ダッキング用のプラグインってなかなか良いのが無いです。プラグインの特性がマッチする曲なら良いのですが、アリモノのプラグインではどうしても手が届かない状況も稀に良くあります。
ダッキングプラグイン難民を続けてプラグインを書い続けるより、ちょっと面倒だけど柔軟性のある実装方法をやってみましょう、というお話。実際便利。
(2022年5月4日更新)
■KICKSTART2発売記念アンチセール記事
古い方の、紫のKICKSTART(1)はシングルバンドでしたが、KICKSTART2では2バンド分割ができるようになりました!ようやくかよ!
発売記念セールで14ユーロで買えます。
・良い点
マルチバンド機能に加えて、任意のリズムでのダッキングも簡単に実装できるようになっています。はじめからやってくれ!
・悪い点
が、現時点(2022年4月22日)ではBPMの速い曲での4つ打ちオーディオトリガーに反応しないクソ仕様です。180でアウトでした。
BPM140ばかり量産している人なら問題無いでしょうが、汎用ダッキングトリガーとしてはまったく使い物になりません。
というわけで、ろくに試しもしないでゴミプラグインを買え買え言ってる乞食DTMブロガーとは違う俺様はアンチセール情報として有用なTIPSを公開するぜ!
■ダッキングがうまくいかない人へ
個人的には以下に示す方法がもっとも柔軟です。
組み込み方がちょっと特殊ですが、まさに「やりたい放題」です。
■変則的なルーチングを組む
まずドラム全体をセンドします。
が、センドされた音は一切発音しません。
EQでローだけを抽出し、これをトリガーにしてダッキングSCを行います。
これは専用プラグインが登場するまでは自力で実装されていたテクニックとして知られています。ルーチンをさらに多く分岐させてバンド分割を増やすと、もっと無茶ができるようになります。中音域トリガー、高音域トリガーを作る、ということです。さらに細かく分けてもかまいません。(現実的には2つか3つだけでも十分で、シングルバンドに比べると劇的な効果を得られます。)
ドラムセットの一括音でも、ドラムループでも、無加工でロートリガーとして使えるメリットがあります。
MIDIトリガーを書く必要もありません。
・SCのトリガーを複数にする
通常のTIPSだとトリガーは1つですが、ここでは同じダイナミックEQ(ベース)に対して3回送信します。
もちろん6重に送信することもできます。
送り先のダイナミックEQの特性にもよりますが、1回で大きく送るのと、複数送るのとではダッキング挙動が変わります。通常のSCではありえない速度で高速で下げることも可能になります。
・トランジェントでリリースを制御する
キック音(ロー音)をそのままトリガーにすると、「ドゥン!」と鳴っている間、ずっとトリガーされてしまいます。
普通の人が普通にコンプを使ってもそれっぽくならない原因はまさにこれ。
そこで、「ドゥン!」の「ド」だけに反応させるために、トランジェントでリリースを削り、「ド」だけをトリガーさせることを狙います。
どうせこのセンドトラックは発音しないので、トランジェントでめちゃくちゃに加工しても全く問題ありません。もちろんトランジェントも多重にしても大丈夫です。
ただし、トランジェントは万能でないので、上のEQとの組み合わせでいい感じにトリガーを整形しなければならないこともあります。ハードリミッターを併用するのも悪くはありません。
ガチのEDMだとこういうことをしないで、MIDIでトリガーを行ったりします。
■結果
センドのトリガー1本の場合。
ベースの落ちが甘いです。
ポピュラー音楽、バンドものなどであればこのくらいでも実用レベルですが、いかにもEDMなダッキングサウンドには届きません。
私が知る限り、ダイナミックEQ単体でのダッキングはほぼ例外なくこんな感じになってしまいます。
トリガー3本の場合。
深くダッキングできていますが、下がりっぱなしになってしまっています。過剰なので緩める必要がありますね。
トリガー3本+トランジェント
キックの低音テールが伸びているのに、ベースのリリースはお構いなしに持ち上がっていることを確認してください。アタックの瞬間にだけ反応して下がり、すぐに上がっている、ということです。
