eki_docomokiraiの音楽制作ブログ

作編曲家のえきです。DTM/音楽制作で役立つTIPSを書いています。

NHK「地球大進化」サントラの話

地球大進化のサントラのお話を少し。先日の記事で「これは耳コピして勉強しろ!」とも書いたので。

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(2020年12月30日更新)

 

 

■本編見てた人いるのかなぁ

どちらかというと、ニコニコ動画が盛り上がっていた頃にイチローが地球滅亡させる動画で有名なんじゃないだろうか?

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www.nicovideo.jp

これは「地球大進化」で巨大隕石が衝突し、大量絶滅が起きるシーンのCGで、決してギャグシーンではありません。番組本編では非常にショッキングな絶滅シーンで、見ていて本当に悲しくなるレベルの超絶破壊CGです。

地球に住む生命体は、その発生も進化も、大きな災厄がきっかけとなっています。そしてこれほど壊滅的な打撃でも、生命体は絶滅はしない。強い!っていうことを教えてくれるドキュメンタリ番組でした。

NHKが嫌い、TVなんか見ない、という人が多くなってきているようですが、NHKの科学特番のクオリティは昔からとんでもないです。見てない人は大損してるとさえ思う。もちろんそこで使われている音楽のクオリティも異常。

地球大進化 オリジナル・サウンドトラック

先日の記事でも耳コピ推奨曲としてプッシュした傑作サントラ。

eki-docomokirai.hatenablog.com

 

新品は高いので買わなくて良いです。今確認したら5966円でした。

限定版じゃなくて良いなら、たぶんメルカリとかヤフオクにあると思います。ハードオフにもあるかもしれません。

(今見たらありませんでした。欲しい人は監視しましょう。)

■メインテーマ曲

www.youtube.com

耳コピで何を学べるか?

特にこの曲の耳コピに取り組んでみて欲しいのは、「オケ最高!」と思い込んでる人。

一見、一聴すると「オーケストラ曲か?」と思うかもしれないけれど、半分くらいはシンセサイザーの曲です。中規模の弦楽セクションと、限定された管楽器、そしてシンセサイザーシンセサイザーの音色は非常に多彩で、冨田勲 系とまでは行かないけれど管弦楽シミュレート系シンセ音色と、シンセドラム。あと、たぶんスペクトラソニックのサンプルフレーズでできている。(はず。)

そういう点を忠実にリメイクしてみることで、オケ+シンセサイザーの用法がつかめてくるはずなんです。

・当時の耳コピ晒し

勉強用に耳コピしてた時のデータが出てきたので晒す。 「完コピ」ではないので終盤のパーカッションなど、あちこち音が入ってないです。当時はDAWにオーディオを貼るという手段も無かったので、テンポ合わせなども全くやっていません。短いカセットテープにダビングして、巻き戻して音を確認して行うスタイルでやるしかなかった時代です。

soundcloud.com

 

■ファーストデモ版

で、サントラCDで特筆モノなのが、ボツ曲というか、試作曲が入っていること。音楽制作資料として非常に価値があると思ってる。

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オーケストレーションが施される前の段階を聞けるんです。

作家、マニア的にはこの曲がものすごく良い!

 

非常にゴージャスな気がしてしまう大迫力のサントラですが、生楽器の演奏人数は30人程度なので、映画超大作のサントラなどと比べるとコンパクトです。

シンセ版を聞くと、生楽器で補っている部分と、その質感が全体の印象をどう操作しているのかが良く分かる、ということです。

また、テーマ曲の締めくくり方が特徴的な曲です。このテクニカルな終わり方とそのタイミング制御が完成版でどのように微調整されているのか、それが映像用サントラとしてどのような機能性を獲得したのかを如実に示唆してくれるのがファーストデモ版です。

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TVドキュメンタリのサントラとしては異色の「音楽が強いサントラ」です。実際の放送での映像と音楽の合わせは非常に緻密で、感動的なレベルの完成度でした。

