eki_docomokiraiの音楽制作ブログ

作編曲家のえきです。DTM/音楽制作で役立つTIPSを書いています。

DAWでVUメーターは本当に必要か?

色々思うところがあったのでVUメーターについて書いておきます。

VUを勧める内容ではありません。もっと良い道具があるよという記事です。

 

 

 

■ピークとRMS

ミックスをする時にはトラックの最大音量を示す「ピーク」と、平均音量を示す「RMS」をきっちり分けて考えなければいけません。

 

一般的なメーターはピークを表示するメーターです。

VUはRMSを表示するメーターです。

 

・ピークを見る必要がある時

ピークは最大値のことです。

 

突発的な最大値のことなので、瞬間的に大きなピーク音量があるからと言ってフェーダーを下げると、ピークレベル的には良いバランスでミックスできていても、なぜか音がさっぱり聞こえないミックスになってしまいます。

 

突発的なピークを抑えるために、コンプやリミッターを「ピークを抑える用法」で使います。

 

RMSを見る必要がある時

RMSは平均音量のことです。

一般的には300msの平均で、300msは一般的なVUの表示と同じです。

平均値は突発的なピークにそれほど影響されません。

 

平均を上げたいなら、フェーダーを上げるか、コンプを「音圧を上げる用法」で使います。

 

 

・音量の平均って?

RMSで考えるのはとても大事ですが、平均値なので「100と0の平均=50」も「60と40の平均=50」も同等だとみなすのがRMSです。音量差がどのくらいなのかをちゃんとチェックしないと、RMSのためにアホみたいに大きいピークにしてしまったり、逆にコンプでベタベタに潰した音でも「これで正しいから!」といって平然とミックスする悪癖がついてしまいます。RMSが全てにおいて優れているわけではありません!

 

ミックスの教科書を読む時、その説明で言っている音量がピークのことなのか、RMSのことなのか、下準備のコンプ済みの音のバランスのことなのか、的確に判断しましょう。

ほぼ全ての教科書において「これはピークの話です」と書き添えられることはありません。文脈から読み取りましょう。国語力大事。

 

■VUメーター

VUメーターはプラグインでもいろいろなモデルが出ているのですが、プラグインのVUは正直どれもダメです。

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なんでダメなのかというと、秒間フレーム表示が甘すぎて針の揺れ幅が全然わからないからです。

チラついてしまって見るべきポイントがさっぱり分からないんです。

せめて60fps以上で表示するか、ブラー等で中間を補間表示してくれないと道具として使い物になりません。

また、VUの針の細さを重視する人もいるようですが、見た目の細さと精度は関係ありません。細くなくても動けばわかります。

 

・VUもキャリブレーション大事

もしプラグインのVUを使うなら必ず初期調整をしましょう。

スペアナの初期調整が重要なのと同じで、VUも初期調整をしないとダメです。

調整していないと針が振り切ってしまうので無意味です。

もしどうしてもVUを使いたいなら、そのVUが表示しやすい音量で全ての作業を進めていく必要があります。

 

・実機VUメーターを否定しているわけではない

当然実機のVUメーターは針が物理的に揺れるのでプラグインとはまるで比較にならない見やすさです。

実機のVUに慣れている人は「DAWでもVUを使う」と主張していますが、実際問題としてプラグインのVUは表示がガクガクなので甚だ疑問です。

 

そういう人を真似して「プロはVUメーターを使うから!」というプロごっこでVUを表示しても、何が何やらさっぱり意味が分からないんじゃないでしょうか?

 

・デジタルでVUは必要か?

