eki_docomokiraiの音楽制作ブログ

作編曲家のえきです。DTM/音楽制作で役立つTIPSを書いています。

『ローマの松』(クラシック曲のMIDI演奏)

長々と作ってきた『ローマの松』を完成にしました。

趣味の制作はやっているとキリが無いです。何しろ音楽には終わりがないですから。(コンテストや仕事なら締め切りがある。)

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(2022年5月17日更新。鳥シンセの話を追記。)

総演奏時間は20分半。

ダイナミクスレンジを狭くして作ったので聞きやすいと思います。

今回の曲では特に静かな部分をしっかり作り込むということが目標だったので、有名な4楽章のラスト目的よりも、地味な3楽章の仕上がりを聞いてもらえればなーと。

■動画

ニコニコ動画

www.nicovideo.jp

 

http://www.nicovideo.jp/watch/sm32046513

Soundcloud版(音声のみ)

soundcloud.com

https://soundcloud.com/ekieki/roma_all

 

Youtube

(ニコ動と同じ)

youtu.be

■フルスコア(楽譜)

楽譜はIMSLPのものを使用しています。
http://imslp.org/wiki/Pini_di_Roma_(Respighi%2C_Ottorino)

 

 

■演奏に使用したオーケストラ音源

・VIENNA SPECIAL EDITION VOL.1 BUNDLE

http://sonicwire.com/product/35520

・HALion Symphonic

https://japan.steinberg.net/jp/products/vst/halion_symphonic_orchestra/details.html

・HALion SONIC

https://japan.steinberg.net/jp/products/vst/halion/comparison.html(ページ無し)

・Pianoteq5

http://www.minet.jp/brand/modartt/top/

 

主にViennaの音です。

弦、木、金、打でViennaを4つ立ち上げています。

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マトリクスは全て自分専用にカスタマイズ済みです。

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HALion Symphonicは弦レイヤー、ブラスの一部とレイヤー、バンダ、パーカッションの一部。

ピアノはPianoteq5です。

HALion SONICはチェレスタの一部の演奏とラチェットのために使っています(1楽章のカリカリした音のパーカッション)

チェレスタGM音色。

ラチェットはPop Latin Kitのタンボリン(否タンリン、サンバ用楽器の方)の音を使い、フレックスフレーザー(画像下側)でめちゃくちゃな速さで自動連打させることでカリカリさせています。これだけだと均一にカカカカと鳴るだけでした。そこでディレイとビブラートエフェクトを使うことでいい具合に回転感を出すことができたので、これは今回の制作で一番満足しているポイントです。

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■演奏解釈について

幾つかの箇所で楽譜に指定の無い演奏解釈をしています。

 

他、MIDI演奏ならではの演出を狙ったものと、MIDI演奏では不要なレイヤー(楽器重ね)の削除などです。演奏解釈を自由にやりやすいのもMIDI演奏ならではです。誰も文句を言わないので。

 

・1楽章のトランペット

1楽章のトランペットのミュート指示の箇所を変更しています。緑で囲んだ箇所をミュート無し(Via. Sord.)にしました。これはフリッツ・ライナーの演奏解釈を模倣したものです。ミュート無しの方が音量バランスが良好です。

本来であれば右ページの赤◯までミュート付きです。

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同、トランペット。1楽章終盤。オーラスに向かう前の長い音に抑揚<>をつけています。これもフリッツ・ライナーの演奏を模したものです。

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この抑揚があった方がオーラスに向かうスピード感が出ますし、トランペットらしい活躍を明るい1楽章で与えておくことで、最後の最後まで活躍する箇所の無いトランペットの鳴る箇所を増やすことで、曲全体がクリアーな印象になる、と考えます。

 

・2楽章のキメどころの処理

一番音が大きい部分に入る直前などの処理を、一般的な演奏とは違うものにしました。

6:49と7:28のパーカッションを強調する方針にしました。

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ズドンと入るシネマティックな雰囲気に。

 

・2楽章終盤のバスクラリネットの裁断

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画像の1~3小節と同様に、4小節目もリズムに従わせています。

でも原曲の書き方は、低音木管リード楽器がタンギングした際に不快な音になることが多いので巧妙だと感じます。MIDI打ち込みなのでノーミス演奏できるので関係ないけどね!

