eki_docomokiraiの音楽制作ブログ

作編曲家のえきです。DTM/音楽制作で役立つTIPSを書いています。

吹奏楽、演奏用カスタム楽譜のススメ

作曲、編曲。小編成吹奏楽に関する記事です。

小編成の楽団では編成とメンバーの力量にあった楽譜を見つけられずに悩むことが多いです。そこで私のようなアレンジャーがフル・カスタマイズした編曲楽譜の制作依頼を受けたりしています。

■小編成楽団の悩み

学校吹奏楽などで補欠人員が出るくらいの大人数ともなると、個々の実力はそれなりのものです。たいていの市販楽譜を演奏し、狙い通りのサウンドを出すことが可能です。

しかし、小編成ではパートが偏ってしまったり、実力差がありすぎて特に初心者が普通のアレンジ楽譜すらまともに演奏できないことがよくあります。

特に近年では少子化(という言葉は語弊があるので使いたくないのですが……)によって学校吹奏楽の団員確保が困難になってきています。この流れは今後数十年は止まることは無いと見て、多くの出版社が小編成向きの楽譜リリースに力を入れている、という潮流があります。

コンバーチブル楽譜ってどうなの?

コンバーチブル譜というのは。声部指定のみしてあって、「異なる楽器でも演奏できますよ!」ということをウリにしている楽譜のことです。

私個人としてはあまりおすすめできない、というのが現状です。

全てのコンバーチブル譜をチェックしているわけではないのですが、内容はおおむね低いです。売る側の論理、すなわち「ちょっとの手間で広く売れる商品」というコンセプトで作られており、これでは演奏する子供たちがかわいそう、というのが私のホンネです。もっと言えば、アレンジャーもかわいそうです。そういう汎用性を追い求めた編曲によって「このアレンジャーは音が悪い」などと評価されてしまいかねないからです。

買う側のメリットは「安い」「来年になって編成が変動しても流用できる」ということです。でもそれって、教える側の論理、予算の都合ですよね。大事にするべきは子供たちの将来であり、音楽を続けてもらうことではないでしょうか?「コンバチ譜で演奏したあの曲が楽しくて音楽家になろうと思った」とはならないと思います。クソみたいなコンバチ譜を書き換える仕事を押し付けられた、ちょっと音楽センスのある子が、結果として「将来はアレンジャーになりたい」と思うことはあるかもしれませんが。私が初めて吹奏楽アレンジに手を付けたのもそういう経緯でしたので、非常に稀な例として、そういうことはあるかもしれませんが。

たしかにそれなりのサウンドは出るのですが、こうした楽譜は「その楽器らしさ」「その楽器ならではのサウンド」「その楽器を演奏する楽しさ」が完全に失われており、コンクール等でその曲を長期に渡って練習したとして、「その楽器の奏者が身につけるべきスキル」が身につかないという、音楽教育の観点からすると恐ろしいデメリットがあるのが実情です。私個人としては、そういう弊害の持つコンセプトの楽譜を作ることには賛同できません。「どうしても作ってくれ!」と名指しで依頼された時に手があいていたら作るかもしれませんが、積極的に参加したいと思うカテゴリーではありません。

コンバーチブル楽譜の場合、何箇所かだけでも良いので「この楽器で演奏する場合はこちらのパート譜を使用してね」と書き添え、「その楽器らしさ」を打ち出すべきじゃないかなぁ、と思っています。コンバチを制作している人がこの記事を読んでくださった場合、少々の手間を惜しまず、子供たちの未来のためにひと工夫してみてはいかがでしょうか。

■で、カスタムアレンジ

過去にこんなことを行いました。

新設の学校で1年目から設立された吹奏楽部のコーチとなった私が、「有名校でどっぷりと吹奏楽をやってきた上手な学生+無理やり入部させられて楽器の名前も分からないような学生」が半々で構成される吹奏楽部に対して編曲を行いました。1年目からコンクールに出場するぞ!ということが目標だったんです。

個々の力量と性格を入念に調べた上で、パート譜は楽器名である以上に「斉藤さん」「千葉さん」など、その人専用に作ったわけです。

特に超初心者のトランペット担当の人に対しては、古典オーケストラで用いられていた、いわゆる「ティンパニ的書法」を使いました。難しい運指をやらせること以上に、バーン!と鳴らす楽しさを重視したトランペットの書法です。

逆に有名校出身の上手な人には、今のレベルでは演奏できないくらい難しいパッセージを与えることで「初心者ばかりの部活でつまらない」と感じる暇を与えず、「自分がこれを演奏できないといけない」という責任を与えました。

そうした綿密なアレンジと指導によって、結果は初出場で予選突破。半年前に初めて楽器に触れた人も、県大会の立派なホールで演奏できるということになりました。まぁ、流石に県大会ともなると最下位だったわけですが。

県大会の講評では珍妙な編成に対するアレンジ内容について高い評価をもらい、その後のカスタム編曲活動の励みになっています。

■部分書き換え

著作権的には厳密に言うとアウトですが、既存の曲の一部を書き換えるという方法もあります。

よくあるのは、難しいソロを上手な人に担当させることや、低音・高音のバランスをとるために、トロンボーン等を徹底的に低音の増強のために移動させる方法です。そもそも吹奏楽の編成というのは、特に未熟な学生吹奏楽の場合は、物理的な音量として低音が不足します。当然吹奏楽で低音を担当するのはバスチューバなので、大きな音を出そうとすると息の量が不足し、せっかく出そうとしている大きな低音も息が足りずに短い音になってしまい、音圧を出せません。この矛盾はどうやっても解決できないので、トロンボーンにバス声部を演奏させることで補うのが妥当です。

こうした部分アレンジによって奏者の劇的な実力アップ無しにワンランク上のサウンドを出すことが可能です。

また、大編成向けの曲だと4台や5台のティンパニが必要になる曲もあります。そういう曲の場合に、2台や3台のティンパニでカバーできるように書き換えを行ったこともあります。

完全なカスタム編曲までいかなくても、こうした対処で、より多くの曲を演奏可能にできます。

このような編曲手法を駆使することにより、本来大編成向けの曲を小編成でも演奏可能にすることも可能です。

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こうした編曲の仕事も引き受けています。

価格は学校の規模や力量チェックの事前打ち合わせをどの程度まで行うかなどによって変動します。(近隣であれば、実際に奏者を見ていろいろチェックできます。)

また、書き下ろし作曲か、編曲か(編曲の場合、曲の複雑さによって手間が大きく変わります)などによっても見積もり価格が変わります。

オプションとして演奏アドバイスや楽団指導も可能です(これは原則的に近隣のみです)。

念のため明言しておきますが、有償のみ、仕事としての話です。ボランティアではありませんよ!以前に「その程度で金を取るのか!」と言っていた学校の先生がいて驚いたことがありますので、念のため……

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