eki_docomokiraiの音楽制作ブログ

作編曲家のえきです。DTM/音楽制作で役立つTIPSを書いています。

帯域モニターチェック用フリープラグイン「ISOL8」

ローファイチェック等が大きなボタンで手軽に行えるモニターチェック用のプラグインの紹介。

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(2022年8月25日更新)

 

■なにこれ?

TBProAudioという小規模デベロッパが開発したプラグインです。 

www.tbproaudio.de

モニターする帯域を制限するためのプラグインです。

(2022年8月23日時点でのバージョンは2.5.2ですが、当記事を執筆当初から若干の機能変更がなされています。基本的な機能、使い方は全く変わっていません。)

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高域と低域をミュートしたり、モノラルでチェックする時に使います。

”ISOL8”の読み方は”Isolate”。アイソル+エイトでアイソレート。「分離」の意味です。8という数字はプラグインの機能とは関係ない、英語によくある当て字です。

 

このモニター方法の重要性については過去記事で解説しています。
eki-docomokirai.hatenablog.com

このチェックはものすごく大事。 

流行の「ハイレゾ」であることも大事なのですが、制作工程においては「ローファイチェック」は欠かせません。

良いミックスとは、クソ環境でもそれなりに聞こえることです。クソ環境とは上下の帯域が聞こえない再生環境なので、ローファイチェックは必須です。詳しくは上のリンク先記事でどーぞ。

 

■地味すぎないかって?

いやいや、こういうものこそが本当に使えるプラグインなんです。

どんな高級エフェクトを使っても、その結果がどうなったのかを確認するのは耳です。

ミドルや両エンドだけをチェックするのはとても大事です。

 

今まではマルチバンドコンプのソロ機能やメルダのEQの学習ツマミを使っていたのですが、それらを使う必要が無くなりそうです。

 

個人的には今年一番うれしいプラグインに瞬時にランク入りしました。まじで。

 

■中身はEQとパンナーでしかない、が

とは言え、普通のEQとデュアルパンナーがあれば同じことができます。

どんなDAWでもハイローカットしてモノラル化することはできるので、必要ない道具のように思うかもしれません。

重要なのはそれをワンタッチで瞬時に行えるというスピードです。

 

ミックスの最中にいちいちマスターに行ってローファイやモノ化をして、という操作をするのは間違いです。目的はチェックであって、加工ではありません

ミックスが過度になっていないかチェックするだけですから、瞬時にチェックし、問題ないことを確認したらすぐにミックスに戻る必要があります。

こういう操作はいちいち神経を使わず、画面上のプラグインの場所をちょっと変える程度の手間でできるようにしておくべきなんです。

 

■複数モニターがある人ならまったく不要

もちろんモニターコントローラー(外部機器)を使って、モニタースピーカーを瞬時に変更し、チープなスピーカーや、モノラルのスピーカーでチェックできるなら、それはベストな環境です。

このプラグインは「そういう環境が無くてもフリーのプラグイン1つで同等のチェックができるようになるよ」というものです。

 

■サイズ変更できます

右下部分をドラッグするとサイズ変更できます。

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■左右チャンネルスワップが無いのが惜しい!

「左右チャンネルスワップも付けて!」と要望済みです。

他のプラグインスワップできるものもあります。

Cubase付属だと、MixerDelayというプラグインスワップ設定ができます。

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人間の耳は左右の耳でかなり性能が違うものなので、モニターチェックで重要な「左右の耳を入れ替える」確認は非常に重要です。(特にヘッドホンでは左右反転チェックは不可欠です!)

(2021年10月21日追記。)

2.5.2、左右スワップが追加されていました。やったぜ!

