eki_docomokiraiの音楽制作ブログ

作編曲家のえきです。DTM/音楽制作で役立つTIPSを書いています。

リミッター仕上げを今すぐやめるべき理由

未だにリミッターぶっこみ仕上げの作家が多いので苦言を呈する意味も含めて、いろいろ書いておきます。関連記事もぜひご一読ください。

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(2021年1月5日)

 

■「俺の音圧戦争は終わっていない」というベトナム症候群患者がまだいる。

映画『ランボー 1』のラストシーン。

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未だに音圧戦争を続けている奴らがいるのだ。彼らは阿呆なのではなく、被害者なのだと思う。「あの時代」に戦い方を身に着けた彼らを笑ってはいけない。恐れてもいけない。普通のマスタリングを丁寧に教えなければならないのだ!である!

■間違った合わせ方、リミッターぶっこみはやめるべき

マスタリングでリミッターに頼り切っている人は、この機会にやり方を改めてください。まじで。

少なくともピアノバラードをリミッターでベタベタにするのをやめろ。まじで。

 

リミッターに頼り切ったマスタリングの仕上げ方とはこういうダメな方法です。

ベトナム戦争でこの手法を叩き込まれ、未だにこれをやっちゃってる人は想像以上に多い。

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確かに手っ取り早く大音量仕上げができますが、音もひどくなるし、ラウドネス的にも非常に不利です。

 

gifアニメで。

-14LUFSの悪例。ダイナミクスレンジを喪失している。

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リミッターだけでラウドネス仕上げをやるとこうなります。

 

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これがいわゆる「ダイナミクスレンジの無い音」です。

 

こうならないために、コンプとリミッターを併用する必要があります。

一昔前は「リミッターぶっこみでとにかく大音量を目指す」スタイルが流行していました。その頃にマスタリングの手法を身につけたままの人、要するにニコ動でボカロが流行していた頃に「マスタリングってこうでしょ?」と覚えた人は今すぐやり方を変えましょう。コンプを丁寧に使う方法を学び直しましょう

 

「コンプの使い方の前に(3)」の記事を参照してください。

eki-docomokirai.hatenablog.com

 

ラウドネスメーターの使い方、初級編

まずはこれだけ覚えよう!という初歩の話をクソ丁寧に書いておきます。

 

・ここで使用するメーター

Meldaのラウドネスメーターを使用しています。無料です。

www.meldaproduction.com

 

使用するメーターは何でも構いません。

 

■メーターの読み方と使い方

(左端はCubaseのデジタルメーター、AES17モードです。)

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・初期設定

左上のツマミ。TARGETを-14にします。

3つ目のツマミ。許容範囲は-2にします。(やらなくても良いです。)

普通の音楽制作で見る部分は「Short Term」だけで良いです。

 

盛り上がっている部分では許容範囲の上側、地味な場面では許容範囲の下側、という状態になっていれば問題ありません。

 

Momentaryの方がやや動きが大きいので、参考になります。

(Integratedは本来使うべき「全体の平均」ですが、音楽には場面によって起伏があるので、作業中に見てもほとんど参考になりません。心配な時や、入念に作る必要がある時には、メーターをリセットしてから1曲全部を再生してIntegrated数値を作ってください。)

 

・調整中の例

やや低い状態。許容範囲の緑色の下端がギリギリ見えている程度です。

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なので2ほどコンプかリミッタで稼ぐ。

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許容範囲の緑色に収まっています。低すぎず、高すぎず良好です。

 

(左のCubaseのメーター、もしくは右の赤いメーターを見てください)

ピークが跳ね上がった瞬間に、かなり高い位置まで達しています。

トゥルーピークが心配なら、保険用のリミッターを確認してください。

 

拡大。

Short Termが-3.2LUとなっているので、コンプなどで3dBほど稼ぐ時の見え方。

数値はだいたいでOKです。普通の音楽制作では厳密に合わせる必要はありません。

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■音楽制作で使いやすいメーターと、使いにくいメーター

「許容範囲」の表示ができるラウドネスメーターが役立ちます。

数値が出るだけのラウドネスメーターなどは使い物になりません。(それらは「1曲通して計測」する用途の道具です。音楽制作中にチェックするための道具ではありません!)

 

Steinbergが配布していた無料のラウドネスメーター。音楽制作用途では非常に使いにくいです。「ラウドネス」という話が盛り上がり初めた頃から、こういう表示スタイルのものが大量に出回りましたが、音楽制作用途では本当に使いにくいです。

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Toneboostersの有料メーター。変動値が非常に見やすいです。アタック感の表示はありません。耳でやりましょう。

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 Toneboostersのメーターについては過去記事があります。今でも常用しています。

eki-docomokirai.hatenablog.com

 

 

最後にもう一度、この記事で使用しているMeldaの無料メーター。

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無料なのに非常に高機能です。しかし、やや過剰です。初期設定をしっかりやらないと意味不明な表示をしてしまうのが難点です。カスタマイズ性の高さが完全に裏目に出ている「いつものメルダ」な感じ。

 

Cubaseのメーター。

 

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慣れれば使えないこともないですが、情報も少なく、調整も効かないので非常に使いにくいです。

もし使うならデジタルAES17が良いと思います(右)。大音量仕上げの時にも同じメーターを見て参照できるからです。

中央の-14メーターは上の余白が無いので使い物になりません。

右の-5メーター(-9表示ラウドネス)は必要とされる-14や-15の数値に目盛りがありません。どうせ無いなら細かく色設定できるデジタルメーターの方がまし、ということです。

 

Cubaseのメーターを過去にさんざんdisってる記事。もあります。見なくて良いですが。

eki-docomokirai.hatenablog.com

もし-23や-24など、特殊な仕上げが必要なテレビやゲーム系のマスタリング仕事が多いならCubase付属のメーターでも良いのでしょうが。

仮にそういう仕事だとしても、結局は提出先で他素材とのすり合わせで音量調節をされるので、音楽作家がそこに揃えることはまず無い、と言えます。

普通に配信サイト用の-14仕上げができれば事足ります。それを先方で小さくしてもらえば良いだけです。

大音量仕上げの場合には-14仕上げのものを潰せば良いだけですし。

■古典テクニック「多重リミッタ(多段リミッタ)」を試そう

コンプの用法で「多重コンプ(多段コンプ)」があります。1回のコンプで大きく加工せず、少しずつ音量を削って行く方法です。

eki-docomokirai.hatenablog.com

突発的な飛び出し(通称ヒゲ) を抑えるコンプと、音楽的な音量を整えるコンプ、という2段構えもあります。

 

リミッタでも同様の運用ができます。

少しずつリミットを削っていく方法はとてもおすすめです。

高級高額な最新リミッタを試すより、使い慣れているリミッタを3回通すことで、DAW付属のリミッタでも非常に丁寧なリミッター音を得ることができます。

大昔からある技術なのですが、近年のリミッタが高性能になりすぎたせいか、忘れられつつある技術になってきているような印象があります。

ためしに、15dB稼ぎたい場合に「一発で15dB削る」「5で3回」「3で5回」「1で15回」を試してみてください。その出音の違いを誰でも体験することができます。

 

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