eki_docomokiraiの音楽制作ブログ

作編曲家のえきです。DTM/音楽制作で役立つTIPSを書いています。

DTMをやっていると突き当たるちょっと難しい単語の話(3)上下定位、前後定位

DTM、コンピューター音楽、デジタル音楽に関する記事です。

今回は「上下と前後の定位」の話です。
私はこの領域については「本当に真剣に興味があるならやってみれば良いんじゃないかな?」「もう無意味だという結論になりつつあるけど。」という程度のものとしてしか扱っていません。

(更新日付2018年3月1日)

 

 

■「DTMをやっていると突き当たるちょっと難しい単語の話」シリーズの過去記事

eki-docomokirai.hatenablog.comeki-docomokirai.hatenablog.com

 

■上下と前後の定位は半分オカルト

「前後定位と上下定位は半分オカルト」です。

なぜ半分なのかというと、それを的確に認知できる人と、製作者の意図通りに認知できない人がいるからです。

なぜ上下と前後の定位が的確に作用しないのかというと、人間の頭周辺の形状に個人差があるからです。

この結論については多くの研究報告が出ており、意図した効果を発揮できていないよね、ということが定説になっています。って言っちゃって問題無いよねもう。

 

個人差があるのは

  • 両方の耳の距離
  • 耳たぶの形状
  • 耳の穴の深さ
  • 上半身の体格
  • (細かい要素だと髪型)

という要素です。

 

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■バイノーラルの限界

まず、バイノーラル録音とその構造的欠陥について。

eki-docomokirai.hatenablog.com

上の記事の中で書いた「位相ズレによるステレオ感の演出」でダミーヘッドの話を踏まえた上で話を進めます。

ダミーヘッドの形状に近い頭と上半身の形状をしていれば、ほぼ狙い通りのサウンドを体験できます。

 

しかし、ダミーヘッドの形状と大きく異なる人はその効果を快適なものとして受け止めることができません。

そうした経緯から、ダミーヘッドや胸像付きマイクで録音したとしても、録音環境と聴く人の体型差によって、バイノーラルは正確さを失い、違和感の方が強くなります

なんとなくステレオ感が強いとか、そういう印象だけは誰でも共通して知覚されますが、それが的確な空間定位として認識されるか?となると、かなり怪しいというのが実情です。

 

・なんちゃってバイノーラル

バイノーラルという言葉が独り歩きし、単一指向性のステレオ録音ですらバイノーラルだと言う人までいます。これもうわかんねーな。ハイレゾとかハイファイとかのバズワードと同じになりつつある、と言っても過言じゃない。 

わりとしっかりしたマイクメーカーが出しているバイノーラルマイクですら力の入れどころがどんどんズレてきていて、ダミーヘッドを放棄しつつあります。

で、近年はVR製品向けのバイノーラル的な試みが多く見られるようになってきましたが、どれも悲惨な状態です。違和感しか無い音をありがたがる風習があり、「完璧なバイノーラルだ!」という評価の声まであり、こりゃもうダメだという感じです。ハイレゾという言葉を流行らせて強引に不要なゴミクズを売る商法は、数十年後には笑いものにされているのは間違いないでしょう。

先日はネット越しの音を聞いている状況なのに「俺、ハイレゾヘッドホンだから」と自慢している人さえいました。ハイレゾヘッドホンを使うとソースが劣化していてもハイレゾになるとか半端ないな。

 

・ダミーヘッドに対する誤解

誤解が多い点なので書いておきますが、ダミーヘッドやステレオ録音というのは、

  • ステレオマイクの位置
  • 距離
  • マイク付近の障害物の「形状、質量、質感」

によって得られるサウンドです。

これらを通過することによって録音されたものが「臨場感」として感知されるか「違和感」として拒絶されるかは大きな個人差があります。

 

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■前後・上下定位の原理と誤解

同様に、あなたが設計した前後・上下の定位が、聞き手にとって拒絶される恐れがあるということを忘れてはいけません。

 

前後・上下定位の原理は「頭蓋骨や耳たぶ、上半身のの形状や質感」によって生じるフィルター効果の再現です。(あと細かく言えば耳の中での反射によって生じる特性も。)

