変拍子談義になったので、せっかくだから記事にしておきます。この記事は変な音楽を紹介する記事ではありません。制作サイドの立ち位置から考える「変なことをやれば良いってもんじゃないよね」というバランス感覚のお話です。
(2020年11月29日)
(2023年4月12日更新)
■良い変拍子と悪い変拍子
変なことをやれば良いってもんじゃないです。
拍子の数字が大きければ良いってものでもないです。
変拍子を導入しただけで力尽きている曲があります。
奇抜さを競っているだけの人もいます。
この記事では良い変拍子とは何か?というお話を書いていきます。
■推し変拍子曲
師匠が「うめぇなぁ」と絶賛していた変拍子の使い方。
バーンスタインの『ディベルティメント』に出てくる変則ワルツ。
私が「よくできた変拍子」と「下品な変拍子」という分類をするようになったきっかけの曲でもあります。
メロだけ採譜するとこう。
7/4拍子だけどこれをワルツと言い張る。
(制作中の曲のプロジェクト上で、雑談ついでにサクっと作ったものなので調号入れてなかった。ごめんね!シャープ1個、G Majorです。)
で、師匠は「原曲はバッハのこれ」と指摘していた。
『ディベルティメント』は下の記事のとおり、氏の所属するオーケストラの100周年記念の曲として作られた。
この他にも『ディベルティメント』は様々な定番クラシック曲の パロディで構成されている。(と分析する人もいる。)
・その他定番の話
『テイクファイブ』はジャズのスタンダードとして有名。
5/4拍子の教科書。
たぶん世界一ヒットした変な拍子の曲は『ミッション・インポッシブル』ことスパイ大作戦のテーマ曲。5/4拍子(3+3+2+2/8拍子)
その後のリメイク版では、テクノのテイストを強くして、冒頭以外が4/4拍子になっています。これを改善と見るか、改悪と見るかはあなた次第。それぞれの時代を反映したサウンドとしてアレンジされています。
(テーマ曲メドレー動画。
時間指定URL。リメイク版以降のテーマ曲)
私の学生時代にこのリメイク版が登場しました。元が変拍子の曲をイーブン4/4に書き換えることでノリやすくアレンジできることに注目し、なんでも4/4にアレンジして遊んでいました。
■良くない変拍子
単に「変な拍子にしたい」「奇抜なことをやりたい」「世の中4/4ばかりで面白くない」というエゴや斥力だけで作るのではなく、拍子は非常識だけど初めて聞いた人でもちゃんと乗っかれるリズムにするべき、というのが私の考えです。
具体的な技術としては、ビート後半が次の小節に対する「フィル」になるというか、小節線をまたいだ時にビート感が保たれるように維持することです。
あえてダメな例を挙げておくと、ピンクフロイドの『マネー』の7拍子。
音楽が1小節単位でブツ切りになってしまっている点に注目してみてください。私はこういう変拍子は「足しただけの拍子」と呼んでいます。
時代背景を考えると、まさに「4/4ばかりでつまんねえ」とされていた背景もあるので、この奇抜さはそれなり以上にヒットしました。
「ロックの歴史」という範囲においては評価に値しますが、他のジャンルからは大きく遅れていると言わざるを得ません。広い範囲の「音楽全体の歴史」から見れば大した内容ではありません。
奇抜な素数拍子ではなく、1拍削って6/4にしたほうがストレートなロックの良さと、4/4から適度に逸脱したムードを作れるのではないかと思っています。
上のピンクフロイドの『マネー』の他、その種のプログレは多いです。
たとえばジェントルジャイアント。70年代イギリス。
もうちょいストレートな要素を増し、キャッチーな要素を追加、音色とその組み合わせも明瞭なアレンジにしたら良かったのにねと思っています。当時はマニアックな評価を得たようですが、流行らなくて当然です。いろいろと時代の病を感じます。要するに「脱ビートルズ」という呪いにかかっているんじゃないかと思うんです。背中を向けているだけではどこにも行けず、どんなに突き進んでもその先は崖っぷちです。
もちろんこういう「行き止まりに向かった音楽」だけが持つ独特の魅力は存在します。が、同じ轍を踏まないようにすることこそ学習の目的でしょう。
この先どうなるかは分かりませんが、ストレートすぎたいわゆるEDMに背を向けたトラップやローファイなどのジャンルは数年後には誰も見向きもしないのではないでしょうか。その点いわゆるEDMは様々なジャンルに侵食しきっていますし。
