eki_docomokiraiの音楽制作ブログ

作編曲家のえきです。DTM/音楽制作で役立つTIPSを書いています。

ネガティブコンプの話

ネガティブコンプの話。

さっきちょっと話題に上がったので、軽く書いておきます。

随時加筆します。

(2021年5月26日~)

 

■ネガティブコンプって何?

厳密な呼び方ではないかもしれません。

「ネガティブコンプ」という呼び方は、単にエクスパンダのことを指すこともあり、状況によって意味があいまいです。「デコンプ」(de-compression)と呼ばれることもあります。

この記事で特に扱うのは「アタックを小さくして、テールを大きくする」用法におけるネガティブコンプです。

・エクスパンダ

使う人はたまに使う、逆コンプことエクスパンダ。

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質感を変えたい時、他の楽器との親和性を高めたい時に使うことがあります。同様の目的でゲートを使うこともあります。

・ゲート

エクスパンダと同様に、ゲートも結構重要なエフェクトだと思っています。

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特に近年のドラム音源などはテールが長すぎてルーズなサウンドになっているアマチュア曲をよく耳にします。彼らに必要なのはコンプではなくエクスパンダとゲートです。これは実際にレッスンでも必要に応じてに講義しています。

 

(脱線。関連話なので書いておく。)

エフェクタで工夫する他、生演奏の楽器自体に加工をする方針もあります。おそらく最も有名なのはドラムのキックの中にウレタンの塊や布団をつっこむ方法でしょう。同様の音止めとしてスネア用にはさまざまなミュート器具がありますし、タムにティッシュを貼り付けるなどのドラムチューンもあります。

先日は知人ギタリスト氏がレコーディングで弦の末端やボディ裏のバネ止めにテープを貼っていることをSNSで紹介していました。いかに鳴らすはではなく、いかに必要ない音を削るか?ということを突き詰めるとそういう地味な工夫に行き着くことがあります。必要なのは高性能のマイクでも何でもなく、楽器の無駄な鳴りを殺すことだったりもします。同様のギター録音技術として、6弦を外すなどの工夫もあります。興味がある人はそれぞれの楽器に詳しい人に接するようにすると良いと思います。

 

・オートメーションと波形加工は万能ではない

オートメによる音量書き、波形を直接加工することによるアタック低減などは昔からの定番です。ただし、オートメーションは万能ではなく、バッファタイムによっては書いた通りのエンベロープを得られないことがあります(特にCubaseとかCubase)。これを信じられない人は試しに極端な音量変化を書いてオーディオ書き出しをしてみてください。

波形加工も同様で、DAWGUI上で見えている通りに加工されるとは限りません。

特に有名なのは音量ゼロから瞬時に持ち上げる処理などでの結果不良です。

「音量変化が起きていればそれで良いや」というスタンスなら問題はありませんし、そのくらいゆるく考えた方が音楽的に取り組めることさえあります。さらに言えば、音量ゼロから瞬時に持ち上げることが成功したとしても、それはゼロクロスポイント的に不具合が起きるかもしれません。プチって鳴ってしまうこともありますよ、ということです。

・いつ何に使うのか?

ピアノ等のアタックが硬すぎる時の調整などに使うことがあります。

ドラム全体のグルーヴ管理のために使うこともあります。

アナログ汚しの一環として、飽和感(※)の演出のために使うこともあります。

 

(※アナログの飽和感という言葉も多岐にわたるので気をつけましょう。いわゆるサチュレート効果のことだけではなく、様々なアナログ感の付与、非線形処理に対して広義に「飽和感」と呼ぶことがあります。私が接してきた界隈だけかもしれませんが。エンジニア師匠はこのネガティブコンプによるグルーヴ感にやたらとハマっていて力説していた時期がある。同要にこれを「フラッター」と呼ぶこともあるけど、アナログのフラッターと言えばワウフラッターのことだと即断されてしまうので注意を要します。)

 

GUIで可視化されていないので認知度が低いようですが、わりといろいろなコンプに備わっている機能です。

たとえばElysiaとか。

www.youtube.com

Elysiaのマニュアル、10ページではこのように解説されています。

www.manualsdir.com

 

プラグインの特性について入念に確認をすることが習慣化している人はこういう特性を知っています。

いわゆるゲインステージングの必要性や、非常識に見える過剰な設定のコンプ設定は、初歩知識としてのコンプのパラメタのためではなく、ネガティブコンプ状態にするため、というケースもあります。

(※私がこのブログで2021年以前に言っている「ゲインステージング」は、旧来のアナログ非線形特性のために行う『狭義のゲインステージング』です。近年は単に音量のことをゲインステージングと呼ぶ風潮が世界的にあります。時代による言葉の定義にご注意ください。以下過去記事まま。)

 

