eki_docomokiraiの音楽制作ブログ

作編曲家のえきです。DTM/音楽制作で役立つTIPSを書いています。

オーケストラミックス、音量バランス編(1)

オーケストラ曲のミックス話。今回は音量バランスの話。

(2021年9月29日更新)

■サンプル曲

youtu.be

ニコ動版はこちら。(こっちの方がSN比がちょっと良いです。)

www.nicovideo.jp

 

■マスター

あえて逆順で「トップダウンミキシング」の手順で説明します。

トップダウンというのはいわゆる通常のミックス手順とは逆の方法で、個別のトラックからではなく、マスター出力音量の決定→グループバスでのバランス取り→個別トラックで突出箇所を微調節、という「大から小」の流れでミックスする方針です。 リバースミキシングと呼ぶ流派もいます。

最大音量がリミッターに適度に引っかかるようにし、曲中の最大音量を設計しておきます。

マスターの手順は普通にやれば良いです。

ダイナミックコンプ、マルチバンドリミッターなどで少しずつ音量を調節し、最大音量で快適な音量になるようにします。同時に、最小音量が小さすぎないようにすると良い仕上がりになります。 

 ・加工されまくっている例

よく耳にするのは「クラシック曲はコンプしない」という誤解です。

クラシックの市販録音物などでもコンプ/リミッターは使われますし、EQもされます。「クラシックはピュアな音」という思い込み、先入観で無加工だと思いこんでいる人は気をつけましょう。特に劇伴、トレイラーともなるとガチガチに加工しまくります。

これはマスターでも個別トラックでも同じです。

ジマーマンは音響について非常に造詣が深いそうです。クラシック演奏を加工することにも前向きなのでしょう。聞いてみれば分かるとおり、めちゃくちゃ加工されている音です。

www.youtube.com

再現するレコード再生としてではなく、今風の劇伴よりの音です。

ピアノが主役であることを徹底的にアピールし、細部の演奏まではっきり聞こえるように設計されています。

異様に大きなピアノの音場は誰が聞いても「ミックスされた音」だと認識することでしょう。

実際のホールではこんな音響がするわけもありませんが、逆に言えばステレオ再生でホールの音がするわけもありません。ステレオスピーカーをホールで慣らしても違和感しかありません。そういう矛盾をかかえて板挟みにあるのがクラシックのレコード芸術というものです。

そして私達のような電気的な音楽をやっている人が直視しなければならないミックスの限界と、技術が示唆する新たな可能性です。

ですが、リファレンスとしては使用していません。あくまでも「このミックスの方向性」の印象であって、寄せるわけではないです。

 

・生オーケストラでもコンプを使うよ

www.soundonsound.com

ネットで見つかる情報のほとんどが素人談義なので気をつけましょう。

事実、純粋なクラシック音楽の録音物でもコンプレッサーをかけます。EQも使います。ホール録音でもリバーブ音を追加します。

ましてやサントラ用ともなると当然コンプを使います。

もちろん積極的な加工のためではなく、各種メディアに乗せる際のダイナミクス制限や、劇中に浮きすぎないための処理がメインです。

また、近年の加工されたオーケストラ音楽(Epic Music)では盛大に使われています。打ち込み音を使う場合はなおさらです。

 

上のジマーマンの録音を聞いて「これぞ生オーケストラだ」なんて思うんだとしたら、それは加工音を聞き取る耳が未成熟だといいう証明です。

よほどのピュア録音を売りにしない限り、市販の純粋なオーケストラ音楽でも様々な加工がされているということは絶対に忘れないでください。

 

これは料理で「うまみ調味料(化学調味料)を使うなんて素人だ」と言うことに似ています。プロの料理人でも使う時は使いますし、むしろそういう調味料を使わないお店に普段から通っている人なんてまずいないはずです。

音楽で言えば、一年中アコースティックの生演奏だけでやっている人、という感じです。(プロでも録音仕事はするので、一流プロになればなるほど無加工生演奏だけということは無くなっていくものです。)

 

そういう実情を知らずに、イメージ先行でやっているアマチュアが「プロオケのCDはEQとか使わない」と思い込み、DTMをやる時にも「コンプは使いたくないんですよねー、ワタクシ生演奏の人なので」とか言っています。完全に勘違いです。

 