例えば、後ろから聞こえる音は耳たぶを回り込んで来るので、ある種のパスフィルター効果によってこもった音になります。

同様に上や下の音もそれぞれ異なる性質のフィルターを経たような音になります。

 

スピーカーを鳴らしながら首をぐねぐね動かしてみることで上下の定位を明確に感じることができるはずです。

なので上下定位は実在します。しかし、それをミックスに込めて、全ての人に同じように空間定位を感じさせることは原理的に無理があります。 とにかく個人差なんです。

 

以上のことから、人間の耳は左右にしか無いのに、上下定位は確かに存在します

その理由は耳の周辺にある耳たぶを筆頭とする、頭や胸などの形状によるフィルタリングです。つまり巨乳の人は下から来る音が強くフィルターされるので、貧乳の人より明確に「これは下からの音」と認識できているはずです。巨乳はオーディオに適していない証拠ですので、貧乳派の人はこの点を覚えておいてください。

 

とは言え、耳や頭や乳の形状は個人差が大きいので、どんなに再現しようとしても万人が賛同するサウンドにはなりません。絶対に。

もしできるとしたら、耳仕込み式のバイノーラルマイクを装着し、各方向からの音響特性を記録し、それに基づいてカスタマイズされた音を鳴らすしか無いでしょう。逆に言えばこの方法を完璧に実装できれば、夢が広がる。でもコストもとんでもないことになるでしょう。

 

・『攻殻機動隊』の世界でサイボーグはどういう音を感じているのか?

攻殻機動隊』というSF漫画(アニメ)があり、機械の体を取り替える場面があります。とすると、慣れたボディで聞いた音の定位を脳が覚えているので、サイズが極端に異なるボディに乗り換えると、音の聞こえ方も変化してるはずなんです。それはボディサイズが変われば、階段を昇り降りする時の感覚も違うということと同じです。『攻殻機動隊』の世界でボディを乗り換えることが上手な人は、そういう違和感を調節する能力が高い人だということになります。

 

 

■上下に操作可能な音の種類

こんな記事に興味を持つ人なら既に御存知の通り、低音は定位がはっきりしません。逆に高音はその波の直進性が強いので定位が明確に現れます。

 

・回折と床の関係

人間は残念ながら飛ぶことができません。ほぼ全ての音を「床が近い状態」で経験し続けます。その経験の積み重ねから「これは下からの音」と認識している、とされています。

 

低音は「回折」によってはっきりしない定位となり、回折は床で常に起きます。

回折した低音が常に含まれている音響で育ったため、人間は低音を「床の音」だと認識します

「フロアノイズ」という言葉は言い得て妙です。ルームノイズではなくフロアなのです。

 

・上下定位ワークショップはオカルトと同じ手法だった

上下定位ミックスのプレゼンを行っていた人がいたのですが、その場では「ではハイハットを上から聞こえるようにしてみましょう」という操作を行っていました。なんでそのワークショップでは「ベースを上から聞こえるように」しなかったのでしょうか?

もし上下定位が自由自在なものだとアピールするなら、低音を上から降ってくるように聞かせるべきではないでしょうか。

このプレゼン自体がオカルト証明的、都合の良いパフォーマンスの連続であり、その方法論の耐久性を示すものではありませんでした。

お察しください。

 

また、単にステレオを広げただけのミックスと、それをバイパスしたミックスを並べて「VRミックスでございます」というデモを行っている人さえいます。そういう安っぽい詐欺行為によってVRオーディオの未来は閉ざされていくのだと思います。なんでキャリブレーションすら行わずに画一的なサウンドを押し付けるのかねぇ。

 

 

■距離とEQ

遠くから聞こえる野球や祭りの音はこもって聞こえます。

耳の近くでささやくヒソヒソ声は高周波の成分に偏っていて、遠くの人には聞こえません。

近くの音は高周波成分が多く、遠い音はそれが失われるということが分かります。

 

また、近くの音の方が豊かなダイナミクスレンジを持っています。

距離が離れると遠くの小さな音は聞こえなくなり、大きな音だけが飛んできます。

以上のことから、距離定位は明確に存在します。

 

