eki_docomokiraiの音楽制作ブログ

作編曲家のえきです。DTM/音楽制作で役立つTIPSを書いています。

DTMをやっていると突き当たるちょっと難しい単語の話(1)位相

(人気記事!)DTM、コンピューター音楽、デジタル音楽に関する記事です。

これらの分野である程度勉強を進めて行くと、「なんじゃこりゃ?」という単語に突き当たることがあります。その中でも割りとよく質問を受ける幾つかの単語について、DTMの実務で必要になる対処法と共に簡易説明を書いておきます。

今回は「位相」の話をDTM実務でやるべき対処方法の視点から解説します。

(2020年6月17日更新)

(ちょこちょこリライト、記事ダイエット分割中)

 

■あらかじめお断りしておく点

この記事の目的は「位相の概念をDTMの実務作業でどう意識し、対応するか?」と最終目的段階とします。

なので、学術的な領域の説明における些細なミスについては意図的にスルーしていきます

「こども宇宙科学えほん」のようなノリで「音楽制作者向け、だれでも分かる位相入門」だと思ってください。

 

宇宙科学の入門書で「地球は丸い」と書かれていることに対して「いや、地球は真円ではなく扁平だ!間違ったことを教えるな!」とツッコミを入れるのは無粋だということです。

 

数学的、計測的な分野における位相については、それぞれの専門分野の視点から書かれているサイトや書籍をあたってください。今すぐブラウザバックを。

 

また、 

ツッコミがある人はご自身のブログで正確さを追求して書いてください。

と、冒頭にこんだけ書いているにも関わらずTwitter等で批判してる自称専門家がいる。もはや対話の余地なし。

 

■なぜかものすごいアクセス数のある記事です。

このブログの記事の中でも安定して上位アクセス数です。

ホビーコレクター層が大好きな新作プラグイン話でもないし、実機持ってます自慢記事でもないしけど、アクセスが多いんです。アクセス元は検索サイトからですから、どこかのフォーラムとかSNSにリンクが貼られているというわけでも無いです。

つまり、DTMをやっている人が、

  • 「位相」というものになんとなく不安に感じている
  • 「位相」を理解すると何かすごいことができると思っている

ということじゃないかなと推測しています。

 

だって、ネット上で位相の話になると、どこからともなく馬の骨が現れて、ズレた話ばかりして、結局何の議論も成立しない状態になって荒れるじゃないですか。

 

■シリーズ記事 

eki-docomokirai.hatenablog.com

 

eki-docomokirai.hatenablog.com


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では本編。

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■位相の話題が意味不明になる理由

ネット掲示板で位相の話をすると、どの領域における位相の話なのかが明確に定義されないうちにバトルが始まり、個人攻撃・人格攻撃に発展するのがテンプレです。

そのバトルを見ていた人の多くは「DTM談義では位相の話をしてはいけない」とだけ学んでしまい、音楽における位相の重要性を知るチャンスを失っています。

 

しかし、位相について調べても音楽の分野ではない資料でガッカリするはずです。出て来るのはせいぜいマルチマイク録音での位相問題の処理方法くらい。

そしてなんだか分からなくなって「やっぱり位相はオカルトだ」となるまでがテンプレです。

 

その認識は完全な間違いです。

 

・位相はオカルトではない

断言します。「位相」はオカルトではありません。

 

位相というのはあらゆる「周期的な運動」のことで、円運動や振幅運動の性質を説明する時に使う言葉です。

DTMなどでオーディオデータを扱う時に、様々な「波」を目撃しているはずです。波は上下に振幅する「周期」があるので、当然「位相」も存在します。

大雑把に結びつけると、「音=波=周期=位相」ということです。

すべての波形は位相です。

 

位相が問題なのではなく、位相(=音の波形)に問題が起きる、と認識するところからスタートしてください。

 

たとえで言うなら、

「音とは波形、つまり位相だ」

「人間はタンパク質だ、つまり物質だ」

というくらい根源的なことです。

 

・自由にできないタイプの位相がある

音楽、DTMでは「位相を完全に操作する」ことは不可能です。

「位相が狂って変な音になってしまう」とか

「位相がおかしくならないように、過剰な加工は控える」

という考え方をしていく程度で良いです。とりあえずは。

 

