弦チェレの4楽章のみ、吹連アンコン対応で5分以内に終わる編曲です。楽譜はASKSWINDSから販売中です。
(2020年10月18日更新)(楽譜発売開始にともない、新規記事として再掲。)
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- ■バルトーク作曲『弦楽器と打楽器とチェレスタのための音楽』
- ■こういう編曲にした
- ■アレンジ、制作についてなどなど
- ■演奏と制作に関して言いたいこといろいろ
- ■余談、2楽章が好きな件
- ■作ってみたかったバルトーク曲の金管八重奏アレンジ候補
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ちょい難しいですが、可能な限り演奏しやすいように工夫してあります。コンテストで上位を狙えるタイプの曲ですので、事前に購入しておいて練習期間を長く構えるに値すると思います。
■バルトーク作曲『弦楽器と打楽器とチェレスタのための音楽』
原曲の演奏風景。
4楽章、時間指定URL
その他情報はウィキペでもどーぞ。
日本語版Wikipedia編集者に偏執的なファンがいるらしく、分析も書かれています。素晴らしいですね!
■こういう編曲にした
金管八重奏です。(Trp2、Hrn2、Trb2、Eup、Tub)
出版用のフルスコアは2段レイアウトで使いやすいように改善されています。
吹奏楽連盟のアンサンブルコンクールで使用できるように5分に収めました。泣く泣く削った箇所に敬礼!
原曲が超すばらしいので通しで聞いてほしいです。
■アレンジ、制作についてなどなど
・編成
Tpr2、Hr2、Trb2、Euph、Tubです。
一部、調都合で運指が難しめですが、演奏しやすいように様々な工夫をしてあります。私は全金管楽器をそれなり以上に演奏した経験があるので、そこらのアレンジとはクオリティが違います。
・面白いポイント
複雑な曲として知られている曲だけど、4楽章はバルトークにしては明るく分かりやすい。
原曲は弦楽器と打楽器、鍵盤楽器のために作られています。しかし、バルトークの他の曲を知っている人なら「ここは金管向けでは?」と感じる箇所が多いはず。私もそう考えていたので金管八重奏にアレンジしました。
原曲を劣化させた無茶なアレンジではなく、ある意味において本来あるべき形になったと自負しています。
このコンセプトは短い5分アレンジにする際にも一貫させ、弦楽器じゃないと聞きばえしない部分を積極的にカットし、金管合奏のためにふさわしい内容に再構成しています。
国内吹奏楽ではナンセンスなカット演奏が数十年横行していますが、誠意と根拠のあるカットの方向性を示せれば、と思っています。そのように感じていただければこの上ありません。
・主な変更点
明確な理由と目的のために多くの変更点があります。
文句がある人は自分で作れば良いじゃない。PDだし。
作らず文句だけ言う人がいても一切聞く耳を持つ気は無いです。
もしこの編曲内容に不満がある場合には、いくら変更しても構いません。事前事後の許可は一切不要です。
・キー変更と異名同音の処理
キーは原曲から半音4つ下げ。
じゃないと楽器の音域的に無理が生じる。
もちろんスーパー卓越したプレイヤーたちが揃っているならどんな音域でも演奏してくれる。でもそういう人たちからのオーダーで作ったわけじゃないから、汎用的な音域にまとめた。
異名同音はとにかく読みやすいように変更しまくってる。
そりゃ原典に従う「べき」だし、楽理的に正しい書き方をする「べき」だ。そんなことは百も承知してる。けど、結局は演奏する人の負担を減らし、最終的なパフォーマンスを上げることの方が大事だと思ってる。だからミスが生じにくい記譜にした。
CフラットとかEシャープとか、ミスされちゃうでしょ?
で、ミスするレベルの人は楽理とか考えてないでしょ?
