eki_docomokiraiの音楽制作ブログ

作編曲家のえきです。DTM/音楽制作で役立つTIPSを書いています。

『悲愴』第2楽章をET四重奏に編曲しました

ベートーベンのピアノソナタ第8番『悲愴』第2楽章をユーフォニアム・チューバ四重奏に編曲しました。モダンなジャズ和声を使った「やや原曲ぶっこわし系」です。

(2021年1月15日更新)

 

■こんな感じにした。

「ピアノ名曲シリーズ」今回はのだめカンタービレの「鹿の糞」の替え歌でおなじみ、ベートーベンの『悲愴』です。原曲は死ぬほど美しくシンプルな、人類史レベルの傑作。

 ジャズ和声によるモダンなサウンドに仕上げました。 

youtu.be

 

楽譜はこちら。

www.asks.shop

原曲と大きく異なる和音にする「リハーモナイズ」によるぶっ壊し系アレンジです。原典主義者には謝罪するとともに「じゃあお前が作れ」の言葉を進呈いたします。

が、てきとーなリハモでは済まさない内容にするため、かなり入念に作り込んであります。

 

■内容

・第一主題の労作

有名な「鹿の糞」のテーマ、第1主題の和声アレンジは10種類ほど試作しています。何度も出てくるので前後の場面に対してふさわしいパーツをはめこみ、接続部を入念に修正。という手順で作っています。ボツになった試作パーツに敬礼。でもそうやってボツを出しながら入念に作るのは本当に楽しいものです。

リハモ系のアレンジは、アレンジとしては基礎技術の範疇です。が、安易なリハモは文脈を無視したアレンジになってしまいがちです。そういうの多いよね。

それぞれの声部のラインや前後の繋がりに対して我ながらよくここまで作り込んだものだと思います。

 

・変則拍子

 

 ベートーベンの音楽に垣間見える「人生の様々な場面」のを音楽として表現するため、リズムの変化を取り入れています。

55秒から。

6/8拍子。元の4/4の余白を短縮するスタイル。曲に切迫感を出したい時に私がたまに使うアレンジ方法です。

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 同様の手法は下の記事で抜粋している私の過去のポピュラーアレンジ作品(プログレ)でも使っています。

eki-docomokirai.hatenablog.com

その曲の場合はこういう感じ。(抜粋)

soundcloud.com

その他にも過去曲でたびたび使っている技術です。

クラシック系、いわゆる変奏曲などでは多用されている技術や、交響曲などでの主題倒錯の技術の範疇だと言えなくもないですが、 たぶん私が死ぬまで多用することになるであろうアレンジ手法です。

 

同様の技術で作られている部分はもう一箇所あって、

1分59秒から。

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実質的に12/8と4/4のポリリズムです。メロディと伴奏のリズム感が違うユニークな場面。

・つなぎ

解説箇所が前後しますが、上の変な拍子感になるセクションの合間、接続場面(27小節、1分25秒から)では、印象派的あるいは近現代的なややこしい音の絡み合いで、よりdominantな緊張感を作ってみました。

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ここで楽器の上下が入れかわり、次の場面ではこの編成の主役の1番ユーフォニアムが最も華やかな高音域で第1主題を高らかに演奏するのですが、その伴奏はややアウト感のある音列で構成されています。私はこの場面を「人生において正しくまっとうな生き方をしているのが、外から見れば逆に滑稽であったり、相対的にズレてしまう社会の理不尽」の表現だ、と言い張ることにしています。なんかベートーベンっぽいでしょ?あるいは「意識高い系の滑稽さ」を表現している、ということでも構いません。

テーマを演奏している奏者は「せっかく良いメロディを演奏してるのに、なんて酷い伴奏をするんだ」という心境に駆られることでしょう。人生はままなりません。

そこに続く場面は非常に暗い第3主題なので「俺は正しいことをやっているのに理解してもらえない」「こんなに愛しているのにどうして」という意味合いが強くなります。この喜劇的な音楽表現は原曲を超えたと思ってる。だからそこでは拍子感も変えて、俺めを強調しているんです。

 

こういうシュールな場面を作るのもリハモの技術の一貫だと思うんです。で、いきなりそういうヒネた場面を出すと唐突すぎるので、印象派的な接続を挟むことで唐突さを緩和したんです。

 

で、そういう異なる文法による接続を配置したかったので、1箇所だけだと浮くから、手前の場面でも印象派的な音で接続することにした。

(1分1秒~)

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チューバ2が演奏する第2主題と程よく開離しつつ共存できている、うまく書けた部分だと思ってるけどどうだろう?この手のサウンドを出したい時は普通はパラレルで書くけど、下メロと共存できるように変則的な書き方を模索した。

いろいろ横道にそれたことも書いてしまったけれど、55秒から1分33秒までの区間は本当にうまく書けたと思っています。

 

 

・合奏協奏曲的アレンジ

控えめに開始し、幾つかの脇道に逸れて、本道に戻ってくる、という構成にしています。

終末部、3分10秒からの和声感はやりたいことをきっちり実装できた感があるので満足しています。手前の三連符マーチ風の部分からの繋がり方もあわせて、非常にヒロイックで気に入っています。まず作りたかったリハモはこの部分だったので、いかにしてこの結末に持ち込むか?という流れを作るために腐心しています。

 

この結末にに至る前に第1主題が4回演奏されるので、音の動きの多さや和声のひねくれ度合いが徐々に増して行くように配置。前後のすり合わせをした、という手順で作っています。要するに変奏曲や協奏曲を作る時に「徐々に難しい演奏技術を小出しにしていく」というバランス感覚に似ています。

昨年作った『コンチェルトグロッソ』すなわち「合奏協奏曲」のスタイルから学んたことを試した、ということなのかもなぁと思います。この辺はまだまだ未消化な部分もあるので、今後の曲で試していきたいです。

・構成は保つ

もちろん構成順や主題の回数を変えても悪くはないのですが、個人的な信条として「原曲の構成はあまり変えたくない」というこだわりがあるので、主題の演奏回数などは原曲に沿ったものにしています。

そういう意味においてはこの程度では「ぶっ壊し系アレンジ」とは呼べないかもしれません。その昔は私もハチャメチャなぶっ壊しをやっていたことがあるのですが、そういうのは需要が無いし、評価も得にくい。程よく壊し、高趣味さに訴えかける節度を植え込まないと、どんなにアクロバティックなことをやっても先につながらないと知ったからです。

・反省点

惜しむべくは散漫な、散文的な仕上がりになってしまった箇所。

第2主題(54秒~)

再現部(1分32秒~)

第3主題(1分59秒~)

上では散々それらしい解釈を書いてみたものの、やっぱりシュールすぎです。それは私自身もちゃんと理解しています。そこを含めて喜劇だと言いたいんです。

 

 

アイディアを盛り込もうとしすぎたせいかもしれません。もうちょっと平易に書けば良かったのは分かっていますが、こういう定番曲を編曲してまで別楽器で演奏する意義というか、意外性というか。演奏効果を高めるために欲を出しすぎています。

原曲は極めて美しい一方で、長大なソナタ曲集の中の一部を担当する単一場面の曲なので、そのままやっても意味無いよね、ということでご理解いただければと思います。そう願います。原曲は良くも悪くも「控えめ」「内省的」なので、もうちょっと外向きなサービス精神のある曲にしたかった、ということです。抽象的な言い訳ですが、そういう意図があります。手癖で書いて放置したわけではありません。

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