結論から言えば、現時点ではデジタルに適合したVUが無いので不要です。

 

浮動小数点演算が常識化したDAWにおいては、フェーダーに対して小さすぎ/大きすぎる音量を扱うことがあるはずです。もしVUを常用するのであれば、VUが的確に表示できる狭い範囲に全てのトラックの音量を合わせておく必要があるというは絶対に見落としてはいけません。

上の画像を見てもらえれば分かるとおり、VUで表示できる範囲はかなり大きい音量域だけです。VUに対して小さすぎる音量域や、音圧を求める状況では道具としての意味をなしません。数値で表示してくれるデジタルメーターやラウドネスメーターの正確な情報じゃないといけないからです。

 

・アナログコンソールのワークフローでは不可欠、だがDAWでは?

アナログ機材対して適切な音量にまとめるのはいわゆる「バランスエンジニア」とかアシスタントの仕事。そこから先がミックスエンジニアの仕事で、音楽的なバランス調整になる。

もちろん機材のためのバランス取りも「音楽的」ではあるんだけれど、比重が違うよねという話。

 

この手の細分化の用語に敏感な人もいるんだけど、反面あいまいに扱う人もいる。相撲で言うと血土俵の上で勝敗を判定する行司と、土俵の周りでより厳密にチェックする審判、そしてビデオ判定員、という感じか?サッカーの主審と副審とか、ラインズマンとか、そういう感じ。とにかく同じような役割なのに分担されていることがあるよ、ということ。

 

そういう初期音量を整える工程をちゃんとやっていないならVUを導入してもほぼ無意味になります。

そういう大前提を無視してVUを勧める人がいたら、DAWでのミックスを教わる場合には気をつけたほうが良いです。

もちろんそういうエンジニアの人たちを全否定するわけではありません。

実機を使ったミックスと、DAWでのミックスの最大の違いはアナログとデジタルの音の差ではなく、基準音量の差からくるワークフローの差です。

これは実機アナログ卓の特性上、フェーダー位置によって音色が異なるからです。S/N比や飽和の話です。

 

浮動小数点演算において、フェーダー位置による音色変化は皆無なので、バランスエンジニア的なワークフローは不要です。

いや、そりゃまぁ、フロートでも厳密には違うことになるんだけど、アナログ卓に比べたら完全に無視できるレベルでしょ?というお話。作ってるのが音楽だし。

 

レベル(音量)を整えておくプロセスが無くても同じ音だから、DAWで初期バランスを作るのは意味が無い時間の無駄です。

 

この辺の理解に対する齟齬があるので、ミックス知識の仕入れ方には注意が必要です。

 

・VUを勧める人の矛盾

「VUは良いよ。使うべき。」と勧める人に共通していることが多いのが「スペアナはダメだね」というもの。

VUに初期調整が必要なのと同じように、スペアナも初期調整が必須です。

そういう手順を無視して闇雲にVUだけを勧めるのはいかがなものかと思います。

 

VUが全ての状況で音楽的な表示を行ってくれるわけではありません。

入力レベルに対して大きすぎ・小さすぎる状態では、VUはまったく役に立ちません。

 

スペアナの調整については下の記事をどうぞ。

当ブログの大人気記事で、反響も非常に多いです。

eki-docomokirai.hatenablog.com

 

 

■対ピークと対RMSのコンプ用法

コンプは「ピークを抑える用法」と「音圧を上げる用法」があります。

この両方をコンプ1つでやろうとするのはとても難しいです。

コンプを複数使うことに否定的な人もいますが、状況によっては2つ使ったり、特殊なコンプを使うと良い、ということです。

 

また、多くのミックス指南でこの点がごっそり抜けているものが散見されるので気をつけた方が良いです。

 

■スペアナの設定

おなじみVoxengo SPANはピーク表示とRMS(的)な表示ができます。

 

右上の「三」と、そのちょっと内側の「歯車」でそれぞれ設定する必要があります。

 

下画像。右上。

赤丸で示した「三」では、

Density Modeをオンにし、Peak Level Hold Timeを適度に上げます。私は1000~最大を使います。

 

緑で示した「歯車」では、

Avg.Timeを適度に上げます。(私は1000~最大で使うことが多いです。)