 

・3楽章のクラリネットソロのポルタメント

原曲にはありません。

MIDI演奏による淡白さを打ち消すための演出を数か所に追加しました。

A管クラリネットの運指都合もちゃんと配慮してあります。

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・3楽章の最後のクラリネットの延長

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シンセバンザイ。実際の楽器でも循環呼吸ロングトーンで可能ではあります。

また、MIDI打ち込み的にはバイオリンの細いトリル音がよろしくないので補強(隠蔽)する目的も持たせています。

 

・4楽章の引っ掛け16分音符

昔の独裁指揮者風の解釈でかなり引き付けた処理にしています。

それに合わせてファンファーレ系の音を異常にタイトな演奏にしています。

この引き付け具合を適時変化させることでテンポ感を演出しています。

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 トランペットの1番奏者はかなり独特な演奏をさせています。もっとアドルフ・ハーセスっぽくブッ飛んだ演奏にしようかと思ったのですが、ただのヘタクソな演奏にしかならないのが目に見えているのでほどほどにしました。

 

■チューバの扱いと、楽器指定の大雑把さについて

今回のMIDI演奏では最終的にチューバを使うことにしました。

この曲のチューバ本来はトロンボーン4番として書かれており、当時のイタリアンオーケストラの風習としてチンバッソを使用するべき、という歴史的・地理的な解釈があります。

今日ではオーケストラの一般的な編成に従ってバスチューバを使うことが多いことに異議を唱え「そこはチンバッソだろ?」と主張する人がいます。このMIDIデータを制作している最中にもニコニコ生放送で作業をしていたところ、そうした意見をいただきました。

金管の最低音担当をチューバにするかチンバッソにするか、バストロンボーンにするのかは、様々な意味において今日もっともアツい話題のひとつだと思います。

 

・チンバッソって何?

まだまだマイナーな楽器です。

わかりやすく言うと、バルブ付きのトロンボーンで高機動です。

チューバのように拡散してしまう音ではなく、トロンボーンと同等の細い管でできているので細く芯の通った鋭いサウンドです。

 

チンバッソはイタリアでオペラが大流行した時代に、舞台下の狭いオーケストラピットで演奏しやすい低音楽器として使用されました。

www.jinbao.jp

 

下の画像、左がオーケストラピット。右が普通のコンサートホールです。ピットがいかに狭いかが分かります。

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この状況ではスライドを伸ばすトロンボーンは物理的に演奏できませんでした。

主役がオペラ役者なのでオーケストラはあくまでもBGMの生演奏をする脇役。そのオーケストラの中でも音を出す頻度が低い割に空間を物理的に広く欲するトロンボーンは文字通り捻じ曲げられてしまったわけです。

チューバも同様に音を出す場面が少ないですオーケストラのベース担当はコントラバスが9割、たまにチューバが追加される程度だと考えておいてほぼ間違いないです。

登場機会のわりに場所を専有しすぎることから省スペースで同等のサウンドを出せるチンバッソが重宝されました。また、当時普及したチンバッソのために作曲が行われました。要するに「トロンボーンのスライド操作では不可能な高速運指」が可能になったわけです。

なお、今日では一般的になっているクラシック演奏の指示用語のほとんどは当時のイタリアで発明されたものです。オペラの表現のために楽譜にいろいろな指示を文字で書いたわけです。

様々な表現記述が求められ普及した一方、イタリアオペラは編成については非常に窮屈だったという矛盾があります。この矛盾から、編成についてはイタリアンクラシックは無頓着だった、と類推できます。(自由な楽譜+不自由な編成)

 

フルスコア上でもTrba. IVと指定されており、低音金管楽器に対する無頓着さが伺えます。低音金管の4番、という程度の認識だったのかもしれません。

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楽器指定について無頓着である理由は同じ画像の中だけでも確認できます。