通常の実装では、キックの低音が「ドゥーン」と落ちている間、その全てがトリガーとして作用してしまい、ベースは落ちっぱなしになってしまうはずです。
アタックとリリースのタイミングはあちこちのエフェクタを操作して、良い感じにしてきましょう。手順は面倒ですが、まじで自由自在です。あらゆるソースを思い通りにダッキングさせることができます。
■Tr.Aの特定帯域からTr.Bの特定帯域に対してダッキングさせる
そういうことをやる専用プラグインがTrackspacerです。
これは32バンドが全自動で分割されます。さらにハイローパスフィルターを指定して、ダッキングで無視する帯域を指定できます。極めて優秀なプラグインですねホント。
なお価格は9000円弱。
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これをダイナミックEQで実装するとこうなります。
↓
まずボーカル音をセンド先で低音のみにして、それをソースにしてギターをSC。
もうひとつのVoからのセンドで高音だけを抽出し、「2つの異質なトリガーで2つのDynEQをSC」という状態を作ります。
(丁寧に1から10まで画像を作るのは面倒なのでカット。ちゃんとダッキングに興味がある人になら十分通じるはず、というかすでに知っているはずなので。)
(センドしたロー・ハイはルーチン先を無くすかボリュームをゼロにして、一切発音させません。)
下は結果。
ちょっとわかりにくいですが、Voの低音と高音それぞれの音量で、ギターの低音と高音が違ったダッキングを行っています。
さすがにTarckspacerの32トラックを再現するのは手間ですが、2分割でもかなり良い感じにできます。
そもそもTrackspacerのようなプラグインは手間のかかるルーチングを1つのプラグインでやっているだけなので、専用プラグインが無くても実装することは可能です。
さらに言うなら、この方法はTrackspacerよりも柔軟性があります。
ローは軽く反応させるだけで、ハイは強く反応させることが可能だからです。
本家Tackspacerは問答無用でワンノブオペレートされてしまい、過剰な反応をしてしまう欠点があります。使い方が明確なのはメリットと言えるのですが、「なんか削りすぎるなぁ」と思う人は多いはずです。
その点を完全に補うために作られているのがsmart:compです。
2000バンド分割という頭のおかしい設計で、完璧な「トラックスペース」を実現しようとしています。設定手順もそれなり以上に面倒です。価格は18000円ほど。
Smart:Compで現時点でのベストを目指すか、TrackSpacerで手軽に行くか、自力ルーチングで頑張るか。あなたのスタイルに応じてよりよいサウンドを目指しましょう!
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面倒ならTrackspacerのようなプラグインを買いましょう。実際便利。特にカラオケ+歌ミックスを作ることが多い人にはマストバイだと言えます。が、専用の道具が無くてもできますし、無かった時代からやる人はやっていました。やっていた人がいるから「じゃあ専用プラグイン作って売ろうか?」となっただけのことです。それは冒頭で紹介したKickstart系の自動ダッキングプラグインも同じです。
そしてそれは今この瞬間も変わりません。
既存のプラグインではできない音を、誰かが一生懸命に自力で作っています。
最新のサウンドを良く聞いてみると「これどうやって作ってるんだ?」と思う加工が見つかるはずです。(そういう加工を発見できないのであれば、『聞く能力』がまだ未熟だということです。)
キック音が「鳴ってから既存コンプで自動ダッキング」では、音量オートメを拍のわずかに前に書くことや、リールテープのヘッド配置によって「先読みダッキング」させた最新のダッキングは再現できませんでした。そういうのを自動でできるようにしたのが「先読みダッキング専用プラグイン」だった、というだけのことです。専用プラグインが出る前には、最先端のアーティストその華やかな姿とはかけ離れた地道なネクラ作業をし続けれていたんですよ。マジで。
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