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上で説明したように設定すると、

右下のようなアウトプットレベルの表示になります。

平均値を針で「ここです!」とピンポイントで示すVUとは挙動が異なり、「この辺でうろついてます!」という平均分布を表示するモードです。

 

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「ここ!」ではなく「このへん!」という表示になります。

これがもしVUだと、「このへん!」の中心にVUの針があるということです。

ある種のラウドネス表示と見ることもできます。

 

SPANの平均分布表示とVU針、ラウドネスメーターのどれ優れているというわけではなく、用途と好みによって使い分ければ良いと思います。

 Peak Level Hold Timeを変えてみると、どういう挙動なのかすぐに分かるはずです。

 

欠点としては、キックなどの打撃的な音に対してブラーが大きすぎることです。

こういう表示に対して貧弱なのはVUも同じです。300ms固定であることが完全に裏目に出てしまい、ハリがドッカンドッカン動いてしまい、計測ができません。

 

RMSはテンポにシンクロしていないタイミングで検出するので、均等なタイミングの4つ打ちキックの平均値が「ここです!」と表示してくれません。もし自動でテンポを検出してくれる「シンクロ式VU」があれば、ミックスは一気に簡単なものになるはずです。

 

複数のトラックにSPANをさし、デンシティモードで比較しつつ、SPAN下部のRMSとPeakも比較してみるとよりよいバランス作りの基準になってくれるはずです。

下はキックとスネアの比較例です。

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ピークではスネアが上、RMSではキックが上、というサウンドに仕上げた例です。

もちろんスネアとキックのテールの長さによって表示数値は大きく変わってくるので、一概に「この数値バランスが正解!」というのは存在しません。

 

この段階になってようやく「耳」の出番です。バランスを崩しすぎないようにテールの長さを音楽的に整えていきます。コンプを使うのが通常の方法ですが、モダンなミックス手法ではトランジェントを使います。(トランジェントが邪道だと言う人は数年前に比べて明らかに減ってきている印象です。)もちろんキックの音色を分割して、アタックとボディ、テールで個別に整えるスタイルもあります。 

 

その他のSPANの表示調整については別の記事で書いていますのでぜひ御覧ください。特にスロープ調整は超重要です。

この記事1つだけでものすごいアクセス数のある大人気記事です。 

eki-docomokirai.hatenablog.com

 

■ VU買うくらいならマルチアナライザを買おうぜ?

マルチアナライザだと競合帯域もレベル差も瞬時に分かるし、平均値表示もできる。超便利。

 

スネア、キック、ベースを表示した例。

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スネア、キック、ベースに加え、ボーカル、全体のマスタリング処理後(グループバス後、黒)を表示したもの。

最終的な音に対し、どのくらい影響するかをチェックしつつ作業できる。

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もちろん瞬間的な突出などもあるので、この静止画だけで判断できることは皆無です。

チェックしたい項目ごとに、表示スピードとスムースさを変える必要があります。

最終的には「耳で聞く」ことになるのですが、音量バランスや周波数に対して正確な耳を持っている人は非常に少ないです。

結局は補助具でしかありませんが、補助具によって耳は育ちます。

補助輪無しでいきなり自転車に乗れましたか?ということです。

 

ミックス込みのDMTレッスンでは頻繁にマルチアナライザを推奨しています。

私が「あらかじめ曲を作って準備してからインストールして、デモ期間(2週間)だけ使って捨てろ!買うな!」と言っているにも関わらず、紹介したほとんどの人がデモ期間終了前どころか初めて使った直後に「ポチった。」と言っています。そのくらい強烈なインパクトがあるようです。

eki-docomokirai.hatenablog.com

視覚情報でチェックし、「ぶつかっているとはこういうことか!」と理解すれば本当にいらなくなるプラグインです。頻繁に勧めていますが、私自身ぜんぜん使っていません。

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