eki_docomokiraiの音楽制作ブログ

作編曲家のえきです。DTM/音楽制作で役立つTIPSを書いています。

スペクトラムアナライザーの調整が大切な理由

(人気記事!)DTMに関する記事です。

サウンドを目視でチェックするためのスペクトラムアナライザー(スペアナ)はとても便利なものですが、実はスペアナのモデルによって表示はかなり違います。

ここでは計測器の特性チェックと調整方法について書いておきます。

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(2020年8月29日更新、記事分割予定)

■はじめに 

途中で話が脱線しまくりますが、どれも関連性の極めて強いことなので、1つの記事に同居させておきます。

 

SPANの具体的な設定方法については下記事を。 

eki-docomokirai.hatenablog.com

 

・そもそもの話

なんか誤解している人がいるようなので序盤に断り書きを書いておきます。

この記事は「音楽クリエイターの実務の話」です

オーディオリスナー視点ではありません。

建築屋や製造業の話でもありません。

スペクトラムアナライザーはあなたの興味がある目的以外でも使われている「ものさし」です。なので、あなたの活動フィールドの期待に沿った内容ではないかもしれません。過度の期待はしないで、まず斜め読みしてください。 

 

・計測目的ではありません

本記事で使用しているスペアナ画像は異なる楽曲のものです。同一楽曲の同一タイミングを比較したものではありません。

ガチ計測目的ではないので、入力ソースはその都度変わっています。画像を制作した時期もかなりばらついているので、統一感はありません。

そういうデータを求める人は自分で作ってみると良いと思います。たぶん作ってる途中で「あ、これは不毛な作業じゃね?」と悟るはずです。あんまり意味がありません。

  

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■モデルによる大きな違い

スペアナについて言及している人の多くがこのことをまったく配慮せず「◯◯社のスペアナのプラグインの方が高性能だ」とか言っています。

しかしデフォルト状態での表示が異なる以外はどれも大差ありません。

 

フリーのSPANとかMeldaでもちょっと設定を変更するだけでいろいろな表示モードにできます

つまり表示設定ができないスペアナは、使用目的が極めて限定されてしまいます

ただ、実際問題として、DTMをやっている人のすべてがカスタマイズ好きというわけではありません。ポンと起動しただけで使っている人の方が多いです。

 

スペアナに限らず、コンプやEQでさえ、本当に精密な使い方をしているわけではない人がとても多いです。少なくとも私が知る限りそういう人の方がプロアマ問わず多数派です。みんな結構適当ですよ。

EQやコンプが起動しただけでは無意味なのと同じで、スペアナも起動しただけでは使いものにならない、と理解してください。

 

そういうイージーな使い方をする人たちが悪いという意味ではなく、その程度でも能力しだいで素晴らしい音楽はちゃんと作れるということです。多機能プラグインを細かく設定したら曲が良くなるわけではないのと同じです。高性能の実機スペアナを使っても曲は良くなりません。

 

手軽に使いたい人たちをメインターゲットとした商品は、「デフォルト状態の使いやすさ」「デフォルト状態での見た目の良さ」「プリセットの良さ」をしっかり作り込んでいる傾向があります。

逆に、初期状態は雑だけど、手入れしてあげることで多彩な機能を発揮するものもあります。

 

DTMだけではなく、生楽器の演奏家の人でも、驚くほど楽器の構造に無知な人がいます。

音楽史や作曲家の背景、楽曲名、ビンテージ楽器の知識などは、プロの演奏家よりも評論家や聞き専の人、コレクターの方が詳しいのはみなさんも知っての通りです。そういう知識は音楽制作の実務と無関係な知識だから当然のことです。「プロなのに知らないの!?」と言う人が非常に多いですが、プロは必要な知識と必要ない知識を線引きできているものです。 

■低域の表示精度

スペアナのデフォルト設定はあなたに今必要な情報を表示してくれるわけではありません。

  1. 俊敏な動作で見やすくする
  2. 平均値で見えるようにする
  3. なだらかな分布を長期間で測定する

など、用途によってどんどん使い分けるべきです。

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このように、フリーのSPANでも上の画像のように低域を高精度表示できます。

デフォルトでは可視化されない40Hzあたりのピークがくっきりと浮かんでいますね。

 

