事でまとめて一気に書いた内容のそれぞれについて、個別に記事を書くかもしれません。

 

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■関連記事

 スペアナ系、リファレンス系の記事を貼っておきます。

重ねて申し上げますが、大事なのはスペアナそのものではなく、リファレンスです。

eki-docomokirai.hatenablog.com

 

 

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いずれの記事も、そのうち追記・編集・分割します。たぶん。 

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