DTM、ミックスとマスタリングに関する話です。
マスターコンプを多段がけするメリットについて書いておきます。知ってる人は普通にやってる方法ですので、もし知らなかったら情報収集が足りないと思ったほうが良いと思います。
(2022年12月21日更新)
- ■はじめに
- ■多重コンプのメリット
- ■ベースの多重コンプ例
- ■ボーカルの多重コンプ
- ■サイドチェインコンプの多重掛け
- ■コンプモデルの特性を考慮する
- ■パラレルコンプ
- ■総論
- ■関連記事
- ■検索用語置き場
■はじめに
パラメタについては書きません。
コンプのモデルによって挙動が違うので意味が無いからです。
もちろん曲ソースによってもコンプの掛け方は異なるので、数値で書いても全く意味が無いです。
などの理由から、具体的なパラメタについては一切触れません。
■多重コンプのメリット
コンプ(リミッタ)を多段掛けするメリットはコンプ感を変えることができます。
強いコンプ1回ではなく、軽いコンプ2回なので、特性が変わります。
ただし誤解してはいけないのは「より薄く」「より強く」の2通りの用法があるということです。
・模式図
文章で説明するより模式図を使った方が分かりやすいと思うので画像を作ったよ!
こういう帯域バランスの曲だったとします。
一発で大きくコンプを掛けると下のようになります。
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これを小さく2回掛けると下のようになります。
・模式図2
比較のために画像を並べます。
模式図で表すと、このように山頂の傾斜が違う形状になるわけです。
「耳で聞いて判断しろ」というメソッドが横行していますが、上のように模式図として捉えれば一発で理解できる人も多いでしょう。
ただし、誤解してはいけないのは、これらはあくまでも模式図だということです。
使い方によってはより鋭い山頂にすることも可能です。(この辺はコンプの挙動とパラメタの基礎話になるので割愛します。)
・多重加工は高品質エフェクタがあればほぼ不要
もちろん、3回やっても構いませんが、事実上無意味です。
いわゆる「音圧戦争」において、質の悪いリミッターを「薄く」「多重」で使用することで、歪みの少ない追い込みが可能である、というメソッドは広く流通しました。その後は高品質なリミッターにより、多重リミッティングではない一発加工でも「透明な」加工音が出力できるようになりました。
新しい道具に興味がある人はいち早く新しい道具に切り替えました。古い道具を愛用する人は多重加工で音圧戦争に参戦し続けました。
どっちが良い悪いということではなく、サウンド変化の選択肢として多重コンプのことを思い出してほしいなと言うことです。
また、一部の界隈で「コンプを2回掛けるなんてありえない」と主張している人がいますが、そんなことは無いです。特にマスタリング段階では多重コンプは当たり前です。逆に、初期のトリートメント段階での整形を考えれば当然です。
個別トラックでのヒゲ取りと圧縮、グループバスでもグルー用コンプ、マスターでもコンプ。ほら、何段階にもコンプするのは普通の手順でしょ?
・マルチバンド多重がけ
もちろんマルチバンドでも同じ理屈になります。
2mixの時点で帯域バランスが整っていない曲の場合に特に効果的です。
ていうか、個人で仕上げるレベルなら、質の良いマルチバンドコンプに頼っても良いと思います。
ぜひ一度試してみてください。
手持ちのしょぼいプラグインのコンプだけでもいろいろできますよ!
■ベースの多重コンプ例
手持ちのシンプルなコンプで良い感じにならない際、同一のコンプを複数使って良い感じに持っていく手法。
(下の動画は時間指定再生にしてあります。
時間指定無しURLはhttps://www.youtube.com/watch?v=xFNMd1J8Bwc
)
モデルを適切に選択することで、入力音に対して一発で最適化できるのがアナログビンテージを使用するメリットです。
しかし、アイディア次第であなたのクソコンプは万能コンプになるのである!
