eki_docomokiraiの音楽制作ブログ

作編曲家のえきです。DTM/音楽制作で役立つTIPSを書いています。

ミックスではトランジェントをどんどん使うべき

トランジェント(Transient)系エフェクタは出始めの頃には酷評されていました。その頃に「邪道だ」「ミックスをぶっこわす」とか言ってた奴ら、まだ生きてる? トランジェントは今ではもう標準的なエフェクタの1つと言っても問題ないのではないでしょうか。

(2020年11月21日更新)

 

■トランジェントって何よ?

アタックを強める専用のプラグインです。

知ってる人は普通に使っています。ベテランでは嫌う人もいるようです。

・持ってるのに眠らせてるケースが非常に多い

DAWに付属しているのに気が付かない人。

バンドル内容をちゃんとチェックしていない人。

「トランジェント?なにそれ?」という話になった時に、手持ちのエフェクトをチェックさせると、「あ、これのことか。一度も使ってなかった」という人が非常に多いです。本当に多いです。

 

■「トランジェント」は古いミックスの教科書には出てこない

意外と知らない人が多いのが「トランジェント」です。

トランジェントを操作できるエフェクタは、コンプよりも簡単に欲しい結果、つまりガツンとしたアタックを容易に得られます。

古い教科書だと、コンプレッサーを巧妙に使うことでアタック部分だけを強調する手法が解説されていますが、今どきなら「そんなもんトランジェントさして3dB上げれば良いだけじゃね?」となります。

真面目に勉強しすぎていて古い教科書の技術に偏重している人は、モダンなミックス手法を取り入れるべきです。トランジェント程度ではモダンと言うほどモダンではないのですが、プロアマ問わず知らない人が本当に多いのが実情です。

先日も明らかに私より圧倒的に大きなキャリアの、いわゆるガチプロの人がプレビューを送ってきたので『スネア弱いっすね』とだけ返答した。

氏が「それは分かってる。でもこのスネアうまくアタック出なくてさー」とボヤいていたので『トランジェントで良いんじゃねーっすか』と言って試させたら、あまりに劇的な効果で爆笑していました。

コンプ等を突き詰めなければできないアタック出しをいとも簡単に実装できてしまうので「邪道だ」と言いたくなる人がいるのも分からないではないです。

 

EDM流行以降のメソッドだと「サンプルにトランジェントさして調節」とか軽々と書かれてる。

 

・用語としてのトランジェント

「瞬間的な」という意味です。転じて音響編集の世界では「瞬間的に」アタックが明確に出る部分、という意味で用いられるのが一般的です。

なので「どのくらいのトランジェントを検出してデータを自動処理するか?」という意味で用いられます。テンポ検出や自動スライスの時に閾値を決めるアレです。柔らかいアタックしか無い曲のテンポ検出が事実上不可能なのはトランジェントが不明瞭だからです。

転じて、エフェクタ領域の話題では「瞬間的なアタックの編集」という意味で用いられます。

 

■トランジェントの質

正直ひどいものもある。あまりにも下品な音になったり、位相がおかしく聞こえるものは今すぐ使うのをやめよう。

あと、昔からフリーで有名なトランジェントエフェクタは今どきのDAWとの相性が悪いし、概ね質が悪い。

逆に言えば今どきのDAW付属の方が良い。 

■名前問題

なぜかCubaseでは「Transient」ではなく「EnvelopeShaper」という名前になっています。付属を毛嫌いしている人は今すぐチェックを。サード品のトランジェントよりも圧倒的に使いやすい上、音も問題無し。私は常用しています。

この名前は変えた方が良いのになぁ。

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新しめのCubaseを使っている人なら初期設定の既定値を任意に変更できるので、EnvelopeShaperを立ち上げてアタックを+1~3dB、リリースを-1~-3する設定にしておくと便利です。

いわんやMultibandは信じがたいレベルで強力です。いわゆる「プロの引き締まったサウンド」は、結局のところアタックと音圧の両立、そしてエキスパンダによるものです。(エキスパンダはデコンプとかいろいろな呼び方があります。一定以下の音量になったらさらに小さくする「逆コンプ」のことです。)