上画像の下段の「P.」はPiatto、が1枚サスペンド、複数形のPiattiで2枚の合わせペア・シンバルのことです。

 

しかしPiatti(1枚)のままなのにトリル指定があったりもします。

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これは明らかにサスペンデッド・シンバル(Piatto)で演奏されるべきです。

 

たしかにペア・シンバルにもロール奏法は存在します。(接触したまま円形にこすり続ける。アメリカのコー・スタイル・マーチングショーで稀に良く使われる)。しかしこの奏法はあくまでも効果音的な目的で使用されるものでしかなく、クラシカルな演奏で要求されるような安定した音は出せません。ナンセンスです。

www.youtube.com

どう考えてもサスペンデッドシンバル(Piatto)を指定するべき箇所です。

他、1楽章では2Piatti Piccoli(小さい合わせシンバル)と細かく指定されているのに、どうしてサスペンダーとペアの表記をしっかり行わないのか?という点からも無頓着さが伺えます。

 

で、編成に対する無頓着さについて述べたので、話をトロンボーン/チンバッソ/チューバの話に戻します。

 

イタリアオペラの曲では確かにトロンボーンでは完全に演奏不能で、チンバッソでなければならない曲があります。

しかし、この『ローマの松』のトロンボーンの演奏内容はどれもスライド・トロンボーンで容易に演奏できるものであり、音域的にもFバルブ付きトロンボーンでカバーできるものです。

パート譜も作曲年(1924年)の翌年、1925年(MCMXXV年)に制作されたもので、楽器名はTUBA BASSAと指定されています。

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どう考えても特にチンバッソを指定したかった意図が伺えませんので、チューバで良いんじゃないでしょうかねぇ。

なお『ローマの松』は1924年の作品で、それ以前のレスピーギの作品ではTuba Bassaと明確に指定しているものもあります。以降の大編成の代表作『シバの女王ベルキス』でも、あれだけの規模のわりにトロンボーン4本の指定のみだったりします。

 

なおクラシック界隈にはマイナー楽器を偏愛する人たちがいて「そこはチンバッソだろ」とか「ユーフォニアムで」とか言う人がいます。有名なのはユーフォニアムの運用箇所を増やしたいがために、歴史的・地理的背景を無視して、なんでもかんでもユーフォニアムでやりたがるんです。ユーフォニアムバリトンでもテナーバスでもなくユーフォニアムである根拠は円錐感のテーパー角からくるサウンドの違いであり、もし彼らがユーフォニアムと他楽器の違いを主張するのだとすれば、逆に、「そこはユーフォニアムではなくフレンチバスだろ?」と言うべきなのですが。

近年ではチンバッソの使用例を増やしたいがために、なんでもかんでもチンバッソに置き換えたがる人たちがいるようですので、今後の暗躍にご期待ください。

まー私個人としてもチンバッソの音はすばらしいと思います。チューバだと太くてボヤける音がタイトにまとまるからです。

なお、せっかくなのでチンバッソ話を追記しておくと、近年の映画音楽のサントラではチンバッソ指定が頻繁に行われるようになってきています。たしかにハンス・ジマー以降のモダンな映画音楽の中ではボヤけるチューバよりも鋭いチンバッソサウンドの方が合っています。

これに呼応する形で、オケ系シンセの中にもチンバッソの音が収録されるようになってきています(EastWest Hollywood BrassSPITFIRE SYMPHONIC BRASS)。こういうシネマティック対応編成のシンセ音源知識から誤解したDTM専業の人がいて「チンバッソはオケに普通に入っている楽器だ」「オケにチンバッソがいないとかおかしくね」などと主張しています。普段からチンバッソのいる環境で仕事をしているオケマンが世界に何人くらいいるのか、常任チンバッソ奏者の在籍するオーケストラが世界にいくつあるのか、チンバッソの指導を常時行っている音楽学校がいくつあるのか教えて欲しいものです。具体的に。

 