■グループバス

最も重要なのがグループバスでの制御です。ここでほとんどの音が決まります。

弦、木管金管、打楽器、その他、のグループに分けて、コンプしつつ相対的なバランスを作ります。

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金管楽器の強奏より木管が大きくなることは絶対にありえません。(劇伴だとやりますが。)シンバルの強奏が突き抜けて聞こえない状況などありえません。そういう「上限」を設定することで、いかにもアマチュアくさい打ち込みっぽさを消すことができます。オーボエのソロが金管の伴奏で聞こえるわけがない、という制限をかけるわけです。

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ダイナミックEQやマルチバンドコンプ等で楽器ごとの帯域別の最大音量を制限させます。全部の楽器に個別にすると重たすぎるので、グループバスでまとめた楽器カテゴリごとでもOK。

概ね「低域が過剰に膨らまない音」にしてからインサートリバーブに送ると程よいサウンドになります。どうせリバーブに送ると低音が過剰に聞こえやすくなるので、前もって押さえるわけです。

特にドライな音のオケ音源をそのままリバーブに送るとクソ音になります。

低周波数帯域(低域)の制御

周波数の低い帯域です。低音楽器という意味ではありません。

今回の曲では楽器ごとの低域をかなり削ってからリバーブしています。

 

そもそも低周波数帯域はどの楽器にも存在し、特に録音による「近接効果」が顕著です。近接効果については音響心理学の勉強をしてください。フルートにも低周波数はあるという意味です。

ドライな音のオケ音源は、近接効果が強く出た音が収録されています。それは「生々しい」という言葉で語られます。

が、この音をそのままリバーブに送ると、「近い音」がそのまま残響を伴って響き、おかしなサウンドになります。「ゴソっ」とした近い感じの音がそのままリバーブされるからです。

ドライ傾向のオーケストラ音源は、収録時点でエアーノイズやキーノイズなどが入ってしまっています。

「ドライ音の方がウェット音のオケ音源より自由度がある」というのはある一面では正しいですが、はじめからちゃんとホール音で録音されたもののほうが説得力はあります。どこまで行っても妥協は妥協です。 

・ダイナミックEQでの処理例

グループバスで楽器カテゴリごとの帯域バランスを作ります。

 

弦。

一定以上の音量になった時に低域を押さえ込みます。

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 全体的に過激なEQ調整になっていますが、リバーブに送り込む前の調節です。念の為。

 

木管

大規模オケの中では相対的に木管が最も繊細な音になるので低域をかなり押さえます。

少ない楽器でアンサンブル演奏する際には木管の低域がきっちり聞こえた方が良いですが、ラージホールの音にしたい場合にはローカット大事。

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金管

音源の特性も加味して大幅に低域を削ります。

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単にEQでロー下げする方法だと、音量が小さい場面で異様に細く聞こえてしまいます。なのでダイナミックEQによるロー処理の方が良いんです。

金管は最終的に目指したい全体のサウンドのために割と細い音にしています。

 

無理やりスクショをモンタージュするとこういう具合になる。

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これは-6dBというかなり大きな音量でピンクノイズを流し込んでマルチバンドコンプを均一に反応させた状態です。実際に演奏する音楽でここまで強く反応することは一切ありません。誇張されています。

どの帯域も出すぎたらとにかく抑え込む。

鳴らしている音源・サンプルの都合にもよるので、たとえば5番のディップは真似すると危ないかもしれません。が、視覚的に判断せず、徹底的に聞こえてくる音だけを参照するべきです。いわゆるエクストリームEQです。

「全部押さえるんだったらシングルバンドでも良いんじゃないの?」と思うかもしれませんが、アタックの強いサンプルへの対処も兼ねた、いわゆる「音源バランシング」の工程なのでマルチバンドが役立ちます。スタッカートのサンプルが妙に突出して困ること無いですか? 

・「棲み分け」ではない

ポピュラー音楽のミックス方針では「楽器の棲み分け」というスタイルがあります。(ここでの説明は割愛)

が、オーケストラミックスではその方法は良い結果にならないと思います。

 

よくオーケストラを書く技術として「クラシック和声」が挙げられますが、実はあまり意味がないです。

「どの楽器がどの音域で支配的か」という音域バランスの設計の方がはるかに大事です。

クラシック和声を中途半端に勉強した人が打ち込みオケを書くと、たしかに和声的には適切なのかもしれませんが、音域を無視してすべてが中音域で鳴りっぱなし、という音楽になっていることが多いです。で、彼らが何をやるかと言えばExpressionを山盛りにしてフワフワした音量の動きだけつけて「生っぽい」とか言ってるわけです。頑張って作ったのは分かりますが、まったく効果を挙げていません。

