久々にフルオケ曲の打ち込みをしていました。今回はラフマニノフ作曲 ピアノ協奏曲第1番です。
(2019年9月29日更新)
■動画と音源
ラフマニノフ作曲 ピアノ協奏曲第1番(1楽章のみ)
ニコ動版はこちら
https://www.nicovideo.jp/watch/sm34899904
オケミックス資料用のアナライザ表示版はこちら。
■制作話
オーケストラ曲打ち込み技術については過去記事でどうぞ。
eki-docomokirai.hatenablog.com
曲の大まかな打ち込みは2017年1月の時点で終わっていました。
その後、オーケストラミックス話の教材で使ったり、ピアノ音源のテスト用などで数人に貸し出ししていました。
めちゃくちゃ良いピアノ音源を持っている某人には「お互いにデモ曲にできるけどどうよ?」と5000円で差し替えを依頼したんだけど半年以上スルーされたので自前のシンセで作って終わり!
テンポ設定がCubaseの小数点傾斜テンポを使っているので汎用MIDIデータ化できていません。もしCubase+CFXを持っている人がいたら差し替えを依頼したいです。ご連絡お待ちしております。
■全体
いつもどおりです。
制作初期だけ実際の演奏テンポを参照しています。最終的にはシンセの鳴り具合やリバーブ残響を根拠にしてほぼ全て自作に変更しています。二度手間ですが先にテンポを作っておくとイメージをつかみやすいので初期作業が楽しくなります。
■バランス
tutti部でのグループバスのバランス。
動画音源だと6分23秒あたりのtutti。
バランスを組み立ては当然トップダウンで。突出する箇所は時間をメモって個別トラックを再調整して抑え込み。
製作途中版を渡した人はいくつかの突出を確認できるはずです。
■ステレオ音源の処理
過去記事で書いていなかった点があるのでここで紹介。
ステレオ収録されたオケ音源はイメージャーでそのまま折りたたむとステレオ位相干渉などの弊害が起きます。
なので下のように処理をすることがあります。採用度は半々程度。
細かい解説は割愛。レッスンでは丁寧に説明しています。知らない人は「オーケストラ系って超こまかいことやるんでしょ?」と思い込んでいる人が多いようですがそんなことは無いです。小手先の細かいことより、大きな枠での設計とワークフローがものを言うジャンルだと思います。
・ピアノの処理
eki-docomokirai.hatenablog.com
音色はPianoteq6 のK2、Sound Recordingです。
D系の音色の方がたしかにゴージャス感はあるんだけど、遠い音場のミックスでは正直使いにくい。明るく華やかなK系を使いました。
フルコンサートグランドで派手なコンチェルトの演奏なので、全体的に強めの弾き方で仕上げてあります。
Pianoteqのベロシティ・キャリブレートは上をちょい下げ程度。(Pianoteqについてはこちらの記事を参照。→Pianoteq6の使い方 - eki_docomokiraiの音楽制作ブログ)
ペダルはCC64でハーフペダル無し。
何しろ大規模な曲なので、「シンプルなパラメタ数で、曲の流れを丁寧に扱う」という作業コンセプトで作っています。
・推敲
数種の環境でモニターチェックし、突出箇所や位相の悪い箇所をピンポイントで修正した。
主に直したのは、
などなど。
今後はこの辺をもうちょっと手早く処理できるようにしたい。
たとえば動画音源の0分35秒あたり、第一主題の弦合奏。
CB(DBSec、DBSolo)のEQ2番。100Hz周辺の異様な膨らみの修正とか。
リバーブに送った際にこの辺が妙に膨らんでしまうので、トラック個別で丁寧に処理した。
これを弦のグループバスで一括処理していたので、他の楽器で必要な100Hz要素まで削ってしまい、貧弱な弦セクションになってしまっていた。グループバスでのダイナミックEQ処理も万能じゃないよという反面教師になる。
昔はこういう状態になるのを嫌ってBass系楽器をグループにしていたこともあったなぁと思い出す。
■アレンジ箇所
4分5秒からのバイオリンを1本だけソロパッチにしてオクターブ上げた。この方がエモいと思う。こういう簡単に指定できる変更は生オケでもたまにある。即時変更できる指示であり、明確な目的と理由、効果があるなら批判する人はまずいない。ついでに「奏者が目立てる変更」「その楽器らしさが増す変更」なら喜んで受け入れられる。(逆に言えば、「そこ弾くな」系や、楽器の特性を無視した奏法指示などは眉をひそめられる。)
次。
6分18秒の管を半分の長さにした。管だけにあるアクセントの解釈。
この方が弦が2分音符2回に分割されている意図もはっきりするし、ピアノの連打がスリリングに聞こえる。
上画像の最後の音から次のページ(245小節)に向かって、ピアノのグリスアップを入れた。ゲスいけどかっこいいはず。直前の管の処理変更に注目させておいて、すかさずピアノにも変更を加えることで、すでに曲を知っている人に対して強くアピールできるはず。(もちろんこういう作為的な変更を「ダメだ!」と言う人もいるけれど、それ以上に「いいね!」を得られるはず。)
次。
上の部分の管をスタッカートに処理したことに合わせている。
ここはpesanteにテヌートが指定されているので短くするのはどうか?とも思ったが、直前の弦が非常に明確なリズムを刻んでいる。この流れを受けて歯切れ良い金管の和音に繋がる。
そもそもこういうクラシック曲におけるテヌートは、一様に「音を保って」と読むものではなく、作曲家が数少ない指示記号だけで「ここはちょっと変えてね」という意志を伝えていると解釈するのは普通のこと。
テヌートを単に「音を長く保って」としか書いていない楽典はマジメな優等生的。「他と違った音で」と解釈する方法について補足している楽典は、実際の演奏解釈や記号の成り立ちの歴史まで考えていると言える。
次。
153小節からはダイナミクス指示が明らかにおかしい。(金管fに対し、木管pp、ピアノp)(追記、もうちょい手前から画像作るべきでしたすみません。)
この153小節からを再解釈すると、今回作った演奏解釈には妥当性があるんじゃないかと思っている。ダメっすか?
248小節のトランペットソロの追加版。
通常はトランペットは短い頭打ち伴奏だけなんだけど、ここで盛大なオブリが入る版がある「らしい」ので全力で採用した。
■この曲のユニークな箇所
前奏が終わった後、第一主題の弦。18小節4拍目のF音。
第一主題はキー都合でバイオリンの最低音より下になってしまう。この拍だけビオラとクラリネット1本だけになっている。
編成とキーを決めた時点で無茶なメロディなのだが、あえて採用している点が面白い。
演奏の際には「そこはビオラしっかり出してね!!」と強く指示する必要があるんでしょうねたぶん。
もし自分がこれを浄書するとしたら、ビオラだけdecresc.を無しにすると思います。もしくはカッコを付けて(decresc.)と書きたい。
実際、今回作ったMIDIデータの中でもこの部分のビオラは1段階強く演奏させています。