eki_docomokiraiの音楽制作ブログ

作編曲家のえきです。DTM/音楽制作で役立つTIPSを書いています。

『月光ソナタ』制作話。DTMサイド

 『月光ソナタ』の制作話。DTMサイド。MIDI打ち込み、シンセ、ミックス話など。 編曲と楽譜話は別記事にあります。

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(2020年11月14日更新)

 

■関連記事

編曲、楽譜の話はこちら。

楽譜販売はこちら。

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■動画はこちら

この動画の表示時間で話を進めていきます。別タブ表示推奨。

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MIDI打ち込み

たぶん時間順に紹介する、はず。

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デュレーションの制作

管楽器の打ち込みはベタで作ってから全部を短く加工。明確にスラーにする箇所だけ伸ばす、という手順で作ります。このやり方は十年以上まったく変えていません。めちゃ効率的。

動画40秒付近。

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・ベロシティとCC7

動画52秒付近。

高速上下の音量処理。

CCは同じ位置に無駄に書いてしまっているのはコピペミス。発音には影響がないので放置。

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大雑把に数段階に加工できるようにCubaseの設定を変更しています。ワンキーで変更できるので整った加工が瞬時に終わります。 

 

同じ動きは何度か出てくる。同様に処理。

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どこを強調するかは曲の展開と音域を考慮します。

単純に上の楽器は上強調、下の楽器は下強調にした。

実際の演奏でもそのようにすることが多いです。

・トリル

動画1分00秒付近。トリル。

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ベタ打ちでほぼ問題なし。

こういうタイプのトリルは最初の音を長くすると「らしい」感じになる。

テンポによっては速すぎるトリルがおかしくなるので、テンポが決まってから処理した方が良い仕上がりになる。ワークフロー重点。 

 

CC7は過剰にするとイヤミったらしい打ち込み音になるので、不慣れな人は最初は幅を大きく作っておいて、後で通し演奏を確認しながら幅調整の作業だけをやると良いです。

その都度ベストな音になるまで加工する人が多いですが、曲の流れが無くなります。よほどの管理能力が無いと偏った演奏になってしまいます。

これは実際の演奏でも同じようなものです。計画的に音量設計をしないと、すぐに大きすぎ・小さすぎる演奏に陥ってしまいます。同様に、ハンパな指導者もそういう設計ができない。いかにも学生的な演奏になってしまいます。

・無様だなおい

製作ミス。

同じフレーズのニュアンスの処理がおかしい。

「ンタタタ タタタラ」のニュアンス。

(時間指定無し、あちこち。)

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好意的に見れば「異なる奏者による差」と言えなくもないけど。

スピード制作ならコピペを使うべきか、場当たり的にショートカットで長さをちょいちょい変えるか、という迷いが見える。実に無様なデータです。急いで作るとこうなるよね、という実例。

・音量CC上げ時の発音ミス

無様その2。

上のは「ミスではないのでは?」と擁護できないことも無いのだが、次は完全なミス。弁明の余地なし。

動画、1分26、27秒。プリっと音が跳ねるのが聞こえるはずです。

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これは少し斜め(/)に処理し、目立たなくするのがベター。

 なお、完パケ納品先の担当者が音楽用語に疎い場合、というかハンパに詳しい場合、こういう音も「1分26秒にノイズがあります」「音が割れています」と言ってくることがあります。

専門用語を正確に扱えない人がミス音のことを「ノイズ」「音割れ」と呼ぶのは良くあることです。言っても仕方ないので、我々専門家が察してあげる必要があります。同業者どうしで愚痴を言い合っても何も解決しません。

逆に、私は先日某所で「そこフランジングしてますよ」と言ってしまい、全く理解されなかったこともあります。

・続き

クレシェンドの例外的な処理。

1分27秒付近。

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クレシェンド開始の音で強調する特殊な演奏解釈。

これは実際の演奏でも上手い人がたまに使う「疑似クレシェンド」です。が、そういう演奏法を指示・強要するのはやめましょう。そういう命令をして許されるのは演奏の師匠だけです。もしくはあなたにトレーニング担当者としての職権がある時だけです。奏者はマシーンではないので、彼らの演奏解釈を尊重し、褒めた方が良い結果への近道です。

