有名なピアノ曲をユーフォニアム2+バスチューバ2の四重奏に編曲しました。サムネ楽譜の曲です。楽譜を読めない人でも聞けば「これ知ってる!」ってなるはず。今回はDTM打ち込み話は無しで、生演奏用アレンジの話100%です。
(2020年10月29日更新)
■楽譜販売中です!
ユーフォニアム2、チューバ2。
他にも英国式金管バンドの楽器用の楽譜も同梱してあります。
Ebテナーホーン、バリトン、Ebバスを混在させた演奏も可能です。
■アレンジ音源動画
第三楽章のみです。ピアノ原曲はアツくて死ぬ。
説明終わり。知りたい人は後でいっぱい調べてね!
ピアノの再現を目指す安易な編曲ではなく、金管楽器的に再解釈して大幅に改変しています。「これはこれでアリかな」と思って貰えれば幸いです。「クソアンレジだ」と思った人はピアノを聞けば良いと思います。「俺のほうがうまくアレンジできる」と思った人は、大変お手数ですがぜひご連絡をお願いいたします。教わりたいです。
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■DTM的な技術話は別記事で。
DTM(コンピューター音楽、DAW)の製作技術話は別記事にしました。
eki-docomokirai.hatenablog.com
■編曲の内容
難易度はかなり高め。
個別の楽器としては音大生程度で問題なく演奏できるレベルですが、4人のアンサンブル、タイミング合わせ(いわゆる「縦の合わせ」)は相当難しい内容だと思います。
上手く演奏できれば拍手喝采間違いなし!
・アレンジの需要先
原曲は非常に有名な、やや難しいピアノ曲。
使用アンサンブルグループのレパートリーとして効果的です。タイトルだけでお客さんを呼べる強みがあります。も「低音金管楽器でこんなにできるんだ!」というインパクトを与えることができるでしょう。
演奏時間が5分以内なので、各種アンサンブルコンクールでも使用できます。
時間を掛けてじっくり取り組めば、思ったより難しくはないと気がつくはずです。
・冒頭のアレ
有名な冒頭の高速アルペジオ。強烈な開始はベートーベンの真骨頂!
ピアノ版はこう。
ピアノ1人で大迫力で演奏する姿は本当に見栄えします。
それをユーフォニアム2人+チューバ2人でこうやる。
この書き方を思いついたのが編曲開始のきっかけでした。
4人の連携プレイ。鈍足なイメージの楽器がこういうのをやるとインパクトがある。
仮に1人でやると(できないこともないが)、どんなに上手い人でも苦しい感じになってしまう。情熱的でなければならないのでベストな編曲だと思います。
最初のフレーズのキメ。
ピアノの奏法的に非常に困難なのが「たららら、たららら~~ジャン!ジャン!」の後、低音に戻る部分。あまり上手くない人が弾くと、隙間ができてしまう。
自然に開いてしまう隙間。それはそれでアツいとは思うのだけれど、ピアニストの美学には反するのだそうだ。その楽器が苦手な部分をスムーズに演奏してこそなのだ、とのこと。
・タメるべきか、スピーディに行くべきか?