で、位相の全てを自由自在に扱えるわけではないので「オカルトだ」と考えてしまう人がいて、「位相」 という単語が出てきただけで拒絶反応をしめしてしまう人が多いようです。で、「オカルト好きのオーディオオタクは黙ってろ」と人格攻撃をする人が現れて、売り言葉に買い言葉でケンカになるわけです。

そのように毛嫌いしてはいけません。

すべての音は位相だからです。

 

・(国語学のお話)同じ単語でもいろいろな意味がある

言葉にはいろいろな意味があります。

「位相」の話題になった時、その話題が「どの位相の話か?」をちゃんと認識しなければいけません。

似たような、あるいは同じ単語だからと言って、イメージだけで捉えるのをやめましょう

想像力豊かな音楽家(芸術家)の人たちは、悪い意味でイメージを拡大しすぎたり、連想しすぎたり、こじつけをしてしまう傾向があります。気をつけましょう。

 

例えば、「キック」という言葉。

音楽における「キック」はベースドラムのことです。

しかし、スポーツではサッカーや格闘技の「キック」は足で蹴る行為です。

ネットコミュニティでは「キック」という言葉は強制的に退場させる意味(BAN)になります。でも、ネット荒らしを「キック(BAN)」することについて勉強しても音楽の「キック」の勉強にはなりません。

プログラム用語の「キック」はプログラムがうまく動かない時にコンピューターを蹴っ飛ばす意味ではありません。

ビジネス用語の「キックオフ」は営業成績の悪い社員の尻を蹴っ飛ばすことではありません。

工場仕事で疲れてくると、機械の騒音が4つ打ちキックに聞こえてくるという意味でもありません。

 

音楽の話で「レンジ」の話になった時、それが「ダイナミクスレンジ(音の大きさ)」の話なのか、「インターバルレンジ(音域の広さ)」の話なのかをちゃんと認識しないとダメなのと同じです。電子レンジは関係ありません。

 

DTMの話の中での「トラック」は車のことではありませんし、陸上競技を行う場所でもありません。「ピンポン」は卓球のことではありませんし、ドアチャイムのことでもありません。

 

文系だろうと理系だろうと体育会系だろうと、そういう「所変われば別の意味になる言葉」があります。それをいちいち言葉の定義から話していると、いつまでも本題に入れないので、単に「位相がー」という言い方になるわけです。

位相の話になった時、まずその会話が「どの分野の、どの要素の位相の話なのか?」を読み取ってください。異なる領域の位相の話で対抗しないでください。

 

言葉の意味が広いので、たとえば車を運転する人が「回転って何ですか?」と質問しているような状態になる。

タイヤも回転する。

ハンドルも回転する。

サーキットの中でF1カーが何周も回転する。

エンジンの中ではいろいろなものが回転している。

ペダルだって「軸回転」で動く。グルグルと回転するわけじゃないけど、これも回転だ。

だからと言って「車を運転するためには回転について理解しなければいけないよ」というアドバイスをする人はかなり頭がおかしい

 

で、位相というのは回転の話なんです。

 

でも、「位相って回転のことだよ」と言っても、音楽的にはまったく無意味です。

「音楽は数学だよね」とか、

「人間はタンパク質」

「女なんて脂肪が多めのタンパク質ry」

と言って自分は俯瞰的に物事を認識しているぜ!と強がってみたところで、何の説明にもなりません。いるよねそういう人。

 

辞典で調べた知識なんてクイズ以外で役に立たないし、クイズ王になったところで音楽はできませんよ!