小手先の技術でがんばる前に、とにかく「楽器ごとの最大音量の制限」と「アレンジで音域の配置のバランス」を考えましょう。それができないとどんな高価な音源を買っても何も変わりません。

 

■目でバランスを見る

気になる箇所を動画で確認してください。

もう一度同じ動画を貼っておきます。

www.youtube.com

 

全体での強い演奏箇所を例に挙げます。

画像はクリックで拡大できます。

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ピアノ(白)の強いアタックは波形表示で突出しています。

オレンジ(黄)が弦です。弦は最も人数が多く、幅広いです。よって常に聞こえやすいです。

単に波形として見ると弦が非常に大きいのですが、音色特性によって金管(赤)のフォルテシモの演奏は波形のサイズ以上に突出して聞こえます。この辺はメーターを使った表示だけではなかなか分かりにくい部分です。

ピアノ協奏曲なので、ピアノ(白)はあまりコンプせず、近く聞こえるように設計しています。コンプ感による距離表現はポピュラー音楽のミックスと同じです。

 なお、先述のとおり実際のホールでの演奏ではこのようなバランスには絶対になりません。誇張したサウンドを目指していますので勘違いしないでください。 

スペクトラムバランスで見る

毎度おなじみ、Meldaのマルチアナライザーです。

これも製作中には使っていません。記事用に表示してみただけです。

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オケ曲のミックスでは、ポピュラーのミックスと異なり低域のキックやベース(サブベース)が無いので「カマボコ型(D-shaped)」になるのが正解です。ポピュラー用ミックスの時のようなキックのバランスを基準にする方法は絶対にNGです。ローエンドは自然に残します。

 

ピアノの高域は音で聞くとかなりキンキンしていますが、すぐに減衰するので時間平均で表示するメーター上にはかなり小さくなります。

一方、持続音でビリビリ聞こえる金管と弦の強奏は高域にかなり強く表示されています。

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あと、言うまでもなくチューバやバストロンボーンなどの低音はそれほど聞こえません。低域でもっとも支配的なのはコントラバスです。が、これもポピュラーのベースやサイドギターのようにアタックを聞かせようとしてハイ出しをするのは厳禁です。

ただし、金管楽器の特性として強く演奏した時には 高域に強い倍音が生じます。弱奏と強奏の時で違う音色の出るオーケストラ音源が重宝される理由です。

もしそういう良い音源が無い場合には、弱奏用で通常演奏させつつ、オートメーション(MIDI音量)で強奏用のビリビリした音を適時ブレンドさせると良いです。同じMIDI演奏データを流用し、別系統で音量を書き足すだけなのでそれほど面倒ではありません。

・目で見る意味

好きな楽器は耳が勝手に探してしまい、大きく感じてしまうものです。

一生懸命作ったトラックは、思い出補正で大きく感じてしまうものです。

 

メーターを使って見る目からの情報は常に冷静です。

 

自分が聞きたい音ではなく、実際にどういうバランスに仕上がっているのかを正確に教えてくれます。

 

なお、オーケストラや吹奏楽の生演奏経験者がDTMをやると下手くそな理由はまさにここです。好きな楽器にばかり注力してしまうから、何も知らないでやっている人よりも偏ったバランスにしてしまいます。愛情と狂気は紙一重です。

なお、そういう人がブラバン部活指導をやると、ほぼ例外なく自分が好きな楽器ばかり大きな音を出させようとするので、悲劇的な結果になります。必要なのは冷静に音量バランスをチェックする心構えです。経験者が常に未経験者より上だとは限りません。

オーケストレーション

以下、記事の趣旨とは異なりますが、大事なことなのでここにも書いておく。

オリジナル曲の場合にはとにかくオーケストレーション管弦楽法。≒インストゥルメンテーション、楽器法)のバランスに気をつけるべきです。オケ曲というのは9割のサウンドが弦だけで完結し、そこに管楽器が添えられる音楽だと思うべきです。

不慣れな人やブラバン上がりの人が書くと、とにかくトランペットやクラリネットにメロディを担当させたがる傾向が極めて強いです。

どんなオケシンセの音源を使っていても、オケ曲らしくするためには弦だけで曲の9割を表現しなければいけません。それだけでそれなりに「あ、オケっぽい」とイメージさせることができます。まじで。

