強制モノラル化してミックスしやすくするお話。 ちょっとヒマだったので丁寧めに素材を用意しました。
(2021年7月29日)
- ■資料動画にしておいた
- ■そもそも音源が悪い
- ■1,初期状態ステレオ録音された音源(0:00~0:06)
- ■2,強制モノラル化する(0:07~0:11)
- ■3、デフォルト状態を左に50%パン(0:12~0:18)
- ■4、強制モノラル化したものをパン(0:19~0:25)
- ■パン定位の聞き取り時はヘッドホンが有効
- ■おまけ、極めてダメな例
- ■最後に
- ■関連記事
■資料動画にしておいた
なお現在のYoutubeでは「Ctrl+左右カーソル」でチャプター移動できます。ちょっと前までチャプター移動のショートカットは無かったのでありがたいことです。
また、リピート再生もできるので流しっぱなしで記事をお読みください。最後まで読むまでずっと聞いていれば、それだけでも強制モノ化のメリットがわかるはずです。
■そもそも音源が悪い
使用した音源はVienna Symphonic LibraryのGlockenspiel。
特定音程のローカットが悪いのか、100Hz以下に明らかな雑音が入っています。最低音のF(基音698Hz)より明らかに低い111Hzなどに妙な音が混入しています。が、今回のテスト趣旨とは異なるのでローカット処理はしていません。
この手の鍵盤楽器のミックスについては、打鍵位置でステレオ化するわけでもないし、まったく必要ないと思っています。ピアノでさえオケに入るならモノラルの方がミックスしやすいです。ピアノのミックスについては後述する過去記事でも書いてあるので、頻繁にピアノ曲を扱う人はぜひどうぞ。
・全てリバーブ付加済み、強マキシマイズ済み
同一設定のリバーブ音を付加してあります。
「元の状態がどうか?」ではなく「リバーブするとこう聞こえてしまう」という趣旨なので。
また、資料目的なので強くマキシマイズしてあります。(実際にこんな音でミックスするわけではありません。)
■1,初期状態ステレオ録音された音源(0:00~0:06)
一体どういう録音方法だったのでしょうか。鍵盤の音高と等しく動いていくわけでもなく、鍵盤によってまちまちな散らばりになっています。
ステレオマイクによる録音はお世辞にも良いとは言えません。演奏している鍵盤によって左右バラバラです。
■2,強制モノラル化する(0:07~0:11)
そういう音は強制モノラル化したほうがましです。
強制モノラル化の方法はいくつかありますが、どんな方法だったとしても元の雑なステレオよりはましな状態になります。
安定したパンを得られるのでミックスが容易、普通の手法だけでまとまるようになります。
そもそもグロッケンがステレオワイドな音である必要性はまったくありません。
■3、デフォルト状態を左に50%パン(0:12~0:18)
元の音源の左右ブレが強調されてしまいます。
こういう状態をリッチと呼ぶかバッドと呼ぶか。
ともかく普通のミックス手法ではどうにもならない状態に陥っています。
Viennaのグロッケンに限らず、こういう状態になってしまう音源は非常に多いです。
■4、強制モノラル化したものをパン(0:19~0:25)
3に比べて定位が明らかに明確です。ミックスしやすい状態になっています。
ステレオアナライザの表示では若干のブレが起きていますが、これはリバーブのアルゴリズムによるものです。これ以上のソリッドな定位を求めるなら、ふらつきの無いインパルスデータや、アルゴリズムリバーブのモジュレーションを停止できるリバーブを使う必要があります。
■パン定位の聞き取り時はヘッドホンが有効
猫も杓子も「良いミックスをするなら良いスピーカーを」と言っていますが、スピーカーでは定位は聞き取りにくいです。
良く調整された環境で、訓練された人なら聞き取れますが、左右定位に関する不具合をチェックしたいならヘッドホンの方が圧倒的に簡単です。
■おまけ、極めてダメな例
無意味なリバーブのパラメタ変更、過剰なMSコンプによる左右定位の悪化例。
鳴らしている原音はL100%です。リバーブを掛けた後で強烈にコンプしてあります。
が、ERの右が大きすぎてどちらか鳴っているのか意味不明な状態にしてあります。
リバーブのテール部もわけがわからない定位で、オートパンでも掛けているかのように移動していきます。
こういう加工音を音楽的に有効に使うのであれば良いのですが、わけも分からずリバーブのパラメタをいじくり回したり、曲の一部分だけしか確認しないマスタリングをしているとこういうことになってしまう恐れがありますよ、という悪例です。
逆に言えば、余計なパラメタの出ていないプラグインではこういう音になることはありえず、どんなに悪くしてもコンプの不具合によるポンピングか音割れ程度、飽和による歪み程度の問題でしょう。なんだか分からずパラメタをいじくり回すのはやめるべきです。
■最後に
すべてのステレオ録音音源が悪いという意味ではありません。
強制モノラル化が絶対に上ということでもありません。
それなり以上の価格のオケ音源でも録音がイマイチなことはよくあります。この記事では一昔前のオケ音源としてViennaを使っていますが、もっと新しいオケ音源でもそういう不具合の話は頻繁に出てきます。
失態。
ここまで書いておいて&動画作ってから「あ、Ozoneイメージャの表示やリサージュの方が一般的だったか」と後悔した。
どのDAWも各種計測メーターの常時表示を義務付けるべきだとさえ思っています。見えれば誰だって変だと気がつくことができるので。
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■関連記事
今回の記事で紹介したような丁寧で適切なモノラル化により、オーケストラミックスは非常に簡単になります。ダメなステレオ録音のオケ音源をそのまま使うより、一度モノラル化してみると、「通常の」ミックス手法だけで綺麗にまとまることが多いです。
また、「オケミックスでパン振りすぎ問題」についても書いてあります。スピーカーで明確に聞こえるほどパンを振ると、左右に散りすぎて意味不明なオケ音になってしまうので気をつけましょう。
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次。
そういうことを分かった上でリッチな音場を演出するために特殊なMS処理をしますよ、というお話。
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次。
なんとなくステレオマイクの方が高性能っぽいから買った、という人は結構多い。クソなステレオ録音より、単純モノラル化した音の方が聞きやすいこともあります。ステレオが常に上とは限りません。
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今回はグロッケンをモノラル化する話でした。 同様のアプローチはピアノでも使えます。
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「ピアノが主役の曲」でのミックスについてはラフマニノフのピアノ協奏曲を打ち込みした際の解説記事でもミックス方針の差について書いています。ピアノを超目立つ仕上げにするわけでもないなら、モノラル化した方がナチュラルな仕上がりになります。オケでもポピュラーでも。
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下の記事ではローカットしすぎたり、PCM(録音系)シンセはローカットしなくても良いよ、という話を書いています。が、今回のような劣悪な録音で作られた音源では慎重にローカットをする必要があります。
eki-docomokirai.hatenablog.com