同様の価値観は、序奏が一段落した部分、初めて動きが止まるところの入り方でも問われるらしい。
最後の小節。
1拍目から、2拍目の低音にテンポ通りスピーディに行くのがピアニストの価値観として「クール」なのだそうだ。
1人では困難な箇所も、管楽器4人での演奏ならインテンポで演奏できます。ピアニストが聞いても「月光の3楽章はこうあるべきだ!」と納得してもらえる、はず。だと良いな。
で、アレンジ先では、
1つ目の細かい音符の部分は4人で手分けして絶対にスピーディになるように書き、2つ目の「止まる部分」はこうアレンジしました。
ここを手前で明確に遅くしていく(rit.)指示を書きつつ、チューバの超低音を鈍く鳴らすように書いたんです。死ぬほど上手いチューバ奏者じゃないと、この音域をタイトに出すことはできない。でもその未熟さ、普通さ、そして音域差によるアタックタイミングのズレが「アツさ」を生む仕掛けを作った、ということです。
また、ピアノは減衰音の楽器なので長い音符で書いてありますが、チューバで伸ばすと本当に伸びてしまうので、残響を活かすことを考慮して短い音符にしてあります。
原曲どおりの音価で編曲を記譜することに意味は無いと考えています。
だって、例えばさっきの部分も、
2小節目の音価、位置をそのままアレンジ先の楽器でやらせたら、絶対おかしなことになるでしょ?原曲はピアノで演奏する運指上の都合から右手をバタバタさせているだけなのは明らかだし。こういうのを管楽器でそのままやらせたらおかしいじゃん。
その「右手バタバタ」が不要になり、なおかつ16音符の要素が消えていくなら、スピード落として行った方が自然じゃん?
・多様な演奏解釈
で、問いたい。
そういう内輪の価値観は、外の人間からすれば「これはこれで良くねーか?」と判断されてしまうことがある。整いすぎているより、ちょいブサの方が魅力的だとは思わないか?
私はタメを作ってダイナミックな振る舞いをした方が「アツい」と感じている。ピアノ演奏における腕のアクション、見た目としてはタメがあったほうがダイナミックに見えるんじゃないかなと思います。
事実、この曲の弦楽合奏版などではタメのある演奏が行われています。(この記事の終盤にリンクがあります。)やはりピアノ以外の人にとって、この場面はタメが欲しいということです。
・より金管楽器的に
動画では0分40秒~
ピアノ版は細かいトリルと装飾音符。実にピアノ的。
でも、オクターブ引きながらトリルは大変だよね。実に難曲。
下。アレンジでは3度ハモと、明確な16分音符で金管的にした。
ここで初めて3度メロが登場するので、非常にヒロイックに聞こえるはず。金管アンサンブルならではの「クサい」サウンドがようやく出てくる。
この部分で4つの16分音符が引き立つように、少し手前の第2主題は装飾を省き、素朴なユーフォニアム(2番奏者)に担当させています。
・Ebバスやテナーホーンも想定したアレンジ
英国式金管バンドの楽器も
ピアノ版ではこう。
右手で3和音のハモリ。この重ねた書き方は『月光ソナタ』の全三楽章の中でもここだけ。指揮者的な分析をするなら「その曲で一度しか無い場面」なので強調したい。とっておきのサウンドが欲しい。
アレンジ。動画では2分12秒からの静かな部分。
ユーフォニアム・チューバ四重奏で頻出するこの書き方。大きなバスチューバのハモりはどうしても持て余したサウンドになってしまいがちです。個人的には小型のEbバスなどがベストだと思っています。しかも3度音程なので丁寧な演奏が求められます。ET四重奏における1stチューバのセンスが問われる難しい場面です。
(もしこの場面がしっくり行かないなら、2ndユーフォが1stチューバの楽譜を演奏し、1stチューバを休みにする、というのも悪くありません。単に1stチューバを休みにすると、3度音程がなくなってしまい、サウンド的に良くないからです。削るなら5度音程の2ndユーフォ、ということです。)
なので、今回の出版譜には1番チューバの代わりに小型のEbバス用のパート譜も同梱しました。
「Ebバス」というのは、いわゆる吹奏楽部にある大きな「バスチューバ」ではない、小さいチューバ。
イギリス式の金管バンドでは、大きいのから小さいのまで、中間サイズを非常に細かく編成します。完全4度、完全5度の間隔である意味ギターの弦のようです。
で、通常の「ユーフォニアム・チューバ四重奏」は一番大きいチューバ2つが使われます。1つのチューバを小さいチューバに入れ替えることも稀にあるので、そういう編成も想定しています。
ともかく、小さいチューバがいるだけでET四重奏のサウンドは極めて良好になりますよ、ということです。件の3和音ハモリも非常に良いサウンドに仕上がります。
閑話休題。
・金管バンド楽器用のパート譜も同梱した。
「じゃあEbバスのパート譜も作るか。」と思ったので制作。
ちゃんと金管バンド記譜でト音Eb。
せっかくだから、ユーフォニアム1番をEbテナーホーン用にしたパート譜も作っておいた。
ついでにユーフォニアム1はト音とヘ音の2種類。金管バンド奏者も安心。バリトンでもOK。
実際このアレンジはイギリス式金管バンド的なものを想定して作ったのでちょうど良いはず。金管バンドの金管ってこういう動きするでしょ?
