コンプレッサーをいち早くマスターするための長いお話。
(2022年10月28日更新)(アンチセール記事)
■あなたが今買おうと思っているコンプはあなたの悩みを解決しない
手持ちのコンプをちゃんと使いきれていますか?
「なんか高性能らしい」「最新コンプ登場」「9割引」という謎の理由でコンプを買い集めても、あなたのミックス技術は何ひとつ上がりません。
はたしてコンプの使い方が問題なのか、知識不足なのか。それとも実はコンプじゃない道具で解決するべきだったのか。
初歩の知識は身につけたはずなのに上手く行かない人が読むべき記事として書いておきます。
有料レッスンでやり続けても良いんだけど、面白くないんだもん。
作曲初期段階かアレンジのレッスンを増やしたいから、この程度のお話は無料公開しておきます。
■コンプの動作はまず目で理解する
人間は目と耳のどっちが大事か?
そりゃ目ですよ。目を失うのは本当につらい。
なぜなら目の方が役立つから。
なのにミックス先生様は「耳で判断しろ」と言う。訓練されていない人が耳だけで何を判断できるというのか!?
十分な訓練を受けずにいきなり成功できるのは天才だけです。
私が他の記事でも主張している通り、できるふりをしないで「自転車に乗りたいならまず補助輪をつけろ」です。
(↓クソ長い記事なので暇な時に読んでね!)
eki-docomokirai.hatenablog.com
生まれつきのミックスの天才じゃないなら、とにかくメーターを使って、目の情報で訓練するべきです。
そういう訓練を積んで、上達を実感できてから「目隠ししてできるかな?」という縛りプレイに挑戦していきましょう。
・ブラウザ上で学習するためのツール
過去記事どうぞ。
eki-docomokirai.hatenablog.com
単純な画像スクリプトですが、何を操作すると何が動くのかを知るためには非常に優れた訓練ツールです。適当にパズルゲーム感覚で触っているだけで、ある程度コンプの挙動を把握できるようになります。
準備運動にどうぞ。
・GUIの優れたプラグインで学ぶ
ご期待取りMeldaの話です。
設定しだいで非常に学習効率の高い表示モードにできます。
動画にしておいたのでどうぞ。
というか、最初からこの状態でインストールしてくれれば良いのにね、と本当に思います。
・本格的なコンプは学習に向いていない!
アナログモデリング系のコンプは上のMeldaコンプのような表示が無いものがほとんどです。
さらに言えば、アナログ実機を正確にプラグイン化しているものは、正確であればあるほど「実機のクセ、機能不足、余計な機能」まで勝手に動いてしまいます。
一般的なコンプの解説には「レシオ」の説明があるのに、手持ちのアナログ系コンプにはレシオがついていないかもしれません。また、別のモデルでは複数のパラメタが内部で同時に動いてしまうものもあります。
そういう悪い意味で本格的なコンプは学習用途には向いていません。
コンプが分からないならとにかくMeldaのフリーコンプで練習してみることを強くオススメします!
■導入手順
永久無料。
https://www.meldaproduction.com/MFreeFXBundle
まずは適当なドラムループを用意。
ドチタチ、ドチタチって鳴ってるだけのシンプルなのを自作してもOK。
適当にドラムパターンを鳴らしながらMeldaコンプの表示設定を変更していきましょう。
・1、右のMeter and Utilityを押す。
右側に拡張パネルが開くので、
下側にある「≡」を押す。
「TIME-GRAPH SETTING」が出てくるので、
「STATIC MODE」を点灯させる。
「Tempo Sync」を「1/4(1拍)」か「1(小節)」にする。(曲による。用途によるのでいろいろどうぞ。)
そのままだと表示の左が揃わないので、
一度DAWの演奏を停止し、1拍目に戻し、
数拍待ってからプラグインの「>>」を押す。
ダメなら数回試す(プラグインが拍を認識するまでしっかり待つのが大事)
これで先頭にそろうはず。揃わなかったら上を数回試しましょう。
これで誰でもコンプの動作を見た目で学習できます。
適切に設定されていく過程を何度かやってみれば、正しい状態を認知できるようになっているはずです。
知らないものは感じ取れない。
知識だけでは体感・結果との不一致が生じる。
知識と体験があれば認識できるようになる。そういうことです。
■学習項目
アタックタイムが早すぎて、音が潰れないようにする。
再生直後、1発目のアタックだけが突出しないようにする。
リリースが遅すぎて、2拍目のアタックまで影響していないか確認する。
リリースが早すぎて、音が膨れ上がっていないか?