「ローエンドの処理」をやりたいなら、スペアナで低域が正確に表示されるモードにしましょう。

ローエンドを整えたいなら高級スピーカーを買うより、スペアナをちょっと設定した成果が出せるでしょう。六畳一間にポンと設置したスピーカーを小さい音量で鳴らしても、ローエンドのチェックはできません。

・高精度モードは描画枚数が少ない

高精度モードは一長一短です。顕微鏡を使うと小さな範囲しか見えないのと同じだと思ってください。

 

高精度表示は表示の反応速度が低下します。これはPCやグラボのスペック問題ではなく、計測の原理からくる理論上の限界です。

周波数100Hzは1秒間に100回の振幅だから1秒間に100回検出できます。

しかし、周波数1Hzは1秒間に1回の振幅なので、1秒待たないと表示できません。1Hzまで正確に計測・表示したいなら、1秒に1回、1Hzを検出できた瞬間に得られたその他の周波数表示だけになります。

ローエンド50Hzをチェックしたいなら、1秒間に2回しか計測できないということです。 

これではカクカクしてしまうので、中間フレームを擬似的に生成するアニメーションモードもあります。

見た目はスムーズになりますが、それは擬似的な描画でしかなく、計測数値としての正確さは失われます。

 

万能の道具はありません。

いろいろな表示モードを試してみてください。

 

(追記。上で「理論上の限界」と言いましたが、いわゆるマルチバンド分割の手法を使えば、音楽のミックスにだけ最適化したスペアナ作ることは「理論上は可能」です。低音域に特化した設定での表示+中高音域の表示を、200Hzあたりでクロスエフェードして表示すれば良い、という理屈です。)

 

・反応速度

どのスペアナでも高精度モードでは反応速度が遅くなります。

ご存知の通り、高い周波数は1回の振幅にかかる時間が早く、低音はその波長1回の時間が長いです。

1つの波形を、そこに含まれる様々な周波数に分解(フーリエ解析)して帯域ごとに表示をするのがスペアナの原理ですから、低域を精密に表示させると遅くなるのは当然です。早くすることは物理的に不可能です。

食べた直後の体重は、食べた分だけ増えているのが「早い計測」、1ヶ月のダイエットの成果が「遅い計測」という感じです。

超低音域の表示を早くするには未来予測をするしかないので、現在の科学では不可能です。 

 

・平均表示1

通常のスペアナだとギザギザすぎて意味分からないこと、ありませんか?

1/3オクターブなどに丸めて表示するモードは音楽的にバランスを整えるミックス作業に最適です。

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突発的なピークを検出する検査目的ではなく、音楽的にバランスを整えることを重視する際にはこの方が良いです。

フル表示でギザギザにしていると、線が多い場所が多く鳴っているかのように錯覚してしまいがちです。明るい場所で顔の毛穴が見えると発狂しそうになるのと似ています。人体って結構グロいですね。

 

細いEQであちこち削ってしまう癖のある人は、表示をソフトにすると良いはずです。細かいギザギザが見えなければあなたは反応しなくなり、より音楽的なEQ処理ができるようになるはずです。針のように細いEQを使うのは録音物のミス処理の時だけですよ。

・平均表示の欠点

あらゆる表示モードは一長一短です。

平均表示だと瞬間的なピークが表示されない欠点があります

これに対処するためには複数の表示モードを重ねる設定方法を煮詰めてください。面倒なので説明は書きません。

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上の画像は、4つの要素を表示しています。

  • 最大値(ピーク)と平均値
  • MとSを表示

単にスペアナを複数起動するのも良いかもしれません。

8種類の表示モードをワンタッチで瞬時に切り替えられるMeldaのアナライザが非常に「音楽的」であるとされる最大の理由です。 

というか、ギザギザにするのは録音物の検査の時だけのはずです。アレンジ終わってからそんなチェックをしているということは、作業手順が根本的におかしいです。服着てから下着の裏表を確認する人はおかしいです。

・平均表示2

マスタリング時など、さらにゆるい表示にすることがあります。(注、マスタリングでも2mixが悪い場合はギザギザにすることもあります。念の為。)

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ここまでソフトにすれば、細すぎるQで加工しようという気も起きなくなるでしょう。EQは細く使えば良いってものじゃないですよ!