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■ダウンロード

TBProAudioという小規模デベロッパが開発したプラグインです。

www.tb-software.com

このISOL8の他にも基本的なプラグインを有料版でリリースしているようです。わざわざここから買う意義を感じませんが、レベル制御系の、いわゆるライダー系のプラグインなどは興味深いです。

TBと言っても、当ブログ等で私がゴリ押ししているToneBoostersとは関係ありません。 

 

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■ISOL8

ISOL8は指定帯域のみをモニターするためのプラグインです。

恐らくisolate(分離)のISOLだと思いますが、8の意味はわかりません。

 

・ミドルチェック

 上の4つのツマミで帯域を指定し、下のボタンでミュート/ソロを決定します。

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上画像のように中央のミッドフリーケンシーのソロボタンを押し、中域だけをモニターチェックするのが主な使用目的だと思います。

デフォルトだと中央ソロだけだと狭すぎるので、300-8000とか100-10000にするといわゆるローファイチェックに最適な幅になります。

ISOL8のようなプラグインは幅広い意味ではEQのカテゴリですが、これはあくまでもモニター補助用の道具です。普段使うチェックに特化したプリセットを1つだけ作っておくのが良いでしょう。

 

・エンドチェック

ミッドフィルター3種をミュート。

使い方によってはローエンドチェックがやりやすくなるでしょう。

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フィルターは24dB/octと48dB/octの2種類を選択できます。左下で指定できます。

エンドチェックの意味合いで考えると、デフォルトの数値は非常に良くできていると感じます。

 

・クロスオーバーフィルター

帯域の切り替わり場所がどのようにクロスされるかについては丁寧な処理をしているそうです。当社比。

Linkwitz-Riley氏のデザインしたクロスオーバーフィルタだそうです。

詳細は調べていませんが、そこをアピールするということは入念にやっているはずです。

 

クロスオーバーが何のことか分からない人はスペアナで表示しつつボタンを切り替えていけば分かるはずです。説明は割愛します。

 

 

■数値の設定は?

デフォルトでは200/700/2500/8000です。

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これだとミドルチェックをする時には700-2500というあまりにも狭い幅です。

個人的に欲しかったのは下のようなモニター幅です。

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現状ではツマミの位置を交差させることができないので、欲しいモニター設定毎にツマミを回すか、プリセット化しておく必要があります。

任意のボタンに「俺はここが聞きたいの!」という設定を登録できれば、よりよいモニターチェッカーになるのになぁ、と思います。

わがままですね。さーせん。

 

・アッテネーター(減衰抵抗)

右下のATTEN.ボタンはアッテネートスイッチです。

音量を小さくした際のバランスチェックに使います。

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■モノラルチェック

下部の「M」ボタンで強制モノラルでチェックできます。

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ISOL8で確認できるモノラルの音は、ステレオイメージャーでゼロ幅にした状態と同じになります。

差分サイドをミュートした「ミッド」の音ではありません。

 

ただ、この点についてはモノラル化のアルゴリズムが異なるイメージャーもあるので、あなたが使っているイメージャーやDAW付属のデュアルパンと同じかどうかは知りません。

 

サイド系の加工をしすぎていると、モノラル再生の時にそのトラックの音が聞こえにくくなることがあります。やったことが無い人は一度モノラルチェック&モノラルミックスをやってみることをおすすめします。

 

■サイドチェック

新バージョンで機能が追加されました。やったね!

初期バージョンではSを押すとサイドの音が「センターから聞こえる」状態だったのですが、新バージョンではサイドの音をサイドで聞けるようになりました。

(旧バージョンとの比較検証はしていません。記述ミスだったらすみません。少なくとも旧バージョンでは「使いにくかった」ということだけを記憶しています。)

LRMSの上の文字をクリックすると、「サイドで聞くか」「センターで聞くか」を変更できるようになりました。

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・MSの話をちょっとだけ

詳しくはギョーキマエさんのサイトをゆっくり読めば分かります。非常に丁寧な説明です。

M/S処理と留意事項:Studio Gyokimae

http://pspunch.com/pd/article/ms_processing/

非常に丁寧な解説が書かれているサイトなので、暇な時に100回読む価値があります。

MID(SUM)なので、モノラルにすると当然サイド信号は小さくなります。これはステレオ音源の仕様です。そういうものです。左右とセンターのスピーカーがあるわけではなく、そもそも2トラックのステレオデータでは左右の情報差によって擬似的にセンターが生み出されているのだから仕方ありません。

 

最も基本であるはずのセンター音が実は存在しない幻影だということです。信号処理の話では当たり前なのですが、音楽制作の考えからすると非常に不便です。でも仕方ありません。

