元トラックの音量でリバーブをSCコンプする話。いわゆる「セルフダッキング」「セルフサイドチェイン」ってやつ。
(2021年6月14日)
■概要
「セルフダッキングリバーブ」「セルフサイドチェインリバーブ」などの呼ばれ方をしているリバーブの用法です。
メイン音によってリバーブをダッキングし、邪魔な時に鳴らさず、極端なテールを付ける方法です。当然ディレイでも使います。
てきとーな設定でやってみただけで「あぁ、こういう音あるね」と思うはずです。サウンド自体は別に新しいものでもなく、かなり昔から存在する手法です。
これは「他の楽器と共存させる意味での空間ミックス技術」ではありません。
「音色作りの一環」としてのリバーブ活用技術としてご理解ください。
極めてモダンな設計のリバーププラグインなら基本機能だけでできます。
古典的なリバーブとサイドチェインコンプを使うことでも実装できます。(モデルの個性として、もともと備わっていたものもあります。)
■古典的なプラグインでの実装方法
この記事で紹介するのは、「セルフサイドチェインリバーブ」とか、「セルフダッキングリバーブ」と呼ばれている方法です。
リバーブに対し、元のトラックからサイドチェインコンプを掛けます。
とかこの辺とか、
同様の手法はディレイでも使えます。
当然ディレイにリバーブを組み合わせた古典的なエフェクトチェーンでも有効です。
・ルーチン例
専用のリバーブを用意する必要があること以外は普通に実装できます。
余計なセンドやSCが絡んでいると、ルーチン違反になることがあります。もし失敗する場合には自動でセンドが挿入されていないかなどを確認しましょう。
■メリット
・大きな音でリバーブが悪目立ちしにくい
通常の方法ではセンドリバーブが追加されることで音量が大きくなってしまいます。SCリバーブではそれが抑制され、リッチな残響だけを付け加えることができます。
通常のセンド一発で追加したリバーブだと、原音が大きな音になる場面でリバーブも同じように大きくなってしまいます。原音が大きくなればSCコンプはより強くかかるので、不要な膨らみを抑制できます。
■プリディレイの代用として使える
リバーブのミックス手法として、プリディレイの設定があります。プリディレイ=ER(アーリーリフレクション)です。
--------------------
プリディレイを適度に(30ms~、もしくはもっと遅め)付けることにより、一瞬遅れてリバーブが追加され、豊かな音場が作れます。これは良く知られている基本的なリバーブ運用。
プリディレイの立ち上がりは結構大きなアタックで入ってしまうことがあります。この問題を防ぐためにSCコンプでリバーブの立ち上がりを傾斜させるということです。(リバーブのモデル特性にもよりますが)
SCコンプなので当然原音が大きいうちは抑え込まれ、原音が小さくなるとリバーブが大きく聞こえてくることになります。
一度やってみればわかりますが、プリディレイとは根本的に異質な音がします。
これを好きか嫌いかはあなた次第、曲次第、音色次第です。選択肢の1つとして持っておいて損は無いはずです。
■その他の用法
「ボーカルを幻想的な雰囲気にするために使われる」と紹介されることが多いのですが、アタックとリリースタイムの設定によってはパーカッションのグルーブに独特の抑揚を与えることができます。
他、様々な楽器に対して使える武器となるはずです。
■歴史は結構古い
古くから手動で音量調節による実装で使われています。
非常にリッチなリバーブがあるのにどうやって綺麗にまとめているんだろう?と思った曲を聞いたことがありませんか?
また、古いミックス手法として「リバーブ音だけのトラックを準備する」というやり方を見聞きしたことがある人もいるはずです。そういうリバーブ音のみのトラックに対して音量オートメを書くことで、フレーズ終わりだけを持ち上げたり幅を変えたり、様々な演出ができますよ、という手法です。併せて試してみてください。
--------------------
以下リバーブに関する駄文。
--------------------
■リバーブ談義の落とし穴
オーケストラミックスなどをする時や、ルーム感のシミュレートをするのであればERがコンマ何秒だとかを計算したりするアプローチがありますが、音楽的に必要なのはシミュレートではなく「欲しかったあの残響感」のはずです。
シミュレートをやりたいのか、表現をやりたいのかは切り分けて考えるべきです。頭でっかちになったり、明確な数字が出ているから信じたくなったりしたら黄色信号が点灯していると思った方が良いです。なお、道路交通法における黄色信号の意味は「注意」ではなく「止まれ」なので気をつけましょう。
同様のミックス談義の落とし穴として「リバーブは聞こえるかどうかくらいがちょうど良い」とか「マスタリングで持ち上がるから」などがあります。それってどういう音楽の、どんなサウンドを目指したミックス談義なのか確認してありますか?