が、ネガティブコンプが必要になる状況は単純なコンプ掛けだけではなく、単に「アタックを削りたい」という目的だったりします。

■サイドチェインでアタックを抑える

アタックを抑えたいなら、何らかの信号をトリガーにしてアタックを押さえ込めば良いです。

MIDI信号をトリガーにしても良いですし、オーディオ信号でも良いです。それらの信号は発音しないようにルーチングしておけば、鳴らしたい音だけを加工できます。

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サイドチェインと言うと「キックの音でベースを抑え込む」とだけ考えている人が稀に良くいますが、そのキックの音の信号先がマスターアウトに届いていなければ、「鳴っていないキックによってベースだけが抑え込まれる」という状態になります。

むしろこの「鳴らない信号でトリガーし、別のなにかを加工する」方法を使った方が発展性があります。

例えば特定のトラックの信号を分岐し、分岐した片側でローパスし、抜き出した低音信号をトリガーにする、などの方法です。こういうルーチングをすると、低音が大きい時だけトリガーできるようになるので、下品なサイドチェインコンプになってしまうことを回避できます。あとは思いつき次第です。

ダッカーを使う

MIDIトリガーが使えるダッキング専用プラグインでアタックを殺します。

たとえばCableguysのShaperBoxなど。

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MIDIに反応してダッキングします。任意のタイミングで一定の音量下げを行う時にはこの手のプラグインが有効です。

 

このプラグインから派生したニッキーロメロのKickstartでも同様のことができます。が、そちらはEDMのダッキングに特化したtuneになっているので扱える長さが狭いです。(ShaperBoxの機能削減版、シンプルにしたものが後発品のKickstartです。)

ShaperBoxの場合は下画像のように極めて長く、最大32小節の長さまで扱えます。実際に使うことはまず無いですが、特定トラックのアタック削減をしたい場合には使うかも。

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ダッカー、Shaperboxについてはこちらの記事もどうぞ。

eki-docomokirai.hatenablog.com

■Melda最強伝説

まーたMeldaの話してる。

おそらく最も精密にネガティブコンプを制御できるのがMeldaのフリーコンプです。しかもルーチング不要です。

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無料コンプで可能です。Custom Shapeでピーク音量付近に山を書いておけば、狙い通りのネガティブコンプができます。

こういう変態的なことができるからMeldaのコンプはたまらん。唯一無二です。

 

もちろん動作原理がコンプなのでRMS以下のアタックが一瞬はみ出すことになりますが、アタックが沈んで膨らんでくるサウンドが欲しいだけなら「これで良いじゃん」となることのほうが多いはずです。

 

ただし、言うまでもなくコンプ一発設定なので、多彩な演奏をする曲ではまったくダメです。

■Toneboosters FLXでもできる

こちらもネガティブコンプが使いやすいです。残念ながらなお販売停止になってしまいました。

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マルチバンドでネガティブコンプをかなり自由に使えるという点においてFLXは極めて優れています。

 

eki-docomokirai.hatenablog.com

 

Waves C1でも一応できる

Meldaほどの自由度はありませんが、ratioを強くするとネガティブ特性にすることができます。

インプット音量を事前に調整しておく必要があります。

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あまり活用例を聞いたことはありませんが、いわゆる「プロテク」としてこういうネガティブコンプを積極活用するノウハウがあります。ありました。こういう技術はもう過去形か?

 

Waves C1で極端なレシオにしてGUIを眺めれば、非線形処理についてなんとなく「そういうもの」か、と瞬時に理解できるはずです。

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C1を使っていて「なんじゃこりゃ」と思う人がほとんどのはずです。その非線形処理を積極的に活用する人もいるよ、という程度に覚えておけば良いと思います。

極端な設定ではこういうおかしな曲線になると知っておけば、あらゆるプラグインが極端な使い方をするべきではないということを学ぶきっかけにもなるはずです。

そういうおかしなカーブが音楽的に有効である場面はまず無いので、パラメタをいじれる範囲を制限しブラックボックス化したプラグインの方が実用性があるということも示唆しています。実際C1って使いにくいよね。とてもじゃないけど初心者に勧める道具ではないと思います。

デジタルなのに変なところだけアナログを忠実に再現しているのが初期Wavesの良いところであり、同時に悪いところです。

Meldaがその発展型だとするなら、Meldaは徹底的にデジタルならではの自由度の高さを追求している、と言えるでしょう。

 

■トランジェントで強制的に削る

うまく行かないことのほうが多いです。単発の無表情なドラム個別トラックや、極めてシンプルなピアノコードならいけるかも。

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eki-docomokirai.hatenablog.com

・トランジェント例

Cubase付属のマルチバンドのトランジェントにて。

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ミドル域。アタックを下げ、テールを短く。

これで得たい効果は得られるんじゃないだろーか。

ピアノのアタックを弱めつつ、ややチープな質感に。あとはビニール系などでローファイにしつつノイズ付与で。

トランジェントと言うと「アタック上げ」なイメージがあるかもしれませんが、より重要なのはテールを短くタイトにすることだと思います。

 

■単にシンセのアタックを下げる

いろいろ小技を書いてきましたが、最も強力なのはピアノシンセのアタックを下げることです。

 

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