でもMIDI打ち込み表現ではなんでも実装できるのでうまいことやりましょう。綺麗なCCラインを書くことにこだわるのは阿呆です。カラオケ納品以外では誰もあなたのMIDIデータを見ることはありません。出音と音楽の流れに集中しましょう。そういう積み重ねの結果「こういう場面では疑似クレシェンドが使えるぞ」と直感できるようになれるはずです。

 

65小節への入り方は事実上クレシェンドせず、軽いニュアンスでつなぐ。コードチェンジだけでそれなりのクレシェンド効果があるからです。

他の3パートはこう。

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個人的にはこういうナチュラルな表現は「プロっぽい演奏」だと思っています。単純に大きくしてしまうと幼稚な音楽、頑張りすぎてる学生っぽい演奏に聞こえてしまいます。そういうのが好きな人もいるようですが、私は皮を被っている頃からそういう演奏を避けるように心がけていたマセガキでした。

 

音というのは大きいほうが良く聞こえてしまうものです。

だからこそ、いかに音量を控え、本当に出すべき場面まで温存するか?という設計力が欠かせない、と私は考えています。そうしないと『のだめカンタービレ』に出てくるハリセン先生のような「二流のプロ」に陥る。

monchemin.exblog.jp

このドラマは時々考えさせられるシーンもあって
千秋がハリセン先生に
「お前の生徒はみんな同じ弾き方をするんだよ、フォルテ、フォルテ、コンフォーコって馬鹿の一つ覚えみたいに…」
と捨て台詞を吐き破門になる場面。
フォルテ、フォルテ、コンフォーコはイタリア語で、forte, forte, com fuoco
「強く、強く、火のように燃えて」と言うような意味です。

あるピアノ学習者があまりにも全曲通して「最強」で弾き通すもんだから
「君そんな音量で耳痛くならないの?」と先生にレッスンで言われてしまった…
という話を耳に挟んだことがあって、それを思い出しました。
音量って出ればいいってもんじゃないんです。
音が鳴れば映えるので、だんだんこうなっちゃうピアニストも結構いるようで。

DTM的に言えば、ミックス/マスタリングで音圧を追求するあまり、結局は平坦な音楽になってしまうのと似ています。

音量がどんどん上詰まりになってしまうのは自然なことなので、いかに下げるか?と考え続けるのが寛容です。

クラシック系の打ち込みでも、CCを書いて音量に変化をつけようと必死になるあまり、フワフワした音になっているだけ、という人も非常に多い。音を聞かずにイメージ先行でデータを作るひとがこうなりがちです。

ベタ打ちに対して適切な処理を最低限に施し、曲の流れを作る、という方針でやっているのが今回のような制作スタイルです。私はそう考え続けています。

 

 

 

話を元の時間に戻す。

1分50秒付近。2番チューバのメロディ。

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短い16分音符が聞こえないのでベロ上げで強調。最強のベロシティレイヤーを瞬間的に使っています。

これは管弦楽器の演奏で頻出する「短い音は聞こえにくいからきっちり鳴らす」演奏スタイルと同じ。聞こえる音と奏者(MIDI打ち込み)がやっていることは別です。

こういうことを分かっていないDTMクラオケの打ち込みは、短い音なのに同じベロシティで演奏させて「音源が良い悪い」という話になりがち、彼らは論点を間違えている。音の長さに応じて自動的に奏法を選択してくれるオケ音源は今の所存在しません。

・装飾音符の解釈

動画、2分53秒~

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上で解説した「短い音は大きく」の応用。

装飾音符は軽く、モチーフのリズムはしっかり聞かせる。

装飾音符の位置については古典を演奏をする人も楽理研究者も「前出し」「拍頭」という机上の二択にとらわれがちなんだけど、こういう演奏もあるよ、と紹介したかった。ガチめに古典の演奏実例を観察して模倣演奏&研究をしている人はこういうタイミングを使うことがあります。楽典の教科書どおりに演奏するわけではありません。

・スウェル

音符内の抑揚、swell。

英語圏の人もそう言ってるのでスウェルで合ってる。中学校でジャズ奏法として教わった。田舎の中学生にそういうことをちゃんと教える良い先生だったのだと今にして思う。

「スウェル」はジャズ用語とてい定着しているけれど、クラシックでも同じことをやる。ジャズだけのものではない。

 

動画、3分53秒付近。

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1番ユーフォニアムが動きを終えて、2番ユーフォニアムの動きを目立たせるために「スウェル」している。露骨に引きすぎず、リズム感、テンポ感を重視する。

