eki_docomokiraiの音楽制作ブログ

作編曲家のえきです。DTM/音楽制作で役立つTIPSを書いています。

Cubaseのコードトラックが初心者向けとは思えない

Cubaseのコードトラックの対象者がどういうユーザーなのか未だに謎です。なお私はレッスンで預かったデータの変換目的以外にコードトラックを使ったことがありません。(機能テストはしていますが。)

(2022年11月28日更新)

 

■コードトラックからMIDIに変換&編集可能にする手順

1,プロジェクト→コードトラック→「コードをMIDIに変換」

2,インスペクタ→コード→ボイシングを「オフ」

 

詳細は分割記事として独立させました。
eki-docomokirai.hatenablog.com

 

 

以下、先にコードトラック機能のdisり、欠点指摘を書きます。

 

ひとことで言うと

「コードトラックは使うな」

です。

 

■やろうと思えばできなくはないけれど……

この記事ではコードトラック機能の不満点を書きます。

「適切な形でMIDI出力できない」

ボイシング機能がおそまつ」

「そもそも未熟な人が小節単位のコードだけで音楽を作ると先細りになる」

などの点に強い不満と危機感があります。

 

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ボイシング出力についてはがんばれば色々改善「できます」。

ただし、その出力内容があまりにもおそまつで非音楽的です。

機能の謳い文句は立派なのですが、とても音楽実務に立脚しているとは思えないクオリティなんです。

 

ボイシング出力は、

インスペクター、コード、ボイシング

の場所でいろいろ可能です。

ただ、初期状態があまりにも不親切です。

初心者向けのはずの機能なのになんでこんな状態なんでしょう。

 

■(欠点1)左手の音が右手では省略されてしまう

下は出力結果を見やすいように音程ごとに色分けしたもの。

ベースで使われている音程が上声の伴奏でオミットされてしまう欠陥があります。

例えば最初のAM7コードはベースがA1で、上3声にルートAがありません。

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このまま演奏させると、ピアノ伴奏の右手にルート音が含まれない状況が多発してしまいます。

 

これでは出音が貧弱になってしまいます。

 

たしかに、ある理屈の初歩に従えば「ルートは上声に入れない」ケースがありますが、それは音楽の流れや運指の都合によってやむを得ず省略するケースがほとんどです。「無条件に右手のルートを省く」というルールは存在しません。

この出力結果をそのままアレンジに持っていくと、上声が貧弱になります。実際、レッスンでそのようなデータを持ってくる人が複数います。そして、彼らはCubaseのコードトラック機能を使っていました。

 

ボイシングはインスペクタから設定変更して選択可能です。

が、いずれのボイシングも欠点があり、汎用的なMIDI出力ができません。

 

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これを解消するために、すべてのベース音を選択し、オクターブ上にコピペする。

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重複してしまう音もあるので、「重複ノートを解消」する。

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これで上3声にもルート音がしっかり含まれた使いやすい状態になります。(下画像)

 

新しめのCubaseはalt+クリック操作などでも重複のノートが発生しやすいので、このコマンドの使用頻度は激増しています。重複ノートを可視化する機能がいつまでたってもつかないのは本当に謎です。昔のMIDIシーケンサではたまにあったのですが。

レッスン等で預かったデータでも稀に良くノート重複が散見されるのでお前らも気をつけろマジで。

・「学習和声」は実際の音楽では使われない

クラシック和声的に書く場合には上声にルート音を入れない書き方があります。

が、そういうルールは「学習和声」「教科書的」という状況でしかありえません

御存知の通り、ポピュラー音楽ではベースに含まれる音をギターが演奏することがあります。(ギターの音から丁寧にベースのルート音を除去していたレッスン受講者もいました。特定の弦だけを鳴らさない演奏スタイルは事実上不可能です。)

