高級な最新プラグインじゃなくても、使い方次第でいろいろできるよ、というお話。
(2021年3月25日)
■MS処理よりLR処理
10年ほど前でしょうか。MS処理というものが異様に流行したような記憶があります。
専用プラグインを使ったり、一時書き出しをしてド根性で加工したりして、「やりすぎ」なサウンドを作る人がたくさんいました。厨房はMSマスタリングをを過激に使って曲を台無しにし、オーディオ原理主義者の老害はあんなもの使うなと青筋を立てました。一方、クリエイタ脳のサイコパスは「面白い音が出れば良いじゃん」「ここでも使える」という貪欲さで様々なサウンドに活用しました。
その後、MS処理は多くのプラグインに内包され、何の不思議もない普通の加工となりました。ドヤ顔で「MS処理はLマイナスRを云々……」なんて言ってる人は絶滅しました。
そもそもMS処理は神秘の無敵マジックでも何でもなく、強くて弱い加工でしかありません。MSではタッチできない、最も決定的な領域は、最もイージーな「LRをダイレクトに変える」やり方だからです。
細かい解説は割愛しますので、暇な時に試してみてください。
ちょっとした加工だけで強烈なステレオ加工ができることを実感できるはずです。
電子音楽からコンサートホールの再現まで、あらゆる用途で活用できる可能性を秘めた「基本にして究極」のミックステクニックです。
・MixerDelay(Cubase付属)
- 左チャンネルを右から出す
- 片側だけ位相を反転させる
- 片側だけ発音を遅らせる。
などの機能があります。
音の加工はもちろん、モニター補正にも使えます。
片側を無音にできるので、各種抜き出し操作にも使えます。
スライダーは敏感すぎるので、ハース微調整には向きません。
・MUtility(無料)
まーたMeldaの話してる。
- 左右チャンネルの独立パン、独立音量
- 使いやすい感度のノブ
などの補正ができます。
ステレオサンプルの片側だけを使いたい時などに常用しています。
MixerDelayのように左右独立した位相反転や遅延はできません。MeldaならMeldaらしく、もっと「何でもできる」感を出して欲しかったなぁと思います。有料版で鬼のような高機能版が出ることを期待しています。
特に優秀なのが音量ノブ。これ1つで無音まで音量を下げることができるので、レベラーとしてこの上なく優秀です。
チャンネルそのものの音量をオートメ制御にすると、ちょっと音量を変えたい時にフェーダーが使えなくなってしまいます。そこでこういう軽量プラグインで音量オートメを行い、フェーダーはいつもどおりに使えるように温存します。
下側の機能は使ってません。いらないと思います。
・Sound Delay(無料)
スペアナでおなじみのVoxengoのフリー配布もの。
ステレオ遅延を精密に設計しやすいです。
上のMixerDelayやMUtiityとは使い方が根本的に違います。
小数点の桁ごとに精密にセッティングするという特徴的なUIです。この謎のUI設計はバイノーラルの左右差などを計算して正確に作りたい時にはこの上なく役立つでしょう。
似たような用途のためにPanagementというバイノーラルパン専用プラグインもあります。バイノーラルパンをやりたいだけならこちらのほうがスマートかもしれません。
(蛇足:近年はDAWは付属でもバイノーラルパンが装備されつつありますが、落とし穴も多いので気をつけましょう。一長一短です。必ずしも通常のパンより優れている上位互換というわけではありません。)
・MFreqshifter(無料)
個人的にはかなりお気に入りの「クリエイティブ系」エフェクタです。
片側だけ波長を変えることで、強烈なステレオ感や、スペシャルな音を出すことができます。もちろん通常の使い方でピチシフト等もやれます。
Meldaに共通するアサイン設定で片方のチャンネルだけにかけることができます。MSにもできます。モノにもできます。一瞬で。
画像右ではLeftのみを加工するようにアサインしています。これだけで加工された左の音と、無加工の右の音が同時に鳴るので、どんな音でも完璧なステレオに分離します。
クリエイティブ脳の人たちにMeldaが絶賛される理由はまさにここです。
Meldaは本当に良く分かってる。そもそも出始めの頃からずっとデフォルトでMS処理ができたんだけど、どういうわけかMS処理を語る人は小難しいやり方や高いプラグインを推していた。我々の側の人は「え、それMeldaで普通にできるじゃん。無料で。」と呆れた顔をして見つめたものです。
もちろんこういうプラグインだと音は崩れますので、いわゆる「クリエイティブ用途」です。丁寧な原音維持には不向きです。
■さいごに
いつ何に使うのかはあまりにも用途が多く、ケースバイケースなので説明を割愛しました。
エフェクタすべてに共通して言えるのは「エフェクタとは入力された音を一定の方法で加工する」だけの道具にすぎないということです。よく言われるのが「EQが先か、コンプが先か」という二択です。
すでに手持ちのエフェクタでも、入力されてくる音が異質になっていれば、処理結果も変わってくるということです。組み合わせて使うことで意外な結果や、思い通りの結果を得ることが可能になります。
シンプルな「左右の音量」「左右の遅延」という操作だけで、発想しだいでは様々な加工ができます。