最終的にどういう状態にしたいのかをちゃんと考えてから、的確にエフェクトを使いましょう。
なお、言うまでもなく多重コンプは「色付け」も多重になります。
色付けが無いと思い込まれているデジタルプラグインのコンプでも、わずかながら歪みが起きます。しっかり確認しながら丁寧にやりましょう。
バイパスチェックも忘れずにどーぞ。いろいろ加工しまくった後に「掛けないほうが良かった」となるのはよくあることです。
・ボーカル用に異なるアタック特性のコンプを重ねる
「全体的なダイナミクスが整うこと」
「瞬発的なアタックが突出すること」
この2つは別問題です。
2つの問題解決を1台でやろうとするから過剰コンプになってしまうよ、という内容。ファストアタックとスローアタックの二段構えで攻略しよう。
まず緩いコンプ(オプト系、LA2A等)で全体的に整える。その際、突発アタックは無視。
次にアタック特化(FET系、1176等)を前段に置く、という手順。どちらか1基に頼りすぎないバランス感覚が大事。
で、まさにその使い方を前提に作られているのがKotelnikov。
eki-docomokirai.hatenablog.com
瞬発的なノイズ、いわゆる「ヒゲ取り」と、音楽的な圧縮を同時に行うことができます。もちろんこれはKorelnikovじゃないとダメということは無く、普通のコンプを2つ使えば良いだけのことです。(それを1画面で同時にできるからKotelnikovは便利だよという程度のこと。)
Kotelnikovは、そういう多重問題が理解できない人にとって、よい入り口になってくれるはずです。
「そもそも論」で言えば、音楽的な圧縮をする前のいわゆるトリートメントの段階でヒゲ取りはしておくべきです。便利な新しい道具の力を借りるのも悪くはありませんが、基礎スキル向上のためには普通のコンプだけでどのように実装するかを身に着けておくほうが良いでしょう。
■ボーカルの多重コンプ
Rather than using one heavy compressor with a 10:1 ratio that’s applying 10+ dB of gain reduction, it’s better to use multiple compressors that each chip away at the vocal applying 2-3dB of gain reduction.
「コンプ一発で10dB稼ぐより、軽い圧縮を複数のコンプでやった方が適切」と書いてあります。
また、録音の時点でコンプを掛けておく、という方法も書かれています。
メインボーカルが非常に強い音で必要なジャンルの場合にはこうした方法が必須です。いわゆるJPOP的な音はボーカルの強い圧縮が必須なのは言うまでもありません。
それをコンプ一発でやろうとするからおかしな設定になり、おかしな音になり、「付属コンプじゃダメだ」「別の高い最新コンプを買わなきゃダメだ」「マイクがダメだ、プリアンプがダメだ」という間違った考えに支配されてしまうんです。
■サイドチェインコンプの多重掛け
SCダッキングさせる時に効きが弱いコンプは多いです。
そういう場合にはSCコンプを多段掛けすれば、より鋭いダッキングが可能になります。
非常にバカバカしい方法ですが効果は抜群です。ためしに付属コンプや手持ちのゆるいコンプを多段掛けでダッキングさせてみてください。
アタック速度は当然2倍になりますし、リリース復元も2倍になります。1つのコンプでダッキング具合を作り込むより「何本のコンプを通すか」という方法でルーチングした方が、よりモダンな音を素早く作れるでしょう。
■コンプモデルの特性を考慮する
SonicScoopではコンプ品種によるチューブ効果などを積極的に引き出すアプローチが紹介されています。
が、これはちょっと方向性が違うので、しっかり読んで考えましょう。
「今触っている1つのエフェクタで解決しようとせず、他の道具を使おう」という当たり前のことを、必要以上に複雑に語っているだけのように見えます。エンジニアがよくやる話法ですね。
■パラレルコンプ
パラレルコンプは「並列」です。
1つの音を分岐させ、片側をコンプし、合流させる処理方法です。
本記事とはちょっとお題が違い過ぎるのでここでは割愛します。
パラレルは「多段」ではなく「並行コンプ」です。
2つのルーチンを使うという点は同じですが、完全に別ものなので、ちゃんと分けて考えておくべきでしょう。
■総論
ほとんどの人が必要とするのは、とにかく求められている音圧を出し、他トラックとの音量バランスをしっかり組み立てることのはずです。
奇抜で派手そうな名前にひきずられないで、とにかくまずは音量をアップさせてください。
アップさせた結果、「これじゃねえ」と思ったら、どの方向に向かうべきかをゆっくり考えてください。
■関連記事
「ゲインリダクションとは何か?」 ということを改めておさらいする記事。
eki-docomokirai.hatenablog.com
リミッターも同様です。一発で強い音にしようとするからおかしなことになるだけです。恐れず多重リミッターもやってみましょう。
eki-docomokirai.hatenablog.com
■検索用語置き場
多重コンプ、多段コンプ
用語の誤解として「マルチコンプ」がありますが、マルチコンプとは正しくは「マルチバンドコンプ」のことです。周波数を分割して高音と低音を異なるコンプすることです。念の為。