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話を戻す。

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■ミックス

原則的にスコア準拠で全パートをパラレルアウトしています。

  • ステレオ位相調節 - (Voxengo Sound Delay)
  • 4系統のリバーブ -(Reverenceで3種、True Verb)
  • 他、普通にミックス

聞いてのとおり、ダイナミクスは意図的にかなり狭くしてあります。

各楽器を深めにコンプした上で、グループバスにまとめてからダイナミックEQで突出整えつつアップワードし、プリマスターでは3段階でマルチバンドコンプ/リミッターです。

ほぼ全ての楽器は各楽器の段階でかなり強めにローカットされています。

あまりにもダイナミクスレンジが広い曲ということと、普段クラシックをちゃんと聞かない人向けの加工でもあります。ボリューム調節をしなくても中間部の静かな部分もすんなり聞けるはずです。

 

壮絶なローカット。

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さんざん使ってきた経験から、Viennaはこれで良いと思う。殆どの楽器を思い切りローカットした方が良いです。もちろん同社の専用ミックスツールMIR を使っている人はこういうことをしなくても良いのかもしれませんが、こうしないとホールリバーブで低音がめちゃくちゃになる。

部分的にはオートメーションでさらにカットしています。

オートメーションは部分的にソロ楽器のハイ上げや、残響止めにも使っています。

 

似たような理由から、やたらとドライで収録されているViennaのチェレスタやピアノはハンマー音がキツすぎて、通常の方法だと使い物になりません。(今回の制作では、チェレスタはハリオンGM、ピアノはPianoteqを使用しています。)

 

グループは楽器カテゴリどおり簡潔にまとめています。

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まとめた上でTonebooster FLX(ダイナミックEQ)で各帯域を制御しています。

 

バーブは各個別トラックから複数種のリバーブにセンドした上で、グループバスでインサートのリバーブを2種使っています。ルーム系で丸める処理をしてからホール系にインサート。

なお、他の曲の場合にはインサートリバーブの後にダイナミックEQで均すこともあるのですが、今回は生コンサートっぽさを重視するため、リバーブの手前で均しています。

 

また、バス系楽器は通常のオケでは右バスですが、原則的にセンター定位にし、聞きやすいミックスにしています。このあたりはシネマティック系に寄せた感じです。最後にバンダ(ファンファーレ隊)が左右に入ってくることや、大音響で音圧が必要になることもあり、センター定位の方が良いかなと。

 

 

MIDI打ち込み 

ミックス話を先に書いたのは、先にそこそこ以上にミックス/マスタリングを済ませた状態で細部の打ち込みを仕上げる手順だからです。この手の曲を後からミックスするやり方にするとろくでもないことになりますよ、まじで。

 

打ち込み的には割りと普通ですが、何しろ長いので統合性を取るために計画的に作業しています。

まずベタ打ちの状態を作り、ベロシティレイヤーをそれっぽく組み立てつつキースイッチ割当て。音量は一切考えず、レイヤーによって出るサウンドと音の伸び具合だけを考慮。それから音量バランス。大音量の部分とソロの部分で主役が良好かつ余力のあるサウンドを出せるようにしておいてから、伴奏群は弦楽器のバランスを重視して組み立てます。

たいていのオケ音源シンセはそのままだと木管が大きすぎるので最後に添える程度に。

 

と思って計画的にやっていたものの、どうしても破綻する場面が多発し、バランスとりだけで相当な時間がかかってしまいました。短い曲ならどうとでもなるのですが、20分超という曲でバランス取り直しになると非常に手間です。特にこういうダイナミクスレンジが広く、構造が大きい曲の場合は大変です。

小さい曲集の場合はそれこそアルバムマスタリングで音量はどうとでもなるのですが、それをこの曲でやってしまうと、4楽章より2楽章の方が大きいという事態になりかねません。

 

仕上がってきた後で苦労したのはMIDI CCとキースイッチの読み落とし問題。

全体を通しての統合性を重視したかったので、一次オーディオ化をしたのはレイヤーのハリオン弦だけでした。

そういう工程だったのでメモリは常に14GBくらいを専有し続けていました。

 