また、帯域のソフトさだけではなく、音量に対する反応時間もソフトにして平均音量の表示にすると、マスタリング作業に適した情報を得られます。

■表示モードについてまとめ

  1. 高精度モード=検査目的
  2. 平均表示=音楽的にミックスバランス
  3. さらにソフト表示=マスタリング

なんとなくスペアナを出していただけの人は、まずこの3モードを使い分けてみましょう。

 

■スロープ、ホワイトノイズ、ピンクノイズ

では本題!スペアナの基準値を設定していきます。

 

スペアナについている「スロープ(Slope)」はオクターブ高く(低く)なった距離で何dBの傾斜をつけるか?というパラメタです。 

スロープが狂っているとどうなるかというと、

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こういう状態で作業をしているとどうなるのかというと……

 

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これが「スペアナなんか使ってたらクソ音にしかならない」と言われる最大の理由です。

また、音楽用途での「ものさしノイズ」としてピンクノイズが使われる理由でもあります。ピンクノイズは聴覚上、低音域と高音域が同じに聞こえるノイズです。(ホワイトノイズは高音域が強く感じるはずです。) 

eki-docomokirai.hatenablog.com

同様の問題はモニター環境(スピーカー、ヘッドホン、部屋鳴り等)によっても生じます。

ご自慢の重低音スピーカーで聞きながらミックスすると「低音出過ぎかな→低音下げよう→低音の薄いミックス」になってしまいます。

 

上下の帯域の再生能力が高い高性能なスピーカーだけで作業していると、チープな環境で再生した時に超ローと超ハイにサウンドが偏っていて、中域だけ聞いてもキックが聞こえないという「あるある」な状態になってしまいます。

ショボい再生環境でのチェックは高級モニター機材より大事です。

eki-docomokirai.hatenablog.com

 

なお、モデルによって傾斜の軸位置が違います。SPANは中央の1000Hz、Meldaは左端が軸です。

・見た目で指摘してくる人に気をつけよう

過去にニコ生のDTMを見ていたら、コメントで「ローカットしろよ」と叫んでいる人がいたのですが、それは配信者の画面に出ているスペアナ(Waves Paz)を見て指摘していただけだった、という事案がありました。

Waves Pazのデフォルト状態ではローカットしても低音が暴れているように「見え」ます

それを「見た」からローカットするというのは完全に間違いです。

 

たとえばWaves PAZのデフォルト状態だと、

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このようにローの解像度は非常に低いです。

さらに言えば、解像度が低いわりに対数表示に近い状態(中央が250~500Hzあたり)ですから、なおさら左側が暴れているように見えてしまいます。

LF resを変えることで250以下の表示を高解像度化できますが、Waves PAZの品質は今の時代ではお話にならないレベルだと言わざるを得ません。時代を感じますね。

 

よくミックスの教科書では「低音が暴れている(rumble)」と表現されていますが、これはスペアナの視覚上で「低音が暴れている」ことではありません!スペアナで完全に低音が消えて見えるとしたら、それはローカットしすぎです。

スペアナの見た目で加工してしまうタイプの人の場合は、ローはどこから下を消すかではなく、いかに残すか?と考えた方が良いかもしれません。

スペアナに罪はありません。その表示を見た人が、どう判断し、次にどういう加工をするかの問題です。

eki-docomokirai.hatenablog.com

何言ってるか分からない人は、自分の曲ではなく、世界で売れている曲をスペアナで見てみてください。

・余談、20Hzカット問題

「20Hz以下はAD変換で障害になるからカットせよ」「カッティング不能だから消してるよ」という真のローカット問題についての議論は、主にマスタリングエンジニアが主導しています。なかなかホットな話題です。

が、ここでもスペアナの設定問題が大きな落とし穴になっています。

しっかり調整していないスペアナのままだと、低域が常に暴れて見えてしまいます。そのため「超低音に何かがある」と騙されてしまっている人が非常に多いです。

その超低音、本当に鳴っていますか?それとも雑なスペアナに見せられているだけではありませんか? 