 

・(雑学)別分野の位相の話をやりたいなら……

もし雑学をやりたいなら

蛇行動 - Wikipedia

この辺でも眺めてみると面白いんじゃないでしょうか。

列車の下にはたくさんの鉄の車輪があって、その回転の差が起きると困るよ、という話が説明されています。これも位相の問題です。

この「車の位相」を強引に「音楽の位相」と絡めて考えるなら、複数波形の位相差を自動で整えるためのオートアラインを機械的に行っているのが列車の車台だ、ということになります。

 

また、スポーツカーの運転について書かれているのが下の記事です。

http://www.geocities.co.jp/MotorCity/9585/coffee.htm

記事内を「周波数」で文字検索して、その周辺を読んでみると良いです。

「周波数」「位相」「デシベル」「ゲイン」という、まるでミックス話をしているかのように錯覚するかもしれませんが、これは車の運転技術の話です。でも、どちらも位相の話です。

 

車は複数のタイヤが回転しています。回転とは位相です。そして音楽の波形も位相です。

 

 

・平成30年 北海道胆振東部地震の停電被害も位相

瞬時に北海道全体が停電した「電力のブラックアウト」は、交流電流の「位相」のエラーが原因です。つまり電力も位相です!

togetter.com

 

・宇宙レベルの位相

干渉SARの原理|国土地理院

http://www.gsi.go.jp/common/000108854.png

http://www.gsi.go.jp/common/000108854.png

これってステレオスピーカー2個から頭の位置に音が到達する時間差と同じ理屈ですよね。「左右の耳に音が到達する時間差」「スピーカーと頭の位置を三角形に!」ってやつ。場所がずれると音の「位相」が悪くなるから、スピーカーはちゃんとセッティングしてね!

野外コンサートではもっと大きな距離での位相の処理が必要です。

さらに宇宙レベルでは地球を1周する周期を位相として扱う、極めてダイナミックな位相処理が必要になるということです。

なお、人工衛星と通信する際に使う電波も位相です。

レーザーも位相です。

光も位相です。

エヴァンゲリオンに出てくるシンクロ率のグラフも位相です。

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https://senpaicoasttocoast.files.wordpress.com/2014/12/vlcsnap-2014-12-15-17h57m45s136.png

 

・位相とはミクロの話

まー、ともかく、位相というのは音楽だけの用語ではなく、非常に広い分野で登場する、わりと一般的な用語だということです。

いろいろな分野で精密さを求めた時に遭遇する用語なんです。

音楽だけの視点から、DTMだけの視点から「位相」を理解しようとしてもサッパリ理解が進まないのは当然です。あらゆる周期運動を示すための幅広い用語なんですから。

 

ここまでOKですか?

 

「音楽の位相」と「それ以外の分野の位相」を分けて考えられれば、位相の理解は半分終わりです。

 

■音楽の位相を分類する

「音楽の位相」と「それ以外の分野の位相」をはっきり分けて考えられるようになりました。これで位相の理解は半分は終わりです。

 

では「音楽の位相」もさらに分類していきましょう。

 

・(分類1)いくつの波を扱うか?

1つの波の位相の問題なのか?(単一位相)

複数の波が干渉した問題なのか?(複数位相)

 

・(分類2)どの工程における位相問題なのか?

  1. (単一位相)単一波形の位相不良(下準備)(マスタリング)
  2. (複数位相)複数のマイクで録音する際に起きる問題(録音)
  3. (複数位相)ステレオ感のための位相(ミックス)
  4. (複数位相)シンセ等の音作り(音色)
  5. (複数位相)サウンドを変化させる位相(音色)

このように2種5類に分けて考えましょう。

これらをきっちり分けずに「位相」という言葉が関連するからと言って、どんどん話題をずらしていく人が多くいます。気をつけましょう。 

 

「あなたが今言ってる位相って、どの要素の位相の話?」ということをまず確かめなければいけません。

話の流れで「どの要素の位相」なのかを文脈で理解できるようになれば、なにも怖いことはありません。

 

■1,(単一位相のずれ)単一波形の位相不良

単一波形の中での位相の話です。

録音的に完璧、あるいは電気的に作り出された完璧な波形でも位相の問題は起きます。

 

 ・波形の上下向き

一般的に、あらゆる波形は「上に行ってから下へ」という形状になっているべきです。

下の画像は「逆相」(anti-phase)と呼ばれる状態です。

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波形が下向きに開始されているのは逆相と呼ばれ、一般的にはNGです。

原則的に波形は上向きスタートするべきです。

理由はシンセなどの音が上から開始されるからです。

 

上向きでも下向きでも同じ音で、その違いを判別できる人は存在しません。(稀に「逆相だと引っ込む音がする」「耳が引っ張られる音がする」と主張する人がいますが、単体で鳴らしたanti-phaseの音を区別することは事実上不可能です。確かにスピーカーは引っ込む方向から動作するのですが、それを感知することは不可能であり、完全なプラセボ、情報からくる思い込みです。)

ただし、こういう低音の信号を2つのスピーカーで演奏した時、「押す、引く」と「引く、押す」の逆相で振動すると、当然「位相が悪い状態」になります。 

低音は原則的にモノラルにしたほうが良い、ということです。

 

・「逆相」で問題解決できる?

