eki_docomokiraiの音楽制作ブログ

作編曲家のえきです。DTM/音楽制作で役立つTIPSを書いています。

DAWでVUメーターは本当に必要か?

今ならVUよりもっと良い道具があるから不要ですよというお話。冗長な記事だったので短くしました。

(2021年3月4日更新)

■見た目だけのメーターは無くて良い

でたらめにピコピコ動く針は飾りにしかなりません。

そういう見た目だけのかっこいいメーターはアニメーション等では松本メーター(零士メーター)と言います。

 『宇宙戦艦ヤマト』などに出てくる、無意味に迫力のあるそれっぽいメーターのことですね。

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ファッション目的ならそれでOKです。 

もしファッションではなく、音楽制作のためにVUを導入しようと思っているなら、ちょっと考え直してみましょう。

殆どの場合、VUは必要ありません。

 

 

■フレームスキップがあると見づらい

プラグインでも様々なモデルが出ていますが、プラグインのVUは正直どれもダメです。

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なんでダメなのかというと、秒間フレーム表示が甘すぎて針の揺れ幅が全然わからないからです。上画像のmvmeter2はFPSを最大100まで上げられますが、やはりちらつきます。AOMなどのVUメーターはブラー表示なので、もし使うならそういうものに限定するべきです。その方がVU的です。

・何も分かってない人の選び方 

稀にVUの針の細さを重視する人もいるようですが、針の細さと先端の運動精度は全く関係ありません。細くなくても動けばわかります。「針が細いものが良いです」と言っている人がいたら、その人の言うことは眉唾ものだと思って接するべきです。きっとそのマスタリングエンジニアにとっては時計の針は細い方が正確な時計なのでしょう。

■VUの使い方、の前に

調整できないVUは狂った時計と同じです。

もしVUを使うなら、調整できるものにしましょう。

誤った情報なら見えない方がマシです。

eki-docomokirai.hatenablog.com

・VUは調整しよう

もしVUを使うなら必ず初期調整をしましょ

スペアナの初期調整が重要なのと同じで、VUも初期調整をしないとダメです。

調整していないと針が振り切ってしまうので無意味です。 

 

下はDAWにおけるVU運用の話でまともな動画。

www.youtube.com

ちゃんと調整を行った上で、リファレンス比較を行っています。このように使うのが正解です。

・VUの弊害

しかし、調整したとしても古典的なVUメーターの構造そのものから生じる弊害があります。

Gyokimaeさんはこれについて、

pspunch.com

-3~+3の範囲にメータが入っていなければならないと勘違いさせるような構造そのものが、曲中の強弱差に乏しいトラックが蔓延する原因になった

極めて鋭い審美眼だと関心します。

見ての通りVUは狭い範囲しか表示しません。その狭い世界にとどまることを「ヨシ!」だと思い込ませてしまうのがVUです。

それこそ「耳を使え」の話になるのですが、耳でできるならそもそもメーターは不要です。

「何より耳でできるようにならなきゃダメ」と思い込まされている人のほぼ全てが、耳の使い方を間違えています。独学でできるほど甘いものではありません。耳でできるようになりたいなら、耳でできる人に直接訓練してもらうことが不可欠だと私は思います。

ついでに言うと、「耳でやれ」派の自称上級者でもけっこうザルであることの方が多いです。

真の上級者は人間の感覚器官が適当なものだと熟知しているので、信頼できるメーターを併用します

もし、目分量だけで料理をやっている高級レストランや、指先の尺貫法だけで建築されたビルをご存知でしたら教えて下さい。

■ゲインステージング

アナログ機器は「非線形」です

VUはその「おいしいポイント」に合わせるための道具でもあります。

 

たとえばMeldaのサチュレーター。

(分かりやすい画像にするために、かなり極端な設定にしてあります。)

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これは「斜めに音量が上がっていかない」仕組みを可視化しています。

これは「どの程度のアナログ歪みを乗せたいのか?」をかなり自由に設計できるプラグインで、アナログ・ゲインステージングについて理解する補助具としても優秀だと言えます。

 

・アナログ機器の「ゲインステージング」に合わせるために使うVU

これは実機アナログ卓の特性上、非線形S/N比の話です。

いわゆるゲインステージングの話です。フェーダー位置によって特性が異なるので、入出力の基準ゼロを合わせる必要があります。そういう調節の時にもVUが使われます。

・アナログコンソールにはゲインステージングがあるので必要

アナログ機材に対して入力される適切な音量(0dBVUゲインステージ)に調整するのは「バランスエンジニア」と呼ばれるアシスタントの仕事。いわゆる「フェーダー0にそろえておけ」という準備作業です。

そこから先がミックスエンジニアの仕事で、音楽的なバランス調整になる。

そういう初期音量を整える工程をちゃんとやっていないならVUを導入してもほぼ無意味になります。 

・デジタルにゲインステージングは事実上存在しない

デジタル、浮動小数点演算において、ゲインステージングは事実上無意味です。デジタルフェーダー位置による音色変化は皆無なので、ゼロ調整の必要はありません。

いや、そりゃまぁ、フロートでも厳密には違うことになるんだけど、デジタルのゲインステージングはアナログ卓に比べたら完全に無視できるレベルでしょ?というお話。

 

