アナログシンセとして使うHALionの良いところについて書いておきます。
(2020年11月27日)たまに追記します。
■あのハリオンと、それじゃないハリオンがある
ハリオンには大きく分けて3つのグレードがあります。
よく言われているハリオンは無料の「HALion SONIC SE」ですが、
・SEがつかない「SONIC」系
・SONICもつかない「無印」系
があります。
この違いを分かっていない人は「ハリオン使ってます」と聞くと『無料かよ』と勘違いする人がいますし、使っている人もいちいち「SONIC2」「無印6」と厳密な呼び方をせず、なんとなく「ハリオン良いですよ」としか言いません。
「ハリオンはプロでも使っているから」という話になった時、『そのハリオンって、どのグレードの何番の話してるんですか?』と確認したほうがよいです。
SE系と、SEじゃない系の最大の違いは「サンプリング系音色」ではない「オシレーターの入っている音色」がついていることです。
SOICもつかない無印系はサンプラーとしての機能がついています。
音色の数以上に、そういう違いがあるまったく別のものだと思ったほうが良いです。
■特徴的な部分と、気に入っている部分
・レイヤー
1つのチャンネルの中で、4つの音色をレイヤーできます。
それ自体は大したことはないのですが、そこに差し込む音色をVA系にすることでSEじゃないハリオンは非常に強力なシンセになります。
なぜSteinbergはそこをもっと推さないのか?
Retrologueより圧倒的に良いのに!
よく「ハリオンが」という言い方をされていますが、付属の「SE系ハリオン」とそれ以外は見た目はそっくりですが、まったく違うものです。ネーミングが悪いなぁと思います。
■VAシンセが強力すぎる
中でも極めて強力なのが、VAシンセ音色。
この系統の音色はゼロから音色を作る、いわゆる「アナログシンセサイザー」として非常に強力なものです。これのためだけでもアップグレードした価値があったと思って長年メインに使い続けています。
Cubaseユーザーなら、このシンセを目当てにしてHALionを「SEじゃないハリオン」にするメリットがあるとさえ思っています。
・それどこにあんの?
(HALion SONIC、「SEなし」での検索方法)
「VA」と検索しても出てきませんし、そういうカテゴリもありません。
たとえば「Acid Aeart」を検索してください。
EDITに入ると「Oscillator」タブが出ていれば、それがVA系音色です。
オシレーターから自由に音色を作れる、いわゆる「シンセサイザー」として使えます。
一方、下のようなタブしか出ていない音色は「シンセ」として使えない「サンプリング系の音色」です。
サンプリングされた音色を「SE系」よりも細かく編集できるのが「非SE系」の利点です。
SE系で「なんでここは変更できないんだよー!」と思っていた箇所がほぼ全て変更できます。
この多機能さは
「HALion SONIC SE系」<「HALion SONIC系」<「HALion数字」の順に、飛躍的に多彩になっていきます。
また、グレードが上がると、サンプリング系の音色数も増え、格段に高品質になります。が、それぞれの専用音源を使ったほうが良いレベルという中途半端さでもあります。総合音源の弱みです。
最高グレードの「HALion数字」系はあまりにも機能が多すぎたり、重すぎたりするのでちょっと使いにくい、という評価。
そこで中間グレードの「SONIC数字」のそこそこ高品質なサンプリング系+「VAシンセ」を主軸にする、という運用が効率的じゃないの?となるわけです。非常に高品質な完パケ要求でもない限り、「SE無し、SONIC数字」のクオリティで十分だったりします。「SE系」の悩みどころとなる、音色の自由度の低さから一気に開放されます。
■VA系音色のお話
いわゆる「アナログシンセ」として使える、汎用性の高いシンセです。
・3オシレータ+α
3オシレータ+サブ+リング+ノイズです。
3つのメインオシレータの基本波形は右のとおりです。
・LFOは4つ
1以外は遅延とフェードがあります。位相を変えることもできるので、がんばれば非常に複雑な揺れを生成できます。
・マトリクス
マトリクスはかなり多くのパラメタに対してアサインできます。
微妙に手が届かない部分もありますが、この種のシンセとしては多機能な部類だと言えます。
「どのパラメタで」「何を動かすか」のカテゴリは上下の画像を参照してください。
・マトリクスのカーブ編集
非常に実用性の高い工夫がされています。
センシティブになりがちなマトリクスからの操作は、その反応度を自由に編集できます。最大と最小の値を%で設定できるので、たとえば上下10%などにしておけば、ビブラートの調整が非常に容易になります。
特に気に入っているのは右のシェイプ編集です。直線だけではなく、曲線や複数点での折り曲げが可能です。
これはModホイール等、1つのパラメタの上げ下げで別パラメタを操作できることを意味します。上方向と下方向で異なるLFOで、異なるパラメタを揺らすこともできます。ピッチベンドが半分以上上がった時だけフィルターも動かす、ということもできます。
・エンベロープ編集点
一般的なADSRではなく、折れ線グラフを使います。
それぞれを曲線化でき、また、無制限のポイントを追加(削除)することができます。
decayで一度落ちた音量を、再び上昇させることもできます。
フィルターエンベロープも同様で、相互にコピーしたり、同一点に一致させることもできます。
また、編集点の位置はBPM(音価)にシンクロさせることができます。
・ユーザーエンベロープ
エンベロープは「アンプ」「フィルター」「ピッチ」の他、マトリクスから割り当てることで自由に活用できる「ユーザー・エンベロープ」があります。
通常のシンセ作法による音色作りで対応しきれない部分をさらに追い込むことが可能です。
・エフェクタ
Cubase内の一部の軽量エフェクタと同じもの、あるいは、専用の同社の古いプラグイン(Legacy)と同じ挙動のものが入っています。
エフェクタのほぼ全てのパラメタはHALion内マトリクス、もしくはオートメーション、MIDI Learnで動かすことができます。
エフェクタの同時使用数はプログラム音色につき4(x4)、レイヤー全体に対してさらに4。つまり常に8つを使えます。
軽量で低品質なものばかりですが、それなりの挙動をしてくれます。
シンセでありがちな多オシレータの使用時などにピークを超えてしまうことをリミッタで予防できるのは高い実用性があります。特に近年のDAWは内部的には浮動小数点演算なのでクリップを感知ちにくいですが、書き出すとクリップしてしまう構造的な欠点があります。そういうジレンマを解消するためにシンセ内のリミッタがあるのは非常に助かります。
・クイックコントロール(ユーザー指定つまみ)
その音色のコントロールで頻繁に使うものは専用の追加ツマミにアサインしておくことで、運用がスムーズになります。
レイヤープログラムごとへの割当と、全体への割当があります。それぞれオートメーションやMIDI Learnができます。
レイヤープログラムごとのQCを全体のQCにまとめたり、個別のパラメタを1つのQCにまとめることもできます。
それぞれに最大最小値の指定や、カーブの設定ができます。
QCへの割当はやや面倒ですが、計画的に設計すれば非常に使いやすく、表現力に富む音色を、最小限のツマミで操作できるようになります。