メロディに管楽器が頻出した時点で全然オケっぽくないし、パーカッションがドラムセットの代わりにビートを刻んでる時点で相当ヤバい。「なんちゃってオーケストラ風アレンジ」にとても多いですね。

ちょっとだけで良いのでちゃんとしたオケの楽譜を見て、楽器の使用される割合だけでも勉強してみてください。楽譜の細部まで読める必要はありません。

ほぼすべてのまともなオケ曲は、

  1. ほぼ常に弦が鳴っていて、
  2. メロの色彩のために木管が添えられて、
  3. ホルンが厚みを補強して、
  4. それでも足りない時にトランペットと打楽器などが登場する。

という途上頻度になっているはずです。

楽譜を読む第一歩はまずそこからです。

 

・グループバスのコンプ、リミッター

それぞれの楽器カテゴリーが最大音量を出した時に「これ以上は絶対に出ない」という音量があります。それを制限するためにグループに対してコンプを行います。

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PSP Vintagewarmer2を使っていますが、上述のダイナミックEQ(Toneboosters FLX)でも全体的なコンプ/リミッター的な処理をしています。手段は問いません。普通のコンプだけでやっても全く構いません。慣れている道具を使うのが一番です。

また、上のPSPVW2ではアウトプット音量(右下)を制限させています。

中央の大きなツマミはテープサチュレーターです。キャラクターを差別化する意味もあって異なる設定にしています。その他、必要に応じて楽器ごとに微細な加工をしています。

 

模式化すると下図のようになります。

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それぞれのカテゴリーが出せる最大音量をコンプ/リミッターで制限しておくことで、オーケストラ全体のバランスは保たれます。

言うまでもなく、音量バランスは曲や楽団によって異なります。上はあくまでも一例です。

 

下はJohn Eagleによるサンプル例です。が、気をつけなければいけないのは下図は「distance 1meter」とされている点です。コンサートホール録音における適切なマイク距離ではありません。f:id:eki_docomokirai:20190412060047p:plain

これはなかなか良い資料なのですが、全幅の信頼を寄せることができるか?というとやや疑問です。こういう格好良い資料に出会ったとしても盲信してはいけません。

eki-docomokirai.hatenablog.com

 

このデータの収録がどのような環境だったのかが不明だからです。「1meter」という距離が記されていますが疑問が拭いきれません。

金管楽器は音の指向性の強さが強く影響します。

とすると、ホルンとトランペットの音量差はもっと大きく出るはずですから、おそらくホルンの音量が大きく聞こえる(反射音の影響が強い)狭い部屋で収録したのでは?と想像できます。

また、トランペットよりトロンボーンの方が大きな音になるはずです。とすると、トロンボーンの細長い形状の影響から、マイクから離れていたのでは?と想像できます。

木管も同様です。音域やラウドネスから考えれば、ピッコロはとてつもなく突き抜ける音響特性を発揮しますので、最大音量はもっと大きくなることができるはずです。

 

どの楽器でも使われる音域によって「聞こえやすさ」(ラウドネス)は変動します。また、楽器の特性として豊かな倍音を得られる音域ではより大きく聞こえる可能性が高まります。演奏解釈として「そこのトランペットは大きく!」とされたなら、トランペットは上図で示される最大音量を使うかもしれませんが、通常はそのような破壊的な音量を使うことはありません。

 

・バランシング(1)

オケ音源シンセのほとんどはそのままの状態だと各楽器の音量バランスがおかしいです。たとえば、多くの音源でオーボエなどが異様に大きいです。これは特定ジャンルの演奏だけを行うために設計されていないからです。オーケストラの編成は様々なので、そのどれかに特化していないということです。(逆に、特定ジャンルの、特定のサウンドのためだけに設計されたオケ音源は最初からバランスが取られています。そのため、想定されたサウンド以外の曲では極端におかしなバランスになります。全てのジャンルに対応できる状態で販売されている音源は現時点では存在しません。)

グループごとの限界音量を設計した上で、個別の楽器の音量バランスをちゃんと設計しなければなりません。(これを狭い意味での「バランシング」と呼ぶ人もいます。)

・バランシング(2)

あとは個別の楽器がグループのコンプに突っ込みすぎているなら、個別に調節してあげれば良いということです。

この方針の良い所は、コンプに引っかかることによって各々の楽器の音に圧迫感が出ることです。ダイナミクスの音量そのもので迫力を出すのではなく、コンプ感によってスリリングな音が得られます。

