先日、アレンジャー某人から質問があったので資料を貼っておきます。
(2023年6月25日修正)
- ■バスクラリネットの低音制限
- ■楽曲制作前にモデル名と写真をもらうこと
- ■なぜこんなものが必要なのか?
- ■学校備品の整備不良
- ■古いヘ音楽譜の読譜には注意
- ■作曲家のみなさんへ
- ■使用例(そのうち随時追加)
- ■コンピューター演奏の場合
- ■同様の低音限界問題が起きる楽器
- ■関連記事とプチ宣伝
■バスクラリネットの低音制限
バスクラリネットはまだまだ発展途上の楽器で、モノによって仕様がさまざまです。
特に最低音域がどこまで届くかは現物を鳴らさないと判明しないことさえあります。まじで。
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というわけで資料を作っておきました。
皆様のバスクラリネット作編曲に活用していただければ報われます。
万が一ミスがあったらご報告をよろしくお願いいたします。
(バスクラリネットの低音制限.png - Google ドライブ)
「バスクラリネット」という名前であれば、実音Ebまでは出ます。
高い楽器だともうちょっと出ます。実音Db。
特殊仕様だと、実音D、Db、Cが使える可能性があります。
国内だとヤマハの高い楽器が実音Cです。
クランポンのめちゃ高いのだと実音Cです。
覚えやすい方法として、4弦エレキベースの最低音がEなので、それと同じだと思っておけば良いはずです。そこより低い音を使いたいなら事前の打ち合わせが必須となります。
メンテナンス状態が悪い楽器だと、最低音から順に発音が著しく悪化していきます。
(ハイエンド仕事じゃない場合はここ大事!)
■楽曲制作前にモデル名と写真をもらうこと
口頭や文章でやり取りすると、うっかり良い間違えが起きることがあります。
モデル名と写真をもらいましょう。
上の資料には代表的なモデル名を併記してありますが、制作された時代によって楽器の仕様がことなる場合もあります。ヤマハとクランポン以外を所有しているかもしれません。
最も確実な方法で楽曲提供先の情報を確保しましょう。
スマホ録画で構わないので、低音でベロベロと高速演奏をしてもらった映像を作ってもらい、楽器のコンディションも確認しておきましょう。
ゆっくり丁寧に演奏して「最低音出た」では役に立ちません。
こういう動画を作って貰えればカンペキですね!(おそらくYAMAHA YCL622 II使用)
■なぜこんなものが必要なのか?
「限界音域」の資料だと、ガチ最低音まで書かれています。
ガチクラシックの現代曲、ソロ曲などで使用される音域です。
しかし、実際にはそこまでの音域が必要とされることは皆無です。
楽器メーカーは「まぁここまで出ればOKだろ」という仕様で楽器を製造しています。
■学校備品の整備不良
学校備品でそんなガチ音域まで装備した楽器を所有していることはまずありません。
いいとこの音大なら持ってるかもしれません。
・音大レベルでもメンテが完璧とかは限らない!
が、たとえ音大だったとしても、完璧なコンディションとは言い切れません。
たまに特殊音域を鳴らす曲で必要になって倉庫からひっぱり出したら、低音の調整が狂っていて「ドとレとミの音が出ない!」となることが実際にあります。ありました。
楽器は放置しておくと必ず劣化していくものです。
超一流の音大でも、近年は少子化の影響で経費を使いにくくなっていると聞いています。
なお、バスクラリネットは構造上、低音だけではなくレジスターキーの組付けも劣化しやすいようです。たまに使ったら低音が出ないどころか通常音域すらまともに出ないということもあります。定期メンテしましょう。
・楽器の破損と変な奏法によるカバー
これはそれぞれの「楽器の一番端」付近が自然に破損するということです。
上資料で示した「学校備品は出にくい」という音域は、田舎の中学校の楽器ではまず発音不能です。
強く押さえれば鳴るかもしれません。
田舎の学校で「ちゃんと強く押さえて!」と怒鳴っているセンパイがわりといます。
強く押さえれば穴が塞がるので確かに出るのですが、強く押さえることでどんどん楽器の破損が進行します。
・コントラバスクラリネットの使用を考慮する
バスクラリネットに固執せず、もっとサイズの大きいコントラバス、コントラアルト(コントラルト)を使用すれば、低音限界の問題はすぐに解決します。