なのでこういうスウェルの打ち込みはテンポが決まってからのほうが良い。最初からやるとテンポ感の無いスウェルになってしまう。作業の手順は本当に大事。「後でやるから今はベタで行く」という覚悟と、加工した音を聞かなくても作業を進められる想像力が大事。

 

単に「1拍後」にすると、テンポの速い部分ではおかしな演奏になってしまうから、「速い部分は1拍半、2拍でスウェル」にしなきゃいけない。

こういう要素はさっさとAI制御で自動化してほしい。

なお、クソ奏者はこういう配慮をしないで「べーーーーー」と同じ音量で伸ばして平然としている。つまり人間でさえそんなもんだからAIには無理か?いや、だからこそAIが人を上回るのか?今後に期待しましょう。

・特殊なカデンツ

次はスウェルと同じ奏法なんだけど、意味的には単なるクレシェンド。他の楽器の動きが無いからだ。

動画、4分5秒。

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エロいクレシェド。プロい。

要するにデクレシェンド、もしくは緩いフォルテピアノ奏法なんだけど、こういうのを何も指示しなくても綺麗にやれる奏者は本当に惚れ惚れする。

 

ここから先はいわゆる「カデンツァ」という部分。古典音楽の形式。

ja.wikipedia.org

これもテンポが完全に決まってからじゃないと音量処理を書いても無駄無駄。

通常のカデンツァは1人の奏者がやるものだけれど、今回の編曲はピアノソロ曲を管楽器四重奏にしているので、「4人でカデンツァをやれ」というアホな内容、いや、挑戦的な内容にした。

コレの演奏は人間4人では非常に困難になるので、参考演奏音源のテンポとタイミングはかなり丁寧に作った。数回聞いてもらえれば模倣は簡単なはず。

・今回の変態打ち込み

カデンツァの最後。

終盤4分15秒からの2番チューバの超低音域の処理では、こういう珍妙なCC処理をしています。

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ランダムに音量を変化させて「超低音域で安定しない感じ」を出しています。これをやらないと、いかにもオケシンセで演奏した「機械的でうますぎる不気味さ」になってしまう。

音程もランダムに乱す方法もありますが、サンプル音がすでにブレているのでそのまま採用しています。

■テンポ

以下、テンポ要素の話。

全景。

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1人でやるピアノと違うので、わりとストレートなテンポ設計にした。

ピアノソロは1人の意思と手癖でテンポが決まるけど、アンサンブルやオケではそれぞれの手癖でフレーズのテンポ感が変わってしまうと崩壊してしまう。テンポ変化をやりすぎず、シンプルな方向性を示す必要がある。もしくは「ここはこの奏者のテンポに寄り添う」というアンサンブル力が問われる。未熟な学生アンサンブルでは特に下級生がテンポをリードするべき場面なのに先輩の後ろに隠れようとしてしまうからアンサンブルが成立しない。そういうケースでは自主性についてレクチャーしてあげる必要がある。まぁこれは大人アマチュアでも同じか。

 

で、私が作るテンポ設計でたびたび登場する特殊な「a tempoまで徐々に戻す」 表現。

動画1分35秒~

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遅くなった後、いきなり元のテンポに戻すと、あまりにも機械的、幼稚に聞こえてしまう。実際、上手い指揮者はこういうことをします。

ややゆるく開始し、徐々に最適なテンポ感に向かっていく設計。これをやると、いきなりテンポが変わるよりもドライブ感が出るケースがある。全ての場面で効果的なわけではないので、バカの一つ覚えになってはいけない。

 

同じ処理をもうちょっと極端にやる再現部。

動画、2分45秒~

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階段状になっているのは拍単位でのテンポ制御。傾斜テンポを使うよりも整えやすい。

一箇所だけ跳ね上がっているのは序奏の最後、細かい音符が終わって「たららら、たららら~~ジャン、……ジャン。」と2段オチになる部分の隙間制御。

ここをインテンポで駆け抜けるか、隙間を開けるかについては諸論あります。私はこのくらいが一番良いと思ったからこうした、というだけのことです。

■シンセ

ユーフォニアムはハリオンのトロンボーンから捏造。

ビブラートもエンベロープもシンセ設定一発だのみ。長年使い続け、進化させ続けてきた自作プリセットなので、ほぼベタ打ちでもこのくらい鳴る。

どうせ打ち込み管楽器の音でソロ曲を完パケすることなんてありえないんだからこれで十分だと思ってる。

 