 

上に挙げたクラリネットのソロと同じ画像で、右下のB3音が白くなっています。

これは2本のクラリネットで担当音を変えている箇所です。

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ViennaのLegatoパッチ等は連続音になるとロングトーンで息切れしてしまう謎仕様です。

これを回避しようとすると普通はSustainパッチで演奏させることになるのですが、それだとあまりにもニュアンスがおかしくなってしまうので「何が何でもpのLegatoで!」という願望のために変則的な打ち込み技術を使っています。やる箇所はほんの数カ所だけなので、「やる。」と決めてしまえば数分で終わります。

 

 

ニゾンでピッチベンドをわずかにずらすテクニックも使っています。

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これはユニゾンで完全に音程が同じになりすぎて、逆に違和感が生じてしまう箇所の補正目的です。

 

他のユニゾン関連のテクニックは2楽章終盤のホルンです。

画像を重ねて透過させてみました。

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2トラックで大音と中音のレイヤーを異なる音量で重ね、強引なクロスフェード処理をしています。どの音源でも使える古典的なテクニックです。「え?おかしな音になるんじゃないの?」と考える人もいますが、想像以上にまともな鳴りになります。

Viennaの演奏をより柔軟にすることができるVienna Instrument Pro(VIP)は持っていませんが、アレのクロスフェードスクリプトは均一なので、たぶん今回の作例の方が良い演奏になっているはずです。

7:33から聞いてみて「これじゃダメだ」と思った人は生演奏だけにするか、サンプルモデリングを買って地獄を見れば良いと思うよ!

VIPはラウンドロビン等の問題解決(後述)が行われるわけでもないので買う予定はありません。たぶん。

 

・Viennaのラウンドロビン問題

Viennaは総じて優れた音源なのですが、ひとつだけ致命的に扱いにくいのがラウンドロビンの甘さです。特に致命的なのがLegatoパッチでの同音連打で、2種類の音が綺麗に交互に鳴ってしまいます。この症状を出さないためにはSustainパッチを鳴らすのがベターなのですが、LegatoとSustainの鳴り具合があまりにも違うため大変です。

「2つのノートの間に非常に短い音を小さく挿入する」という万能な裏技があるものの、それを使うと今度はLegatoの接続スクリプトが邪魔をしてくるという困った事態に。

場面ごとにどの手を使うか試行錯誤し、最も苦戦した部分は2楽章の「ミミミミ ミミミレ ミミソミー レレミーー」という同音連打のあるテーマです。まじでクソゲーでした。

 

なお、他の音源の場合、2トラック用意し、片方だけピッチベンドで隣の音程のサンプルを使うというSC-88Pro時代にそのスジの人が使っていたテクニックがあります。でも困ったことにViennaのピッチベンドは最大でも2半音しか移動できないので上手く行きません。

 

4楽章のコントラバスとチェロの最低音は、ピッチベンド下げで最低音に対処しています。実際の演奏でも曲中でチューニングを下げて対処します。変則チューニングになることに配慮されており、きわめてかんたんな音形のみの演奏です。

 

3楽章の最後でチェロに対しては「4弦をシに下げろ」と指示。

コントラバスには無し。長い休みがあるので省略されています。

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こういう用法はあなたがよほどのキャリアを積むか、純粋なDTM音楽、もしくは実験的な内輪での演奏以外では絶対にやるべきではありません。

この曲を作った時、すでにレスピーギは不動の地位を確立していたので「まぁ巨匠の曲だし」ということで容認されただけだと考えるべきです。

また、この変則チューニングは曲の最後まで続くことと、極めてシンプルなベース演奏のみであること、その弦はその音しか演奏しないこと、どう考えてもコンサートの最後の演奏されるためのド派手な曲、といういくつかの大きな条件を維持しています。

ともかく誤解しないことです。「コントラバスは5弦を下げても良い楽器なんだね」と思ってはいけません。絶対に。

 

■借用素材

いずれも使用許可申請済みです。

 

