(2021年1月15日更新)
■『舟歌』をユーフォニアム・チューバ四重奏に編曲しました
チャイコフスキーの『四季』Op.37a
「6月:舟歌」
12の月を描写した曲集の一節です。
楽譜はこちら。
暗く哀愁に満ちた曲。中間部では一瞬明るい場面もあります。
「ユーフォニアム・チューバ四重奏にしたら良さそうなピアノ定番曲無いっすか?」とアイルランドのピアニスト知人に相談したら「これどうよ」と推薦された曲です。
ピアノ曲にたまにある多声的な楽曲であることと、美しいメロディを持つこと、変化に富んだ内容による推薦でした。
曲の印象は「なんで6月の初夏がこんなに陰鬱なんだ。中二病か?」と感じる人も多いのではないでしょうか。
当時のロシアは「ユリウス歴」のものなので、今日のこよみとは若干ズレるとされています。が、「12月」はクリスマスの曲ですし、「10月」は「秋の歌」ですし「1月」は「暖炉」ですから、6月はやはり初夏ということになります。ユリウス歴だからと言って、この「6月」を物憂い落ち葉の季節と結びつけることはできません。
涼しいロシアの夏とは言え、6月という初夏にこんな陰鬱な曲を当てはめるあたり、お国柄なのかなぁと考えさせられます。あちらの国では夏よりも収穫の秋の方が明るい曲が多い印象がありますが、どうでしょうか。たとえばグラズノフの『四季』に登場する「秋」は底抜けに明るく、愛情あふれる内容でしたし。
(「秋」は26分から。)
Alexander Glazunov - The Seasons
せっかくなので知っておいてほしいのは、このグラズノフの「秋」のadagio部分の美しさ。30分29秒から。あらゆる音楽の中でも指折りに好きな場面なんです。中学生の頃に初めて聞いて心底感動したものです。
■アレンジ内容
ピアノ原曲の第一主題はこう。
右手のメロディに、左手は低音伴奏とカウンターライン。右手に戻って内声を充実させる和音群。ピアノ曲としては極めて繊細な、指1本1本の表現力が問われる内容であることが分かります。
ピアノ曲というよりは明らかに合奏を前提とした他声的な内容ですね。
それをこう編曲した。
(一番上のみト音。in Bb。他はヘ音C記譜。)
最初はシンプルな編曲にしていたのですが、物足りなさと説得力不足を感じたのでトリルを多用する方向性に加工しました。その後は2番チューバにもトリルが登場します。
低音金管楽器の独特のトリル感をどう扱うか?ということが演奏上の課題となります。彼らが静かな雰囲気の曲でトリルを扱うことは極めて稀なので、多種多様な解釈の余地が生まれることと思います。低いメロディがしっかり聞こえるように抑えた音量
メロディは実音Bb、いわゆる「下のBb」から開始する低い音域です。
後々出てくる高い音のメロディとの対比が非常に強く出る設計です。
チューバの伴奏はチューバ的には中音域で音量コントロールも容易なので、サウンドは良好にまとめやすいはずです。
腐心した箇所はここ。32小節から少し明るくなる第2主題。
原曲どおりに伴奏の音域をずらすと、チューバ的にはサウンドが変わりすぎてしまいます。あえれ同音だけにするアレンジで雰囲気を重視しました。
また、4分27秒から。
原曲のちょっと聞きづらい部分。
チューバ1の高音域をカウンターにし、他は明確な和音に。差別化した音に編曲し、ピアノでは表現しきれない他声的な構造を明確に打ち出しました。
途中の中音域が入り組んだ部分も大胆に削除し、長い和音とカウンターのラインのみに変更しました。
ピアノという「減衰音の楽器」の特性上、サウンドの充実のためにどうしても音符が増えてしまうことがあるので、音の伸びる楽器での演奏ならそれほど音符を動かさなくても良いと考えたからです。
もちろんもっと大きな編成で多彩な音色があるなら原曲の音符をすべて採用した上で、さらに要素を追加することもありますが、今回の編成では動かさないほうがベターだと判断したということです。
このように「編曲先の編成に特化したアレンジ」をやっているので、安直に別編成に置き換えることができないのが商売的につらい部分です。が、やっぱりベストな曲を作りたいというエゴの方が上です。
■関連記事
eki-docomokirai.hatenablog.com