 

・ピンクノイズに合わせる

音楽用途での「ものさしノイズ」としてはピンクノイズが使われるべきです。

ピンクノイズは聴覚上、低音域と高音域が同じに聞こえるノイズです。(ホワイトノイズは高音域が強く感じるはずです。) 

ちょっとカメラのお話。

カメラで撮影する時、室内は暗いので感度を高くしますが、晴れた屋外では低くしなければいけません。グルメ番組などで、店内に入った時に明るさが奇妙に変化するのを見たことがあるはずです。

cs.olympus-imaging.jp

カメラではこの基準としてホワイトノイズを使います。最も基本的な精製方法のノイズです。

 

が、音響の分野、とくにミックスの分野ではピンクノイズを基準にした方が便利です。 

ホワイトノイズ、ピンクノイズ : 音響技術と機器開発 用語補足解説

さらに言うなら、音楽制作で「ホワイトノイズ」という単語が使われる際、かなりの確率で「ピンクノイズ」のことをさしています

これぞギョーカイ用語というものです。

専門的な分野では、辞書通りの意味で言葉が使われていないことは、どこの業界でも常識です。ギョーカイが異なるなら、同じ単語でも意味が変わってきます。

なお、私達音楽家はreleaseをリリースと呼びますが、カメラ業界では「レリーズ」と呼びます。 

■スロープの話に戻します。

Voxengoの製作者はスロープ4.5dB/oct.が「音楽的にベストだ」と判断し、それを初期値として提供しています。

ところが「Voxengoの4.5dB傾斜」で参考楽曲を聞いてみると、明らかにハイ上がりに表示されます。

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上と下、どっちが見やすいですか? 

 

SPANにピンクノイズを通してみます。

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SPANの初期スロープ値(Slope)は4.5dB/oct.なのでピンクノイズが右上がりに表示されます。

ピンクノイズは3.0dB/oct.ですから、4.5-3.0で差は1.5dB/oct.です。

と言いたいところですが、それが落とし穴です。これこそがモデル差と表示モード差なんです。

 

目視でSlopeを2.2~3.0くらいに補正すると、ピンクノイズが水平になります。

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こういう差はスペアナのメーカー、モデルによっていろいろあります。要するに数値はメーカーによってまちまちなので今ひとつアテにならないということです。

こういう差はスペアナのFFT解像度によっても現れます。

水平にしたはずなのに、高解像モードにすると傾斜がずれるのはFFTの仕様です。

また、ノイズ発生機のモデルによっても差が出ます。

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ここまでの設定変更で「ピンクノイズを水平表示」ができたら、市販の売れてる曲を流してスペアナでどういう表示になるのか確認してみましょう。 

・2.2なのか2.7なのかの件

えーと、この記事に対してツッコミをしていた人がいたので補足しておきます。

Block Sizeを上げて高解像度にしている場合には2.7だと完全に右上がりになります。

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高解像度の場合には2.2の方がストレートに近くなります。

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この記事をちゃんと読んだなら分かってもらえるはずです。

ちょっとした設定の差によってもピンクノイズの水平さは失われます。「どの設定が正しいのか?」ではなく「設定は変えるもの」という点だけが大事です。

 あと、アベレージで見るか、最大ピークで見るかによっても当然変わってきます。 

■モデルによる3.0スロープの違い

同じノイズジェネレーターで作ったピンクノイズを表示させた例です。f:id:eki_docomokirai:20170329132351p:plain

 

左上、Voxengo SPAN。スロープ3.0。音量拡大表示。やや右上がりです。

右上、Steinberg MultiScope。スロープ無し。完全に右下がりです。(ホワイトノイズで水平になるモデルです。)

左下、Melda MAnalyzer。スロープ3.0。ほぼ水平です。

右下、Melda MAnalyzer。スロープ3.0。高解像モード。右上がりです。(高解像モードで表示が乱れる、ということ)

 

また、近年評判の良いOzoneですが、Ozoneのスペアナは飾りにしかなりません。

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ピンクノイズが水平に表示されません。また、傾斜(スロープ)を設定できません。

傾斜がホワイトノイズのピークで水平なのはギリギリ良いとしても、縦横の軸が全く不明です。これでは音楽を作る道具として役に立ちません。

 