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でも、それを再現できるかどうかは別問題なんです。

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■上下・前後定位がオカルトである理由は個人差

個人の身体形状と、その身体で長年行きてきたことを後天的に脳が学習してきた結果としての2つの耳が立体音響を認知できている。

身体形状に個人差があるのと同じで、その脳が後天的に学習した結果にも個人差がある。

故に、他の人や機器が作った立体音響は正しく認知できないんです。

 

■フクロウの耳の話

フクロウの耳は左右の高さが違います。

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birdbrain (http://people.eku.edu/ritchisong/birdbrain2.html)

また、リンク先でも書かれているとおり、フクロウの頭部の形状と頭部付近羽毛が生えている場所にって異なるフィルター特性があるそうです。

故に人間の左右定位と同様に「到達時間差」から上下の定位をより正確に認識できていることは当然として、方向によるフィルター特性の違いによって、さらに明確な立体定位聴力を持っているとされています。

フクロウは目が大きいですが、それだけではないんですね。

 

・仮説「フクロウ耳人間」

フクロウのように上下に耳の高さが違うことと、脳が後天的に学習するということをかけ合わせてみると、人間の耳たぶの形状を大きく変更し、上下定位が分かりやすい身体にすることでテスト可能です。音感がおかしくなっても責任は取れませんが、有意義な論文を書けるかもしれません。脳科学+オーディオに興味がある人はどーぞ。

漫画(アニメ)『攻殻機動隊』のように身体能力を拡張できる時代になれば、そういう頭部を装着した「フクロウマン」が登場するのかもしれませんね。暗闇での特殊任務に強そうです。

 

■経時変化による立体音響効果

停止している音源よりは移動している音源の方がより明確に定位を把握できる可能性はあります。

もし音楽制作の中で立体的な音響を使ってみたいのであれば、オートメーションで移動する方が良いかもしれません。

ただ、これについても立体音響関連の論文やエンタメ系企業の報告で「意味ねぇんじゃね」ということになりつつあります。

 

通常の音楽の中では一定に鳴らしている音よりも変化の起きた音に耳が引き寄せられるものです。ネコが動いているものに反応するのと同じですね。

上下・前後定位は個人によっては「あ、後ろに動いた」と感じることはあるかもしれませんが、個人差が適合しない人は「あ、何か音が変化した」とか感じません。

 

■相対性

動きと同様、相対性によって「上だ」「下だ」を意識できる可能性はあるかもしれません。でもこれも個人差という大きな壁の前には誤差でしかないでしょう。

 

■個人的な感覚

私自信、立体音響を体験したり、知人が作った音源で立体定位を試みたものを聞いたのですが、どれもパッとしないどころか気持ち悪いものでした。

それらの音は「こもった音」「ハイが少ない音」「ダイナミクスの狭い音」として知覚されるだけで、遠くの音にも上から降ってくる音にも聞こえませんでした。

 

例外的に遠く・高くに聞こえた音楽作品もありましたが、それが音楽的に何か効果を発揮していたようには全く感じませんでした。

 

■オーオタ某人の話

新しいヘッドホンに買い替えたら上下定位が明確になった、だそうです。

聞いた曲の中には立体音響を意識せずに作った曲もあったはずですが、そういう曲では上下定位がおかしく聞こえたりはしなかったんでしょうか。不思議!

その直後から私が作っている曲に対して、やたらと「その音は上から来て欲しい」とか言い出すようになった。これが本物の上から目線。というギャグにしかならないホラー話。

現在は付き合いを断っています。

 

■独創性と先進性?

早い話が「変わったアプローチで作ってみたい。目新しさで客が呼べる。身障者へのフィードバックもある。『予算くれ!』 」というアレじゃないかなぁとしか思えない部分があります。

実際、立体音響系のエンタメはどれもキワモノ色が強く、コンテンツ内容が立体音響ありきで、全体としてつまんねーよという印象が強いです。それだったらクレーンでスピーカー吊るして振り回した方が笑えるんじゃねーの?と思う。

シュトックハウゼンの話題は禁止な。

 

■リスニングポジションの違いで破綻する

スピーカーを大量に使う立体音響系では当然のことながら正確に体験できるポイントは1点しか存在しません。他の位置だと違和感が生じます。

 

■目的が逆になってないですか?

「立体音響設備のある場所で鳴らした時に破綻しないミックス」という消極的な方向性になってるじゃないかなーと心配です。

 

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