eki_docomokiraiの音楽制作ブログ

作編曲家のえきです。DTM/音楽制作で役立つTIPSを書いています。

DTMをやっていると突き当たるちょっと難しい単語の話(1)位相

DTM、コンピューター音楽、デジタル音楽に関する記事です。

これらの分野である程度勉強を進めて行くと、「なんじゃこりゃ?」という単語に突き当たることがあります。その中でも割りとよく質問を受ける幾つかの単語について、DTMの実務で必要になる対処法と共に簡易説明を書いておきます。

今回は「位相」の話とDTM実務でやるべき対処の話です。

(記事を分割しました。) 

■あらかじめお断りしておく点

この記事の目的は「それらの概念をDTMの実務作業でどう意識し、対応するか?」と最終目的段階としますので、学術的な領域の説明における些細なミスについては意図的にスルーしていきます。

「こどもむけ科学本」のようなものだと思ってください。

子供向け、あるいは一般層の入門書で「地球は丸い」と書かれていることに対して「いや、それは違うだろ。地球は真円ではないのは事実だし、初歩の物理から演繹しただけでもわかることだ。間違ったことを教えるな!」とツッコムのは無粋だということです。

 

ツッコミがある人はご自身のブログで補足記事を書いてください

 

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■シリーズ記事

 

eki-docomokirai.hatenablog.com

 

 

eki-docomokirai.hatenablog.com


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では本編。

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■位相って何よ?

ネット掲示板で位相の話をすると、どの領域における位相の話なのかが明確に定義されないうちにバトルが始まり、個人攻撃・人格攻撃に発展するのがテンプレです。そのバトルを見ていた人の多くは「位相の話はしてはいけない」とだけ学びます。

で、個人的に位相について学ぼうとしてもろくな資料が見当たらず、もし資料があったとしても音楽の分野ではない資料でガッカリする、という流れがあって、ここまでがテンプレです。

さらに言えば、なんだか分からなくなって「位相はオカルト」となるまでがテンプレです!

 

■位相にはいろいろあるよ

位相というのは単語でしかありません。

まず必要なのが、「音楽における位相」と、「他の分野の位相」の切り分けです。

 

 

言葉にはいろいろな意味があります。

 

例えば、音楽におけるキックはベースドラムのことです。

サッカーや格闘技、ネット荒らしの分野でも「キック」という言葉が使われています。

ネットでの暴言荒らしがキックされることについての知識を仕入れることは音楽の勉強ではありません!

 

■音楽、DTMでの位相

DTMで扱う位相もいくつかに分類できます。

  1. 超低域の位相ズレによるキック音の不良(モノ位相)
  2. サウンドを悪化させる位相
  3. ステレオ感のための位相
  4. シンセの音作りの位相は音色のバリエーション
  5. 複数のマイクで録音する時の位相問題

という5つに分類して考えると、わかりやすくなるはずです。

 

これらを分けずにごちゃまぜのまま位相の話をする人は「キック」するべきということです。

 

■1,「超低域の位相ズレ」

モノラルの位相のズレは低域の位相不良はキックとベースの干渉によって生じることが多いです。

どちらかの位相の修正が必要です。

位相の問題が最も大きく現れるのが超低域の位相干渉で、これは「キックのアタックがはっきり聞こえない」という症状として現れます。

 

 

下の画像は「逆相」(anti-phase)と呼ばれる状態です。

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波形が下向きに開始されているのはNGです。原則的に波形は上向きスタートするべきです。

上向きでも下向きでも同じ音で、その違いを判別できる人は存在しません。(稀に「逆相だと引っ込む音がする」「耳が引っ張られる音がする」と主張する人がいますが、単体で鳴らしたanti-phaseの音を区別することは事実上不可能です。確かにスピーカーは引っ込む方向から動作するのですが、それを感知することは不可能であり、完全なプラセボだと言えます。)

 

波形切り取りの加工で anti-phaseで切断されないようにするための機能が「ゼロクロスポイント」という機能です。

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これをオンにしておくと、ゼロ点でしか切断できず、また、上向きの位置でしか切断できなくなります。

 

・ゼロクロスポイント編集の欠点

欠点としては、小節線でのカットができなくなる副作用があるので注意が必要です。

下画像はアンチフェーズの波形をゼロクロスで切断した例です。

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小節線からズレてしまっているので、位置を直してあげる必要があります。

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これで正相(in-phase)で小節線ジャストになりました。

 

もちろんこの方法だと削れてしまうので、意図した波形ではなくなってしまいます。

メリットは確実にゼロクロス化できることです。あやしげなサンプルファイル(フリーものや自作など)の場合には、まずこの加工をして使いやすい状態にしてあげる前準備が必要ということです。

