知人ギタリストから紹介されたスティーブ・ヴァイの左手ギター動画がとても良かった。「もし片腕になったらギターをやろう」と思わせてくれる、希望あふれる演奏でした。
(2021年10月20日)
■怪我をしたギターヒーロー
これは今年2021年3月の話です。
私はギターメインではないので情報が古くてすみません。
https://www.youtube.com/watch?v=aMjmjXHJoPg
知らない人のためにちょっとだけスティーブ・ヴァイについて説明します。
もともと超人ギタリストで、誰にもマネできないテクニックでギターの世界を変えたヤバい人です。
片腕が不自由になってからギターをやりはじめたわけではありません。
怪我の経緯については下記事などを読んでください。
■左手ピアノというジャンル
20世紀前半は大きな戦争があり、多くの音楽家も戦場で腕を失いました。
片腕の障害者は戦争以外でも当然いましたが、すでに音楽家として活躍していながら戦場に駆り出され、貴重な才能を散らした楽友に対し、非常員優れた楽曲が制作された経緯があります。
ピアノの世界では「左手ピアノ」というジャンルが湧き上がり、今では左手ピアノコンクールさえあります。
今日では過度のピアノ訓練などによってALS(筋萎縮性側索硬化症)を発症する例もあり、そうした奏者のセカンドキャリアとして「左手ピアノ」が話題を集めつつあります。
中でもラヴェルの左手協奏曲は限界を突き詰めた作品として知られています。左手だけだから簡単ということは全く無く、むしろ通常のピアノ曲に要求される左手の技能を圧倒する難易度だと言えます。
全部は見なくて良いので数分だけでもどうぞ。
漫画『のだめカンタービレ』には、孤独なピアニストがオーケストラとの共演を目指すエピソードがあります。もしそれが片腕を失ったピアニストだったとしたら、さらにエモい話になったことと思います。障害を抱えた音楽家というテーマは、難聴に苦しめられたベートーベンを筆頭に、常に大きな課題です。
■テクノロジーの進化と障害者音楽
もし片腕になったらどのように音楽と付き合っていくか?
このブログでは主にコンピューター音楽(DTM、DAW)による作編曲を扱っており、これも片腕でできる音楽です。しかし、自分で音を出しているという実感に乏しいので、やはり自分のちからで音を奏でたいという衝動を抑えきれない人は多いでしょう。
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楽器の歴史順で言えば ピアノ→エレキギター→コンピュータ音楽 という順序です。
もしあなたや、あなたの周りの音楽家が片腕を失ったのだとしたら、今は左手ピアノという古い音楽よりも、左手エレキギターという選択肢があることを思い出してください。
特にエレキギターは電気的に音を増幅することにより様々な奏法が発明され続けています。
冒頭の演奏を聞いてのとおり、エレキギターは左手だけでも高い表現力があります。
ここで多用されている「タッピング」という奏法は、本来は高度なテクニックとして登場しましたが、今日のエレキギターでは比較的かんたんに演奏できます。自宅で練習する際、通常のギターだとピッキングの音が想像以上にガチャガチャとうるさいのですが、タッピングは本当に静かに練習できるメリットもあります。
左手ピアノは身につける技術のわりにどうしても両手演奏に比べて表現力は劣ってしまいますが、左手エレキギターの場合はド派手な演奏をメインに据えることになるので、いわゆる障害者枠として変に贔屓されることからも逃れることができる、と私は考えています。
エレキギターのメリットはコンパクトでどこにでも持っていけることと、いつでも練習できることです。
今回のスティーブ・ヴァイの左手パフォーマンスは、単に本人のリハビリとしてだけではなく、これからの時代において片腕で音楽を志す人達の希望となることでしょう。
・左手仕様のギターもある
こんなブログを見に来る人なら常識でしょうが、知らない人のために念の為に書いておきます。
「左利きギター(レフティ)」は右手で弦を押さえ、左手でピッキングします。もし右腕が無い場合にはこれが良いかもしれません。
エレキギターはどちらの腕を失っても追求し続けることができる楽器として、これからの障害者福祉にも食い込んでいくことでしょう。
また、甚だ変則的になりますが、通常のギターに上下逆順に弦を張るスタイルもあるので、ギターカスタム改造のできるショップで直接相談してみてください。