まー「綺麗な音で」というコンセプトの人は異論を持つとは思いますが、

「コンプはダメ」「コンプはクラシックでは邪道」と考えるのではなく、ポピュラー音楽のコンプされたサウンドの圧力を積極的に取り入れたスタイルだと思って積極的に取り入れていると理解してもらえればと思います。

ただし、コンプが過剰だとMIDIによる抑揚がすべて潰されてしまいます。適度な設定が必要です。これは数曲作りながら洗練させていく必要があるので、1曲目から完璧なバランス作りをするのは極めて困難です。打ち込みのやり方を均一にし、その打ち込みに音源が反応し、出音がエフェクタに反応する、ということをよくよく考えなければいけません。毎回場当たり的にMIDI打ち込みをしていると、エフェクタの反応が場面ごとに変わってしまうので、いつまでたっても出来上がりません。

さらに多重コンプ、アップワードコンプなども積極的に行い、音が小さすぎる部分でも明瞭に聞こえるようにグループの音量を最適化していきます。

こういう工夫をすることで、クラシック・オーケストラ音楽の構造的欠陥としての「小さくて聞こえにくい」要素を明確に聞かせることができるようになります。

実際、サウンドトラックが映画やテレビに乗る音量というのはそういうものです。生で聞く音量差をすべて忠実に再現してしまうと、セリフや効果音とのバランスが取れないのでかなりコンプされています。そもそも放送用の音はほぼ例外なくコンプされた音です。 

■個別トラック

グループで上記のようなバランスを作った上で、その中身に入る個別の楽器のトーンを調節します。

グループでも強くローカットしていますが、ドライ音の音源の場合には個別の時点でもローカットした方が良いと思います。その上でコンプもしておいた方が良いです。
「EQによる住み分け」はオケ曲では不要です。周波数帯域の住み分けは音符で行うのがオケ曲の作法です。

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もしそれぞれのグループの中で特定の楽器だけが支配的になってしまっているなら、その楽器1つだけを下げます。音源側で行っても構いません。

「1つの楽器だけが支配的」というのは、例えば同じくらいの音量で鳴るべき金管tuttiの最中に、トランペットだけが大きくなってコンプに引っかかり、コンプが金管全体を下げてしまっている状況です。

そういう時にはトランペットの1番だけを小さくし、すべての金管楽器によってもちあ上がった音量が金管グループのコンプに引っかかるようにする、ということです。 

同様に、音源サンプル都合によってチェロのアタックだけが弦グループのコンプに突き刺さっているのが分かったなら、チェロだけに対してコンプをかけておきます。こうすることで弦グループ全体のサウンドがまとまります。

曲の中で最も大きい音量になる場面を見つけて、そこでグループごとにソロチェックすると良いでしょう。グループの中でバランスがまとまったら、グループ対グループの相対的なバランスを作るだけで簡単にトータルバランスが整います。

この手順を使わずに楽器1つ1つから積み上げるミックス手法を使っているといつまでたっても終わりません。コツは「グループ全体がどの程度コンプに当たっているか?」を聞くことです。 

・複数のコンポーネントで音量を管理する

まとめ。

  1. オーケストラ全体のバランス(マスタリング)
  2. 楽器分類ごとのバランス(グループバス)
  3. 楽器個別の最大音量
  4. 表情つけのための音量上下

これらを明確に使い分けるということが大事です。

不慣れな人のデータを見ると、「オーケストラものだから表情つけが大事だよね!」「オーケストラものだからコンプはしないよね!」という先入観が強いです。

また「コンプをかけると細かい演奏ニュアンスが無くなる!」と勘違いしています。表情を殺さない上品なコンプ設定をすれば問題ありません。オーケストラものが好きな人の中には、いわゆるスタジオワークでコンプをかけたりすることを毛嫌いしている人がいますが、それは完全な誤解です。

■ドラムだと思えば良いだけのこと

長々と書きましたが、要するにポピュラーでドラムのミックスをする方法と同じです。

曲全体に対するドラムの大きさを作っておいて、その中でキックだけが大きい、スネアが鳴るとダッキングしてしまう、ローがマスターコンプに当たっている、などの症状を改善していく手順を思い出してください。

曲の一番大きい部分でバランス作りをする方法も、ポピュラー歌曲でサビのバランスを作ってから前後のシーンのバランスを作るのと同じです。

 

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