この問題は「逆相」(anti-phase)で修正するのが一般的です。

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ただし、波形の開始位置が中央になっていない場合には問題が解消されません。

初歩の位相問題解決方法として「逆相にしましょう」と書かれていることがありますが、それは万能ではありません。

アナログ時代には、今日のデジタル処理のように細かな修正ができなかったので「逆相を試しましょう」と言うしかなかったんです。

「逆相にすれば良い」としか考えない(教えない)のは数十年遅れています。

 

逆相スイッチは位相問題を「解決する」魔法のスイッチではありません。

逆さにして「どっちの方がマシか?」という妥協を試みるための二択スイッチでしかありません。 

・(単一波形)その波形はゼロから開始されているか?

波形切り取りの加工で anti-phaseで切断されないようにするための機能が「ゼロクロスポイント」という機能です。

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これをオンにしておくと、波形切断がゼロ点だけになります。

これで「ゼロから始まり、ゼロで終わる」音になるので、「位相的に美しい」状態になります。

 

・ゼロクロスポイント編集の欠点

欠点としては、小節線でのカットができなくなる副作用があるので注意が必要です。

下画像は「下開始」の逆相波形をゼロクロスで切断し「正相」に加工した例です。

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小節線からズレてしまっているので、位置を直してあげる必要があります。

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これで正相(in-phase)で小節線ジャストになりました。

 

フリー配布されているサンプル素材の場合、こういう処理をちゃんとやっていないものが多くあります。指定BPMの4小節ちょうどでカットされていても、終わりのゼロクロスが整っていなくて、ループさせると不具合が起きます。そういう素材は「位相が悪い」ということです。

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もちろんこの方法だと周期の半分が削れてしまうので、意図した波形ではなくなってしまいます

しかし、位相の問題によって生じる音ヌケの悪さを一発で解消できるので、割りと有効です。周期1回が削れてしまうことを気にするより、位相の良さを重視した仕上がりになるメリットがあります。

あやしげなサンプルファイル(フリーものや自作など)の場合には、まずこの加工をして使いやすい状態にしてあげる前準備が必要ということです。

 

「逆相に加工」するか、「ゼロクロス切断」するか。どちらかの加工によって位相を美しい状態にしましょう。

この準備をしておくことで、先々のいわゆるミックス的な操作で、位相問題が起きにくくなります。予防策として極めて重要です。 

  

■(複数位相)キックとベースの合成による低音位相問題

低音アタックの位相の話。

 

とあるメーカーのサンプル集のベースが逆相になっていた。どこのメーカーとは言えない。手持ちのサンプルを拡大してみると良いです。結構笑えます。「あー、だから無料なのか」と納得できることでしょう。

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下の方が「位相的に」良好なのは言うまでもないですね。太く素直な波形ができているのは誰にでも分かることです。

下のように整っているものは「位相の状態が良い」ので、「音抜けの良さ」に直結します。

 

どこのコンプやEQを使ったら音が良いとか、そういう問題ではありません。単に「位相の問題」です。こういう位相問題は値段が高くて見た目がカッコイイ最新EQを使っても解消できません。入念な位相チェックと、手作業による補正だけが「良い音」への唯一の道です。あれこれEQを買いまくった人はお疲れ様でした。

・クソ音とは何か?