などなど。
よくあるミックス本などでさんざん語り尽くされていることですし、丁寧な本だとCDROMまでついていて「ハイハットを揃えてみましょう」などのレッスン方式になっています。そういう資料をちゃんと使ったことがあるなら良いのですが、本を中古で売るためにCDROMを未開封にしている阿呆がいるらしいです。お前は売るために本を買っているのかと問い詰めたい。
・課題に取り組む
ためしに次のような課題を作ってみることをオススメします。
これが音楽的に良いグルーヴである必要はありません!
思いのままにGRの上下運動を制御できる技術のための「筋トレ」だと思って、一度やってみてください。
実際の曲ではなく、単純なドラムループで練習することを強く推奨します。
シンプルな訓練ができないのに、複雑な楽器のアンサンブルを制御できるわけが無いでしょ?
わりと重要なのは「モデル限界」です。
どんなコンプも結局はアルゴリズムで動いているだけなので、得意なソースと不得意なソースがあります。素早いドラムのアタックを深く下げることができるコンプや、ゆったりとしたボーカルをゆるく処理するのが得意なコンプがあります。万能のものは存在しません。もし万能っぽく感じたなら、それは「何をやっても1位になれないコンプ」だと思っておきましょう。
いわゆるネット上の無料コンプ解説記事などで、スレッショルドの意味はこう、レシオはこういうこと、と書かれていますが、それが実態といかにかけ離れているかを実体験できるはずです。
入力音量が大きすぎればおかしな動作になるし、アタックとリリースの挙動もイメージと違うし。
ちゃんとメーターを表示しながら「できるだけ深いGR」に取り組むと、そのコンプの特性を知ることができます。
これは使うあなたの訓練であるとともに、コンプモデルの特性チェックにもなる、一石二鳥のワークアウトなんです。
世の中には腐るほどのコンプ解説記事がありますが、それでもコンプを正しく使えるようになっている人は少ないです。そりゃそうですよ。スレッショルドの意味を知ったところで、それをいつ何のためにどの程度使うかをまったく解説していないんですから。辞書で「恋愛」「セックス」の意味を知っても、ベッドインする方法は学べないんです。そういうサイトを書いている人たちは教え方が本当に下手だと思います。
・よくあるコンプの誤用(1)迫力重視になりすぎ
結果として「迫力を出す」エフェクタですが、過剰に使うと音が崩れます。
迫力を出すことに成功していても、キックの音がおかしくなっていないか確認しましょう。
・よくあるコンプの誤用(2)常にGRを稼ぐ、の使用対象を誤解
ボーカルやストリングスなどの「伸び系」では常にGRさせることがあります。
ドラムなどの「減衰系」で常にGRを出していると、アタックが常におかしくなります。
ドラム系では原則的に「リリースタイムで次の音までに戻す」が正解です。
・よくあるコンプの誤用(3)1拍目を見落とす
リピート再生しながら設定するとこういうミスをしてしまいます。
(この程度ではまだマシな方ですね。実際もっとひどい状態のを稀に良く聞きます。)
3拍目からは適切なサウンドですが、1拍目だけ突出しています。
(細かく言えば、2拍目も3拍目以降と比べるとやや異なる状態です。黄色線を参照。)
原因は2つ。
遅すぎるアタックタイムで1拍目が反応しきれていないことと、
遅すぎるリリースタイムで戻りきれていないからです。
3拍目以降は良好なサウンドを得られていても、いざ曲の最初から再生してみると一発目に「バチッ!」という不快な音が鳴ってしまいます。これアマチュアの人に本当に多いので気をつけましょう。
たまには再生を止めて、演奏開始直後に適切に反応しているかを確認しましょう。
曲の再生開始した瞬間だけ音が大きくなっているアマチュア音源は本当に多いです。
適切な設定だと下画像のようになります。
GRがゼロまで回復してから次の拍に反応している点を確認どうぞ。
・コンプは「無敵のツールではない!」
コンプは様々な加工が可能ではありますが、何でもできるツールではありません。
「入力された音量に対して自動的に反応する」だけの道具です。
クソ音を良い音にすることはできません。
事前に波形加工などをしっかり行っておくことで、あなたの手持ちのコンプは本当の性能を発揮できるようになります。
「コンプの使い方がよくわからない」場合には、そもそもおかしな録音状態なのではないか?ということを疑ってみてください。
・コンプはダイナミクスを縮めるツールではない!
