eki_docomokiraiの音楽制作ブログ

作編曲家のえきです。DTM/音楽制作で役立つTIPSを書いています。

『月の光』ユーフォニアムチューバ四重奏を作りました

最近ピアノ勉強おさらいついでに出版用アレンジを幾つか作っていて、そのうちの1つ。「なんかピアノの有名な曲で、ET4に合いそうなの無いかなぁ?」と某人に尋ねたら『月の光』と即答されたので作った。

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(2021年1月1日更新)

 

 

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■音源と原曲

youtu.be

 

原曲の演奏はこちら。あえてVinheteiroことファブリシオ氏の演奏で。定点カメラで手元が良く見えるし良いよね。

www.youtube.com

かんたんな箇所では目線をカメラに向けることを芸にしている人なので、ピアノ演奏上での難易度もわかりやすい利点がある。非ピアノ奏者としては極めて良い資料になります。

■アレンジにあたっての難点

原曲はピアノ広い音域をうまく活用した音楽。

これを管楽器用に編曲すると、とにかく音域の制御が難しい。

 

ユーフォニアム・チューバ四重奏(ET4)は音域が狭い。いや、管楽器アンサンブルとしては広いと言えなくもないんだけど、何しろ低音なのでLI(ロウワーインターバルリミット)の制約が大きい。

現代曲に足を突っ込んだ「作曲」ならそういう音域を死ぬほど使える優れた編成ではあるんだけど、『月の光』のような露骨にきれいな曲では、とにかく音域が苦しい。

この手の編曲では、というか、あらゆる作編曲がそうなのだけれど、まずメロディの最高音を決めるために移調をする。

で、この曲の場合はそれが非常に苦しいことになる。なぜなら低音の和音の濁り(ロウアー・インターヴァル・リミット)もあるから。

フレーズ単位で上下の音域を決めていくと、盛り上がるべき次のフレーズで音域が下がってしまう。

そこの攻略はチューバにメロディを移動させることで解決した。また、音量処理を原曲と大きく変えることで、音域ではなく音量でシーンを作る方針にした。

 


という感じで3回試作している。まじで。

 

・メロディラインの「折り曲げ」

上が原曲。下が編曲後。

(動画冒頭から)

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『月の光』のメロディは上からゆっくりと降りてくるライン。

これをユーフォニアムでやろうとすると、とてつもなく高い音域から開始するか、エグい低音まで潜ることになってしまう。

ので、音域移動をしても奏法的に乱れにくい中音域で「折り曲げ」に編曲することにした。

 

この書き方は他の楽器でもあるし、ボーカルカヴァー曲でも頻繁に出てくる。

とはいえ、ボーカルカヴァーの場合はまず例外なく「え?そこで下がるの?」という違和感が強い。特に女性ボーカルで頻出するクソアレンジ。あえて例は出さないけれど、最高音によって決定するキーと、折り曲げによる実装がどう考えてもおかしいだろ!?というものが本当に多い。

確かに「折り曲げ」という編曲テクニックは便利だ。でも、多角的に考えて慎重に実装しないと曲の良さを一撃で破壊してしまいかねない麻薬的なテクニックだということを忘れないでほしいんです。

 

で、最初のメロディを実音D開始にすると、その後のメロディの展開や受け渡しなどが綺麗に収まる。

・最高音はどこ?

41小節。Calmatoの前の2回くりかされる下降部分が最高音(編曲語、実音Bb)

(動画2分15秒~)

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原曲は上2声+伴奏がアルペジオだけれど、あえて上を3声、下ロングトーンという形にした。

ピアノの高音は伸びが無いので低音からのアルペジオで音圧を作るが、編曲先の編成では上声の伸びが非常に強いので、下で動き回られると曲の雰囲気が壊れる。

そりゃまぁ「原典主義」なら低音の細かさを求めるんだろうけど。仮に「低音の細かさ」「チューバ的に可能な、静かな動き」とすると、アルペジオをやめてスケール移動ということになる。それってもう『月の光』のイメージではなく、テクニカルな曲になってしまわないか?と思うんです。どうせモゴモゴした音になるし。

そういう「チューバでもこのくらい動けるぜ!」的なのは、連作として作った『革命エチュード』と『月光ソナタ』にまかせてある。

なお、音符をそのまま置き換えるのは専門用語で「アレンジ」ではなく「トランスクリプション」と呼びます。アレンジ先の楽器の特性などを入念に考えるのがアレンジのあるべき姿です。

 

ここで最高音を使って、今度は「折り曲げ」無しで音域をどんどん下げて中低音域へ。

これによって原曲で最もダイナミクスが大きい部分からcalmato(穏やかに)に続くダイナミクス変化をナチュラルに実装できます。

calmatoの最後はオリジナルの旋律を追加。

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原曲はアルペジオが持続している場面ですが、そういう動きで静かさを表現するのは無理なので、チューバの中高音のシンプルなラインを強調することで雰囲気を作った。

で、曲は冒頭の実音Dからのメロディに戻る。

もしここで超高音からのメロディだったら、雰囲気を維持することができないはず。冒頭の「折り曲げ」による中音域のメロディにしたことは、この再現部でも効果的になっています。

すげえな俺。うまいじゃん。うん。

「アレンジって何?」という初心者の疑問に対して『音域です』と即答した木村氏の言葉は正しいんだよ。細かな音符やテクニックを書くことではなく、曲と楽器にとって最適な音域を慎重に選択することは何よりも重要。

少なくとも「この調はこういう意味がある」などと思考停止している連中にはこういうアレンジは絶対にできない。楽器に対して無茶な音域を押し付けてしまう。

 

 

オリジナルの動きは他にも数カ所追加した。 

原曲はこう。タメを使った広い音域のアルペジオ。まさにピアノ的。

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そんなことを管楽器でなぞっても全く無意味なので、こうした。

(動画1分20秒あたり~)

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いわゆる「ベルトーン」という管楽器アレンジの書き方でルーズなリズムを作る。

 

その後はチューバの中高音域の独特のサウンドを使ったメロディに受け渡す。

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管楽器アンサンブル向け、というかフルオケもそうなんだけど、メロディを別の楽器でやった方が良い場面は積極的にバトンタッチさせてシーンを変えた方がよい。でもそこを勘違いしているアレンジは非常に多く、バトンタッチさせる理由が「他の楽器も活躍させたいから」というナンセンスな理由になっているケースが本当に多い。これは吹奏楽という文化圏の悪習だと思っています。

■編成の利点を活かす

とにかくパワフルな音が出るのがET4のストロングポイント。

他、短めのメロディはこの上なく綺麗に演奏できる楽器なので、原曲に無いパッセージを散りばめた。あくまでも原曲の雰囲気に沿っているので、違和感は無いはず。

単なる音符の置き換えと削減ではピアノに劣るので、どこかで優れた点を出したいと思って制作しています。

■編成の弱点

上述の音域の他、楽器が巨大なので息が持たない。そりゃ奏者は白玉を一生懸命にギリギリまで演奏してくれるんだけど、伸ばすことが精一杯になりがち。比較で言えば、チェロやコンバスのような表現力が無い。

原曲のフレーズを可能な段階まで細分化し、細かいフレーズで歌う曲として再構築しました。

■その他

気が向いたら画像追加など、追記します。

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