コロナ禍でクラシック系の人が多くの演奏動画をアップしています。しかし、多くの人が動画の音量設定に無頓着なようです。
この記事は「音量入門編」として、初心者向きの内容だけを書いておきます。
この記事はクラシック系で演奏動画を作っている人に広めてください。
(2020年7月8日更新)
■これは営利目的の記事ではありません。
先に書いておきますが、この記事は「仕事よこせ」という意図はまったくありません。そもそも安価な仕事は一切引き受けないことに決めています。
こういう編集技術を持っていると、便利屋扱いされたり、善意の友達料金を押し付けられて、人間関係が崩れる恐れがあります。
金額を明示すると、5000円以下の仕事は一切の例外なく受けないことにしています。それ以上の金額を出してでも「ひどい録音になってしまった。ノイズ除去や様々な補修加工をして欲しい」という相談だけを仕事として受注し、しっかりと仕上げています。
それ以下の依頼であれば、
「自分で楽しみながらやれば?」
「練習してる学生つかまえて一食おごって作業してもらえば?」
と言って全てお断りしています。
大丈夫ですって。営業はちゃんとやってますから。
・ちょっとした編集でも、無料でやらせてはいけない
「このくらいすぐできるでしょ?」
と言って、他人を無料で使うのはまともな大人のやることではありません。
親しい仲であればなおさらです。お金だけの関係だと何かおかしくなりそうな時、変化球で支払いましょう。
たとえば「近所の飯屋に行って、2人でちょっと贅沢し、おごらせる」という方法です。私は過去にこの方法を使い、デートスポットの下見や、入りにくいお店に挑戦、などをやっていました。おごりで食う高級店のメシは至福です。
相手が中学生の場合には、作業開始時に「そこの角のコンビニ行ってお前と俺の弁当、飲み物、あと自分用には高くて買えないけど、食べてみたかったお菓子を買ってきて。」と要求するのもオススメです。少年少女に報酬の概念を教えるのは全ての社会人の義務だと思います。私はそう教えられてきました。
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では本編。
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■あなたの動画の音量を確認してください
例えばこういう動画。
素晴らしいアレンジと演奏です。
しかし、音量が小さいと思いませんか?
Youtubeで再生し、右クリックして「詳細統計情報」を押してみてください。(上の埋め込み動画でも表示できます。)
チェックするのはここだけ!
拡大しておきます。
「-15.1dB」。
これが動画の音量です。
dB(デシベル)は-6で半分の音量という意味です。
-15.1dBということは……とても小さいですね。
・逆に大きすぎる曲はどうなのか?
音の大きなダンスミュージックでの例です。
こちらは「6.7dB」でした。
音が大きい曲はYoutubeが自動的に音を小さく処理します。
この処理を「ラウドネス・ノーマライゼーション」と呼びます。
オーディオ配信用の専門用語なのでは覚えなくて良いですが、 とにかく「自分の動画の音量はこれで大丈夫か?」とだけ常に考えてください。
クラシック系の演奏動画はとにかく小さすぎます!
曲中で一番大きい箇所で音が限界まで出るようにがんばってみましょう。
これは大編成オーケストラの動画でも、音量の小さい室内楽の木管ソロでも同じです。
追記。アコースティックギターの弾き語りも同じ。同郷のギタリスト、ヤマアニさんの場合。
こちらは-13.2dB。たぶん録音したままのファイルを動画にしています。
・小さくなる原因
録音の時は絶対に音割れ(クリッピング)が起きないように、余白を作ります。その余白が残ったまま動画になっているからです。
クラシックの人なら、素人の録音で音割れしてしまったものを聞いたことがあるはずです。そうならないために、録音では音割れしていないことが最重要なんです。
しかし、そのままの音量では余白が大きすぎることが多いです。
件の動画では「音量の余白」はこのくらい。
録音データとしては「絶対に音割れしない」余白が確保されているので良い状態だと言えます。
しかし、作品をリリースする時には仕上げ段階で余白を無くす作業が絶対に必要なんです。
・私が作っている動画の場合
オーケストラ曲のコンピューター演奏の動画です。
最も迫力のあるffの部分で、やや過剰な音になるくらいに調整してあります。
純粋なクラシック・オーケストラの録音物よりはやや大きいです。
中央の真っ黒の部分ではかなりの圧迫感がある、ややポピュラー音楽寄りの仕上げ例です。
TVアニメのBGMなどで使われるクラシック曲はこのくらいの音量で作られることが多いです。大きすぎず、小さすぎず、あらゆる状況で使いやすい汎用的な音量だと思っておけば、とりあえずOKです。
Youtubeでの音量は「-0.5dB」と極めて良好です。(ピッタリ0.0dBではなくても構いません。)
動画制作時の音量合わせの参考に使ってください。
・Youtubeクラシック用、参考音源のダウンロード
音源mp3をダウンロードできるようにしておきます。
・もうちょっと純粋なクラシック仕上げの例
コンクール予選の録音審査用で依頼された仕事での仕上げ例です。
クラシックの録音審査で「音が小さすぎて損をしている」というお話を聞いた人は多いはずです。
上の例はやや大きめで、オーディオの素人がここまでの音量で仕上げることは絶対にできません。普通は余白をはみ出した音がバリバリ割れてしまいます。
そりゃ仕事だから丁寧に仕上げてますよ。
私はクラシックの演奏経験があり、オーディオ加工の技術もあります。
録音時には「絶対割れないのが重要」なので、クラシック原理主義者のように「音量上げなんて邪道だ!」と言う人は、オーディオを分かっていません。海外一流オケの市販CDだって、昔からいろいろ加工してるのは常識です!録音したそのままを売ってるレコード会社なんて存在しません。
■見た目で比較してみる
動画編集をする人は音を「波形」で見るはずです。
音の波形を目で見た時に、波形が細すぎたり、太すぎる時には、必ず音量を修正することを考えてください!