かんたんな紹介だと「ダイナミクスを縮めて迫力を出す」と紹介されていますが、ダイナミクスそのものを『正確に縮める』ことはできません。
コンプのモデルによる『アルゴリズムによって矯正するだけのツール』と言うべきです。
そこにさらに「うまいプロはコンプだけで色々な加工ができる」という誇張がくっつくと、ダニングクルーガーの法則(=初心者ほど慢心する)によって「俺にもできる」と勘違いし、クソコンプ設定に一直線です。
これも聴覚ではなく視覚で捉え、漫画イラストで考えるとコンプの不便さが理解できるはずです。
こちらのイラスト作例を加工して紹介すると、コンプとは下のような加工をすることしかできません。
DTMをやっているアマチュアの人には何かとインドア系(イラスト趣味)の人が多いようなので、こういう解説の方がインパクトがあるかな?と思って加工画像を作ってみました。
コンプを通せば自動的にデフォルメキャラになるわけでは無い、とだけ覚えておけば悩みの半分くらいは吹っ飛ぶはずです。
これは近年増えてきた自動マスタリング(AI系)も同じで、イラスト内のキャラクターの魅力まで考慮した加工ができません。少なくとも2022年10月現在のAIではそのようなことは不可能です。
結局は丁寧に取り組むしか無いんです。
そもそも適切な音色を選んでおいて、その音色を適切に演奏する。
その上でコンプなどのエフェクタが少しだけ力を貸す、ということです。
高いエフェクタでお化粧したら美人になるわけではありません。
そもそも、
アタックのないシンセ音色にアタックを付け加えようと思っても限界が低い。(→アタック音色をレイヤーしよう)
テールのないキックのテールを持ち上げようとしても無駄。(テールのあるキック音色を探すか、レイヤーしよう)
書いてて思ったんだけど、要するにあらゆる音色はレイヤーしろってことだよな。うん。
■似たようなツール
あなたが必要としているのはコンプでは無いかもしれません!
・ゲートエフェクト(≒エキスパンダ)
一定以下の音量をさらに小さくするツール。いわゆる「逆コンプ」です。
私はゲートがコンプよりも重要だと思っています。ミックス特訓目的のレッスンやってても「ゲート使ったこと無い、何それ食い物?」という人が多くて、おいおいミックスやるのにゲート知らないとか何を勉強してきたんだと疑問に思うことが多いです。
コンプでアタックを出して強さを強調するより、余計なテール音をカットしてメリハリの効いたサウンドにした方が良いかもしれませんよ?
特に近年のドラム音源(BFD3等)はテールが異様に長く収録されているので注意が必要だと思っています。特にキックとロータムが長すぎる人が多いと感じます。
大昔のDTMではいかにドラム音をリッチに長くするかが課題でしたが、近年のドラムサウンドの目標はいかにタイトにするか、ではないでしょうか?
そもそもドラム音源内で設定を適切に設定しておけば、柔軟性の低いコンプで試行錯誤する必要はありません。
ドラム音源からパラ出しやオーディオ出しして全て手作業でミックスした方が良いと思っている人も多いようですが、ドラム音源内の編集機能を甘く見るべきではありません。下手くそな汎用コンプよりも、内蔵の最適化されたツール群の方がスピードが早いです。
言うまでもなく、生録音のドラムではゲートは必須も必須、初手に使うことが多いはず。じゃないとスネアのマイクにキックの音が入ってしまったりするからです。(これをブリードと言います。プラグインのドラム音源にもブリードONがついているものがありますが、あまり良い結果を生んでいるように感じません。個人の感想ですが、騙されたと思ってブリードを全てOFFにしてみてはいかが?)