これらの両立のために、ミックス/マスタリングが上手な人はトランジェントを使うのではなく、良い録音と適切なコンプをしているわけです。

が、ド素人でもかんたんにそれに近づくことができます。「そう、トランジェントならね。」というお手軽さで。

良いじゃないですか邪道でも。別に本職で高い金取ってるミキサーなわけじゃないし。80点出ればそれで良いんですよ。他人にミックスさせると、それがどんなに上手い人だとしても、作者の意図はスポイルされるんだから、自分で仕上げて80点で良いんです。

 

逆に言えば、中途半端なエンジニアに任せると、素人がトランジェントで実装できるメリハリすら出せないことさえあります。このブログで度々申し上げていることですが、エンジニアという職業は、あらゆるサウンドを作れる魔術師ではありません。作曲家や演奏家と同じように、エンジニアも得意なジャンルと、仕上がり傾向があります。モダンな加工技術に慣れていないプロのエンジニアは、そういうサウンドを作るスタイルではないので、旧態依然とした音で仕上げるしかないんです。

 

いわゆる今どきのダンス系に沿ったサウンドの場合、古臭いテクニックで凝り固まっているエンジニアに任せるより、トラックメイカー(作家)がトランジェントでバリバリ仕上げた方がそれっぽくなるということです。 

Cubaseユーザーは付属でOK

トランジェント標準装備されている時点でDAWは1万円程度は安いことになります。

私がCubaseをなかなかバージョンアップしなかった大きな理由の1つが、すでに他社製のマルチバンドトランジェントを所有していたからです。もしそれを買ってなかったらすぐにCubaseをバージョンアップしてたはず。

お察しのとおり、その購入したトランジェントは、後発のCubase付属より低品質です。今では全く使っていません。

なお、過去においては(当時としては)高性能なIRリバーブが付属していることだけで「今回のCubaseは付属プラグインだけでもとが取れる」とさえ評価されていたこともあります。昔の2000年台の付属プラグインがひどかったのは事実ですが、2010年以降の付属プラグインはどのDAWでも非常に高品質です。 

■他DAWでの名前は? 

・Logic「Enveloper」

シングルバンドです。

これもエンベロープって名前じゃなくて、トランジェントって名前に刷新するべきだと思います。

某人曰く「使ってみて発狂したwww」とのこと。コンプで頑張ってた人ならそう感じるはず。

project-dtm.blogspot.com

 

FL Studio「Transient Processer」

有料追加購入エフェクト。(FLインストール時は体験版)

www.image-line.com

2バンド任意分割でハイのみトランジェント処理ができます。こういう実務に沿った工夫はさすがFLです。

 

ただし、FL Studioの付属の通常コンプがレシオをネガティブ方向にも向けられるアップワードコンプ(デコンプレッサー)にもできます

実質的にはその付属コンプだけでトランジェントを上げることもできるので、トランジェントの存在価値は低いです。

(念の為追記しておくけど、アップワードはあくまでもアップワードでしかないので、トランジェントを強める方向性が根本的に違う。優劣の問題ではなくて。いずれにしても「アタック強調目的で使える」とご理解願います。)

 

・Studio Oneは付属無し

残念。後述のフリープラグインを試してみてください。

Studio oneはCubaseにトランジェントが付属した後のモダンなDAWだから絶対ついてると思ってたんだけど無いっぽい。(もし付属してたらコメント欄等で連絡ください。記事修正します。)

・サード製(フリー)

今の所フリーで見つかるのはシングルバンド。

グループバスやマスターでは使わず、個別トラックに使うと良いでしょう。

要するにキックとスネアにさす。

 

最近検索し直してみたらこの辺が良さそう。下で紹介するものより新しめ。

Studio oneなど、トランジェントが付属プラグインに入っていないならまずこれを。

audec-music.com

 