 

もちろん「位相を反転」という方法での修正も可能です。

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しかし、「位相を反転」ではゼロクロスの処理ができません。ゼロクロスがずれたまま反転されるだけですので、過信するべきではありません。

  

・(低音の位相1),重ねたキックの相互干渉「DCオフセット」

複数の音での位相問題です。

凝ったキックの音色を作りたい場合、キックの音色を複数重ねて作ることがあり、この時によく起きる問題です。

重ねれば重ねるほどおかしなキック音になってしまうことがあるので気をつけましょう。

 

・キックの不良例

症例を2つ挙げておきます。

サンプル赤サンプル青合成結果の紫です。

(紫はノーマライズしています)

 

例,低音の波+高周波によるミスの例です。

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赤のアタック部分だけもらおう!という浅知恵で、赤のアタック部分だけ短く使っています。

ところが、赤が青の大きな波に乗った結果、合成後の紫にはDCオフセットが生じています。

赤の高周波の振幅の大きさが失われていることを確認してください。

 

「DCオフセット=波の振幅できる上下幅が狭い」という状態です。DCオフセットが起きていると、半分の振幅しかできず、音量を上げようとするとあっという間にクリップしてしまいます

音を重ねてビッグなキックにしようとしたのに、音量は小さくなってしまうということです。

 

うかつに重ねるのはやめましょう。

特に、サブベース帯域に対して重ねるのをやめましょう。

 

この極端なDCオフセットの悪化画像は、ミックスでよく言われる「不要な低域はカット」という理屈を証明する例として覚えておいても良いと思います。つまり、不要な超低域があると、その上に乗っている全ての波形がこうなっているよ、ということです。

 

 

「オリジナル音のキックを作りたい」という欲求がある場合、シンプルな波形からちゃんと自作した方が良いです。もしくはキック専用のシンセを活用するべきです。

サンプル集を合成しても良い結果にならないことが多いので、素直にサンプルをそのまま使うべきだと思います。

(蛇足ではありますが、オリジナリティにこだわりすぎることもまた誤りです。凝った自作キックよりサンプル集のキックをちょっとだけ変えて使った方がベターなことは多いですよ!)

 

 

・1-2,サブベースとキックの位相干渉

同様に、超低域で鳴らすベース音(sub bass)のがキック音に干渉することがあります。

サブベースという低域がどこからなのかは明確な定義さまざまですが、低域の位相問題が起きるのは、おおむね100以下で生じる問題だと思っておいてOKです。

 

■モノ位相の問題への対処法

安易に重ねるとおかしなことになります。

大きくしようと思って重ねたのに音が痩せる理由は位相の問題ということが分かりました。

 

これの解決策をガチ理系が考えると、

「全ての音は上下に振幅する波でしかない」

「波は位相」

という認識になり、

そこで「位相についてある程度理解していおかないと良い音になりません!」と主張する人が出て来るわけです。

実際問題としてほとんどの音楽家は位相について理解していません。それでも素晴らしい音楽が作れるからです。

 

アレもコレも勉強しなきゃダメ!いろんな楽器を演奏できなきゃダメ!全ての音楽理論を身に着けなきゃダメ!という「ベキ論」で考える人はここではまり込んでしまいます。そんなにあれこれやっていたら、あっという間におじいさんですよ!

 

理系の考え方で位相を正しく理解する必要はありません。

音楽の上で生じている問題には音楽的なアプローチで対抗するだけで良いです。

 

 

■サイドチェインで対処

キックとベースの位相問題の対処はサイドチェインでキックのアタックの瞬間にベースを減らす方法でも対処できます。

幾つかの対処方法を身に着けた上で、その曲のその場面にふさわしい方法を採用してみてください。

 

・SCのトリガーを先行させる方法

サイドチェインコンプでダッキングさせてもアタックに間に合わないことはよくあります。

そういう時はサイドチェインのトリガーにキック音を使わず、そのキック音のトラックを複製し、少し速い位置に置きます。このトラックは発音させません!

