eki_docomokiraiの音楽制作ブログ

作編曲家のえきです。DTM/音楽制作で役立つTIPSを書いています。

オーケストラミックス、フレージング編(1)

オーケストラ打ち込み、ミックス話のシリーズ記事です。今回はフレーズ打ち込みの話。なんとなく適当に気分でフワフワした音量打ち込みしてる初心者向け。

 

 

 

 

■フレージングの制作順序

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・大フレージングと小フレージング(ABCD)

フレージングで最も大事なことは「決められた音量幅の中で演じること」です。

好き勝手に音量を変えて遊ぶことではありません。

それぞれおおまかな音量を決めておく。赤の点線。階段状に書くということ。これが大きなフレージング。階段状がいやなら数本の直線で書いても良い。とにかく「大きなフレージング」から作ること。絶対。

 

それを基準にしてパーツの中で上下に抑揚をつける。これが小さいフレージング。

この手順だとあっという間に終わるし、バランスが良い。

 

・想像力はいつ使う?

不慣れな人はこういう作業手順を踏まずに、出だしの音から順に曲線的に書いていくから何時間やっても終わらないし、その場の気分で曲線を書くからフレーズに一貫性・方向性がまるで出ない。まず階段状におおまかに書くことを強くオススメする。

これはMIDI打ち込みの教科書やアレンジ打ち込みの教科書で「ストリングスは音量変化が命」とか無責任なことを喧伝してるのが悪い。フラフラ音量が変わってるだけなら、ベタのままの安定した機械的な演奏の方がまだ良い。やらないほうがマシ。「丁寧にやったよ!徹夜でがんばったよ!褒めて!」という達成感のための作業は絶対にやってはいけないです。打ち込みに限らず、あらゆる作業において。

 

少々の出音の雑さは無視して、おおまかな音量の遷移だけに注目するようにしなければいけない。完璧な出音に加工するまで先に進めないのは丁寧なんじゃなくて想像力が無いということです。

「きっちり仕上げたらどういう音になるか」をイメージできない原因は、近年のDTM環境が快適になりすぎているからです。フルオケで全部の楽器を良い音源で鳴らすことしか知らないから、「良い音源に差し替えたらどうなるか?」「きっちり作り込んだらどうなるか?」をイメージする力が養われない。

関係ないけどこれはプロデューサー業の人とか、音源発注する人の無能さも無関係ではないと思う。ラフアレンジの段階で、この先の日程や工数を考えて最終的にどう仕上がるかをイメージできないから、コンペ段階で完パケ品質で音を聞かないと安心できない。だから良い曲より良いミックスの音がコンペで通りやすくなってる。

 

出来上がった音でしか納得できないのは想像力が無いってことです。

聞こえた音から順に加工してたら本当に何日やっても終わらないし、そういう手順で作っても統一感が出ない。

 

・つなぎ

で、それが終わったら緑の123を作る。

同じ画像を貼ります。

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小さなフレーズごとのつながり、接着部分をなめらかにする。

小さなフレーズができていないのにつなぎの綺麗さばかり編集してしまう癖のある人は、今すぐそれをやめた方が良い。本当にやめたほうが良い。細部から作ってどーすんの?

絵描きで言うなら下書きの前にペン入れしたりトーン貼らないでしょ?ってこと。

 

・末端処理1(P)

それが終わったらフレーズの終わり方、P(黄色)を作る。

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これは次のフレーズ、別の楽器へのバトンタッチの役割を果たす部分なので、この1つの楽器のフレーズだけで仕上げてもまったく意味がない。

曲全体がかなり仕上がってから「今日は接続のバランス取りをやるぞ」と決めて、全箇所の接着作業をやれば、良いアンサンブル演奏に仕上がる。クラシックらしさ、オーケストラらしさってアンサンブルですよ。

 

・末端処理2(Z)

そういう作業が終わったらZ(青)の末端処理をやる。

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どういうふうにフレーズが消えるべきかをよく考えて音を閉じる。

