久々にそこそこ丁寧な耳コピを作っていました。テンプレ制作を兼ねて。
曲はアニメ『人類は衰退しました』エンディング曲『ユメのなかノわたしのユメ』。作編曲は伊藤真澄。
(2021年3月29日音源差し替え)
(2021年6月20日更新)
■コンセプト
今後使いやすいテンプレートを作ることが最大の目的です。
細かい編集で詰めていくと本末転倒になってしまいかねません。
できるだけ手間をかけず、そこそこの状態を作りました。
・言い訳と境界線
テンプレを作るためだとか、中途半端なコピーだとか思う人も大勢いるはずです。
予防線を張った卑怯なふるまいだと憤慨する人もいるはずです。いてほしいです。それは完全に正しいのですから。
模写やってるだけなら外に出さないのが正解です。
それでも模写を公開する理由についてお考えいただければと願います。
■動画にしておいた。
絵は動かないけど動画って呼ぶらしいです。
音色作りが若干甘い状態ですが、採譜だけに限ってははたぶん世界一完璧のはず。
美しい奇天烈なメロディが印象的な曲。
曲展開はちょっと狂ってる。
編曲は上品め。
メロディ音域配分はこう。
幅は10度。下レから上ファまで。
音域の使い方が巧妙で、単なる高さ配分だけではなく、上下移動の幅を使い分けることでシーンを差別化する書き方を使っています。
最後は非常に奇妙な展開のある曲です。
3サビが終わった後、9分34秒からのアウトロでは6拍子でラヴェルの『ボレロ』を模した独立した楽曲になります。
もしかするとアニメのプロモートで使う予定でぶっこんだのかなぁ、などと思っています。
■メロ
Aメロからのあやしいメロディは、ペンタ主体で書かれているけど、コロコロ転調していくので混乱を誘発する。(分析は方針によって別の見解もあります。鵜呑みにしないでね。)
曲全体としての最高に面白いポイントはなんと言ってもサビ中間にある跳ね上がった音(動画、6分45秒)。なんでここに「しずかな風」という歌詞を当てるかね。
総じて頭のおかしいブラックジョーク満載のアニメなので、まぁそういうことかと思われます。
採譜にあたってメロディの入る半拍ほど前からのしゃくりあげや視察音なども含めました。これをどう扱うかは採譜の方針によって異なりますが、今回は原曲の歌い方をある程度まで音符に落とし込みました。
作曲の場合はこういうのは含めず、また、音価も短くしたりしません。歌詞と歌い方が決まっている場合にはそういうガイドを打ち込みで作ることも稀にあります。
ベンドとビブラートもそこそこ原曲を踏まえた作りにしています。
・ガイドメロディの音色
音色は新規に作ったガイドメロディ用の音色です。矩形波をちょっと加工した音色です。ピッチベンドを使い、グライドは無しです。
もうちょいアタックの強い音でも良いかなと思いましたが、しばらくはこの音色を使ってみて、随時微調整していきます。
たまに湧き上がる「ガイドメロディの音色をどうするか?」という話題がありますが、私はこのくらい強い音色の方が良いと思っています。少なくとも立ち上げただけのアナログシンセの音やピアノ(エレピ)よりは間違いなく利便があります。
歌入れ前の仮ミックス時でも強く聞こえた方が、生歌に差し替えてからのミックスで破綻しにくいからです。
ハモリ用に少し弱い音色を作りました。が、これは「ハモリ用のガイド」としては弱すぎると思います。そこそこの仕上がった耳コピを目指したのであって、ガイド用の音源制作ではないので今回はこれでOKとします。(ハモリ録音用のガイド音源が必要な時は異様な大きさでミックスしたものを用意するので問題ありません。念の為。)
・ボーカル加工音とメインボーカルの衝突回避
7分30秒~間奏に出てくるB音の同音連打。原曲では「パッ、パッ、パッ、パッ」とカッティングされたボーカル音です。
これをシンセのガイドメロ音から安易に作って鳴らしたら、メインボーカルと同じB音程が重なる部分でフランジングしてしまった。
ので、ミキサーディレイ(左緑囲み)で位置を微調節し、フランジングを回避させました。
この手の事故が起きた時にミキサーディレイは非常に便利です。EQでずらすとかそういうことではなく、根本的にタイミングをずらすことで住み分けができます。ミックスで最も重要なのはEQでもコンプでもなく位相だということがよく分かる好例でした。そういう状況での作業風景を動画で記録できたらかなり良い資料になるのかもなーと思うことがありますが、現時点ではそういうことに興味がありません。
もし興味がある人は、同じトラックを複製して全体のタイミングをずらしてみればすぐに確認できる程度のことですから、そんなことのためにわざわざ派手な動画を作ってアピールするのは初心者狩りでしかないと思うんです。
あんまり必要以上のことを言うのもアレだと分かっているのですが、昨今の何でも動画にするブームは頭おかしいと思います。確実な収益化のために事業として絨毯爆撃しているならまだしも、個人が思いつきで投下しても思い出づくりにしかならないし、その思い出も黒歴史でしかないと思うんです。一昔前のFLASH動画の痛々しさを今なら分かる人たちも多いはずです。「なんであんなことやってたんだろう」って。粗末なアクセス数稼ぎで何を得て何を失ったのか。
■オケ
前編ほぼベタ打ちです。
アコギ。