ゼロクロス不一致による「プチ音」は、デジタルクリップの「プチ音(ピーク越え)」にそっくりな音だけど、アナログ出力だから別に0.00dBFSを越えても問題ない。

この「実機808キック問題」は、「良い音とは何か?」「使えるクソ音とは何か?」という哲学的な問答に対する具体的な答えのひとつなので覚えておいて損は無いです。(デジタルクリップだって書き出し後に音量を下げれば強烈なアタック音として使い道がある!ということです。)

eki-docomokirai.hatenablog.com

上で述べた「ゼロクロスが綺麗に整頓されたサンプル音」が必ずしも最高のクオリティだとは言えないということです。

このあたりが単に「数学的に位相が整っている」だけでは良い音楽性につながらない理由であり、音楽の面白さというか、音楽がクソゲーだと言われる理由だったりします。

安易に作られた808キックのクローンは、波形を目で見てきれいなサンプル集にされているが故に、本来の808キックの魅力を失ってしまっているわけです。

 

■2,(位相ずれ1)複数のマイクで録音する時の問題

音楽の位相の話で、たぶん最もよく知られているのがこれ。

スネアの上と下から2本のマイクで録音した際に生じる問題。

メジャーな話なので割愛します

こんな記事をここまで読んだ人なら熟知しているでしょ?

 

なお、上述のとおりスネアの上下マイクの問題は単に逆相にしただけでは100%の解決にはなりません。ちゃんと距離を測り、位相問題まで計算しつくしたマイクセッティングが不可欠です。

もしくは位相を調節する手動編集や、専用プラグインが必須になります。

・位相干渉を正すエフェクター

そういう時には、やはりミキサーディレイの機能を使うのがベターです。もしくは位相干渉を解決するプ専用のラグインエフェクトを使うべきです。

MeldaのMAutoAlignなどが有名どころです。

www.meldaproduction.com

位相干渉を解決する専用のプラグインエフェクトは、複数のトラックの位相を自動で極限までそろえてくれます。

それまで波形を拡大して目視し、人力で整えるしかなかったものが自動化できるということで「録音物を扱うエンジニア」の間で話題になりました。(DTMで打ち込み専業の人にはほぼ不要です。)

 

ただ、誤解されているのはこういうエフェクタが「全ての位相問題を解決してくれるぜ!」というものです。ただし、音の周波数はさまざまですから、すべての周波数における位相の問題を解決することは不可能です。全ての位相が揃ってしまったら音楽になりません。

 

そもそも、音楽というのは位相を正しくするための行為ではなく、ほどよく乱れた位相によって生み出される芸術だと言うことさえできます。位相が揃っていることより、もっと大切なことがあることに気がつくべきです。

位相問題に対して神経質になってしまった末期患者は全ての位相を解決する手段があるに違いないと勘違いし始めます。こうなるオカルトに片足つっこんだ病的な状態だと言わざるを得ません。そういう人に限って(ネットでの)声が大きいので注意してください。人は自分が一生懸命に取り組んでいること、関心のあることに対して声が大きくなり、誤りを認めなくなるものです。

 

・モノマイク1本でも位相問題は起きる!?

あえて書き添えておきたいのは「複数マイク」じゃなくても位相の問題は生じるということです。

1本のモノラルマイクでなんで位相が?と思った人もいるはずです。

よく考えてみてください。マイクが1本でも、録音する部屋の反響音がわずかに遅延して同じマイクに到達して録音されるので、二重に録音されてしまいます。これも位相の問題です。

実際問題として、そういう反響音が録音されてしまうと、後からどんなに加工してもダメです。(慣れてる人なら聞いた瞬間に反響音の位相問題だと気が付くことができます。先日も宅録バイオリンの人の音がコレでした。)

つまり録音とは位相との戦いです!

そういう点を無視して高級マイクを導入しても、位相狂った音が高品質で録音されるだけです。

 

■3,ステレオ感のための位相

位相には上で述べた「単一トラックの中での位相干渉」の他に、複数の音が干渉する「ステレオ位相」というものもあります。

 

ステレオ位相は2つのスピーカーから出てくる音の干渉のことです。

2つのスピーカーが揺れることで1つの空間に2つの波が生じます。

2つの波は干渉しあい、1つの音楽になります。 

・2つのスピーカーでモノラルを奏でる「フォースドセンター」

一般的な2つのスピーカーでの再生では「センタースピーカー」がありません。だから本来はセンター音など存在しません。あるのはLとRの音だけです。

左右で同じ音を鳴らすことで擬似的にセンターだと錯覚させているだけです。これをforced enterとかphantom centerと言います。

・1つの音が左右の耳に到達する時間差「バイノーラル・パン」

 

