コードの考え方には「メロディはコード構成音から考える」というものがありますが、必ずしもそうではありません。メロディとコードを分離して考えた方が、より立体的なサウンドを実装しやすいです。
半分くらいは耳コピの話ですが、耳コピから学べる作曲技術という意味で参考にしていただければと思います。
(2021年5月11日~)
■何でもかんでもコードで考えない方が良い
GWのレッスンで「コードとメロディ特性音」という講義をしました。
それに関連した話をせっかくなのでブログネタにしておきます。
・ラロ・シフリン作曲『燃えよドラゴン』
有名な「アチョー!」という叫び声の入る曲。昭和のおっさんは大歓喜!
テーマは33秒から。
たとえばラロ・シフリンの代表作『燃えよドラゴン』(1973年)のテーマ曲冒頭。
簡単なので弾いてみてください。
(上スコアは見やすいように移調済み。原曲はGmキー)
楽譜読めない人のためにピアノロールも貼っておきます。
(上の数字、6とb7が逆です。すみません。)
洋楽的なシンプルなコードとベース。
そのサウンドの上に緊張感のあるメロディを乗せ、特徴的なF#を長く引っ張っています。
むやみにコードを変えるとサウンドが変わってしまい緊張感が失われるので、あえてまっすぐに書いているのでしょう。
もしこれをCm(#11)やCm7、Cm6というコードで鳴らしたら、メロディの意外性が失われてしまいます。
何でもかんでもテンションコードとして書くと、特徴的な音を伴奏が先に演奏してしまいネタバレになってしまう恐れがあります。
悪例として挙げると、何でもテンションとして理解しようとして、強引にF#dim7(b9)だと認識したとします。たしかにこの分析方法だと「b9のGが1のF#にリゾルブしたのである」と定義することはできます。しかし、この方法だとベースパターンが常に転回されていることになってしまうので不自然であると言わざるをえません。
ベースとメロディの2つのラインで作られる2声の和声として理解すれば、余計なテンション音を追加しなくて済むということです。何でもテンションで考えると遠回りになる上に余計な音がくっついてしまうので、そういう時はクラシック和声で考えた方が良いんです。もしくは何も考えないで適当に書いたほうがマシだとさえ言えます。
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これは映画テーマ曲なのでポピュラー作曲とは違うと反論したい人もいるかもしれませんが、そんなことは無いです。あえてコードをシンプルにすることでさまざまな効用を与えることもできます。テンションやスケールを一生懸命に勉強した上で、どの楽器で特性音を演奏させるかを追求することを忘れてはいけません。
・補足、多用な解釈の可能性について
これをdim、m3-5コードだと見ることも確かに可能です。
が、メロのラインから見れば、1、m3、P5、#4という音列なのは明らかです。
これを1,m3、P5、「b5」としてしまうと、5度が重複するのでやや苦しいです。
地盤を作るコードとしてはあくまでもminorで、そこに#4(=#11)が乗っている、と解釈した方が便利だと私は思います。
初歩のコードだけで考えていると、こういう自由で表現的なアイディアを初歩の理論で封じてしまうことになります。より高度な理論が何のためにあるのかと言うと、「よく分からない音に理由をこじつけるため」であるとさえ言えます。
■ラロ・シフリン『ミッション・インポッシブル』のテーマ
せっかくだからラロ・シフリンをもう一発。
ラロ・シフリンは他にもケレン味の強い映画テーマ曲を多く作曲しています。『燃えよドラゴン』はどぎつい映画なので見たことのない人も多いかもしれませんが、『スパイ大作戦』ことミッション・インポッシブルのテーマ曲は世代を問わず聞いたことがある人も多いことと思います。
初代。
シリーズアレンジまとめ。
1967年の原曲は特徴的な5拍子で、変な拍子の音楽を解説する際に多く引用されています。その後のリメイクでは4拍子にアレンジされたバージョンもあります。
なお個人的にはこの曲のキモは5拍子であること以上にボンゴの連打だと思っています。インパクトのある小物パーカッションアレンジの傑作だ!というアレンジャー視点からの主張です。ぜひアレンジによる印象の違いにも注目しつつ、さまざまなバージョンを楽しんでください。
「シンプルな伴奏とコード+そこに乗せられる奇天烈な特性音」。理論で考えると複雑なことをしているのに覚えやすいというラロ・シフリンの音楽の真骨頂です。
ぜひこの『スパイ大作戦』を少し耳コピしてみて、伴奏とメロディの合わせ技を習得してみてください。
その他の点としては、「インパクトのあるテーマ」「最初からとっておきのネタを聞かせる」ということも学べるはずです。
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ファミコン(NES)の3音+ノイズという最小限の音で再現されたバージョンもあります。耳コピ学習用にどうぞ。(動画1曲目のみ。他はゲームオリジナル曲)
・小ネタ1、『バイオフォースエイプ』の音楽が似てる
ところでこいつを聞いてくれ。問題の箇所は20秒から。
せっかくなのでアレンジした。
20秒からの第2主題。耳コピするとこう。
完全に『燃えよドラゴン』と一致しています。
「潜入と探索」「ド派手な格闘技」がテーマになっているファミコンゲームなので、恐らくは『燃えよドラゴンみたいな音楽で、もっと西洋っぽく』というオーダーだったのではないか?と想像できます。
完全に同じ音符が並ぶ部分がありますが、その他の部分は露骨に東洋的だった燃えよドラゴンに対し、非常に洋楽ナイズドされていることもわかります。ギリギリの線を行く上手いパクリだと思います。
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よく「ファミコンの音楽は耳コピ題材として良いよ」と言われています。
もちろん全てのファミコン音楽が耳コピして勉強する題材に値する価値を持つわけではなく、大半は音楽をよく分かっていないプログラマが雑に作っただけの音楽なので気をつけましょう。
良くできたファミコン音楽が耳コピ題材として優れている理由は、最小限の音で最大限のサウンドを出すためのテクニックが満載されており、なおかつ音が聞き取りやすいからです。
そういう点に注目して聞き、耳コピをやってみることで、「好きな音楽」と「よくできた音楽」を分けて考えることができるようになります。
・小ネタ2、いずれも参考曲がメキシカンフライヤー(1966)かもしれない
ケン・ウッドマン、1966年。スパイ大作戦の1年前です。
聞いてほしい箇所は1分~1分4秒。
『燃えよドラゴン』の譜例に挙げたdimと全く同じ音形がメキシカン・フライヤーにあるので、この辺が根っこにあるのかなぁとも思いますがどうでしょうか。
メキシカン・フライヤーは ゲーム『スペースチャンネル5』のテーマ曲として頭がおかしい級の密度でゴリ押しされているので、ぜひ堪能してほしいです。
■シリーズ記事
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