基本的にゼロに向かえば良いんだけど、ノートが終わってからサンプル残響&リバーブで音が消えるべきなのか、MIDI CCで閉じるべきなのかはケースバイケース。状況によってはあえてバッサリと、サンプル音にまかせて音を止めた方が良いことも多い。

 

言うまでもなくコンプ、マキシマイザーなどによる音量加工に大きく影響を受けるので、そこそこ以上のマスタリングバランスを作ってからやらないと、マスタリング後にすべてがぶっ壊される。

だから前記事で「先にマスタリングをやる、トップダウンミキシングをやれ」と言ってるんです。

 

・アタック/リリースによるフレージング補佐

すべて音量パラメタで書くより、アタック/リリースを的確に選択した方が手軽に済むことも多い。

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よくあるMIDIの教科書で全てのノートを / ̄ ̄ ̄ ̄\ にしている解説があるんだけど、阿呆じゃないかと思う。それいつの時代の、どの仕事の打ち込み作法ですか?と問いたい。そういうのはCC73をちょいちょい変えた方が手軽に実現できる。カラオケ仕事だとするならデータを軽くできる。

すげえ変態打ち込みテクニックとして、ノート開始位置をずらした和音の構成音それぞれ対して、タイミングを精密に合わせたCC73を書く、というやり方がある。昔はたまに使っていたんだけど、今では作業コストと出音クオリティの折り合いがつかないから使わなくなった。貧弱音源で無理やり何かをやりたい人は研究してみると徹夜できると思う。あと、これもバッファ都合で再現性のないデータになってしまうことがあるので気をつけて徹夜してほしい。

 

あー、あと、上のスクショで気がついた人もいると思うけど、小節や拍ちょうどの位置にコピペ時や上下操作の時に基準になるポイントを設置しておくと後で楽です。

 

Cubase、コントローラーレーンのハンドル機能

たいていの人はフレージングが過剰すぎてフラフラした演奏になってる。

不慣れな人は、いい感じに出来上がったフレージングに対して「均し」をして、その音量域に適合させてあげると良い。

これはレイヤーや同一フレーズを他楽器にコピーする時にも役立つ。

 

めちゃくちゃ便利なので使ったことがないなら今すぐ試してみて欲しい。

CubaseMIDI編集が強いと言われている理由のひとつがこれ。

コントロールデータを範囲選択して、選択範囲の外周をドラッグする。

触れた外周の位置によって異なる編集がワンタッチで行える。

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クラシック打ち込みをやることが多い人は、こういう機能のためだけにCubaseに買い替えても良いんじゃないかとさえ思う。その他、ショートカットの柔軟さ、最上位版では「ロジカルエディター」「マクロ」も組み合わせることで、思いつく操作はほぼすべて実現できる。これはレッスンでも指導しています。また、近いうちにそういう話を満載した電子書籍を出版予定です。遅れててすみません。その分めちゃくちゃ充実した内容になってます。

 

もちろん選択した範囲だけをなだらかに加工できるので、盛り上がりの頂点付近だけをもっと極端に持ち上げたいとか、フレーズの終わりを丁寧にゼロまで下げたいとか、使い方はアイディア次第。

クラシック打ち込みだけじゃなく、シンセのフィルタ処理や各種MIDI Learnも同様にプログラミングできるので、ジャンルを問わない。(ただし、シンセによっては一部もしくは全部の機能がMIDI Learnにアサインできないので注意。そういう時は直接音源に向けたいわゆるオートメーションで制御するしかない。)

 

この機能を積極的に使っていくと、異なる楽器のレイヤーバランスを上手く設計できる。何より速い。下の半透明で重ねた画像を参照。

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設定のしようによっては「MIDIコンプレッション」でレイヤーバランスを作るという方法もあるんだけど、これは大抵の場合失敗するのでオススメできない。

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・必要ない精密作業をしない

MIDIコントロールデータを拡大して見ると階段状になってしまって気になる人が多いらしい。が、MIDIデータは見た目をどんなに綺麗にしても意味がない。階段状に見えているデータが気になってエディターを拡大して編集している人がたまにいるけど、マジで無意味だからやめろ。

 