 バイノーラルの話は別記事に移動しました。 eki-docomokirai.hatenablog.com

 

 

■4,「位相」による音色作り

位相のズレは良い方向にも働いています

シンセに限ったことではないのですが、あえて「シンセの音作り」として書きます。

シンセの音色を作る際に、音程をわずかにずらしたニゾン(デチューン、ステレオスプレッド)や、エフェクタを使って作るフランジャーフェイザー、コーラスなどのがあります。これらの効果はどれも位相のズレによって生じる音色の面白さです。シンプルな波形を鳴らすだけでは安っぽいシンセ音にしかなりません。いろいろ混ぜて位相を悪くすることで音色は良くなります。

・生楽器の多人数演奏 

オーケストラの中で大量のバイオリンが同じことを演奏すると、1人だけのバイオリンの演奏とは全く異なるサウンドになります。その魅力は誰もが知っているでしょう。

バイオリン・セクションは人力のユニゾン加工であり、位相のズレによる音色です。アコースティックなコーラスエフェクトであり、デチューンであり、スプレッドです。合唱(コーラス、クワイア)も同じですね。

 

生楽器でも同じメロディを違う楽器で演奏すると互いの位相が干渉し、独特の音色になります。これを「人間的なブレの無い」サンプリングされたシンセの中で鳴らすと、均一すぎる位相ズレにしかならず、生演奏ならではの音色になりません。

エレキギターのユニゾンチョーク奏法も位相に踏み込んだ音色表現です。2本の弦で微妙に異なる位相を歪みエフェクタに突っ込むことで得られるサウンドは最高にエモいです。

このように、正確に位相が合っていないことは音楽的な表現となる可能性を持っています。

位相があっていれば良いわけではない証拠として覚えておいてください。

・ミックス的な意味での「音作り」

モジュレーションエフェクトは明確な位相干渉による「ダイナミックな音色作り」です。

それに対し、「位相を触ることによる極めてミクロな音色作り」のアプローチがミックス工程で行われることがあります。

 

EQによる位相とその歪みを用いて、わずかなサウンド差を作り出す方法です。

この方法は多くの楽器に対して試みられてきています。

 

例えば、下の記事で紹介されている並列処理です。

theproaudiofiles.com

EQ加工によって生じてしまう位相の変化したサウンドと、EQを通していないサウンドを「並列的に」混ぜることによって幅のあるサウンドを作る方法です。

注意しなければいけないのは、この手の文脈で言われる「幅が出る」とか「広がり、奥行きが出る」「芯が出る」という言葉は、あくまでも比喩的な表現だということです。「幅が出る」とか「広がる」と言ってもステレオ的な意味でのワイドになるわけではありません。「音が深くなる」と言っても、ローが出るという意味ではありません。「位相の悪さによって音色が差別化される」と考えてみてください。(国語力が大事!)

 

また、上のリンク先記事の趣旨は「そういうEQトリックをする場合には意図的に位相を乱したいからノンリニアの方が良いよね」「リニアフェーズが必ずしも上位互換ではないよ」ということですので、誤解しないでください。

 

・「分からないならやめとけ」の法則

言うまでもなく、そういうトリックによる音の違いが明確に認識できないならやらないほうが良いです。むやみにEQを使って位相を乱すくらいなら、やらないほうが位相が良好なサウンドを保てます。 

■5,サウンドを悪化させる位相

別の位相カテゴリの話になります。

 

低音に限らず、どこの音域でも位相ズレは起こることがあります。

「ディレイとコムフィルター」の項目で後述します。

これを解消するためには「全体の位相がおかしいサウンド」を判断できる必要があります。これは上で紹介した「位相を触ることによる極めてミクロな音色作りの失敗例とも言えます。

全体の位相ズレは波形で見ても判断することができないので、「なんかヌケが悪いな」「なんか変な音」と気がつくことができるようになるのがスタート地点です。 

 

 