・再解釈
昨年編曲したブロッホの『コンチェルト・グロッソ』小編成吹奏楽用(リンク)と同様、編曲先で聞きばえするようにあちこち変更した。
あまり必要ではないテクスチャは削除し、必要不可欠な音が明確に聞こえるようにした。また、リズムの強調をした。
■演奏と制作に関して言いたいこといろいろ
時間指定URL。25分過ぎから。
原曲、25分06秒~のフレーズ。ここはトロンボーンに与えました。
これは弦楽器に与えるフレーズとしてはちょっと異質。
もし金管楽器もあるフルオケだったら、バルトークはこういう部分は絶対にトロンボーンでやらせているはずだと私は考えました。
下の動画、『中国の不思議な役人』や『舞踏組曲』でもトロンボーンがこういう民族調のメロディをやってるでしょ?
アンサンブル曲でミュートを使うのはあまり好きじゃないので、ミュートは割愛。『中国の不思議な役人』や『舞踏組曲』の演奏経験のある奏者なら「これって他のバルトーク曲に出てくるアレだよな?」と考え、ミュート演奏を提案するかもしれません。
もしミュート演奏をしたいなら、そのようにしてくれても一向に構いません。
・カット箇所
この一連の遅い部分を入れずにピアノが半音衝突のフレーズを叩き続ける部分(下参照、IMSLP楽譜P127周辺)をやろうか?とも計画していました。
原曲、時間指定URL。26分30秒から、猛烈に加速し続ける場面です。
楽譜通りのテンポで計算すると、四分音符のBPMが300を超えます。
が、この部分を入れると5分アレンジで緩急のある構成にできそうになかったのでまるまるカット。
非常にバルトークらしい野趣あふれるスリリングな部分なので、原曲動画で確認してみてください。ホントはホントに入れたかった。
これと似たような箇所がバルトークのピアノソナタにも出てくるので、これも編曲しようかなぁと計画中。でもピアノソナタは打楽器的すぎる内容が多すぎるので、金管8重奏にする意義は低いかなぁ、と悩み中。
トランペットのソロを経由して切迫した再現部、終曲になだれこむ。実に金管的な終わり方をする曲なので、やはり4楽章はこの編成でこそ映える。
・緩徐部
編曲音源、2分14秒~
中間、ゆっくりあやしい部分。
こういう箇所は的確に抑揚を付け、明確に区切らないと成立しない楽節です。
演奏家で「現代曲は音符てきとーに並べておけばそれなりに聞こえるから」という人がいますが、こういう場面ではそういう雑な解釈は通じません。簡単そうに見えるけど、事前研究が欠かせない難所と言えます。要するに古典音楽の理解力が必要になる、演奏スタイルの切り替えが重要な場面です。
編曲2分40秒~。
遅い部分。反復、反転させていく無調っぽいフーガ。
フーガであることを理解し、同じパーツを同じようにフレージングしていくと、構造がはっきり出る。
また、オクターブでユニゾンされていることも特徴です。これは整った演奏スキルをアピールできる場面なので、てきとーな演奏をしてしまうわけにはいきません。
吹奏楽の人って、よほど指導がきっちりしていないと、自主的に構造理解をしない人が非常に多い。ここは渋い聞かせどころ!と思って欲しい。
・クラスターのトリル
続き。編曲版2分15秒過ぎ。
緩徐部の最後はオクターブ重ねの無調フーガがしだいに収束し、長2度のクラスター・トリルを形成する。無調の終着点。
_, ._
(;゚ Д゚) … なんじゃこりゃ…
本来あるべき楽器の上下関係も崩壊していきます。これはもう通常の音楽ではなく、効果音や雰囲気のためのもの。極限的なカオスの状況です。上の画像のスタート、一番高い音はホルンで、入れ替わった後の最高音はトロンボーンになります。チューバは常にボトムを維持することで音響を担保します。
当初はトランペットの強制倍音(音域下限外)も使おうかと思ったのですが、安定性重視でリメイク。バストロンボーンでの変態トリルについて相談を持ちかけた富山のTさんには申し訳ないことをした。すまぬすまぬ。全部ボツにした。2バルブのバストロンボーンにおけるトリル演奏の可能性については思い入れがあるけど、別の機会に。