・子供の絵(アクリル)

music work
(Gillian Howell's reflections on music, education, artistic practice and collaborative projects)
https://musicwork.wordpress.com/2012/07/03/re-imagining-the-pines-of-rome

 

・ホテル パインウッドローマの部屋画像
http://www.romehotelpinewood.com/japanese/index.php

 

 

・鳥、ナイチンゲールの声

3楽章の最後で使用される鳥の声です。

TheSilentWatcher

www.youtube.com

https://www.youtube.com/watch?v=NK2_bcQcoD4

3時間も鳥の鳴き声を楽しめる動画シリーズだそうです。

 

■鳥の声の件

3楽章の終盤、スコアでは鳥の声は(Usignolo=ナイチンゲール)と指定されています。

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Wikipediaにも書かれているとおり、本来は指定のレコードを使用することが推奨されています。

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が、せっかくのDTMでの制作なので上記のTheSilentWatcherの動画の音声を使用しました。

 

なかなか指定レコードのような鳴き声の音声素材が見つからず、しばらく探し続けることになりました。ネットにはなんでもあると言っている人がいますが、どうやら無いようです。

上の動画の音声で使えそうな鳴き声の部分を切り貼り、左右定位させ、リバーブで丸めてディレイで散らすという加工をしています。

 

・鳥の声、後日談。

2022年5月追記。

www.loopsdelacreme.com

数種類の鳥の様々な鳴き方を多くの鍵盤にアサインした鳥シンセ。(要Kontakt Full5.8~)

nightingaleの声も収録されているので、ローマの松の演奏に最適。

vimeo.com

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■俺と『ローマの松』

吹奏楽をやっていた中学生の頃、吹奏楽の雑誌で全国大会で『ローマの祭り』という曲が多く演奏されているらしい、ということを知った。で、全国大会のCDを聞いてみて「すげー」と思ったものの、オケオタの先輩が「オケ版はもっと良いんだよ」と言って聞かせてくれた。「やべー」と思った。

で、そのオケCDにはレスピーギの「ローマ三部作」が全て入っていて、この『ローマの松』という曲の方が気に入った。

オケオタ先輩の影響でオケ曲を多く聞き、いつかは演奏したいと熱望する曲がいくつかあり、その中のひとつが『ローマの松』。それもできることなら全曲の演奏だった。

 

あまりにも大規模な編成が必要になることや、吹奏楽的には楽器によって演奏しない時間が長過ぎることがあり、『ローマの松』はあまりとりあげられることの無い曲だった。

 

大学卒業後に複数の社会人楽団に出入りしていた頃、ある音楽祭でこの曲を全曲やる、しかもバンダ(ファンファーレ隊)付きの大編成でやるということになり夢のひとつがかなえられることになった。ホルン首席を担当。

 

その演奏では近郊の学生によるファンファーレや鳥の演奏(バードコールという小さな楽器を使う)、5台くらいの大太鼓の追加まで行うという突き抜けた内容で、特に客席バルコニーに配置されたバードコールの音響効果は感動的だった。

同音楽祭では羽田健太郎氏のピアノによる『ラプソディ・イン・ブルー』なども演奏したのだが、リハーサル中に合唱団の女性が客席で談笑していたことに羽田氏が激怒し「リハーサル中のホールで談笑するあなたたちはそれでも音楽家か?出ていきなさい!」とマジギレしていたことが何より印象的な日だった。数年後、氏は没した。氏の作り出した音楽作品の全てが好きというわけではないどころか『フックト・オン・クラシック』という安易なクラシックアレンジは音楽に対する冒涜だとさえ感じたものだったが、音楽家は良い音楽を作ることを邪魔する人間に対し、そうあるべきなのだと学んだ数日間だった。

 

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■次は何をやろう

数年前に作った『シェヘラザード』よりはマシな音になったと思います。

www.nicovideo.jp

お金にならないですがやっていて楽しいのでまたやりたいです。

次回の候補曲を募集中です。(IMSLPにスコアがあることが条件。可能ならそれなり以上のMIDIデータがあるととても楽です。) 

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