耳コピの技術話。メロディの高速耳コピの作業手順について書いておきます。
(2021年3月5日)
■はじめに
耳コピはどんな方法でやっても結果さえ得られれば同じです。だったら速い方が良いです。いわゆる普通の方法だと時間を使ってしまい、疲れる割に成果が残りません。
DAWの各種編集機能を前提としたワークフローで高速化しましょう。
なお、今日の耳コピ曲はこれ。
以前にオケも含めて耳コピしたんだけどデータが無くなってた。ちょっと必要になったのでメロディを採譜します。
何か面白いアニメ無いかなぁと思っている人はぜひどーぞ。「生命体の価値は肉の味で決定する」などの斬新なギャグに満ちた非常にユニークな作品です。
この記事ではCubaseでの編集について書いていますが、他のDAWでも同じような操作ができるものが多いので、適時読み替えてください。もし「この操作って俺のDAWにあるのか?」と思ったら調べましょう。調べる時間を作りましょう。
■採譜の初手は「アタマだけ」
8分音符か16分音符で「音符のアタマ」だけをどんどん打ち込んでいきます。
長さはあとで作ります。無視無視。
この手順のメリットは長さをを完全に無視し、とにかく音程とタイミングだけを拾っていくことにあります。長さ編集をしない一点集中なのでスピーディに行えるはずです。
・シンプルな操作だけを使う
左手は「再生、停止、巻き戻し」を操作、右手はマウスで音符の位置だけ打ち込んでいきます。必要に応じて左手でUndoします。(人によってはマウスにUndoを仕込んでいるでしょう。)
操作をシンプルにすることで得られるメリットは大きいです。疲れている時でも平然とやれるのは特に大きなメリットです。
・エディタ画面のサイズを快適にしておく
また、狭い音域だけなので画面を縦に大きく使えるようにしておくと作業スピードはさらに上がります。作業の内容に応じてエディタ画面のサイズは必ず変えましょう。
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で、ワンコーラス作る。
隙間がありますが、気にしません。あとでつなげていきます。
このやり方の最大のメリットは「初めて聞く曲でもスピードが出せる」ということです。細かく再生・停止しながら聞こえた音を1つずつ入れていくだけだからです。
■巻き戻し操作
ある意味最重要な話。
あなたは再生位置を戻す時に
マウスを動かしていませんか?
この操作を今後一切やめるだけで、あなたの生涯DTM時間は数倍になります。今すぐやめましょう。
なお、上の小節数を表す細い部分の正しい名称は「ルーラー」です。
この「ルーラー」をクリックして再生戻し位置を毎回指定していると、アクションゲームをやっているような器用さが必要とされます。素早く正しく押せた時は嬉しいし、上手になった気分になってしまいます。が、そんな技術は音楽とは関係ありません。すげーイヤミったらしく言うと、人間の脳はそういう小さな成功によって快楽物質(ドーパミン※1後述補足)を分泌してしまう仕組みになっています。これを「報酬系」と言います。
この仕組を正しい行動の積み重ねのために活用していくなら素晴らしいのですが、残念なことに間違った行動でもドーパミンが分泌されて「やったぜ」という気持ちになってしまいうのが人間の性質です。(この辺についてはそのうち本を出す予定なのでゆっくりご期待ください。)
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とにかく!
「1小節移動」系は必ずショートカット化しておきましょう!
今すぐ!