4拍裏から1表にかけての「ガシャー」っとした音はシンセギター音源そのままだとうまく行かなかったので妥協。ボイシングとポジションもそれなりに作ってあります。また、アコギシンセ(UVI Sunbird)の特性上、6弦が入ると邪魔になる場面が多かったので6弦を無しにしています。原曲の音に寄せるためにもっと指板寄りの音が多く欲しかったのですが、そういうことはできなかったのでかなり妥協。
エレキ。
UVIのエレキギター(Strategy)だと軽くなるかと思って試作したのですが、どうやっても狙った演奏にならないので結局Electri6ityで作ったらすぐ納得できるレベルになった。良い音源は良い。アンプはAmplitubeの新しいディストーションとアンプ(いずれもハイゲイン系)がすこぶる良かったです。よほどのこだわりを持たない限り、もうこのままで良いんじゃないだろうかとさえ思う。最近は知人の紹介でいろいろなアンプのプラグインを試したのですが、Amplitubeの安定感と使いやすさは圧倒的です。
間奏2、8分58秒のエレキギターは本来は右に独立したギターを使うのが正しいです。が、面倒なので左のままでやりました。同様に9分35秒から、アウトロの序盤に入っているアドリブギターも割愛。
ベースはMODO Bassで指弾きのアタック感が程よく出るように設定。ちょうどデータ制作中にヘルプ依頼が来てMODO Bass談議になったので、そこで教えてもらった設定も多く導入しました。内容はヒミツ。
ピアノ。
相変わらずのPianoteq。イントロ以外はとりたてて面白い内容でもないのでかなり雑に作り、挙げ句の果てにモディファイア一発加工という雑っぷり。
ほぼ完全にベタ。
ハープ。
間奏で普通のアルペジオやってるだけなので、音程だけ拾ってベタで。
弦。
弦は相変わらず安いVienna。そんなにハイエンドの仕事をしていないのでこれで十分。まだまだ戦える。
少しずつ改善してきたマトリクスを、今後のために部分的に軽量化するのが今回の制作の大きな目的です。
これは他の弦音源でも言えることですが、アタックのレイヤーだけは絶対にどうにかするべきです。数種類のアタック感を手軽に使い分けつつ、扱いやすい環境作りはどんな弦音源でも必須だと思います。高い音源を買えば一発で解決すると夢見ている人は、今の手持ちの音源でどうレイヤーし、それをどう管理するかをがんばってみてから買い足しをしないと面食らうことになるはずです。
もっと割り切った設定を作っても良いかなぁとは思いますが、慣れすぎてしまったので、今後全ての弦音源を買い換えるまでこのくらいの使い方で生きていきます。
上のメロディ話でも出した、サビ中盤「静かな風~」の部分。
たぶん重音はこうやってるはず。原曲音源でA音が異様に強く聞こえるのは、最初は専用のシンセを入れてるのかな?とも思ったのですが、たぶんVn1とVaとVcの重音の開放A線の音です。
多彩な用途が盛り込まれた優れたストリングス・ライティングだなぁと関心しました。
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(2021年6月20日追記。ミス指摘ありがとうございます。)
Vn1、49小節目4拍(1分15秒)。EではなくEbです。
同様に127小節4拍(3分14秒)もEではなくEbです。
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弦制作で困ったのは原曲音源の妙な音響。
たぶんアンビマイクの音なのだと思われますが、原曲ではVn1だけ音の定位を追いかけてみると非常にわけが分からない定位になっていることを確認できるはずです。
そこでひらめいたのが、
弦全部の音をリバーブし、左右逆定位し。原音全部とまとめてコンプ。
これでいかにもDTM的な軽い定位(良く言えば「分離が良い」なのでしょうが)を避けて、アンビを良くも悪くも雑にスタジオ録音したような雰囲気になります。ときにはこういう汚しも大事。もちろん綺麗であることに越したことはありませんが、こういう加工をすることで量感を演出する方法もありです。
同様の「綺麗なミックスすぎてペラい音」は、安易なドラムシンセのパラ出しミックスで散見されます。マルチアウトで制御することよりも大事なのはアンビ、ルームマイク音をどう表現するかですし。
■打楽器と効果音
・ドラムセット。
相変わらずのAddictive Drums。2じゃなくて初代の。
GM配列で使えるテンプレにしたかったので、ADを複数台使わず1つだけで。
もうさんざん言われ続けていることだけれど、ADのキモはエンベロープとフィルター(赤)。
機能を確かめずにイメージ優先で使っている人が勘違いしているのを見聞きするんだけど、ADのEQはあくまでもEQです。ハイロー調節したいならFilterを使うのが正解です(緑)。フィルターはその名の通り「本来のフィルター」です。勘違いしやすい理由はレイアウトの悪さなわけですが。(でも非常にコンパクトにまとまって優れたレイアウトだとも言えます。私はこういう詰め込みレイアウトは嫌いじゃないです。)
その上でローエンドと相談しながらアンビを決めていくと良いはず(左下緑)。どうせ最終的にはミックスでローを狭くしたりトランジェントを使って仕上げていくので無意味と言えば無意味かもしれませんが。
