Cubaseで正確な連符を作りたい!という場合の操作について。
(2022年4月21日)
■海外フォーラムにて。
ダメな回答は、「グリッドを外せば良い」というものがありました。
たしかに耳に聞こえる演奏結果としては必要十分です。グリッドに正確に合致している必要はありません。それどころか、ズレている方が程よいヒューマナイズになるので一石二鳥!とも言えます。
もう一つのダメ回答は「全体をずらせば良い」というタイプ。
それではまったく違う音楽になってしまいます。
この手の質問が発生した際、「なんとか答えよう」として、複数の要求のうち片方しか満たさない回答をしたがる人が多いようです。
しかし、質問者が必要としているのは正確さです。
・ロジカルエディタは万能ではない!
最もダメなタイプの回答は
「ロジカルエディタを使え」というものがありました。
これはCubaseの質問に対して非常に多いマウンティングです。
実際にロジカルエディタを使ったことも無いのに、「どうやらなんでもできる魔法のツールらしい」と思い込んでいるのでしょう。
実際に使ってみれば分かりますが、今回の要望を満たそうとすると、ものすごい緻密なストレッチ比率を計算しなければならず、現実的ではありません。
「ロジカルでやれ」という人に言いたいのですが、ロジカルの扱いに不慣れな人がやるとしたら何分かかると思います?時は金なりですよ。下で解説しますが、私が紹介する手順なら基本ツールだけで10秒で仕上がります!
拙著『Cubaseカスタマイズの教科書』ではストレッチマクロの実装方法を書いていますが、これも「正確さ」を満たすものではありません。
下画像は私が普段使っているストレッチマクロを数回実行した例です。
質問者の要望をだいたい満たしたデータを2秒程度で作れましたが、「正確さ」は実装できていません。
・そもそもの話
実際に完パケ演奏を作るだけなら上のマクロ結果で十分です。
もしCubase内でスコアを作るとしても様々なツールの活用と、記譜法の駆使によってわりとどうとでもなります。(そもそも楽譜を見て演奏する人間は「真に正確」な演奏をすることはできないので、こだわっても無意味です。)
どのような音楽制作のために「真の正確さ」が必要になるのか?と問い詰め、根本的なアプローチ方法を変えさせるのが正解とも言えます。
MIDIの使用は音楽演奏だけではなく、「時間とデータ実行の一致」が必要とされる様々な場面でもMIDIは使われています。
PA照明の制御やプロジェクションマッピング映像、ドローン操作、花火の着火制御などでMIDIが使われることがあります。が、それらを電気制御したいのだとしても、やっぱり「真の正確さ」は必要ありません。(もしかしたら他の分野では「真に正確なMIDIデータ」が必要なのかもしれませんが、私は知りません。知っている人が居たら教えてください!)
しかし、おそらく、質問者の几帳面さを満たすためだけなのでしょう。
ズレていると気持ち悪い。ピッタリしていると気持ち良い。ただそれだけのためです。
■実装手順
ピアノロール(キーエディタ)で作ろうとすると、鬼のように正確なロジカルを作る必要があります。それでは遅すぎるし、計算しきれないこともあります。
まず考えるべきは、キーエディタを抜け出すことです。
プロジェクトウィンドウ(メイン画面)で作業すれば、3回の操作。基本ツールを使うだけで10秒程度で作ることができます。
画像1枚で説明するとこうなります。
(クリックで拡大する、はず。)
使う操作は基本ツールのみ。
- はさみでカット
- ストレッチ
- のりで接着
で終わりです。
ロジカルなんて必要ありません。
・イベントの切断
元のフレーズの開始点と終了点で「はさみ」ツールを使って切断します。
もし正確なノート開始・終了位置をグリッドで合わせられない場合には「グリッド」ツールのカテゴリを「イベント」に変更します。このモードにすれば小節線や拍ではなく、ノートの開始・終了位置にもカーソルが吸着するようになります。
このグリッドモードは非常に便利で、「0.1秒長のオーディオイベント」などを正確に扱う際に重宝します。
具体的には曲のアタマと終わりの無音時間を作る際などに活躍してくれます。
eki-docomokirai.hatenablog.com
・カーソルを「ストレッチツール」にする
これも基本ツールです。
一般的にはオーディオイベントを揃える際に多用されます。
あまり使用している人を見たことがありませんが、実はこの機能はMIDIリージョン(MIDIを書き込む「箱」)に対して使うこともできます。
下は16分音符単位でストレッチした例です。
・完成したもの
赤が元の状態。黄色が加工済み。
リストエディタで見ても、正確な終了位置(9小節目の1拍アタマ。9.1.1.0)になっていることを確認できます。完璧です!
■どうしてもロジカルでやりたい場合
計算しやすいように「ものさし」を使う方法でストレッチ比率を算出します。
下は「元の長さ」「目的の長さ」「差」を仮に作った状態です。
「差」が240になります。(現在のプロジェクトの分解能は480です。)
目視で数えます。
「元」は「差」の8個分です。
「加工後」は7個分です。
8÷7は1.14285714286です。
ロジカルにこの数値を貼り付けます。
が、おやぁ?
残念ながら現時点でのCubaseのロジカルエディタでは、小数点以下は4桁までしか扱えないようです。
「ロジカルで何でもできる」と言っていた人はお疲れ様でした。自分でちゃんと試してから他人の質問に答えるようにしましょうね!
やむをえず小数点4桁の概算で続行。
位置ずれを修正。開始位置をあわせます。
だいたい合っているように見えますが、
リストエディタで見ると、終了位置が最小分解能480に対して1足りないです。
よってロジカルでは「真に正確」なデータを作ることとはできないことが証明されました。
が、冒頭でも述べた通り「真に正確」なデータが本当に必須になる状況はまず存在しません。ついでに言うと、この程度の質問をする人が、リストエディタで「真の正確さ」を確認するとも思えません。ピアノロールの適度な拡大率の見た目で小節線に重なっていれば満足するに違いありません。