他のDAWでも同様の操作はワンキーで行えるので、まっさきに覚えるべきです。
下はLogic、Studio one、FL Studioの初歩ショートカット紹介の記事です。ページ内検索で「小節」をどうぞ。
ただし、現代のDAWの問題として、これらの小節移動キーの初期設定が非常に押しにくい場所になっているという問題があります。
もしプレイステーションでDAWを使うとしたら、ならL1・R1ボタンでできて当然でしょう。
1小節移動は最も使用頻度が高い操作と言えるので、最も押しやすいキーにしておくべきです。それだけであなたのDAW操作は確実に速くなり、シューティングゲームではなく音楽制作として正しく接することができるようになります。
なお、DAWに操作における謝ったドーパミン報酬系は「マニアックなショートカットの場所を覚えている」とか「滅多に使わない変な名前のプラグインをすぐに取り出せた」いう無価値な行動でも誘発されると考えられます。本質的にどうでも良いことで一喜一憂せず、音楽でドーパミンを出すべきです。
※1、ドーパミンは快楽物質ではない、とする意見もあります。が、ここはそういうことを語ることを専門としていないので、広義の意味における快楽物質として記述しています。ご容赦願います。
・少し戻る操作
遅い曲で1小節の再生に数秒かかり煩わしく感じることがあります。そういう場合に備えて「無段階の巻き戻し」もショートカット化しておくと良いです。
言うまでもなく、これらの移動系ショートカットはメロディ耳コピだけではなく、あらゆる場面で常に活用できます。
ミックスでちょっと戻ってコンプのアタックタイムを確認する時や、マスタリングで曲の終わりの音の消え方をチェックする時にも大活躍します。音楽が時間芸術である以上、使わない場面は存在しない不動の四番打者だと言えるでしょう。
そんな重要な操作がデフォルトでは押しにくい場所に追いやられているのか?設計者を並べて小一時間問い詰めたいところです。要するにあいつらは音楽家ではないんですよ。
結局はフィジコンを売るために意図的に不便にしていわけで、そんな商売に踊らされるのが「音楽的」だとは思えないわけです。
たとえばこういうのを買わせようとする。
こんなの買わなくても、ショートカットをちょっといじれば卓上スペースも一切圧迫せずに済みますし。
「選んだ、買った、満足した」という機材収集でドーパミンを出してアヘ顔キメるのではなく、もっと音楽的なことで満足し、時には悔しがる方が「正しい」と思うんです。消費者になったら終わりですよマジで。
上みたいなのを使ったことがある人は誰でも知っているとおり、別に何も便利にはならないです。ぶっちゃけすぐ壊れるし。いつまで正常に動くか分からないガラクタを買うくらいなら、レッスン受けた方が一生モノのスキルが得られますよまじで。
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ギョーカイdisおわり。
話を戻す。
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■一括編集で隙間を埋める
はい、次。
一括編集「レガート」を使って
音符の隙間を埋め尽くします。
Cubaseでのコマンドは、ツールバーの「MIDI→機能→レガート」です。
頻繁に使う人はショートカット化しましょう。滅多に使わない人でも、たまに一撃で終わらせたいことが出てくるはずなので、こういう機能があったなーと軽く覚えておきましょう。
このようにベタベタに埋まったデータになります。
8割の曲は、
8割のメロディ音がつながっています。
音符の長さを1ずつ調節していくより、「一撃で8割正解」を作るほうが8割のケースで速いということです。
この状態から、必要な音符だけを短くしていきます。
■長さの調整
一括編集でつなげたので、全ての音符がつながってしまいます。
フレーズの切れ目や、短く演奏される音符を切断していきます。
「ナッジ編集」で指定した決められた長さだけ伸ばしたり短くします。
「音符を指定し、何回短くするか?」だけをスピーディに行っていきます。
すでにアタマだけの耳コピで曲を覚えているはずなので、長さのクセもなんとなく記憶にあるはずです。先読みしつつ編集していきます。
長さが正しく判別できないなら、それはつなげたままでOKです。
明らかにブレス(息)のために切れている箇所や、鋭く歌っている箇所をチェックすればOKです。
わずかに隙間を空けるなどの細かな編集は一切行いません。そういう加工は無意味です。
・まったく必要ない「音価指定」
テンキーや数字キーのすべてに「全音符」「4分音符」「16分音符」「64分音符」などのショートカットを指定している人がたまにいますが、考え方が根本的に間違っています。本当に必要なのは「長くする」「短くする」という汎用性のある2つの操作だけです。
音価というカテゴリだからズラーっと並べておくと整っているような気分になるのでしょうが、正解以外を押してはいけない、つまり「1つ以外はすべて間違いキー」という状態になっているだけです。
1つのキーを1つの目的にしか使えなくするのは誤りです。左手で押しにくいカーソルキーにこだわるのも間違いです。
・Cubaseのナッジ編集の問題点
Cubaseのナッジ編集は「現在選択されているグリッドの長さ」を1単位として行われます。ちょっとクセのある操作ですが、慣れると非常に汎用性の高い機能です。
注意点:Cubaseのナッジ編集は現時点では致命的なクソ仕様になっています。カーソルを「内容を固定してサイズ変更」にしていないと動作しません。
eki-docomokirai.hatenablog.com
また、レッスン動画などでツールバーの微調整ボタンを押せと言っている人がいますが、画面中央にある音符1つを編集するために、いちいちカーソルを画面上端まで持っていくとか正気じゃないです。そういうTIPSを書いている人たちは仕事で制作をしていないんじゃないかとさえ思っています。
ナッジ編集を使うなら必ずショートカット化しましょう。
使わないならマウスでザクザクやりましょう。(その場合は必ずエディタ画面を大きくし、音符に触りやすくしましょう。)
・長さ編集はショートカット化しておく
こういう作業をやる時は「ナッジ(nudge)編集」を使うと圧倒的に速いです。
マウスでドラッグしていると遅すぎます。
キーコマンド名が独特なので注意。テストしながらショートカット化しておくと良いでしょう。
・二度手間では?
