eki_docomokiraiの音楽制作ブログ

作編曲家のえきです。DTM/音楽制作で役立つTIPSを書いています。

モノミックスとMS処理の注意点

今さらだけど「MS処理ってヤバいですよ」というお話。

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(2021年10月12日更新)

 

 

■ステレオとパンロー

下の計測例では、LCRそれぞれまったく同じ音量のトーンを流し込んでいます。

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個別のメーター上では同じ高さ(-12dB)ですが、パンローによって左右は小さく聞こえます

 

・通常のステレオバランス

パンローによってLRは少し小さくなっています。

別のメーターを使ってみると赤(サイド)が明らかに小さいことが分かります。

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この音量差はフェーダーについているメーターでは表示されないことがあります。

 

もう一度、同じフェーダーのメーター画像を貼ります。

高さは同じですね。

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・矯正モノ

ステレオ幅を強制的にゼロにします。

赤(サイド)は無くなりました。メーターの見た目の音量は同じままです。

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・個別にセンター定位

チャンネルパンでセンターにした場合は結果が違います。

それぞれのトーンがセンターにある時、3つの音量は全く同じです。

当たり前ですね。

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比較のために並べてみます。

「LCR分割を後からモノ化」と「初めからセンター」は決定的に違うということです。

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・ステレオ強調

ステレオ幅を過剰に広げると、パンローで適正化された範囲を超えてサイドが上がってきます。

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結果、LCRがほぼ同じ音量になります。

■MS処理とラウドネス

当たり前のことですが、サイドを上げるとラウドネスは上がります

下画像は「通常」「モノ化」「サイド最大」の順です。

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この通り、ステレオ強調はラウドネス的には極めて不利になります。

サイド要素がラウドネス基準に当たってしまい、相対的にセンターが不当に小さい状態にされてしまいます。

 

別のメーターでもほぼ同様です。

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「海苔波形がラウドネスで不利」ということはもう知っている人が多いはずです。

それだけではなく、「過剰なMS処理もラウドネス的に不利」ということです。

 

言うまでもなく、ステレオを強調すると左右の音量が上がります。

つまりバランスが崩れます。

 

マチュアのミックスで非常に多いのが、

過剰なMS処理で左右が大きくなりすぎて、

相対的にセンターのボーカルが非常に小さくなっているものです。

(これを「オケを強調している」と言う人がいますが、単にSideを無理やり上げているケースがほとんどです。)

Youtube等で、既存アーティストの音源を「高音質版」と言ってアップしている人もほとんどこれです。←さらに言えば、ぶっこわすレベルでサイド上げしています。)

 

彼らは普通の音楽を聞くべきです。そんなにサイドを強調した音楽はアマチュア音楽にしかありません。

 

そうでなくてもボカロは歌詞が聞き取りにくいのに、サイドを上げてメインボーカルが更に小さくなっています。聞こえない歌詞を補うために、常に歌詞を強調する動画じゃないとダメな状態になっているんじゃないかと思います。

ついでに言うと、あの文字をやたら強調する動画は、とてもダサいと思っています。2010年代の病として10年語くらいは黒歴史になっていることと思います。頑張るべきはそこじゃありません。センターをちゃんと出して、ボーカルを聞こえるバランスにするのが先です。歌詞が聞こえないから文字で書くというのであれば、そもそもボーカル曲である意味がありません。歌詞が聞こえるバランスにしましょう。

 

・ステレオ強調された音源をモノ再生するとどうなるか?

こうした理由により、安易にLCRに極端にパン振りをしたミックス(LCR MIX、ハードパニング)は、モノラル化の際に必ず音量バランス問題が発生します

良いミックスの条件は「あらゆる状況でそこそこ再生できる」ということです。

ステレオ強調しすぎたミックスはモノで再生すると酷いバランスになります。

過剰なステレオ強調をするミックスは絶対にやめましょう。

 

親しい人がそういうミックスをしていたら、そっと警告してあげてください。

「モノラル再生した時にめちゃくちゃになるらしいよ!」

ラウドネス的に非常に不利らしいよ!」

・思い切ってモノラル化を捨てる

ハードパニングを使ったLCRミックスを目指す場合、モノラル再生時の問題を無視するという方針もあります。私個人としては推奨しませんが。

モノラル再生専用のミックスを別に用意すれば良いだけのことですが、世界中であなたのミックスを再生する際に、どちらのファイルを使うかを指定することはできません。誰にどう扱われるか分からないからこそ、汎用的なミックスを目指すことが「ベター・イズ・ベスト」となります。

これは工業製品にも似たジレンマです。

■モノミックスの注意点

ミックス過程で一時的にモノにすることがあります。

この方法を過剰に行う人は、モノの状態でバランスを作ってからパン設定をします。

しかしこの方法ではパンローによって音量バランスが崩れます。

 

モノ状態でメインメロディよりも小さく設定された伴奏トラックが、パンによってさらに小さくなってしまうということです。

 

やたらとモノミックスを推す人がいますが、こういう危険性・二度手間があるということをご周知願います。

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なんにせよ「ちゃんと聞いてバランス作れ」です。

LCRミックスが良いとかモノミックスが良いとかじゃないです。ミックス中には何度も確認しましょう。

 

■追記。正しい「MS」の定義

・Studio One の使い方メモ〜PreSonus Studio One DAW TIPS〜

https://unko.kpop.jp/studio_one/20191111-ms.php

と、

nk-productions.net

 

DTM用語には同じ単語でもさまざまな意味があったり、言葉の使われ方が違うことがあります。

「MS処理」という言葉も大きく分けて2種類の運用をされています。

  1. 「LマイナスR」、信号
  2. ミックスの幅広さ、聴覚

本来の定義は上が正しいですが、運用においては下も頻繁に登場します。

正しい意味で使われていないから間違いなのではなく、どういう意味で使われているのかを見分けるようにしましょう。

「Bメロ」とか言わず、小節数や秒数で言うべき、ってのと似ています。言葉のすり合わせは必ず行いましょう。正誤性の問題ではなく、言葉のすれ違いです。正しい言葉を使えるなら、すでに広まっている誤用についても知っておくべきです。

 

・Lの逆相のRだと、Sは打ち消し合って聞こえない、という誤解

ヘッドホンで聞こえます。

スピーカーでも左右の耳の距離が違うので聞こえます。

Lの逆相Rが消えるのは信号上で合成した時だけです。

 

「聞こえないのではなく、データ信号上で打ち消し合うから、矯正モノラル化の際に事故音源になる」が正しいです。

データ上のことと、人間の聴覚を一緒に考えないようにしましょう。

 

左右のスピーカーから逆相鳴らして、人間の耳で音が聴覚できないリスニングルームがあったら呼んでください。

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