音楽表現として、音色表現として使われるリバーブは「聞こえるかどうか」どころか、盛大な残響込みなのは言うまでもありません。
マスタリングで持ち上がるのが怖いなら、仮りの音量上げを行いながら制作し、最終的な仕上がり音量におけるリバーブ感を聞けば良いだけのことです。
・リバーブはセンドだけではない
リバーブはセンド一発設定で行うだけではありません。
差別化したい楽器のために専用のリバーブを用意することもあります。
インサートで使い「リバーブ込みの音色」として扱うこともあります。これはシンセ音色で特に顕著です。
「リバーブはセンドで使うものですよ」というのはそもそも機材の数の問題でしかありません。実機ではトラック数と同数のリバーブエフェクタを用意することが物理的に不可能なので、センドリバーブという仕組みが作られました。これは大発明、大人気となり一気に一般化しました。安いミキサーにも付いている機能ですね。
できることならトラック個別に専用のリバーブをインサートし、専用の設定をするべきです。でもそれをやるとあまりにもCPU負荷が高いので、目立たない「接着リバーブ」程度なら全トラックで同一設定のセンドを使えば必要十分だよね、というだけのことです。
EDMでは音色ごとに異なるリバーブ感が極めて積極的に活用されるようになり、インサートリバーブは一般化しました。これは同時代からCPU性能が上がったことと無関係ではありません。
日本国内のDTM話では「リバーブはセンドです」という教え方が一般的ですが、海外ではインサートが常識です。容赦なくポンポンインサートしています。(日本と海外などという雑な分類である点は説明を簡略化するためですのでご容赦ください。)
今どきの音楽を聞いていて「あの音どうなってんの?」という疑問が生じた際、必要なのは最新の高品質リバーブではなく、センドリバーブの卒業とルーチンの工夫です。
こういう音作りに特化したリバーブ(MUTANT reverb、MTurboReverb等、廉価版のLEでも可。)なら「セルフサイドチェインリバーブ」がワンタッチでできます。こういう音が必須で常用するなら買っておくべきでしょう。
でも、たまにしか使わないなら、専用エフェクタが無くても「あの音」は作れますよ、ということです。そもそも特殊なエフェクタの中身は複数のエフェクタを組み合わせただけのものが多く、得たい結果と、基本エフェクタとルーチンの原理をちゃんと理解していればどうにかなるものがほとんどです。
2分20秒過ぎからコンプによる変化の解説。
下動画では3分40秒過ぎから内蔵コンプによるダッキング処理を確認できます。
・ダッキング機能付きリバーブプラグイン
稀にリバーブにコンプがついているものもあります。
上の動画で紹介されているMTurboReverb(フル版)では複雑な実装手順でやっていますが、簡易的にダッキングしたいだけなら基本機能だけでも可能です。LE版でもできます。
SpacialカテゴリのEZ Reverbがそれで、左下のDUCKINGを上げるだけで一発でダッキングリバーブを鳴らせます。さすがMelda。分かってる。
ただし、戻りタイミングの速度までは制御できないので、緻密に設計したい場合には冒頭で紹介した方法や、上のMeldaを使った動画のようにしっかり組み込む必要があります。
・コンプ付きリバーブ?
名前だけで判断すると「それじゃない」コンプ効果のものもあるので、ちゃんとデモ版で確かめましょう。例えばToneboostersの新しいリバーブについてるコンプ機能は「リバーブ音の密度を上げる」ためのコンプです。ダッキング機能ではありません。
もし需要が多いならダッキングリバーブ機能を搭載したモデルも増えてくることでしょう。でも、今の所ほぼ存在しないので、自前でルーチンを組んでやる方法を身に着けた方がスマートでしょう。
--------------------
■検索用単語置き場
self side-chain reverb、self ducking reverb