念の為フォローしておきますが、Ozoneそのものは極めて高機能で優れたプラグインだと断言できます。ただし、iZotopeの設計思想としてスペアナ等の視覚情報を重視していないということです。

Ozoneを使う人は内蔵スペアナを使わずに、必ず他のスペアナを用意しましょう。

 

この記事で紹介しているような「視覚的ミックス」が近年急激に一般化しているという時代の流れのさらに先を行こうとしているのがOzoneです。同時にAI化というモダン進化を推進しているのもOzoneです。ここにOzoneの矛盾があります。Ozoneの今後のアップデートでアナライザの傾斜調整が実装されることが望まれます。

 

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このように、メーカーやモデル、解析モードの違いによって表示は大きく異なります

スペアナ否定派の人は、たぶんそういう雑なスペアナしか使っていないから「スペアナなんか使っても無意味」と主張するのでしょう。出来の悪いカーナビなら使わない方がマシ!というのと同じことです。

 

でも、調整可能なスペアナを適切にセッティングすれば、スペアナは本当の価値を発揮できるようになります。

逆に、そこまでしなきゃいけないということは、世の中はあまりスペアナを推奨していない証拠だと言えます。そりゃそうですよ。まともなミックスはまともな環境で行われるのがホントなんですから。

 

こういう重要なな部分をすっ飛ばしてスペアナを勧めるのも、安易にEQに組み合わせた商品をリリースするのも無責任ではないか?と私は思います。

自動でピンクノイズを水平に表示する機能があれば世界は変わるはずです。誰か作れ。

 

複数のスペアナを使う人は、設定を揃えておくのが良いでしょう。

揃えておかないと補助具のはずが足かせになってしまいます。

 

1つしか使わない人は、3.0dB/oct.のピンクノイズを流し込んでみて、水平に出るかチェックしましょう。もし水平に出ないタイプの場合、そういうモデルなのだとしっかり覚えておきましょう。

 

また、スペアナ画像を伴うミックス記事を読む場合に気をつけましょう

eki-docomokirai.hatenablog.com

スペアナの設定はSPANの初期設定のように「音楽的に味付け」されたものより、ピンクノイズを正しく水平に表示できるほうが良いと思います。なぜならプラグインの検査を行う時に正しくチェックできるからです。(プラグインのチェックについては、後日別の記事で書きます。たぶん。)

 

・お前それで本当に分かるのかって話

まずこの記事を読みます。

behindthespeakers.com

その中で「バランスの良いミックスはこのようになる」という旨で、下の画像が挙げられています。

http://behindthespeakers.com/wp-content/uploads/2016/10/Voxengo-SPAN-Balanced-Mix-768x567.png

http://behindthespeakers.com/wp-content/uploads/2016/10/Voxengo-SPAN-Balanced-Mix-768x567.png

おいおい、そんな微妙に歪んだ山の曲率を記憶できるのか?

 

同様に「やや右下がりにミックスすると良いでしょう」とか書いてる本やサイトも多く、誤解が広まっているのが実情だと言わざるを得ません。(同様のクソアドバイスとして「耳を使いましょう」というものがあります。何も教えていないのと同じですよねこれ。)

 

そういう「微妙な右下がり」を覚えるくらいなら、適正なミックスとリファレンスを表示した状態でスロープを水平にしておけって話なんです。

上画像のような微妙な右下がりが良いという話も、ミックスの教科書で散見されます。しまいにはその状態を耳で覚えろとか耳を鍛えろとかの最悪な根性論まで持ち出す始末。

そういう本にに限ってEQの0.1dBの微調整の話とかが力説されていて本末転倒です。だったら最初から感覚だけの話にしとけよと思います。思いませんか?

そんな努力しなくて良いからスペアナを水平にしようぜ?

■スロープを調整できない場合は要注意!

問題なのは「スロープが不明、スロープを変更できないスペアナ」です。

  • izotope製品(2020年時点)
  • CubaseのチャンネルEQの透かしスペアナ
  • etc.