Flux、BitterSweet。これもフリーで流行ったね。

今のバージョンがどうなのかは試していませんが、不安定なのですぐに使うのをやめました。個人的にFluxは安定しないので却下。導入は自己責任でどうぞ。

www.flux.audio

 

SPLのトランジェント。機能制限のフリーあり。昔流行ったねこれ。

www.uaudio.jp

・サード製(有料)

有料のものを買うならマルチバンドを買いましょう。

そうじゃないなら上で説明した付属かフリーでも十分。

--

WavesだとTrans-X。

Diamond等のちょっと高いバンドルに収録されています。

同梱のTrans-X Multiはマルチバンド用。

 

これまた珍妙な名前になっているので何のためのエフェクタなのか知らない人も。

トランジェント話になった時に「変な名前だから使ったこと無かった」「トランス(ジャンル)用の何かだと思った」と言う人も複数人いた。Mercury持ってるのに使ってない人もいた。Wavesユーザーにありがちなもったいない系。バンドルが安い時に買った人がほとんどだろうけど、何を買ったのかくらい調べよう。

https://img.wavescdn.com/1lib/images/products/plugins/full/transx-multi.jpg

(https://img.wavescdn.com/1lib/images/products/plugins/full/transx-multi.jpg)

https://www.waves.com/plugins/transx

 

Wavesからは後発品としてSmack Aattackがリリースされています。

Wetバランスやリミッターなどを同時に制御できる他、エッジ形状もコントロールできるようです。確かに古い一般的なトランジェントのアタックは下品になりすぎるので、後発品ならではの優れたアイディアです。(もちろん普通のトランジェント1つだけで加工しなければ同様の音を得ることは可能です。念の為。)

Wavesヘビーユーザーなら「同社製品で一括管理できる」という理由だけでも選ぶ価値あり。(というかWavesの最大の価値はそこだとさえ思ってる。)

https://img.wavescdn.com/1lib/images/products/plugins/full/smack-attack.jpg

https://img.wavescdn.com/1lib/images/products/plugins/full/smack-attack.jpg

https://www.waves.com/plugins/smack-attack-transient-shaper

 

iZotope Newtronもマルチバンドでトランジェントをいじれます。

が、アタックをいじるためだけにトラック個別で使うには重すぎます。

www.izotope.com

 

NI。同社品を多く使っているならコレかと。

www.native-instruments.com

 

 

おまたせ。このブログでは毎度おなじみのMelda製もあります。

最大6バンドまで追加可能の他、いろいろ変なことができる。けど、相変わらず余計なパラメタが多すぎて混乱します。おすすめ度は低いです。

www.meldaproduction.com

Melda初購入の場合、クーポンコード「MELDA2264563」で割引上乗せできます。

・その他サード紹介記事(外部)

下のリストには非常に古いものから異様に高性能なものまであります。個性的なものが欲しい人向け。

theproaudiofiles.com

■トランジェントの注意点

コンプと同じで「入力レベル」に反応するだけなので、できないことはできません。リズムトラックで周波数が「明確に」分かれていることはまず無いので、どんなに高級高性能なトランジェントでも一発で問題解決できることはまずありません。

「ドラムバスでスネアだけ大きくしたい」などは原理的に不可能です。それができるかのように喧伝されているエフェクタがありますが、どうやったって原理的に不可能です。雑に手早くやるなら可能ではありますが。

魔法のプラグインではないので、ちゃんとトラック個別まで戻って、

  • キックのみアタック追加、リリース削減
    (複数のキックを重ねる場合、特定レイヤーのみ加工)
  • スネアのアタック追加

という使い方をしたほうが欲しい結果を得られます。急がば回れ

 

モデルによってはキックとスネア以外では使い物にならないこともあるので、万能だと思わないことが大事。トランジェントでできることはトランジェントでやるけど、基本に立ち返ってコンプを丁寧に設定することはお忘れなく

・終わり処理は純粋なゲートのほうがましかも?

