eki_docomokiraiの音楽制作ブログ

作編曲家のえきです。DTM/音楽制作で役立つTIPSを書いています。

多重リミッターの使い方

どこの定番リミッターが良いとか、新作は良いとかいう話題がありますが、私の結論では「ちょっとずつ多重がけ」が大正義です。どれを使うかではなく数でカバー。騙されたと思ってやってみろマジで。

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(2021年10月7日)(2023年6月23日更新)

 

■まず薄いリミッターを作る

リミッターは強くかけるとすぐ破綻するので軽く使うことを原則とする!

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10%上げ、OUTPUTはそのままゼロで。

神経質な人は5%とか3%でやっても良いです。(細かすぎても無意味になるので数本でOKかと。)

 

でもスレショルド以下だと単にフェーダーを上げているのと同じです。

下画像では最初の1回でスレショルド近くまで下げています。これで2本目以降がスレショルドに触れるようになり、無駄がありません。

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上画像の例では10段リミッターでは、出力を毎回-0.1しています。

スレショルドで0.6の音量を稼いで-0.1。都合0.5のゲインを得て、これを10回繰り返して5dBのゲインを稼いでいます。

 

・多重がけにする

Altドラッグとかでどんどんコピーする。

何も考えず10本くらいで良いです。

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・本数を減らして割れないところで止める

さすがに10本も使うと、絶対に破綻します。

そこで「バイパス(OFFボタン)」を使って破綻のない数まで減らして調整するんです。

 

つまりこの手法は「エフェクタの本数で制御する」方針ということです。

 

■リミッターを使う時のセッティング

大音量の部分を短くリピート再生しておくと良いです。

音の小さい部分はリミッターと関係ないので、常にリミッターのセッティングに関わる大音量部分だけを聞きながらやります。

 

要するにサビでやれ。

 

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曲の冒頭など、音量が小さい部分でテストして「こんなもんやろ」というやり方だと、サビで音が大きい部分で当然破綻します。

 

・インサートエフェクトのリンク(Cubase

実験時の設定。

Cubaseの場合はインサートエフェクトを「リンク」しておくと実験が楽になります。

1つのエフェクタ設定を変えると、他のトラックも同じ設定になります。

(パニングの「C」の上に見えているのがリンク設定です。)

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これで1つのリミッターを調節すると、他のリミッターも同じように数値が変わる状態になります。

これは実験時、耐久テスト用の設定です。実際には毎回こんな数のグループトラックを立ち上げる必要はありません

 

1本目でスレショルド近くを狙い、2本目でそこそこ音圧を稼ぎ、3本目で最終仕上げ、という3段階だけでも十分な効用が得られます。私が普段やっている方法はこちらです。

■多段がけにまつわる誤解

アナログ色付け=ノイズを付け足すタイプを多段がけするとどんどんノイズが増えてしまいます

たとえば昔大流行したPSP Vintage Warmer 2とか。

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また、マルチバンドも気をつけたほうが良いです。

バンドを分割した時の処理で絶対に位相がおかしくなるので気をつけましょう。

 

もしそういう色付けのあるタイプを使うなら、最終段に一発だけにしましょう。

 

↑原理的な価値観として「マルチバンドは最小回数」です。

なんどもマルチバンドを通した音が良いと感じるなら、それもアリかもしれません。

 

■結果

せっかくなのでL1を10本使った例をメーターブリッジで表示。

少しずつ音圧を稼いでいく状態が綺麗に可視化されていますね。

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左の4本あたりまでは間違いなく適切ですが、それより右に行くと徐々に過剰なリミッティングになっていきます。右の数本をキャンセルしたくらいが良いのではないでしょうか?という調節方法です。

 

■さいごに

万能ではないですし、無限に音圧を稼げるわけではありません。

そのリミッターの限界性能まで迫るための方法でしかありません。

限界音量やTP(トゥルーピーク)の処理方法はプラグインによって様々なので、結局のところ「良いリミッターを使った方が良い」ことに変わりはありません。

それでも、良いリミッターを3段くらいで小さく掛けていく方法は、良いリミッターの性能をさらに押し上げられる可能性があるので、「多段リミッター」は決して無駄な方法ではありません。

 

なおオススメはL316の3段掛け。

L3系は「L3にぶっこむのがマスタリングだ」という狂ったメソッドを生み出し、音圧戦争の権化として悪の代名詞となったリミッターです。しかし、薄く3回使うと非常に綺麗に仕上がります。古いリミッターですが、適切に使えばその完成度の高さを再確認できるはずです。持っている人はおためしあれ。

上で「マルチバンド複数は原理的な問題として崩れる」というようなことを書きましたが、マスタリングは結局不可逆的な破壊行為なので、実務としては「別にいいじゃん?」と思います。

 

ソレ以上のことができるならやれば良いと思います。

ここまで文章を書き進めてから言うのは卑怯だと思われるかもしれませんが、大前提として当ブログは「作家サイド」からの声です。作家の雑なマスタリングが、強烈な設定一発のリミッタでめちゃくちゃになっているよりは、多段リミッタの方が安定するよね?ということです。

 

■海外フォーラム

こういう議論もあったようです。

gearspace.com

試しもせず、イメージ先行で無意味だと論じている人もいるようですが。(私はこういうのを「論じる」ではなく、「願望、推測を吐いている」と揶揄することがあります。言及するならまず試そうよ。10分もかからずできる作業なんだし。)

やってみれば「あー、なるほどね」と思う部分がいくつか見つかるはずです。そういうテストの繰り返しから技術と知識が養われていくものだと私は考えています。わずかな隙間時間で、毎日10分の実験時間を積み重ねましょう。それを習慣化しましょう。

 

6dB稼ぐのを1発でやるか、2発でやるか。それだけでも優位な差を確認できるはずです。

(スレショ以下を上げるのはどういうやり方でも「音量を上げていくだけ」なので同じです。)

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