一番上が件の「小さすぎる音」です。
こういう感じだな、と目で覚えておくのも悪くありません。
ポイントは3つ。
- 「余白を無くす」
- 「迫力のあるポイントで圧迫感を出す」
- 「真っ黒にしない」
・-6デシベルは致命的である!とだけ覚える
さらに詳しく勉強したい人はgoogle先生に聞いてください。専門の技師の指導を受けてください。
でも、そこまでしろとは言いません。クラシック演奏の動画制作をやるなら最低限のことだけを覚えて欲しいんです。
今覚えるべきことは「-6dBは半分」ということだけで良いです。
・数字のイメージに騙されてはいけない!
音量メーターの画像を見てください。
このメーターでは一番上がゼロ、一番下が60なので、「0~60の半分って30でしょ?」と思うかもしれません。
違います!
このようなメーターの見た目だと「-6ってほんの少しでしょ?」と思うかも知れません。でも、数字とはそういうものではありません。
こういうことは身近な例え話で強烈に覚えておくと良いでしょう。
つまり、こうです。
あなたの体重が 6 多かったらどうですか?
お風呂の温度が 6 低かったらどうですか?
体重60キロの半分は30キロですが、そんなことはありえません。
お風呂の温度は40数度ですが、20度は完全に水。温水プールよりも冷たいです。
「音量は-6デシベルで半分」とはそのくらいの意味だと思っておいてください。
クラシックの人だと、「チューニングが6セント低い」と言った方がインパクトあるかな?
■事前に音量を知るためのツール
動画制作をする人は必ずブックマークを!!
このウェブサービスでは「曲の平均音量」を計測し、各種メディアでどのくらいの自動音量調節が行われるかを推測してくれます。
件の小さすぎる動画をチェックするとこうなる。
結果は「+12.5」です。
Youtubeは「--」となっています。
これはYoutubeには「小さすぎる曲を大きくする機能」が無いからです。
「+12.5」と出ているので、「あなたの曲は12.5dB大きくしてもOKだよ」ということになります。
先程の「15.1dB」と数字は違いますが、とにかく「12.5dB」大きくしても、「2.5dB」の余白があるということです。12.5を少しくらい超えてもYoutubeではそう簡単に音割れすることは無いという意味でもあるので、思い切って大きくしましょう!
YoutubeもSpotifyのように自動で大きくする機能が付けば良いのにね。
せっかくの演奏と、録音。
手間のかかった動画制作。
そこまでやったなら、あとひと手間かけて!
最後に必ず音量をチェックをしてください!
ちょっと直して、もう一度アップロードするだけの手間で、あなたの動画の魅力は倍増します!
■無料ソフトで音を大きくする方法
動画ソフト内で単純に音量を上げても良いですし、音楽編集ソフトFL Studioを使う方法もあります。
「ノーマライズ」というシンプルな加工で、余白を無くすだけです。
・FL Studio無料版の機能制限について
FL Studioは無料版だとセーブができませんが、その場でwavデータを出力してしまえば何も問題ありません。
作曲したり、複雑なことをやりたい場合はお金を払ってセーブ可能な状態にしましょう。
・私が使っているCubaseでの例
ノーマライズはオーディオ編集ソフトならほぼ確実に備わっている機能です。
ノーマライズの編集メニューを出して、「-1dB」に加工します。
本当は「0.00dB」が理想なのですが、動画ソフト内で映像と合成して動画ファイル(mp4など)に変換する時や、Youtubeなどの動画サイトにアップロードした時に、わずかに音が変質することがあります。
その時に「0.00dB」の音声ファイルだと、わずかな変化ではみ出してしまい、音割れをしてしまうことがあるんです。なお、0.00dBのwavをmp3などに変換するだけでも音が割れます。
それを予防するために、念のために「-1.0」にすることを強く推奨します。
こうしてノーマライズをするだけで、波形は十分なサイズになります。
チェックツールでデータ詳細を表示してみると、
ちゃんと「-1.00」に収まっていることが分かります。
1,録音した波形を読み込む
2,ノーマライズする
3,-1.00で出力する
やることはこれだけです。
・仕事として請けた場合はちゃんとやるよ
上のような作業は私がやれば数秒で終わります。
それだけの作業で数千円を要求することはしませんし、そもそも受けません。支払い時に渋い顔をされるだけです。その渋い顔を封じるだめに、「瞬時に終わる作業なのに、苦労してる芝居をしてまで長引かせる」演出とかやりたくないんです。
そういうセコいことをやれば儲かるのは分かりますし、過去の職場ではもっとエグいこともやっていました。が、イヤなんですよ、そういうの。
なお、仕事として請けた時にはそこらのエンジニアにはできないレベルで様々な音響処理をしています。その他、ソロ演奏を作りたい人の依頼で伴奏制作もやっています。
そういう作業に対してはそれなりの金額を要求しています。それで実際にリピーターもちゃんといるので仕事として何の問題もありません。
さらにdisるなら、「0.00dB」で納品する阿呆がいるんですよ。実際。そんな状態のデータを素人に渡したら、実際に使う時には確実に音が割れちゃうのにね。BtBの仕事でさえ0.00dBで納品したら、そのまま安易にコンバートされて最終段階で音割れするのがザラなのに、BtCでそんなことしたらどうなるか。火を見るより明らかです。プロならそんなことするな。とか言いつつも、市販CDでも音割れてるのが稀に良くある。
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以上です。
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■宣伝。
この記事で引用したユーフォニアム曲の楽譜購入はこちら。
・山口景子の楽譜 Keiko Music
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