これでもかという超スピードのパッセージで知られる曲です。出だしの部分では分からない人も途中で「あ、これ知ってるやつだ」となるはず。
(2021年1月15日更新)
■こんなんできました
最初は「なんだこの曲」と思っていると、50秒あたりで「あ、これ知ってるやつだ」ってなるはず。
楽譜はこちら。
■アレンジ内容
この曲を象徴する強烈なインパクトのある高速パッセージ。
これをどうユーフォニアムで演奏するか?というと、こうする。
中心音域からはずれた「遠い」「目立たない」音を削除すれば良い。
これは一般的な器楽アレンジの方法で、バッハ演奏などでは一般的。
もちろんユーフォニアムは結構な機動力がある楽器なので、超絶技巧感を出したいなら全部の音符を入れて地獄に行けば良いと思います。
が、そういうことをやると原曲のスピード感や華麗さが無くなってしまう危険性があるので、奏者はエゴを抑えるべきだし、その楽器の文脈として適切なアレンジをするべきだと思います。(詳しくは後述します。)
・その他の部分
他はかなり平易な曲ですが、しいて言えば中間部、1分12秒からの変則的なワルツがやっかいかな、という程度。
変則的な3拍子、いわゆる「ヘミオラ」の書き方です。
一般的なヘミオラだと1小節+2小節の6拍に3つの音符を入れますが、この曲のヘミオラが特徴的といえる点は、2小節+3小節という接合を行っていること。耳慣れない譜割りなので浮遊感が非常に強い。興味がある人はこの部分を「1+2小節のヘミオラ」に書き換えてみると、クソつまらない曲になるので試作してみると楽しいことと思います。
ある作曲テクニックをそのまま使うのではなく、ちょっとヒネた形で実装している好例だと思います。うまいですね。
この部分はあえて三重奏にし、高速パッセージで負担の大きいEuph1に長い休みを与えています。
反復時(1分32秒~)にはEuph1が合流して二重唱に。
高らかに歌い上げるのは金管楽器の醍醐味ですね。とてもナポリ風(と思って書いてる)。フィルインの駆け上がりを安易に重ねたりしないのがオシャレポイント。安易に全部重ねるとイモ臭くなります。
ピアノだと高い音域に移動することで華やかさを表現しますが、金管楽器だとやすやすと音域を変えることはできません。なので二重唱というスタイルで華やかさを表現したアレンジだ、ということです。
それ以外の部分は平易な書き方で、アレンジ作業は一晩かからずサクっと終わっています。
Euph1の高速パッセージさえ運指を練習しておけば、ほぼ初見でも演奏できるレベルの内容です。でもそれじゃあつまらないので、 積極的なテンポ変化を付けて「コンサートワルツ」の雰囲気を出してもらえればと願っています。
「コンサートワルツ」という言葉を使いましたが、純粋な舞踊BGMのワルツではない、こういう曲を「コンサートワルツ」と呼ぶことがあります。類義語に「コンサートマーチ」などがあります。劇伴やゲームBGMなどで安易な曲にしないためにもパクれるジャンルですね。
■美しい曲は美しく、軽快な曲は軽快に
ちょっと別の曲の話に。
「この曲はどういう曲か?」について、常に考えなければいけないことがあります。
昔読んだある管楽器評論、クラシック音楽評論ではチャイコフスキーの交響曲第5番、2楽章ののホルンソロの書き方を酷評しているものがあり、強い感銘を覚えたものです。
私も「ちょっと」関係のあった松崎氏のソロ。90年代の名手。
その評論の曰く「美しい曲なのに、危険性の高いホルンソロを採用したので、演奏する側も聞く側も『ミスしませんように』と祈る、危険を象徴する楽曲になってしまっている。リラックスして聞ける曲になっていない。」というのです。
上の譜例は、いわゆる管弦楽法では「すばらしいホルンの書き方だ」とされていることが多いのですが、酷使はしていても曲に合った選択だとは言い難いということです。(ここではこれ以上書きませんが、同様に『ティル・オイレンシュピーゲルの愉快なな悪戯』のホルンソロも同様だと私は考えています。管弦楽法を学ぶ人は教科書を鵜呑みにするべきではなく、もっと多くのホンネを収集するべきです。)
その曲のコンセプトを崩す危険性のあるアレンジはあってはならない、という私の信条を形成するにおいて非常に重要な評論文でした。
なお、言うまでもなく上の松崎氏の演奏は完璧といえるクオリティです。完全無欠の奏者で私のホルン師匠も「混血ずるい」「マシーンか」と妬んでいたレベル、日本のホルンの歴史に残る名手です。が、その後年に本番でとんでもないミスをしたのを聞き「人間だったのか」と知りました。
話を戻すと、『ノクターン』の高速パッセージは、音符を削除してでも「軽快さ」「スピード感」を何より表現してほしいんです。息苦しく演奏する様子を見せてはいけない曲だと私は思うんです。挑戦したいというエゴよりも、楽曲のコンセプトを大事にするべきです。
・64-1は「子犬のワルツ」
今回のワルツ第7番は作品番号64-2。
ワルツ第6番、64-1も有名な曲『子犬のワルツ』。たぶん聞いたことがない人はいないはず。
子供のたどたどしい演奏でさえ「子犬感」として納得できてしまう傑作。
うますぎると子犬感が無くなる不思議な曲。
たとえば下の演奏は子犬感が影を潜め、奏者のエゴが強く出すぎていると私は感じる。
まぁ標題音楽としてではなく、純粋にピアノ曲としてみれば話は別なのですが。(なお、子犬の動きを音で表現するというところから作曲されているので、ショパンが知らないところで「子犬」と呼ばれるようになったわけではない。)
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随時追加していきます。
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