小さく弱々しい生き物が情けなく身を潜める姿を「あなたの先祖です」と語りかける、非常に感動的なドキュメンタリ番組でした。もし再放送があったら必見です。

 

 

■ちょっと内容を紹介

昔ほぼ完コピをやったんだけど、もうデータを持っていないので、テーマの部分だけピアノロール画像を作った。

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先日、サントラの分析&編曲談義があって、「もうちょいコード進行感が多い方が良いんじゃない?」などの意見がありましたが、私はこの手のサントラは「コードは少ないほうが良い」と主張しました。(というか、JPOP系、ボカロ系などで音楽をやり始めた人はコードにこだわりすぎだと思います。その割に機能性の無いつまらんコードワークばかりやっているのでなんだかなぁと思ったり。)

 

地球大進化のサントラ。テーマ曲。

基本となる7th系の順進行下降とテンションを伴うツーファイブが、ほぼ全編で共通している。

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この9系の突っ込み方が非常に悩ましい響きを出していて、特に最後のドミナントで#9からb9に降りていくギリギリなメロディは卓越しているなぁと感心させられる。

さらに12/8拍子で流れてきた音楽は、最後だけイーブン4連符で演奏されるので、時間軸的にもインパクトがある。

 

必要なのは複雑で珍妙なコードじゃなくて、まっすぐ流れている音楽がどのタイミングでひねった音で苦しめられるか?というタイミングに関するセンスなのだと改めて思う。

このメインテーマのコードとメロディを耳コピして、ちょっと分析してみるだけでもその破壊力を堪能できると思う。

 

シンプルな流れと、ひねったドミナントによる接続。これは「穏やかな日常と、唐突な災害」という生命進化のストーリーに即した作りを狙っているんだと思う。生命体は細々と生き、不可避な天変地異でほぼ全てが絶滅し、また地面の隙間から這い出てくる。それを繰り返すことで進化しているのだ、というのが番組の大筋。

 

他、イントロ部分の穏やかな部分のポリリズムっぽさのあるリズムシーケンスと、そこから急激にパワフルに鳴らす暴力性的なオーケストレーション

コードで書くと分かりにくいけど、楽譜やピアノロールで見れば非常にシンプル。

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こういうのはコードネーム一発で考えていると非常に書きにくい。

もしこういうのを書きたいなら、声部を分けたり、ラインを重視したスタイルで書いた方が良い。コードコード言うのやめたほうが良いよまじで。

主にこの2つの動機を変容(展開)させることでほぼ全ての曲ができています。テーマ曲のメロディに含まれる音の動きがいろいろな曲で断片的に再利用されています。

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そして急激なブレイクと、シンセ音。

わずか数秒に様々なアイディアを実装することで、ドキュメンタリの主軸となる「地球の天変地異」を表現している。

ドキュメンタリ本編の話の流れは、『地球が誕生してから微生物が生まれ、何度も絶望的な天変地異に襲われながらも、生命は新しい力を獲得して進化し私達に至っている』という大筋。

しかしそれらは今の私達と無関係な生物の歴史として客観的ではなく、「あなたが生まれるまでの物語」として語られる。

熱と光、様々な驚異によって支配者が絶滅しても、弱者はその弱さによって新しい世界を生き延びる。重要な進化にとって弱さは不可欠だ。

たとえば、生物は基本的に広い視野を確保するために目は左右についているし、敵に視線を読まれることを避けるために黒目が大きい。

しかし人類に至る進化とは、視野を狭くしてでも一点を精密に立体的に見る能力に特化し、コミュニケーションのために表情豊かな白目を獲得したことにある。そして最終回では、野生動物としては致命的な、人類の胎生繁殖についても語られる。

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この作品集は2004年。

壮大な映像に対する音楽が何でもかんでもエピック系になってしまう前の音楽だ。生命の進化が枝分かれするように、音楽の進化も枝分かれしている。ちゃんとメロディがあり、緩急のある音楽が、様々なジャンルのサウンドを適切なバランスで取り込んだ「地球大進化」の音楽に、少しの間で良いので真正面から取り組んでみてほしいなぁと思うんです。

 

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