「アタマだけ」「ベタにつなぐ」「短くする」という3工程でやるのは二度手間のようですが、長さ編集だけを一気に行うので、一貫性のあるデータを作れるというメリットがあります。もちろんダブルチェックも兼ねているので、1回目に行った音程とアタマのタイミングにミスがあっても、ここで修正できるので精度も高くなります。なにより作業が単純になるので、スピードを出しやすいし、集中力を必要としません。操作に使うキーもシンプルなので「音程を変える」「長さを直す」「聞き直す」などの操作を誰がやっても一切手元を見なくても行えます。
・一貫性のあるデータになる
長さだけについて作業をするので一貫性のあるデータとなり、これは後々扱いやすいです。
楽譜を作る必要がある場合には、聞こえる音の再現よりも記譜として適切な長さを心がけましょう。
■長さの微調整はしない
音符が聞こえやすくなるようにわずかに音符を短くする人がいますが、私の考えではまったく無意味です。
アタックが聞こえにくいなら聞こえやすい音色にすれば良いだけのことです。
隙間をあけると後々の編集で使いにくいMIDIデータになってしまい、二度手間になってしまいます。特にモノシンセでスラー(グライド)などの表現が必要になった際にとんでもない手間がかかります。ハモリを生成する際にも同様で、別の楽器にした時にその楽器にとって最適な長さを得るのが面倒になります。
特定の楽器に特化したデータにするとそういう問題が生じるので、序盤はベタなデータを作るためと割り切った方がトータルで速いと「私は」思います。
特に、楽譜を作る必要が生じる可能性があるなら絶対にベタの方が扱いやすいです。
■さいごに
もちろん訓練としては1フレーズを暗記するとか、良く聴き込んでから先読みしつつ採譜していくという方法もあります。が、超急ぐ時はそんなことしてらんないですよ。フレーズ暗記でやると絶対ミスするし。
もちろん事前に数回聞いているなら、その記憶を使って先読み入力していきます。
メール対応や軽い運動などをしながら1回聞いておくだけでも全然違います。
先々オケまで耳コピする必要があるなら、その楽器編成や登場順序をメモする時間に割り当てておくと先が楽になります。
余談ですが、ポピュラーアレンジの勉強をする場合、1曲を耳コピで音符を拾うよりも、たくさんの曲を聞いてその楽器の種類と組み合わせ、楽器の出入りをメモしまくった方が良い経験になります。ミックスも同じですね。
変に音符を拾う経験をしてしまうと、その知っている音に耳が引っ張られてしまい、隠れた地味な楽器に耳がいかなくなってしまうからです。
■宣伝、紹介
ショートカット化の方針などについては拙著『Cubaseカスタマイズの教科書』で死ぬほど書いています。
eki-docomokirai.hatenablog.com
この記事で口うるさく書いている話は、この本のほんの一部の引用にすぎません。
ぶっちゃけ書籍としては超高いですが、単発レッスンよりは安いしいつでも読めるので超コスパ良いですよ。ちゃんと実務でCubaseを使い続けた上で書いているので、そこらの音楽ライターが書いてる自称最強ガイドブックとかマニュアル以下の入門書とは次元が違います。と書いていて何の後ろめたさも出てこない自信作です。ある意味これは遺書かもしれない。
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