こういう、いわゆるプログレの文脈引き継いでいる最先端としてDream Theaterがいます。が、その音楽は相変わらずの「足しただけの変拍子」系だと私は考えています。聞いていて「おい、そこ普通に4/4でストレートにやった方がベターじゃないのか?」と感じる部分があるはずです。
それを暗譜で演奏しきる能力は文句なしに称賛に値するすばらしいものです。いろいろdisっていますが大好きなバンドのひとつです。トータルnサウンドも非の打ち所がないクオリティで、特にアンサンブル能力はクラシック音楽のそれより明らかに上を行っています。いわゆるクラシックの人に多い「バンド(ロック)なんて適当にガチャガチャやってるだけ」という誤解を一瞬で吹き飛ばす卓越した演奏能力です。
ドリームシアターは間違いなくロックの歴史に巨大な太文字で記録されることでしょう。でも「難しいことを暗記してるぜ」的なアピールに傾倒しすぎる病に陥っていると感じずにはいられません。
他のジャンルの人に対して「参考にするレベルだ」と紹介したくなるものでは無いということです。
■よくできた変拍子
最初の2分間くらいの5/4、4+3+3拍子を基調にした鍵盤リフ。
でも歌に入ると、普通過ぎて面白くないのが難点。
パフューム『ポリリズム』
(間奏、1分45秒~時間指定URL)
1分45秒から。ハイテク感をコンセプトとしたユニットでもあり、機械的なリズムが表題通りに崩壊しはじめ、それが徐々に過剰になっていくバランス感覚が素晴らしいです。
何より優れている点は、「ポリリズム」のシーンが終わった2分16秒、清々しいビートに戻ることで生じる開放感。このカタルシスを生み出すための道具として非常に効果的です。そこが「変拍子が目的化している音楽」「足しただけ変拍子のプログレ」とは根本的に異なる点です。単純にビートが複雑な音楽はいくらでもあります。が、このような劇的な効果を作り出している音楽は非常に稀です。
2分15秒あたり、つなぎ部分の振り付けは、演者が拍を見失う事故が起きたとしても帳尻合わせするためかもね、という談義になったこともあります。真相は不明ですが、そういう機能性も持っている曲構成と振り付けである点も注目するべきです。
非常にミーハーな曲でもあるので、この曲の良さを褒めると「ヤスタカなんか聞いてんの?」と言ってくる人もいますが以下省略。
■お前はどうなんだよ件
ピンクフロイドまでdisっておいて「じゃあてめーはどうなんだよ」と言われそうなので変拍子アレンジの作例を貼っておきます。
基本的に5/4だけど、伴奏のビートは4/4系として聞けるようになっています。
いかにもな「はい5拍子ですよー」という安易さだけではなく、さらにトリッキー。でも4/4のロックビートで安定して聞ける部分もある、というビートアレンジです。テクニカルにやるなら徹底的にやり、適度に引き算して迎合するサービスとバランスが欠かせない、と私は思っています。
なお原曲はこう。3/4 (6/8)ヘミオラ。
で、ヘミオラと言えばバーンスタインのアレ。
(URL時間指定、和訳あり)
ヘミオラ(6/8 + 3/4)のリズムは途中でわずかに変則的な引っ掛けがあります。
リズムの変則性で注目するべき点として、執拗に叫ばれる「america」が小節線の手前から「a | merica」と食って入ることです。この曲に限らずよくできている曲は小節線の区切りどのようにまたぐのかを工夫しています。
1番の歌詞「おれたちには吹っ掛ける」が6/8、3/4で歌われた直後にもう一度3/4が挿入されて5小節構成になっています。元の英語歌詞は「just twice」つまり「2倍」と歌った後に6/8が2回レスポンスを返す、という作曲上のジョークだと解釈できます。直後に3小節のセットを行い、都合8小節という馴染みやすさも両立させています。この辺の巧妙さがそこらのなんちゃって変拍子とは格が違うなぁと関心させられる部分です。
その他、韻の踏み方や、ポジティブな歌詞とネガティブな歌詞に対してどういう音符が割り当てられ、どういう演技をしているかも細かく確認してみると、本当によく計算された作品だなぁと感心させられます。
バーンスタインの仕掛け力は、冒頭で紹介した『ディベルティメント』の最後の変則マーチでも様々な変拍子が巧妙に使われているのでぜひご確認を。個人的にとても好きな変拍子音楽です。
(時間指定URL)