チューバはビエナ。レガートパッチのみ。

すでにビエナ内部のマトリクスをさんざん作り込んであるけど、レガートパッチがあまりにも良く出来ている音源なのが悩ましい。フルオケなら特殊な奏法パッチも出番があるのだけれど、こういうソロアンサンブル系だとパッチを変えると違和感の方が強くなってしまう。レガートパッチに頼るのが正解。のはず。

 

下で説明するミックス前準備の「バランシング」を音源内部でやる、つまりハリオンとビエナの音量傾斜の違いをシンセ数値で整えることもやればできるんだろうけど、あまりにも手間なのでやってない。エフェクタに頼った方が早いと思ってずっと放置している。及第点を満たしていればそれで良いでしょ?

■ミックス

個別にコンプを入れてバランシング。

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こういう調節をする際にはMeldaコンプの独壇場。カスタムシェイプという唯一無二の変態機能の本領発揮だ。DTMでクラシック系の制作をやる人は絶対に持っておくべきだし、無料版コンプも課金版にアップグレードしておくべき。

「バランシング」は楽器ごとの音量のバラつきを整え、同じベロシティ、同じCCで鳴らしたら、同じ音量が出るように整えておく準備作業のこと。(本来の意味はアナログ卓のゲインステージングを整えておく作業のこと。)

 

次にサチ。

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これもバランシングの一環。

通常のサチ、つまりワンノブオペレートや入力音量に問答無用で反応するタイプと違い、インプット音量と歪み具合を精密に制御できる。さすがMelda。このサチのおかげで金管らしいビビリ感も出てくる。サチュレータはある意味シンセだと思ってる。

 

ビビりを出した上でダイナミッックEQで低域のみコンプ。

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こうしないとチューバの低音が無駄にでかくなってしまう。

なお、上のToneboostersのEQにもアナログサチュレート機能が入っているのだけれど、非常に使い勝手が悪い。しかも挙動がおかしいし、問い合わせをしても「仕様です」的なことを言われた。

完成後にブログを書きながら何度か聞いていたら、低音が大きい時にもうちょい潰しても良かったと感じた。やらんけど。

なお入力音量別に圧縮比を作りたい時はToneboosters FLXの方が便利。本当に綺麗に整えることができる。

最近はToneboosters EQ4をデフォルトEQに据えているのでFLXは使用頻度が下がっていますが、FLXは文句なしに優れたダイナミックEQです。そのうち可愛がってやろう。

 

eki-docomokirai.hatenablog.com

 

 

最後にインサートリバーブし、定位を決定。

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60-20-20-60。たまたま均等に40毎になったけど、チューバはもうちょい離れた音場でも良かったかもしれない。直さないけど。

 

なお、いわゆる「ミックス」的な価値観だけで行くとチューバを外にした方が分離が良いんだけど、ユーフォニアム・チューバの四重奏はチューバが右か内側になるものなのでやめ。

ユーフォニアム2人を左に2人配置するのが標準的だけれど、個人的には音を差別化するために両端に配置し、ベルの向きを明確に変えたほうが良好だと思ってる。往々にしてチューバの強奏が突出してしまう編成だから、チューバの音を殺すためにベルを客席に向けたくない。

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以上をグループにまとめてからマスター音量を決める。

シングルコンプ1,色付コンプ1、20以下ローカット、リミッタ。

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バーブは仮制作時の全体用。最後はオフにするか、全体に対して軽く使うことがある。ユーフォニアムテューバ四重奏の場合はOFFで良い。

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・リミッタ

「お前まだL3なんか使ってるの?プギャー」と笑う人がいるかもしれないけど、今こそL316は見直されるべきだと思ってる。実際めちゃくちゃ綺麗。

入力前にちゃんとした2mixになっていれば何の問題もない出力をする優れたリミッターです。みんなも久々に引っ張り出してみれば?簡易リミッタとしてなら最近流行ってるOzoneのリミッタより絶対使いやすいから

一昔前まではL3はあまりにもヘビーなエフェクタだったから「常時使うのは無理」という認識が広まったようだけれど、今どきのPC性能ならむしろ軽いんじゃないかと思うくらい。Ozoneと違って落ちることも無いし。

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