64分音符とか128分音符でも良いですし、DAWの機能でトラック位置をずらす(Cubaseだとミキサーディレイ)機能を使います。

無音でサイドチェイン先にトリガーさせるということです。

最も簡単な発音しない方法はルーチン先を指定しない方法です。

 

少し速い位置からサイドチェインの動作が始まるので、極端に言えばキックが鳴る少し前からダッキングさせることができます

 

・手書きSCという奥の手

 どうしても狙い通りのグルーブにできない場合はボリュームのオートメーションを拍ごとに手書きし、キックの少し前でベースのボリュームを下げてダッキングさせます。

バカじゃねーのwと思うかもしれませんが、絶大な効果があります。

でもこのやり方は昔から使われている伝統的な手法でした。

それを自動化するためにSCコンプが一般化していったのかな、と私は考えています。SCの歴史について詳しい人がいたらコメント欄でツッコミお願いします。

 

 

■最も強引な方法

キックのアタックが位相問題によって弱くなっているなら、より強いアタックでゴリ押しするのも解決法のひとつだと言えます。

トランジェントでも何でも使ってバキバキの音をひねり出せば問題は消し飛びます。

近年になってトランジェント系のエフェクタが大人気なのは、このバッドノウハウが強引だけど効果的だからでしょうか。

 

私の知人のプロの人(少なくとも私よりは圧倒的に大きなキャリアを持っている人です)は、トランジェントを知らずに「上手なコンプ」で頑張っている人でした。

ある時「それトランジェントで3dbくらい突っ込めば一発じゃね?」と教えて試しに鳴らしてみたら、あまりにも結果が良くて爆笑していました。

 

トランジェントなんて邪道だと思う人もまだまだ多いようです。特にベテランのエンジニアの人はトランジェントを嫌う傾向があるようです。「アタック感はコンプで作れ!」だそうです。

でも実際の話、どのジャンルでもトランジェントの効用は認められています。

 

コンプのブラックボックス化された部分を「個性」「味付け」と呼んで、コンプ機材収集家になるよりは、トランジェントでサクっとアタック感を足す方が音楽的には健全じゃないかなぁと思います。

 

低音の位相ズレの話は以上でおしまい!

 

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■2,サウンドを悪化させる位相

別の位相カテゴリの話に移ります。

 

低音に限らず、どこの音域でも位相ズレは起こることがあります。

「ディレイとコムフィルター」の項目で後述します。

これを解消するためには「全体の位相がおかしいサウンド」を判断できる必要があります。

全体の位相ズレは波形で見ても判断することができないので、「なんかヌケが悪いな」「なんか変な音」と気がつくことができるようになるのがスタート地点です。

 

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■3,ステレオ感のための位相

別の話題に行きます。

 

 

ここまで説明した位相の話は「単一のトラック内における位相ズレによる悪化」の話でしたが、次は「ステレオ位相」の話です。

 

言葉にはいろいろな意味があると最初に言いました。

サッカーはボールを「キック」するスポーツですが、そのキックには「ドリブル」「パス」「シュート」「フリーキック」などの種類があります。更に言えばディフェンスのために相手のボールを奪うのもキックの一種ですね。

サッカーで「キック」が重要なのと同じで、音楽は「位相」が大事だということになります。

サッカーのキックが1種類だけではないのと同じで、音楽の位相も1種類ではありません。

同じ言葉でも状況によって使われ方が大きく異なるということは忘れないでください!

 

位相には上で述べた「単一トラックの中での位相干渉」の他に、「ステレオ位相」というものもあります。

 

■スピーカー2つの位相

(以下は機器によっては例外的な処理をしていることがあります。)

 

ステレオ位相は2つのスピーカーから出てくる音の干渉のことです。

2つのスピーカーが揺れることで1つの空間に2つの波が生じます。

2つの波は干渉しあい、1つの音楽になります。

 

■2つのスピーカーで奏でるセンター音

モノラルを表現するためのセンタースピーカーは存在しません!

2つのスピーカーが同じ音を鳴らした時にセンターを擬似的に錯覚しているだけです。

2つのスピーカーが微妙にズレた音を出していると、センターが成立しなくなるということです。

 

「センタースピーカーが無い」というのは当たり前のことですが、とても大事なことです。

 

 

■ヘッドホンの位相?

ヘッドホンは2つの波2つの耳にそれぞれ入っていくので、2つの波は干渉しません。

左右で同じ音が鳴ると、脳が「これはモノラルだ」と錯覚しているだけです。

音は頭の左右2箇所で鳴っているだけです。

鼻の正面では何も鳴っていません。

 

■モノラル化による位相干渉

あなたの曲がモノラルで再生された時、ステレオで制作された音楽は位相干渉を起こします。

ステレオの2つの波形をモノラル再生する場合にはモノラル専用のトラックを鳴らしているわけではありません。

2つの波のデータを同時に1つのスピーカーで再生しているだけです

■ウーハーはモノラル

機器の仕組みにもよりますが、ウーハー=モノラルは左右の合成です。

この時に左右それぞれの波に妙な差があると、ウーハーはおかしな振動をします。

低音はモノ化しておくべき、というのはこのためです。

 

ただし、音楽はウーハーのために作っているわけではありません。

低域にわずかな違いがあることで表現できる音楽もあります。

 