・トランジェントとコンプの違い
トランジェントはコンプとは異なる動作原理で音量を操作します。
eki-docomokirai.hatenablog.com
トランジェントの種類によってはゲートも内蔵されているものがあります。
一般的には「EQをかけてからコンプか、コンプの後にEQか」と言われていますが、今日のモダンミックス手法では「コンプはトランジェントの後か先か?」という選択肢も重要になってくるはずです。
・パラレルコンプ
コンプ単体はそれほど便利な万能ツールではありません。どんなに上手く使っても音をイビツにしてしまいます。
モダンなコンプ手法として「パラレルコンプ」があります。
通常の波形+強くコンプした音を少し混ぜ合わせる手法です。
これのメリットは、アタック部分を自然に確保しつつ、底上げして迫力を出すことができることです。
モダンなプラグインでは普通に「MIX」とか「WET」のツマミがあるので、どんどん活用しましょう。
(上画像はわかりやすいように波形にしていますが、パラレルコンプが行えるPluginであれば、いちいち波形にする必要はありません!)
この手法はトラック単体、ステム、2mix、マスターなど、あらゆる場面で活用されています。もし知らなかったとしたら、普段の情報収集先が古すぎるということなのでがんばりましょう。もしくは私の有料レッスンへどうぞ(宣伝です!)
・強コンプサウンドが欲しい場合は多重コンプを使う
ここまでの説明で、コンプ1台だとGRが戻らず、おかしなサウンドになってしまうことがわかりました。
しかし、強く圧縮されたサウンドはたしかに魅力的です。実際、市販されているプロの音がするからですす。
ではどうするか?
答えは「複数のコンプを重ねる」です。
下の関連記事をどうぞ。
eki-docomokirai.hatenablog.com
コンプを「少しずつ複数回使う方法」、「違う目的のために複数用意する方法」で、スーパーテクニックでも何でもなく、わりと普通の手法です。包丁を皮むきに使うのと輪切りに使うことに似ています。
手持ちのコンプだけでも異なる設定で複数回使えばアラ不思議、となるはず。
やりすぎると音量が無限に上昇していくので気をつけましょう。
・そもそも音量オートメを書く
全部オートメを書けという意味ではないし、手コンプしろという意味でもなくて。
単に「コンプに入っていく音量を調節する」だけのことです。
隣接する概念として「ゲインステージング」があります。
eki-docomokirai.hatenablog.com
なんか拡大解釈されて濫用されている単語ですが、ゲインステージングの本来の意味は「アナログ機器には適切な電圧を入れろ」というだけのことです。
おかしな入力音量をコンプだけでどうにかしようとするからおかしな技術が必要になるんです。なんだかわからないなら-18dBでつっこみましょう。
もしくはインプットゲインのついているプラグインを使いましょう。
Meldaのプラグインの多くはインプットゲイン・アウトプットゲインがついているので非常に使いやすいと言えます。
実機に忠実すぎるアナログモデリング系のプラグインは実機と同じくインプットゲインがついていないことが多いので、手前に音量調節用のプラグインを挟んでおく必要があります。もしくは常に適切なゲインステージングで運用しなければ本来の性能を発揮できません。
この辺の説明をすっとばして「こういう時はLA2A系を使いましょう」と決め打ちで説明する人が多すぎるのが、コンプが誤解され続けている原因だと私は考えています。
重要なのはプラグインへの入力音量だ、ということだけは絶対に忘れないでください。
・(番外)オートレベラー
いろいろ操作できますが、レベラーはクソステムを自動的にスーパードラムTr.にするものではありません。
■関連記事
過去に書いたコンプ記事です。ターゲットが初心者向けなのかオタク向けなのかよくわからないクソ記事です。南無阿弥陀仏。
eki-docomokirai.hatenablog.com
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eki-docomokirai.hatenablog.com
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