 

近年はEQにスペアナの透かしが入っているものが増えてきましたが、何を基準にしているのかが不明なものがあり、とても不安です。しかも非表示にできないものが多く、EQしながら目に入ってくる基準の不明な情報で脳が混乱するだけです。

EQの透かしスペアナや、コンプの波形表示をするプラグインは必ず非表示モードを装備するように義務付けるべきだとさえ思います。

 

ためしに手持ちの透かしスペアナ付きのEQにピンクノイズを通してみてください

その際、調整済みのスペアナも同時に表示して、EQについている透かしスペアナと比較してみてください。たぶん違った表示になっていて混乱するはずです。

 

そのEQの透かしスペアナがどういう表示をしているのか、ちゃんと確かめておきましょう。もし透かしスペアナの表示基準が不明なら参考程度にとどめた使い方をするようにしましょう

 

もうこれだけ言えば「スペアナが全部同じではない」ということは納得してもらえたはずです。 

 

■リファレンス選びこそが大事

別記事に移動しました。 

eki-docomokirai.hatenablog.com

ひとことで言うと「参考曲を聞きましょう」ということです。

・じゃあスペアナを使う理由って何よ?

「え?リファレンス比較さえやれば良いってことは、スペアナの存在理由って何?」と思うかもしれません。

リファレンスを使った上でスペアナを使う理由はリファレンス無しで作れるようになるためです。

また、耳の穴に音が入ってきていても、脳は思っているほど正確に認識できないからです。

 

リファレンスを聞かずにスペアナを見ながら作り、リファレンスで答え合わせをします。

逆もやりましょう。

スペアナを見ないでリファレンスに寄せたミックスを作り、出来上がったらスペアナで答え合わせをしてみてください。

これは非常に良い訓練になります。

 

■マッチングEQについて

記事を分離しました。

マッチングEQは現時点では見た目のハッタリだけです。少なくともあと10年くらいは関心を持つ価値がありません。

eki-docomokirai.hatenablog.com

 

 

■「スペアナ使うな!」は強者の理屈

絶対音感」のような「絶対ミックス感」を持っている人であれば、曲を聞いて周波数バランスを聞き分けることができるのでしょうが、私のような作家寄りの音楽家の場合は往々にして「絶対ミックス感」を持っていないので、その場その場の気分でミックスをしてしまいがちです。

自分の欠点を自覚しているからこそスペアナを使うんです。

料理人と農家は違うんです。シェフに向かって「牛の世話したことありますか?」と言っているようなナンセンスさです。

 

さらに私の場合はプレイヤー時代に爆音生活をしていたせいか、明らかに耳を痛めています。自分の感覚で作るとどうしてもおかしな音になってしまうんです。

自分の感覚をアテにせず、リファレンス曲を用意し、そのサウンドを目指していくというミックス手法を最重要視しています。

 

この「リファレンス曲に近づけるミックス方法」は私のレッスンでも教えています。私が完璧なミックス能力を持っていないからこそ、レッスンを受ける人でも導入できる可能なスタイルを教えているわけです。

だって、うますぎる人って「耳で判断しろ」「耳を鍛えろ」しか言わないでしょ?クラシック作編曲のガチ勢だと「楽譜読め」しか言わないし。

それはイチローがバンバンヒット打って「ね?簡単でしょ?」と言っているのと同じです。そういう「強者の理屈」は一般人の学習者にとって役に立ちません。膝より低い球クソボールに手を出したり、インハイを流し打ちするイチローは野球少年の参考にならないんです。

ついでに言うとアレもありますね、「ビンテージアナログ機器を通せ」というミックス記事。それもう売ってないじゃんってなるだけの記事。ああいう記事ってコレクターとワナビ向けでしかなくて、現実問題として自宅で深夜にヘッドホンでミックスをしなきゃいけない私達にとってまったく無意味だと思うんです。

完璧に調音された商業スタジオ並の環境で24時間作業できるわけでは無いんです。

 

■ベキ論は捨てて良い

何度も言いますが「スペアナを使うな!」を実践できる人はすれば良いんです。

それができないから道具の助けを借りるんです。

 

格闘漫画『グラップラー刃牙』の登場人物が「鍛えるなんて弱い奴のやることだから、俺は体を鍛えたり、格闘技の技を覚えたりしない。ていうか、避けない。ただ殴る。」というようなことを言っています。これが強者の理屈です。カッコイイけど真似できる生き方ではありません。