トロンボーン2人にもトリルをさせています。別に整ったトリルが必要なわけでもないので、「金管8重奏でこういうことやらせるか!?」という意外性を重視。別に整ったトリルが必要な場面でもない怪しげな場面なのでヨシとしています。
・異名同音の記譜
異名同音については、アマチュア奏者が読み間違えにくいように意図的に書き方を変えています。
たとえば下の例だと、
以下、意図的に変な日本語で書きます。
5つ目の音符は嬰ト、最後の音符は嬰ホが「正しい」です。
悲しむべきかな結局読間違え余計な練習時間を要すのが実情です。夫々「イを鳴らしたら次は半音下」「嬰ヘと本位ヘ」と書いた方がミスが減ります。此等が不正確たる事など百も承知の上で。
然しながら、学生は疎か準職業奏者級の者でも兎角「奏者専業」の訓練に終始してきた者、即ち凡百の奏者は作編曲を生業とする我々作編曲家に比して理論に疎いのは必定です。而正しく分析的な演奏を可能とする為に嬰ホを記する依りかは己がパート譜のみ追掛ける奏者が為に本位ヘは尚良好と覚えよ。
で、この文章読みにくいでしょ?読みやすく、平易に書くべきなんです。
逆に言えば、分析的に読めるレベルの人なら、「あ、そういう意図で異名同音を書き換えているんだな」と翻訳して読めるし、理論強者を名乗るならそのくらいの読み替えが瞬時にできて当然ですよね、というイヤミまで言えてしまうわけで。
もしそれがダメだと言うなら、出版社側にかけあい、徹底的にチェックしてリテイクを言い渡せば良いだけのことです。つまり「理論的に正しくない楽譜を世に出すな」とね。もしそんなことが可能ならですが。
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『弦チェレ』アレンジについては以上です。
■余談、2楽章が好きな件
本当は2楽章を作ってた。が、気がついたら4楽章を作ってた。2楽章を試作していると「これ途中からは金管8重奏に合わないんじゃね?」と疑問になったため。これは気が向いたら小編成吹奏楽用に編曲やろうかなぁと考え中です。スタート直後のユニゾン高速フレーズは木管を徹底的に重ねてみたい。小編成ならではの鍵盤パーカッションが大きく聞こえるバランスも生きるはず。
とにかく2楽章は超かっこいいのでぜひ聞いて欲しいです。
(2楽章開始から。時間指定URL。8分42秒~)
たぶんこっちのほうが4楽章よりも「いかにもバルトーク」な感じがあると思います。
11分30秒あたりからは色々な映画サントラやゲーム音楽でパクられた超かっこいい部分。(時間指定URL)
精密に配置指定された楽器群による和音シーケンスは均等にずらして演奏され、その上に鍵盤楽器の散発的な打撃を入れる、という作り。超かっこいいのでみんなもパクろう!
(原曲の全楽章スコアの29ページあたりから。)
これ最初にやったの誰なんだろうね。知ってる人いたら教えて欲しいです。
ホルジンガーも1991年作品『大空への挑戦』でパクってた。(時間指定URL、9分52秒~)
本題から逸れるけど、ホルジンガーのこの曲はおいしいオーケストレーションのアイディアに満ち満ちているので興味がある人は聴き込んでみると楽しいはずです。わりと好きな吹奏楽曲。
■作ってみたかったバルトーク曲の金管八重奏アレンジ候補
オケコン4楽章も作ってみたい。死ぬほどカッコイイ。が、死ぬほど難しいというか、演奏不能に近い難易度になりそうなので却下。(そういう楽譜を出す意義が無いわけではないけれど。)
『千と千尋の神隠し』のパクリ元としても知られる曲です。知っている箇所が出てきてびっくりする人もいるはず。
他、上で名前を上げた『中国の不思議な役人』なども編曲してみたかったのだけれど、果たして金管八重奏曲として存在意義があるのか?と考えるとノーですね。
様々なポイントを熟考した上で、『弦チェレ4楽章』は金管八重奏として誰かが作るべきだと思ったわけです。
という具合で、ちゃんとバルトークの曲を研究した上での『弦チェレアレンジ』なので、バルトーク研究をライフワークにしていた故恩師に対する義理は果たした、と考えています。