音色感については黄色の囲み。3箇所の音量ルーチンをバランス良くまとめていくと納得の行くサウンドに持っていきやすいです。
で、ここまでやるといわゆる「先入観で嫌われるADの音」からはかなり遠くなります。
イメージ先行でとにかくパラ出ししたかる人が多いようですが、一回りして「そのまま出しで行ける」となっているのが今の私です。
・パーカッション。
UVI World系からいくつかと、いつものHALionのラテンで。
UVIは「そういや数年前になんとなく買ったけど、結局使ってない」という酷い扱いだったので、せっかくだから積極的に使ってみた。けど、正直いらん。
一方、「SE」じゃないHALionはパーカッション小物を個別に編集できるので本当に便利です。超軽いし。普通にポピュラー伴奏で使うくらいなら、バグってる上にサンプル音質がばらばらなUVI Worldよりも良いと思います。全Cubaseユーザーはなんだかわからない他社音源にユメを見るより、まずHALionのグレードを上げて「SEを卒業」みることを強くおすすめします。下の記事でも書いていますが、「HALion良いよ」と語られている時、それは付属SEの話ではありません。
eki-docomokirai.hatenablog.com
・あえて強い楽器を抜くアレンジ
10分2秒から。アウトロ途中から入ってくるバックビート補強用のビリついた革モノのパーカッション。楽器名は特定できませんが、こういうのを「ウィップ系」と呼ぶことがあります。正確には何なんだろうね。用法としてはアウトロでしか出てこない点がユニーク。もし歌の場面で入っていたら邪魔になると思う。
それなりのクオリティの耳コピをやってみることで、この曲はこういうちょっとした足し算と引き算が非常に上品だなぁということを認識できます。考えなしに「サビだから全部の楽器をONで派手に!」という脳筋プロダクションはよくありますが、適切に取捨選択するのがアレンジというものです。
特にこの曲はボーカルのサビ1拍目が無い「2拍開始」の曲なのでよく目立ちます。
他の場面だと、6分35秒。サビ頭にドラムセットのシンバルが無い。ループ時にはシンバルがあるので(8分33秒など)、意図的に抜き差ししていることが分かります。(動画音源制作時のミスで、それらのシンバルのトラックを含めるのを忘れてしまった。ということがこの記事を書いている時に発覚したので再制作しました。現在アップされているものはシンバルが正しくなっています。)
なんでそんな事故が起きたのかというと、簡易スタイルでの制作だったから。
1番と2番で同じ演奏をさせる「反復複製」で楽をして、2番の追加シンバルだけ別トラックで作っていたからです。(画像一番下のグレー)
ちゃんと作り込む時だと、最後に反復複製を解除して、最終的な演奏の細部を最適化するのですが、それをやっていません。
なおTV尺では1番ではなく2番が使われています。たぶん歌詞の都合です。たまにこういうのありますね。
で、2番が使われているのですが、オケは1番の「シンバル無し」に「2番の歌詞」というミックスになっています。
やはりシンバルがあると「曲が主役」になりすぎると判断したのでしょう。『人類は~』は 全体的に非常にソフトタッチな作品なので、サビだからと言ってジャーンと鳴ると世界観にそぐわないと判断したのだと思われます。
なんでもかんでもギターソロを入れるのがダサいのと同様、なんでもかんでもドラムセット的な演奏にするのもダサいということです。
折しもこの製作中に日本を代表するドラマー、村上秀一(村上ポンタ修一)の訃報が届きました。氏は自伝(「自暴自伝」 文藝春秋 2003年 ISBN4-16-365310-4)の中で
・一発もの
7分23秒。間奏に入る時のサブ低音太鼓。
打楽器打ち込み時に手近にあった適当な民族太鼓を使い、強烈なリバーブ等で制作。
間奏2、9分4秒のドンパン節になる部分でワイド感を出すために同じような太鼓を使っています。もっと大きくて良かったかも。
こういう工夫で単調なサウンドにならないように上手に組み立てる。単にバンド+ストリングスという編成だけではなく、締まったアレンジに聞かせるコツですね。
・シンセ、ランダムシーケンス
原曲ではシンセ効果音がところどころにわずかに入っていますが、いわゆる「汚し」用途なので割愛。
■Youtubeの著作権の概要とステータス
ちょっと興味深い判定だったので記録しておきます。
当該箇所は後半、2回目のメロありの部分。
AI判定がどのように行われているかが垣間見えます。オケ部分のみなら判定に触れることは無いということと、このくらい露骨に聞こえるメロディだと判定対象になるということ。
過去にアップしたアレンジ曲ではメロディも尺も同じでも著作権に関す連絡は来ていません。
これは引っかかってるんだけど、
なぜかこれは引っかからない。この微妙な差の間に境界線があるっぽい。
アレンジ内容はほぼ同じで、使用したストリングス音源と音量バランスの違いのみ。
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■関連記事
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