例えば、動画3分17秒過ぎなど、
原曲ではこういう動きだけど、
音列を変えて金管楽器に最適化させてあります。
金管アレンジでよくある書き換え方。
こういう場面を原曲の音列のまま管楽器にやらせるとほぼ演奏不能になってしまいます。ちゃんと考えて作ってるんだよ!ということでヨロシク!
超高速だけど、キーと音域をちゃんと考慮してあるので、思ったより難しくないはずです。どうせごまかし気味にスピード重視で演奏するべきだし。
1stチューバのCes(Cb)のからむ運指が困難なら替え指3を使えば楽勝。この点については楽譜に運指を書いてあげるべきか迷ったけど、こういう曲に挑戦するレベルの奏者なら12→3替え指くらい常用するよね?ということで割愛してあります。
・カデンツァの編曲
ド派手なソロ曲には欠かせない、自由裁量のカデンツァ部もアレンジに含めました。
下は元のピアノ版。
ETの四重奏版。動画では3分40秒過ぎから。
オリジナルの展開を挿入し、より金管楽器らしさを押し出しつつ、出自がピアノ曲であることを証明するかのような超幅広のパッセージ。それを4人のコンビネーションで演奏する型破りな「多人数カデンツァ」として仕上げました。良いアピールができる箇所になることと思います。
冒頭の分散コンビネーションとの一貫性もあり、曲芸演奏をアピールできます。
積極的なテンポ変動をして、楽譜の音価よりもカデンツァらしい目まぐるしい展開を4人で演奏して欲しい場面です。
この場面に限らず、テンポの動かし方についてはコンピューター演奏による参考演奏を参考にしてみてください。クラシック系の参考演奏をコンピュータで作る際、テンポについてはいつもかなり入念に作っているので、十分な資料になるはずです。
最後の低い2番チューバはこの後さらに低い音域へ、常用音域を突破していきます。縁の下がラスト付近で低音曲芸をやる渋さ。これこそチューバ奏者の求めているひねくれた欲求のはず。チューバに求められるのは高い音じゃなくてこういうエグい超低音ですよ。勝手に書き足しても構わないので、エグい低音を聞かせてやりましょう。
■他の人の作った別編成アレンジ
弦楽小編成
マリンバデュオ
私個人としてはどちらもイマイチだと思う。
弦楽の方は、序奏部分のアレンジはトレモロだと安定しすぎていて情熱感に欠ける。演奏面では長い音のメロディの解釈が原曲の楽譜のアーティキュレーションに囚われすぎていて、弦楽器の良さがスポイルされていると感じます。
マリンバの方は、原曲の音符配置に囚われすぎている。もし私が書くなら単音トレモロによる伸びのあるメロディ演奏を主軸にしたい。
と、謙虚さ無しに偉そうに書くと「てめー何様だ!」と、これまた謙虚さの無いインターネット正義マンが匿名で批判してきそう。
でもさ、そういう「俺様ならこうする!」というエゴが無いなら音楽を作るのをやめて聞くだけにした方が良いと思うんですよ。マジで。
すでにあるもので満足したり、名曲だから手を付けない、楽譜はそのまま演奏する、という考え方は音楽を志す人の態度ではないと思うんです。みんなどんどん作ろうぜ!
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