 

長嶋茂雄のように「バットをガッ!って振ればボールがポーンと飛ぶ!」も、出来る人は自然にできるけど、それじゃあ説明になってねーよ!というのを『強者の理屈』と言います。

 

車の話でパワステや四駆、オートマなんか車じゃねーよ!と言う人がいるのも同様です。

 

完璧なミックスをするためには「絶対ミックス感」や、完璧な環境は最低条件なのでしょう。本職のエンジニアで、一流の仕事を生業にするならそうあってほしいものです。

しかし、ほとんどの人はそういう能力や環境を持っていません。「プロはこうする」「プロならこのくらい持っててあたりまえ」という、どこかの雑誌やネット掲示板で拾ってきた雲の上のベストな知識ではなく、今の自分にできるベターな実行力こそ必要なのではないでしょうか。

 

理想ばかり語る人に言わせれば「スペアナなんか使っているようじゃダメ。耳で判断できないと良いミックスにならない。」と言うのでしょうが、それは理想でしかありません。「理想を語る」という点においてはとても正しいです。「不老不死が理想」「全ての異性にモテるのが理想」「空を飛べるのが理想」という意味においての理想語りです。無理ですね、そんなの。

 

才能ある両親の子として生まれ、3歳から英才教育を受けていない時点でダメだって言われているようなものですから。そんな理想の話しかしない奴らとは話をする必要はありません。

 

■アナライザ不要論

たとえばこういう記事です。

誤解が起きないように明確に断っておきますが、リンク先記事をdisるつもりは一切ありません。

soundevotee.net

これを理想的に実践できる人は、そのようにすれば良いです。

 

リンク先の人はそれができていると自信を持っているのですから、どうこう言う気はありません。(が、2017年11月22日までそれをしてこなかったと自白しているわけですが。)

 

「一流プロはこうするから」という理由だけで真似するのは最も危険な思想だと思うんです。

 

初めて自転車に乗るなら補助輪を使いましょう。

ナイフとフォークをうまく使えないなら、「お箸ありますか?」と頼みましょう。

 

何十年のキャリアがあるわけでもないのに、生まれつき才能があるわけでもないのに、一流のマネをするのはやめましょう。

 

断言します。

「一流はこうする!」という話は無価値です。害悪にしかなりません!そういう話ばかり集めてもあなたの能力は伸びません!

 

・「プロはこうする」という理屈のおかしさ

演奏で考えると明快です。

「プロは数回の練習だけで本番をやる。」というワークフローをそのまま真似できる実力がすでにあるならやれば良いです。

そういう水準の演奏活動を実行できている人って、年間何回の演奏をしていて、そもそもどのくらいのキャリアを重ねてきたのかについて考えるべきでしょう。

 

もしあなたが音響エンジニアとしての基礎訓練を受けてきて、年間数百の仕事をこなしてきたキャリアがあるならやってみれば良いでしょう。

 

初心者がやることではありません。

初心者が知っても何の意味も無い情報ノイズです。

 

■全てはマルチバンド処理、マスタリングのため

SPANの初期状態のように「音楽的な味付け表示」になっていると、マルチバンドコンプ(リミッタ)に突っ込む際、スレッショルドに対して「斜め」に当たってしまいます。高音か低音、あるいは中域のメロディがリミッタに反応してしまう状況です。

 

下はピンクノイズ(水平)とホワイトノイズ(右上がり)をL3-16に極端に突っ込んだ時の反応です。

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画像の右では低域が圧縮されていないことを確認してください。

大きな高音だけがスレッショルドに当たり、圧縮されています。

 

瞬間的な絵なのでブレが起きていますが、おおむねノイズの角度どおりにマルチバンドのリミッタが反応しています。

ピンクノイズ(水平)はマルチバンドリミッターを通過する時にも全帯域が反応しています。ホワイトノイズ(右上がり)だとハイだけが潰されています。

 

もちろんマルチバンドリミッターによるマスタリングは帯域を完全にフラットにするのが目的ではありません。リミッタにあたって潰れる部分と、素直な音のまま残す部分のバランスによって良い仕上がりになります。