たとえ純粋なクラシックでも「バイオリンやビオラコントラバスの音をすべて使用不能」となるわけではありません。

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・ピアノの場合

純粋にクラシカルな書き方をされているピアノ曲では右手の運指の都合で「ここは左手がルートを鳴らしているから、右手では省いて、もっとメロディアスな動きを優先しよう」となることはあります。

が、コード弾きするピアノ伴奏(コンピング演奏)では左手で演奏している音を右手で積極的に省略するスタイルは存在しません。左手ド、右手ドミソ、となるのが普通です。7thの場合は左手ド、右手ミソシとなることもありますが、多くの場合は右手もドミソシです。

 

きわめて繊細な場面ではルート重複を避けることが稀にありますが、ポピュラーの演奏スタイルでは右手にも左手のルート音を含めるケースの方が圧倒的に多いです。

ただし、テンションをふんだんに使った演奏スタイルではそもそもの演奏フォームとして右手にルートを入れる余裕がありません。本来ルートを押さえる指が2度下の7や2度上の9に変換されます。これはテンションサウンドのための右手ルート省略であって、その曲の中にトライアドが出てきたなら当然右手のルートが演奏されます。(これはギターのコードフォームも同様です。)

・ギターの場合

ギターも同様です。

ベースがドを演奏しているから5弦3フレットのCを省略して、ということはまずありません。

・ではどのような場合に「ルート省略」が使われるのか?

ジャズ(ビッグバンド)、ホーンを含む大編成バンドなどにアレンジされる際にはいわゆる「上モノ」楽器ではルートが演奏されることは稀です。

Cubaseのコードトラックから生成されるMIDIノート群はそういうジャンルを想定しているのかもしれません。

・コードそのものを見て演奏する楽器

そもそもコードが決まっているならギター(キーボード)は音符群ではなくコードを見て演奏します。なのでルート省略について考えることはありません。

問題になるのはMIDI打ち込みでギターやピアノを演奏する時です。

 

近年のCubaseボーカロイドとの連携やコードトラック機能の追加などで初心者への訴求を行っていますが、どうにもコードトラックの機能は初心者向けにチューンされているとは言い難い状態です。

 

 

■(欠点2)コードトラックから生成したデータは、すぐに加工ができない

紹介が前後しましたが、そもそもコードトラックから自動生成したデータはそのままでは編集ができません。

加工できる状態にするための手順は別記事として独立させました。

eki-docomokirai.hatenablog.com

 

他の作業では一切使わない専用の操作をしなければならず、その方法も初心者ではまず自力で見つけられないんじゃないかと思います。

コードトラックの支配下まま実用的な演奏が行われるなら良いのでしょうが、残念ながら「コードトラックを使って最後まで仕上げる」スタイルを研究しないとまともな曲には至りません。

 

コードトラックのみで仕上げていく方法ともなると、ますます初心者が自力で完遂することは不可能でしょう。上級者に質問しても「そんな機能は使ってない」「メモ程度なら使ってる」と返されるはずです。

 

Cubaseのバージョンアップによってコード機能が改善されていくかもしれませんが、だとするとバージョン変更によって過去のデータが資産価値を失います。

アルゴリズムに頼ったデータは役に立ちません。

 

 

同様の問題はオーディオトラック(ボーカルハモリ制作)でも生じます。

hybridsoundjournal.net

生成時に「コードトラックと連動させますか? Y/N」と出すだけで多くの人が時間を奪われずに済むのにね。もしくはイベント(リージョン)右クリックのメニューに出してくれるだけで多くの人が助かるはず。

「この定義はここからしか操作できません」というのが多すぎるのがCubaseの悪い点です。なので、上にも書いた通り

特殊機能のために新しい操作を覚えるくらいなら、和声や楽器の音域のひとつでも暗記した方が絶対に役立ちます。

ということに行き着くんです。

 

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Cubaseの悪い伝統として「一度追加した機能は保持したまま次のバージョンに行く」という方針があります。中途半端なまま事実上捨てられてしまった機能もいくつかあり、おそらくコードトラックも中途半端なままになるんじゃないかなぁと推測されます。

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