■ディレイとコムフィルター

音楽制作において解決が必要となる位相問題の多くはタイミングのズレだと言えます。

タイミングのズレ、つまりこれはショートディレイです。

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全帯域ノイズに対して0.6msの超ショートディレイをかけると、わずかに遅れた音によって位相干渉が起きた部分が打ち消されていることが分かります。複数箇所に凹みができているのは、0.6msの公倍数が影響を受けているからです。つまり、0.6の2倍3倍4倍の1.2ms、1.8m,s、2.4msなどが逆相になって凹むということです。

 

上の画像は測定用で表示できるデシベル数を大きくしていました。

下の画像では表示デシベル数を減らしています。

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このような形状に見えることから「コム(comb)=くしフィルター」と呼ばれています。

 

テストノイズではなく、実際の曲の中でわざとにおかしくしてみた例。

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実際のミックスでここまで極端なショートディレイ(コムフィルター)を作るとおかしな音になってしまいます。要注意!

コムフィルターは悪い効果になってしまう場合と、他のトラックとの差別化ができる良好な場合があります。が、しっかり計算され、極めて秩序のある設計にしないと違和感の方が大きくなってしまいます。(上述のバイノーラルパンなど。)

  

忘れてはいけないのは「180度逆相が凹む」という結果だけではなく、「180度以外の部分も少しだが凹む」という点です。

つまり、逆相だけで位相問題が解決されるわけではありません。

もし逆相部分だけが影響を受けるのであれば、「くし」はもっと鋭くピンポイントで凹むということです。

音楽用の位相の話をする人の多くがこの点を見落としていて、逆相か正相かだけでしか語りません。位相には正と逆だけではなくて、ズレというものがあるということをまず知るべきです。

・コムフィルターの実験が有意義である理由

ショートディレイでコムフィルタを作る実験をやってみると、位相ズレしているサウンドを明確に知ることができます。

極端な状態から徐々にパラメタを下げて正常なサウンドにしていく途中で、位相が狂ったサウンドというものを体感できます

 

話が脱線しますが、「音割れ」も同じ経験によって習得できます。極端に音割れした状態から徐々に戻していくと「あー、音割れってこういうことね。」とわかるわけです。 ミックスにおける様々な概念を知るためにはこういう体験が欠かせません。特に、位相やクリップの悪い状態がどういう音、どういう加工の結果なのかを具体的に経験してみると、避けるべき過剰な状態と、ほどよく音楽性を高める加工の差を習得できるでしょう。(ただし専門家の指導を受けながらやらないと、、劇薬になってしまうかもしれません。往々にしてシューゲイザー系の人が過剰におかしな加工をしてしまっている、という印象があります。)

 

■極端なハース効果によるダブラー

ダブラーはいろいろな楽器に対するエフェクトで使われています。特に多いのはエレキギターではないでしょうか。

1本のエレキギターのはずなのに、妙にステレオ感があるアレです。

ダブラーの音もステレオスピーカーとディレイで作られているのですが、どの方向に定位しているとか、位相を正すとか、そういうこととは逆のアプローチです。どこの音だか分からない違和感による演出です。

ダブラーについて考える際は位相のこととか考えないほうが良いそうです。

■ショートディレイで位相がずれるということは……

お察しの通り、リバーブでも位相に干渉が起きます。

バーブは無数のディレイの集合体だからです。

だからと言ってリバーブが悪だということはありません。

 

ディストーションも位相

音の波を過剰に大きくした際に生じるディストーションエフェクトの音も、位相のひとつです。

単純なサイン波を乱す(ひずませる)ことで単一波形による音色に倍音が加わるのがディストーションです。

つまり、音色の変化とは位相の変化です。 

ディストーションと言うとギターのエフェクトの話だけだと勘違いしている人もいますが、倍音が加わるのは「広い意味でのディストーション」です。

ディストーション(ひずみ)という言葉もDTMをやっている人がよく誤解しているから、そのうち書いた方が良いのかなぁと思っています。

・コンプやリミッターも位相

単に音量を変えるだけのコンプは関係ありません。

アナログ系回路を通過させると倍音がつけたされるので、広い意味では「位相」が変化しているわけです。

リミッターはデジタル系でも音を強く加工した際にディストーションと同様の位相の乱れを誘発します。それが起きにくいのがいわゆる「透明な」と言われるタイプの音が変わりにくいリミッターです。