で、この時にハイだけが潰れると、ハイだけが潰れたキンキンした耳の痛い音になるわけです。当たり前ですね。マルチバンドなんか使うなとか言われる理由もこの辺の誤解から来ているということです。(それを避けるために「マルチバンドリミッター用のミックスをするのが嫌だ!」という声もありますが、結局マスタリングでやることは以下略。)

 

いわゆる「まともな2mix」つまり「フラットな2mix」になっていれば、あとは普通に突っ込むだけで適度にマルチバンドに潰されて、それなりの仕上がりになるんです。

2mixの時点でバランスがおかしい音を、マスタリングでどうにかしようとしているから、「マルチバンドリミッターの使い方が分からない」「L3(Ozone)を買ったんだけど使い方が分からない」という悩みが出て来るんです。

そのために必要なのは普通の帯域バランスの2mixに仕上げること。つまり、スペアナを水平に調整しておいて、目視でフラットな2mixを作れる環境を作っておくことなんです。

 

慣れてくればスペアナ無しでもできるようになります。

それでも途中で目視チェックをしないと、自分の耳の特性に偏った2mixになり、雑なマスタリング工程(後述)でクソ音にされる、ということです。

 

・「マルチバンドぶっこみとか笑わすな」という声に対して

えぇ、わかります。とても良くわかります。

L3-16などのマルチバンドリミッターにぶっこんで「はい、マスタリングでござい!」というのがおかしいと言いたい人がいるのは良くわかります。その通りです。でも現実は「2mixが悪い」と言われるのがオチです。

ご存知の通り、マスタリングはドリームではありません。ダメな2MIXを神がかり的な仕上がりにするのがマスタリングではありません。

 

eki-docomokirai.hatenablog.com

 

■そもそもフラットって何よ?

スペアナのスロープの傾斜と関連する話なので書いておきました。多くのDTMの人は「フラット」という概念について根本的に勘違いしていますよ。

別記事でどーぞ。

eki-docomokirai.hatenablog.com

 

■まとめ

さて、チェックノイズの話→スペアナの調整→リファレンス曲の話→マルチバンド処理→マスタリングの話まで一気に書きました。

どれか1つの話にしようかな、と思っていたのですが、関連性が強いので1つの記事にまとめました。

 

プロアマ問わず、よく相談を受けるのが「マルチバンドリミッターの使い方が分からない」「L3を買ったんだけど使い方が分からない」というお悩み相談。ここまでちゃんと読んだ人ならもう分かると思います。マルチバンドリミッターの使い方が難しいのは、リミッターに入ってくる音が「ハイ上がり」などのように、おかしな偏りのある2mixだったからです。

そうなる原因は「耳が疲れたら目で音をチェックしよう」と思ってつかうスペアナ、その設定状態だということです。どんなに良いスピーカーやヘッドホンを使っていたとしても、必ず耳が疲れておかしな音に加工してしまうものです。それを避けるためにスペアナで目視してバランスチェックをすることと、リファレンス曲を用意することなんです。

リファレンス曲だけあれば良いように思われるかもしれませんが、耳が疲れている状況だと結局同じことになります。疲れた耳だとハイが聞こえにくくなるとか、そういう話ではなく、疲れてくると耳からの情報そのものが正しく認識できなくなるので、リファレンス曲+スペアナ目視という二重のチェックで確度をあげていくしかありません。もちろん全ての作業の間にしっかりした休憩を取ってリフレッシュできればそれがベストなのですが、そもいかないことのほうが多いです。

 

スペアナの設定というオタクくさい内容であることは自覚しています。普通はスペアナはポンと挿して、画面の隅においておくだけ、という人の方が圧倒的に多いと思います。そこで一手間かけておけば、2mixもマスタリングもスムーズに進むはずなんだけどなぁ、ということでこんな記事を書いたわけです。

 

そのうち気が向いたら、この記事でまとめて一気に書いた内容のそれぞれについて、個別に記事を書くかもしれません。

 

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いずれの記事も、そのうち追記・編集・分割します。たぶん。 

記事が巨大化しすぎて「モバイル環境で読みにくい」との苦情を頂いております。

 

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■盗用記事ではありません

過去に私が別のサイトで書いていた内容を修正・統合した記事です。盗用記事ではありません。念の為。

 

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