そもそもバスクラリネットの低音限界を使おうとするから問題が起きるだけです。
「バスクラリネットは実音Ebまでしか出ない」と割り切ってしまうのも手です。
コントラバス等の音域についてはそのうち追記するかもしれません。(やる気は無いですが。)
もしコントラバス等を使用するとしても、低音限界音域が確実な発音ができるとは限らないので、やはり限界手前までを使う曲にするべきだと私は考えています。
■古いヘ音楽譜の読譜には注意
古い楽譜における問題。
国と時代によってヘ音の扱いが違うことがあるので気をつけましょう。
稀にA管ソプラノから並行して記譜されるAヘ音記譜もあります。(A管バスクラリネットは見たことがありませんが。)
https://www.jasonalder.com/blog/2020/02/20/a-guide-to-understanding-bass-clarinet-clef-notation/
気が向いたら日本語で書きます。
同様の記譜問題は他の楽器でも存在するので、事前によく理解しておきましょう。
今から作る自作曲なら普通に「in Bbト音」と「in Bbヘ音」で書けば問題は起きません。
■作曲家のみなさんへ
「最低音ここか。じゃあ鳴らそう。」という考え方をやめましょう。
通常のBbクラリネットで最低音を使いたがる人が多すぎます。
世界中のほぼ全ての音域資料は「限界音域」を示したものでしかありません。
我々が知るべきは「常用音域」「安全音域」です。
不安に思ったら、暗記していなくて資料を開かないといけないようなら、安全な音域にまとめましょう。
■使用例(そのうち随時追加)
『春の祭典』の冒頭数分に出てくる有名なアレは実音Eです。
5連符の実音符はヤマハの安い楽器でも出る範囲です。
(楽譜はin Bbをヘ音読み。譜例の5連符の箇所がBb読みでF#=実音Eです。)
ただし装飾音符が実音Dナチュラルなので、ヤマハの安い楽器では出ません。ここがひとつの境界線となります。
同、『春の祭典』の終盤に駆け込む部分のソロ。下降音も同じ音までです。Bb記譜のヘ音でE=実音Dナチュラルです。ヤマハの安いのでは出ません。
■コンピューター演奏の場合
実際に高級モデルの楽器を録音したのか、オーディオ編集で最低音を追加したのかは分かりませんが、Bbまで出るものが多いようです。(ご報告いただければ掲載いたします。)
Spitfireは実音Bbまで出ます。
Viennaは実音Bbまで出ます。
HALionもBbまで出ます。
Eastwestは奏法によってまちまち。(実音表記。C=Bb記譜のD)
コンピューターで制作する場合には、オーディオ加工するなどの手法でさらに低い音を扱うことも可能です。生楽器での演奏予定がまったく無いなら、手段を選ばずクリエイティブに扱うのも悪くはないでしょう。
■同様の低音限界問題が起きる楽器
マリンバ、グロッケンなどの鍵盤打楽器は、モデルによって上下の限界音域に違いがあります。
不明な場合にはヤマハの一番安いモデルを想定して制作しましょう。
少しでも不安なら、両端の音域を使わない曲に仕上げましょう。
■関連記事とプチ宣伝
資料系リンク。コメントを添えて再掲。
eki-docomokirai.hatenablog.com
私が販売しているオケ楽器資料では、バスクラリネットの最低音は実音Dbとしています。クランポンの中級モデルということです。(ヤマハの高いのはもう半音下まで行ける。)
最低音話とは関係ないけど、ついでなので弦の資料も。
eki-docomokirai.hatenablog.com
弦楽器の場合は最低音が開放弦になり、指で押さえた音とは異なる音色になります。
バイオリン系では重音奏法の可能性が広がるので多用されますが、メロディで開放弦を使う状況は要注意です。
エレキベースの場合は開放弦が響きすぎるので、一般的には少しフレットの高い音域を使い、均一な音質をキープすることが推奨されています。
エレキギターでは、特にメタル系のジャンルで開放弦の派手な音を積極的に活用します。それを目的として変則チューニングを使うことがよくあります。
・外部資料
https://andrewhugill.com/manuals/clarinet/bsclrange.html
Bass clarinet | VSL - Academy (ヘC記譜)