レベル(音量)を整えておくプロセスが無くても同じ音だから、DAWで初期バランスを作るのは意味が無い時間の無駄です。

この辺の理解に対する齟齬があるので、ミックス知識の仕入れ方には注意が必要です。

・ゲインステージングも「シミュレート」 される

念の為追記。アナログ実機だけではなく、アナログ機器をシミュレートしたプラグインでも、ちゃんと設計されているものはゲインステージもシミュレートされています。

そういうプラグインを常用するなら、ゲインステージを整えるためにVUを使うのは有意義です。0手前のベストな 位置で使わないとアナログ系プラグインの恩恵は無くなります。場合によってはアナログの悪影響だけを被ることになります。

 

・「ゲインステージング」という言葉の定義の拡大解釈

ここまで述べてきたのは「狭い意味」のゲインステージングです。

つまり「アナログ歪みの美味しいエリアに合わせるゲインステージング」です。

 

その一方で、非常に広い意味で使う人は、音量のことすべてを「ゲインステージング」と呼んでいることがあります。

たとえばこういう記事

www.masteringthemix.com

単に音量を-10dBすることを「ゲインステージングを-10した」と言っています。 

上の記事における「ゲインステージング」では「ヘッドルームを確保できる、余白のあるエリア」を意味しているので気をつけましょう。アナログ歪み特性のためのゲインステージングの話とはまったく別です。

ちょっと格好つけた記事にするために、「ボリューム」ではなく「ゲインステージング」という言葉を使っている程度だと思っておいてほぼ間違いありません。そういう語り口の人は多いです。

 

たくさん食べられれば「おいしい」と言う人がいます。(大音量の良さ)

甘ければ、辛ければ「おいしい」と言う人もいます。(強い歪みサウンドの良さ)

ちょっとコゲている方が「おいしい」場合もあります。(程よいアナログ歪み)

濃すぎる味を「おいしい」と定義しない上品な人もいます。(ダイナミクスレンジ重視派)

何のために、どういう要素が必要なのかを良く考えましょう。

今のあなたの曲に求められる「おいしさ」はどういう要素で、そのためにベストなゲインステージングとは何でしょうか?

 

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じゃあここでまとめ。

 

 

「アナログ本来のゲインステージング」とは、

  • 上げすぎると酷い歪みが出る
  • 適度だと良い歪みになる
  • 低いとフロアノイズの影響が大きすぎる

 

「デジタルのゲインステージング」とは、

  • ヘッドルームを確保するために適度に下げる
  • アナログ系のプラグインために合わせる
  • 作業開始前にフェーダーを揃えるための「下駄」

 

デジタルでは別にゲインステージングをしなくても普通に作業ができますし、引き返すこともできます。だから「本質的にデジタルにはゲインステージングは存在しない」という語られ方になるんです。

 

■SPANでRMS表示した方がスマート

おなじみVoxengo SPANはピーク表示とRMS(的)な表示ができます。 

「この辺でうろついてます!」という平均分布を表示するモードです。

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こういう表示にするためにはちょっと手間がかかりますが、一度やっておけばその後の全ての音量調節作業がスマートになります。

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赤丸で示した「三」では、Density Modeをオンにし、Peak Level Hold Timeを適度に上げます。私は1000~最大を使います。

緑で示した「歯車」では、Avg.Timeを適度に上げます。(私は1000~最大で使うことが多いです。)

これでVUを使わなくても済みますし、スペアナ等の情報も平行して見ることができます。

すでにある道具でこういう表示が可能なのに、なぜVUだけを導入する意味があるというのでしょうか?

Ozoneでもできる

OzoneはピークとRMS表示ができます。

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やり方知らない人、ちゃんと説明書読んでる?

■酷いVU記事

DTMステーションという粗悪チラシ

DTMステーションという広告屋サイトの記事ですのでお察しください。

www.dtmstation.com

解説がDTM向きではない上、接続方法まで間違っています。設計コンセプトも前時代的です。VU基準ではピークが見えないので、マスターアウトにつけても全く無価値です。現在の放送規格とも異なるため、実用性はまったくありません。

これは単なる前時代の雰囲気を楽しむための美しい「日本スゲー」系インテリアです。

 

なお文中で、

VUメーターはいつでも、すぐに確認できるようにしたいところですが、プラグインなどだと画面の後ろ側に行ってしまったりと見逃してしまいがち。その点は各現場からも、『常にいつでも針が振れているのが確認できるからいいよね』といった声をいただいています
(編者強調)

とありますが、これはプラグインを常に前面に表示すれば済む話です。

そーゆーことを一言も説明せず、新製品のメリットしか言わないのがDTMステーションであり藤本健なのだということをお忘れなく。

彼らは音楽屋ではなく、広告屋です

・結局経験則だけで作業している例

VUの解説動画のはずが、VUを使っていない動画です。

youtu.be

「キックを-3にすると良さそう」という初手から始まっています。が、事前の楽曲情報と個人のカンから来るものであって、VUの数値を根拠にしていません。

つまり、この動画はトラックバランスを耳で作っている動画でしかありません。

なお、上の動画ではすでにmvmeter2を調整済みの状態ですので、インストールしたままの状態で「なるほどキックはmvmeter2で-3か」と真似するととんでもないことになります。

 

という具合で、VUについて語っているようで何も語っていない人が多いのが実情です。

 

■関連記事

アナログの質感、歪み(ディストーション)について興味があるなら、こういう記事をどーぞ。

eki-docomokirai.hatenablog.com

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