 

つまり、「S」はサイドの再生のはずなのですが、センターを聞こえないようにした結果、サイドの左右の音が両方ともセンターになって聞こえてしまいます。(※ISOL8の旧バージョンではこの仕様でしたが、1.0.3からはサイドをどのようにモニターするか選択できるようになっています。)

 

■無意味なソロチェック

しかし、サイドのみをモニターチェックする意味があるのか?と言われれば、まず無いです。そういうソロチェックは気休めのチェックでしかありません。

逆に、モノラルチェックは必要性があります。ラジオやテレビ、スマホ内蔵のモノラルスピーカーで再生した状況を想定できるからです。

 

まー「絶対サイド音感」を持っている人ならサイドだけ聞いて何かできるのかもしれませんが、MSのワークフローは「Mに対してSがどうか?」という相対的な加工なので、Sだけを聞きながらSのコンプを調節することにはまったく意味が無いです。Mを聞きながらSを加工するべきです。

 

下リンク記事では、Justin Colletti氏が「ミックスにおいてむやみにソロチェックするのは意味が無い」と警鐘を鳴らしています。海外記事では割りとメジャーなメソッドとして「ソロチェックやめろ」というのがあるようです。

eki-docomokirai.hatenablog.com

氏が他の記事等でも主張するノウハウは非常に現実的ですばらしいと思います。

 

■注意点

マルチバンドのEQ系プラグインによくある通り、通すだけでわずかに位相が狂うため、マスターに挿しっぱなしには注意しましょう。

下のgifアニメ。

プラグインをONにしているとピークが出ています。

バイパスするとピークが-0.1に収まります。

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これはISOL8だけが悪いわけではなく、「通すだけでわずかに変化してしまう」プラグイは割と多いです。

気になる人は信頼できるリミッタを使ってピークを封じ込めた後段に適当なプラグインをさしてテストしてみてください。

いずれにせよ、マスターリミッターの後にはプラグインを入れない方が良いというのは常識です。気をつけましょう。

■リファレンス比較ボタン追加(v2.5.2~)

2022年8月23日時点でのバージョン2.5.2から、リファレンス比較ボタンが追加されました。(が、音量調節に難ありです。今後に期待しましょう。)

名前的には「サイドチェイン」となっていますが、これはSCしたトラックとの比較をワンタッチで行うものです。すばらしい。MatrixABとかMCompareのようなものですね。

Cubaseでの使い方だと、通常の方法でISOL8のSCをオンにし、プロジェクト上に設置したリファレンストラックのセンドをオン。センド音量でリファレンス音量を制御できます。

 

ただし難点がいくつか。ISOL8側でリファレンス音量の変更は行えないことと、リファレンス音量が不当に低いこと、複数リファレンスを使用できないこと。そして、Mon SCをオン/オフするショートカットキー割当が無いことです。

他の機能のショートカットはDAW操作を食ってしまうので邪魔になることが多いですが、リファレンス比較だけはショートカットで素早く切り替えながらミックス加工を行いたいですから、ショートカットキーのカスタマイズができるようになれば完璧なのにね、と思います。

とはいえ、無料プラグインでここまでの機能を備えたことは称賛に値すると言わざるを得ません。ミックスにおいてリファレンスの重要性が広く認知されてきたことをしっかりと踏まえた素晴らしいアップデート方針ですね。

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■公式からリンクされてた件

あざーっす。I appreciate the link DOMO ARIGATO!

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■関連記事

同カテゴリー、モニターチェック系プラグインの話。

eki-docomokirai.hatenablog.com

 

eki-docomokirai.hatenablog.com

 

eki-docomokirai.hatenablog.com

 

 

隣接カテゴリー、参考音源と比較する際や、アルバムマスタリングに使うプラグインの話。 

eki-docomokirai.hatenablog.com

 

下2つの記事はわかりにくい点が多いので個人レッスンでもほぼ必ず指導しています。

 そういう地味プラグインをどう使うのか、って話。

eki-docomokirai.hatenablog.com

eki-docomokirai.hatenablog.com

 

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