波の振幅が大小するだけの状態なら位相の変化は無いですが、クリップは位相の乱れです。  

■EQと位相

EQの加工も、位相の加工です。

あらゆる音、波には周期があり、それを操作するのは位相の操作に他なりません。

 

普通のEQ(ノンリニアEQ)も、位相が乱れにくいとされるリニアフェイズのEQも位相は必ず乱れます。リニアフェイズが位相に影響を与えないわけではありません。乱れにくい要素をどこにするか、乱しても良い要素をどこにするかが違うだけです。

近年では基本的な2つの演算だけではなく、両方の良いところを採用する方式のEQも出てきていますが、逆に言えば両方の欠点を持っているということです。

 

位相を乱さないEQは存在しません。原理的に絶対に不可能です。

加工の副作用としてプリ・リンギング(pre-ringing)やスミアリング(smearing=にじみ)と呼ばれる位相乱れが起きて、必ず音は劣化します。低域の不要な帯域をカットするためのEQでも位相は乱れます。過剰なカット処理は位相に大きな影響を与えます。

 つまり、どんな高いEQを使っても位相は乱れ、使いすぎれば聞いて分かるレベルで音を壊してしまうから気をつけてね、ということです。 

とは言え、位相の乱れのすべてが禁忌されるものだというわけではなく、音楽的には「より浮き立つ音」になる可能性も秘めているので、最終的には耳で判断し、作品にとってふさわしいかを判断するしかありません。

なんだか分からない人は徹頭徹尾、自分の耳と美的センスを信じて作りまくれば良いだけのことです。

 

よくわからないなら、その加工をやめるべきです。何も加工しないことで、少なくとも位相が悪化することを避けられます。マイナスになることはありません。

 

・EQ時に生じる位相の乱れ

EQは位相を狂わせます。

 

下は808キックに100HzローカットEQをした例です。

リニアフェーズEQは非常に急激なカット、ノーマルEQは-6dB/oct.のゆるいカットの例です。

(ノーマルEQで音量レベルが下がって見えていますが、これはゆるいローカットのせいで音量が削がれた結果です。)

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拡大すると、LPEQでは一番最初の時点でズレています。

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原理的にはEQによる位相ズレは左右の時間軸方向にしかズレないはずなので、どういう理由で縦方向にズレるのはか詳しくは分かりません。なんらかの理由でオフセットが起きてしまっているのかもしれません。なんでだろうね。こういう状態になったらオフセットを除去しなければ、加工前よりも悪い音だということです。うかつな加工は安易にするべきではありません。

 

こういう位相のズレが音楽的に良いのか悪いのかは曲によります。

加工の結果「いいね!」と思ったなら何でもありです。

何度でも言います。位相の変化によるサウンドの悪化を認識できないなら、あらゆる加工はやらないほうが「位相的に」マシです! 

 

キック一発の長さ全てを表示すると下のようになります。1周期ごとにラインを入れて強調した画像です。

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 周期ごとにかなりズレていることが分かります。

 

■動画で学ぼう

記事内にも外部リンクはありますが、下の動画(英語)は非常に分かりやすいです。

www.forward-audio.de

逆相が完璧ではない話、逆相処理が2種類ある話、マルチマイク問題とその設置による回折等の干渉問題、コムフィルターの出現なども非常にわかりやすく解説されています。

 

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■ツッコミ対応

ツイッターで、より正しい解説をしているページがあるとのツッコミがありましたので、そのサイトへのリンクを貼っておきます。

特に「イコライザーと位相」の説明に特化した内容です。

興味のある人はぜひどーぞ。

soundevotee.net

 

多用な視点はとても大事。「音楽制作における位相」について興味がある人は下の記事もぜひどーぞ。

yaritakunai.hatenablog.com

 

音楽的にどうでも良いレベルのことに神経質になって、メーカーの謳い文句に踊らされて、違いがあるのかどうか自分で判断できない機材を買うくらいなら和声やコードのひとつでも覚えたほうが良いです。「この曲は位相が良い」という評価で売れた曲はありません。

 

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