大事な曲の製作中に何かをアップデートするのはやめましょう。悪いのはOSでもDAWでもPluginでもありません。あなたの運用スタイルです。
(2022年9月30日)
- ■この記事は何か?
- ■コンピューター音楽とは何か?
- ■何かを更新・追加するリスク
- ■OS更新リスク
- ■DAWをアップデートするリスク
- ■Project内容が大きすぎて起動できない
- ■Pluginのアップデートによるリスク
- ■関連項目
■この記事は何か?
「落ちる理由」のお話です。
落ちる理由を避けていれば、復旧する回数が劇的に減ります。
「復旧する方法」は別の記事にあります。
eki-docomokirai.hatenablog.com
■コンピューター音楽とは何か?
おおざっぱにこう考えておけば良いです。
(大雑把な説明ですので、細部に関する専門家の方々はご自身のブログ等で補足説明してください。)
OSの中にDAWが入り、
DAWの中にProjectとPluginが入ります。
この当たり前の構造を理解しておくだけで、ほとんどのトラブルを回避・復旧できるようになります。
・上下構造の例外
「Pluginが未来世界から来たのものなら、現在のOSでは動かない」
Pluginは構造的には下にありますが、Pluginを含むProjectが影響を受けて開けなくなります。
■何かを更新・追加するリスク
はい、ここ。試験に出ます。覚えて!
1,気まぐれに何かを更新・インストールしない。
2,テストは、テストのみで独立させる。
3,大事な製作中には何もアップデートしない。
悪いのは気まぐれにアップデート作業をしたあなたです。
■OS更新リスク
MACで数年おきに大騒ぎになるのがこれ。
気まぐれにOSに更新するのはやめましょう!
「クソ!OS更新したら仕事が進まない!損害賠償だ!」と騒ぐ人がいますが、私に言わせれば恥の上塗りなので黙るべきです。
それはあなたのIT知識不足、リスク管理不足です。
無能丸出しの発言をしているのは人間として格好悪いですし、職人としての信用まで失うリスクがあります。黙って復旧作業をするかサブ機で作業を進めましょう。
・OS自動更新時代へ
近年ではWindows10以降、特にWindows11から「OS自動更新」が主流になっています。壊滅的な被害が起きる恐れのある仕組みですが、これは末端ユーザーにはどうにもなりません。
もし対策できるとしたら、OS自動更新そのものへの対策ではなく、OS自動更新を乗り切れる柔軟性をもったソフトウェアだけを使うようにすることでしょう。
今後のPluginの価値基準の判断は「音が良い」よりも「OS更新で落ちない」ことの価値にシフトしていくはずです。
詐欺師みたいな言葉で「音が良い」とだけ言ってきたデベロッパが全宇宙から消滅することを祈っています。
一昔前までは「なにもしていないのに壊れた」と言うと笑う人がいましたが、今の時代では「(ユーザーが)なにもしていないのに(OS自動更新で)(使いたい古いソフトが)動かない」のは当然のことです。
何もしなくても壊れることが普通の時代なのに、そこでユーザーが余計なことをしたらますます壊れるのは自明の理です。
・クリエイター系ソフトはニッチである
音楽ソフトや画像ソフトなど、クリエイター系ソフトはOSが更新されてからの対応が遅いです。
また、OS開発側もそれらのソフトが動くことのチェックなどしていません。
クリエイターなら「OS更新はしない」のが常識です。
でも、そのOS強制更新時代になってきたので常識が通じなくなってきます。
今まで以上に安定感重視でシステム構築する重要性が増していきます。
未来に備えましょう。
過去を捨てましょう。
■DAWをアップデートするリスク
安易にDAWをアップグレードすると、古いProjectが開けない可能性が高いです。
最悪の場合、古いOSが非対応でまったく動かなくなります。
(これはどうにもならないので新しいOSに乗り換えるタイミングだと割り切りましょう。)
古いPluginを使いたい人がこの状況に陥ります。
適度に使い古したところで、新しいものに乗り換えるべきです。
たしかに使い慣れたPluginの快適さは素晴らしいです。
でも、Plugin1つのために、新しいDAWの機能の恩恵を捨てることになります。
個人制作のフリーPluginにこだわっている人は、数年後にこの状況に陥り、壊滅的なダメージを受けます。私がフリーPluginを勧めない理由はこれです。
「過去のProjectを開けるようにキープしたい」というこだわりを持っている人も多いようですが、私はその方針には異議を唱えます。
MIDI+オーディオをキープするだけにしないと、時代に取り残されてしまいます。
クラシックカーを動態保存(走れる状態)するのはとても大変なことですよ、ということです。
・どれの古さに合わせるか?