 トランジェントはあくまでもアタックの加工用。

リリース加工機能がついているものが多いけれど、リリースの処理をしたいなら普通にゲート(エキスパンダ、デコンプ)を使った方が狙い通りにまとまりやすいです。

なお、アタック→ボディ→テール(リリース)の3分割で考えた際のボディ部分の音量処理は、Meldaコンプでシェイプを書くのがおすすめ。Meldaコンプでもゲート処理はできるけど、結局普通のゲートでやったほうがスマートなことが多い。Meldaコンプの変な使い方について語ると長いので、また別の機会に。

■トランジェントの応用

せっかくなので応用的な使い方も紹介。

トランジェントはアタックの明確なドラムやギター等に対して使うのが一般的ですが、あらゆる「アタックが邪魔な場面」でも使えます。

俗に「エンベロープ・ディレイ(Envelope Delay)」とも呼ばれる手法です。

 

私がよく使うのが「ディレイ音のトランジェント下げ」。

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シンプルなディレイだと、元の波形以上にアタックが強調されてしまうことがあります。それをトランジェント下げでソフトにすることができるよ、という方法です。

近年、こういう機能をディレイエフェクタに内蔵したものも出てきています。古くからアナログテープディレイで反応の遅さを逆利用した手法もあります。

 

似たような手法として、ディエッサーを使うこともあります。

こういう下品なディレイ感をなくすためにダッキングディレイ系が存在するわけです。ドヤ顔でディレイの使い方を解説している動画は山程あるけど、概ね下品なディレイになっているので首を傾げたくなります。

 

(ディレイについても書こうかなぁ。古典的な教科書の用法や、無料DTM記事を鵜呑みにして珍妙なディレイ音を放置してる人が散見されるので。 )

・トランジェントのオートメーション

たまに引っかかりの起きるトラックで、トランジェントを削りたい時だけパラメタを上げればOK。これもわりと便利。音量オートメーションを書くよりスマートに実装できることがあります。

・フォーリー制作におけるトランジェント

面白いビデオがあったので紹介。

11分20秒過ぎから、乗り物のパッシング音にトランジェントを導入し、インパクトを出す方法が解説されています。

youtu.be

ドンピシャの効果音が見つからない場合などに有効ですね。

通常の音楽作品の中でも、効果音にエッジが欲しい時に役立つでしょう。

 

■トランジェントの欠点

デジタル系エフェクトとして処理するトランジェントでは、アタックが必要以上に硬くなることがあるのが難点

立ち上がりを「大きく」することと、「硬く」するのは別です。適度に大きく且つ耳あたりの良いアタック感を両立するために、様々な後加工をするべきです。もしくは崩れない程度に運用するべきです。

ところであらゆるエフェクタに対して思うのですが、明らかに不要な2桁設定などを封じるモードがあれば良いのになぁと。ミックスが下手な人は例外なくエフェクタを強くかけすぎているので。

■本来トランジェントで行うべきではないグルーヴ処理

先日のレッスンではトランジェントと、演奏のデュレーション(音符の長さ)によるグルーヴ処理について解説しました。

機械的に処理するトランジェントでは、「アタックを追加する」「小さい音を無くすリリースのゲート処理」は可能ですが、そもそもベースの長さを変えるなどの処理は不可能です。

理想は演奏と音色作りの段階で適切なグルーヴを作り出すことです。

トランジェントはあくまでも「後から手早く加工する」ための補助ツールでしかありません。

言い換えれば、「トランジェントじゃないと作れないサウンド」は存在しないということです。

なんでもエフェクトで一発でできるという考えは間違いです。これは冒頭で述べた「トランジェントを嫌がるアタマの古いコンプ原理主義者」だけの主張ではありません。本当に演奏が作り込まれていれば、後からトランジェントで、という考えにはならないはずです。このことだけは絶対に忘れてはいけません。

 

個別ミックスに戻っている時間が無い、そもそもドラムマイク数が足りない録音だった、マスタリング段階において2mixからどうにかするしかない。

そういう時には「無理です」なんて言わず、トランジェントをどんどん活用しましょう。

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