なぜならMIDIデータはバッファとして扱われ、音源部では結局傾斜されることになるからだ。

これは音源や使用DAW(の設定)にもよるので注意。

なんでこういう仕組みになっているのかというと、そもそもMIDIデータが128段階しか無くて、それではどんなに細かく送受信しても階段状になってしまう。これは特にアナログシンセ(のプラグイン)を制御する時に問題になる。シンセ側はもっと細かい分解能を持っているのに、MIDIの128段階だけで制御されるとカクカクした音になってしまう。だからシンセが送受信する時に傾斜するようになってる、らしい。正確な仕様は知らん。

もし本当に興味があるなら実際にシンセに階段状のMIDIデータや、櫛形に急激に上下するデータを送り込んで出音で確かめてみれば良い。

 

いずれにしても細かすぎるコントロールデータと、階段状に見えるコントロールデータを両方再生して聴き比べてみれば良い。致命的問題になるような差は無い。

なによりリバーブを掛けたりすればそういう差は事実上まったく感知できないレベルになる。

見た目の綺麗なデータにするヒマがあるなら、他にもっとやることがあるはずだ。

 

また、音源(とDAW、とバッファ設定)によっては、細かすぎるデータを送受信すると逆に高負荷になって異音を発生することがある。MIDIデータはベクター情報じゃないので、そもそも妥協しなければいけない仕組みだということを悟るべき。

 

 ■複数のエディタを並行表示する

メロディに対するベースラインなど、異なる要素を比較してフレージングしてみても良いと思う。私はまず使わないけど、内容を忘れた曲の修正時など、ごく稀に使う。

 

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ダイナミックなフレージングで抑揚を付けたメロディは、平坦な伴奏から浮いてしまいます。メロディの抑揚を見ながら、伴奏にも程よい抑揚を付けます。人によって、また、曲によっては先に伴奏をふくよかにした方が上手く仕上がるかもしれません。

ちゃんとしたオケ曲のメインメロディ以外の音は「伴奏」ではなく「対旋律」として独立した裏メロディであることが多いからです。

適度に盛り上がりのある伴奏が無いと、メロディが突出してしまうことがあるからです。

実際、こういうコンチェルトの演奏ではソリストがオケ(指揮者)に対して「そこでもっと盛り上がって来て欲しい!」と要望を出すことがあります。そういう対話をMIDIデータ制作の中でイメージするわけです。

また、コード(和声)の運動はそれ自体が音量の変化を求めています。コード「進行」は単に前後の音程のつながりがあるだけではなく、先の音に向かって盛り上がりたい性質を持っています。

それを感覚的、分析的に理解するのがクラシック演奏で大事なことです。いずれにしても好き勝手に音量をフワフワ動かすのではなく、「どの音で最も盛り上がりたいか」を目指すのがたった1つのコツです。

 

そういう編集を可視化するための複数のエディター表示の方法。

古いCubaseだと、環境設定→編集操作→「エディターのリンク」のチェックを外すと、複数のエディタを開けるモードになる。

他のDAWでできるかどうかは知らない。

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新しいCubaseだと、環境設定→エディター→「エディターの表示内容を編集中のイベントとリンク」をオフにする。

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でもこういうのは原則的に製作中の曲なら記憶&聞いて思い出せないようではバランスは取れないと思う。

ただし、私の場合、作り終わると記憶から消える。先週やってた曲が何だったか思い出せず、オンエアを偶然聞いて思い出したりする。

■おまけ

データ概要。仕様しているCCはめちゃくちゃ少ないです。コピペを多用していますが、本当に必要な箇所だけは丁寧に作ってあります。やっても作業コストに見合わないと考えた箇所は何も手入れしていません。 

あえて文章で説明していないことも多いですが、良く観察するといろいろ発見できると思います。レッスンでは丁寧に教えてます。

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全部の音を完璧に調整してるとか、そういう不毛なことは20年前に卒業しました。

一貫性のある出音を目指すのが大事ですし、そういうコンセプトで作業をした方が良い結果になります。2割の作業が8割の完成度を生む、という作業方針です。

 

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