古すぎるPluginは捨てましょう。永久に使い続けることができるわけがありません。卒業しましょう。
古すぎるDAWは新しいPluginに対応できません。
古すぎるOSは新しいDAWとPluginを扱えません。
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新しいOSは古いDAWとPluginを使えません。
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この矛盾の中で適度な立ち位置を見つけていくためには、普段からの情報収集とテストが不可欠です。
・関連問題「上書きアップデート」
古いOSをアップデートで新しいOSにすると不安定なことがあります。
新しいマシンに完全に乗り換え、クリーンインストールするならほぼ安定します。
DAWも同じです。Pluginも同じです。
DAWとPluginの場合はアンインストールしてから新インストールで安定することがありますが、完全なアンインストールができないことも非常に多いです。(これはすべてのソフトウェアに共通する問題です。)
■Project内容が大きすぎて起動できない
ごく稀な事例ですが、巨大すぎるProjectは起動不能に陥ります。
ごく稀なケースの大半を占めるのが「テンプレート起動」です。
大量の重量級orchestra音源を同時に起動させる不可に耐えられず、OSが落ちます。
これはOSの問題であるとともに、ハードウェア(メモリ、マザーボード)の限界でもあります。
巨大すぎるテンプレート起動はやめましょう。
・耐久テスト
もし仕事で使うなら、耐久テストをしておきましょう。
200個くらいのPlugin(シンセ、エフェクタ)を入れた状態でセーブ&再起動して、適切に開くか?という耐久テストです。それで開くならOK。開かないor起動が重すぎるなら限界を見定めましょう。
そもそもエクセルやPDF、画像だって巨大になりすぎると開けなくなります。パソコンは無限の力を持っているわけではありません。
Cubaseの場合は、付属のHALion Sonic SEの大量起動にHALion Sonic SEそのものが耐えられないケースがあります。とにかくテンプレートを完璧な機能だと思わないことです。
Cubaseのトラックテンプレート機能も同様です。テンプレートの組み方によっては極めて高い負荷がかかり、開くことができなくなります。(私はこの機能を耐久テストした結果、一切信用していません。)
また、Pluginが大量のインスタンスに対応していなくて起動不能になります。
ここで言うインスタンスというのは「同じソフトを同時に大量に起動」という意味だと思っておいてください。
作りが甘いPluginは、そもそも複数インスタンスに対応していないことがあります。
この種の問題は、自称PC中級者が言うような「それならメモリ足せば良いよ」という単純なものではありません。ソフトウェアの設計上の問題だったりするので、メモリ増で一発解決するようなものでは無いんです。末端ユーザーには解決策はありません。回避するしか無いんです。
自分が望む運用スタイルに耐えられない道具はすべて捨てましょう。
■Pluginのアップデートによるリスク
気軽にやってしまう人が多いようですが、意外とリスキーです。
大事な曲の製作中にPluginをアップデートするのはやめましょう。
特に問題になるのが「新旧混在」です。
最もよく見聞きする事故ケースは、
という流れです。
こういう状況に完璧に対応できているPluginメーカーは極めて稀です。(こういう問題解決能力に長けていたとしても、音楽的なセンスの無いPluginばかり作っているメーカーだったりするので、「無い」と言った方が適切かもしれません。)
推奨される運用方法は、
- 新バージョンPluginを入れたら旧バージョンPluginを全てProjectから除去。
- あらためて新Pluginだけで構築しなおす。すべて自分の手で!
- 古いPluginを新しいPluginにきれいに入れ替えしてくれると思わないこと。
- 新しいProjectでは、新プラグインのみを使うこと。
古いPluginの設定値が失われますが、それは仕方ありません。
上でも書いた通り、古いPluginによるProjectをいつまでもキープしようとするのは、クラシックカーを動態保存するようなものです。
古いPluginの完成度が高ければまだ良いのですが、ほとんどの場合は新旧混合や、OS・DAWとの相性問題を解決できずに開けなくなります。
言っちゃ悪いですが、そもそもPlugin程度の開発をしているメーカーはプログラマとして超一流ではないからです。それほど強固で柔軟なものを作っていないんです。過剰な期待をしてはいけません。
不完全なプログラムを、雑な知識で運用。そりゃ落ちますよ。
何度でも言います。
大事な曲の製作中にアップデートするのはやめましょう。
悪いのはむやみにアップデートしたあなた自身です。
適当なアップデートや雑な運用に対応できる強固なソフトウェアを開発できる人・企業はきわめて稀だからです。
特にCubaseとiZotopeの組み合わせで自動更新をかけるのはリスクが高いです。経験上。
・プラグインアップデートの例
見た目が悪いことでおなじみのMeldaのプラグインインストーラーは、数年前のある時期から「古い弊社プラグインを消しますか?」という手続きを出してきた。
新旧混在によるトラブルを回避、翻ってこれは「サポート対応回数を減らす」という施策なのだと思います。
その前提を知らないと『なんで削除するの?怖い!』と感じる人がいるかもしれない。でも、「古いのをしっかり削除してから新しいのを入れるよ」という方法によって、安定性が劇的に高まりました。(一時期は旧プラグインの設定が全て吹き飛ぶという問題もありましたが。)
こういう手続きをせず、安易に新バージョンをインストールできてしまうものだと、上述のようなトラブルを抱える可能性が高まるということです。
私が個人的に好きなToneboostersのプラグインは、バージョンアップしても古いものを残すスタイルのようです。
上画像はちょっと前にメンテした後なので1.4~1.6系だけが残されていますが、昔から使い続けてきた人の場合は遥かに古いバージョンの痕跡も残っているはずです。
この仕組は一長一短で、「バージョンアップで使いにくくなったので戻したい」という時に強制的に最新版の一部が上書きされたままになる欠点もあります。ソフトウェアのバージョンアップというのは一朝一夕にいくものでは無い、とだけ覚えておけば備えになるはずです。
何にせよ、ヒマな時間が少しでもある時に、古いバージョンを完全削除して、最新バージョンを入れ直す作業をしておくことでDAW環境の安定性は高まります。今作っている曲、今請けている仕事が終わって一段落した時にやりましょう。そういうメンテナンスはコンピュータ音楽の仕事をしている人にとって必須の付随業務だと思うべきです。
■関連項目
・「製作中にサンプリングレート変更しない」
eki-docomokirai.hatenablog.com
・「製作とテストを同時にやるな」
eki-docomokirai.hatenablog.com