なんだか分からないなら低域はモノ化しておくべきだというだけのことです。

 

■ステレオ位相に対する誤解

頭でっかちな人がステレオ位相の話をする際に間違った説明をしています。

曰く、「ステレオそれぞれに逆相を鳴らすと音は消える」とのことですが、残念ながら消えません。机上の空論です。

 

 

ともかくやってみれば分かりますよ。消えませんから。スピーカーを向かい合わせにピッタリくっつけても消えません。

 

音が消えるのは「ステレオ信号で逆相をモノラルスピーカーに流し込んだ場合」で、なおかつ「完璧な回路の場合」のみです。

この場合は音が消えるのではなく信号上で打ち消しが起きているので「スピーカーは振動しない」というのが正解です。

音が消えるのではなく、そもそもスピーカーが振動せず、音は出ません。消える音すら存在しないというのが正しいです。

 

DAW内部で実験をする場合にはLの逆相をRに送ればCが消えます。

この理屈が分からない場合、「スピーカーは左右の2個で、センタースピーカーは存在しない」ということを思い出してください。

 

■4,シンセの音作りにおける「位相」

位相のズレは良い方向にも働いています

シンセに限ったことではないのですが、あえて「シンセの音作り」として書きます。

シンセの音色を作る際に、音程をわずかにずらしたユニゾンや、タイミングをずらすことで作るフランジャーフェイザー、コーラスなどのエフェクトによる効果があります。これらの効果はどれも位相のズレによって生じる音色の面白さです。(※厳密には違う。)

言うまでもなく、オーケストラの中で大量のバイオリンが同じことを演奏するのは人力ユニゾンであり、これも位相のズレによる音色です。生楽器でも同じメロディを違う楽器で演奏すると互いの位相が干渉し、独特の音色になります。これを「人間的なブレの無い」サンプリングされたシンセの中で鳴らすと、均一すぎる位相ズレにしかならず、生演奏ならではの音色になりません。

ともかく、音色の領域における位相の話は「良い効果としての位相ズレ」ですから、位相という言葉が出た時に、その全てが悪影響の話だとは限らないということです。

 

■5,複数マイクで同じ楽器を録音した際の位相問題

複数マイクの問題は3種類に分類できます。

 

・5-1、同一楽器を複数マイクで録音する場合

録音時のと位相問題の話題の筆頭はドラムの録音です。

スネアとキックは複数のマイクで録音されることが多く、複数のマイクに対して音が到達する時間のさずかな差によってお互いの音が打ち消しあってしまうという問題です。

これの解消方法としてミキサーに備わっている「逆相ボタン」を使うというノウハウが一般的です。

しかし、逆相にした所で位相問題がきれいに解決されるとは言えません!

逆相と正相にしてみてどっちがマシか?を選ぶだけの、最も単純な位相問題解決方法でしかありません。

 

実際には完璧な打ち消し合いが起きるようなことはまずありえません。

干渉によって波が弱くなるということです。だから逆相だけで解決する問題では無いんです。バリエーションの1つとして逆相を使い、どっちがマシか判断する二択にしているだけのことです。

 

・5-2、ステレオ録音する場合

複数のマイクでステレオ録音する際にもマイクの距離によって位相差が起きることがあります。対処法は同じです。

 

・5-3、アンビエントをマイクで録音する場合

部屋鳴りを録音して楽器個別の音とミックスする際、位相差が問題になることがあります。

特に大量のマイクでピアノなどを録音した場合に起きる問題です。

よく「生録音すれば良い」「複数マイクでやれば良い」と安易に提案する人がいますが、それを整えてミックスする手間は大変です。そもそも部屋鳴りの場合は「音源からの距離」による位相差だけではなく、部屋内の反射音の位相差も同居しています。複数マイクで録音してもその全てが使えるデータになるわけではありません。よほどうまくやらない限り1本でやったほうがマシだったりします。

位相問題でめちゃくちゃになるより1本の音をDAW上でうまく疑似空間処理した方が良い結果になります。

本当に腕の良いエンジニアと設備が高給取りなのも納得です。

 

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以上、位相の分類と対処法。

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■位相干渉を正すエフェクター

そういう時には、やはりミキサーディレイの機能を使うのがベターです。もしくは位相干渉を解決するプ専用のラグインエフェクトを使うべきです。

MeldaのMAutoAlignなどが有名どころです。

www.meldaproduction.com

位相干渉を解決する専用のプラグインエフェクトは、複数のトラックの位相を自動で極限までそろえてくれます。

それまで波形を拡大して目視し、人力で整えるしかなかったものが自動化できるということで「録音物を扱うエンジニア」の間で話題になりました。(DTMで打ち込み専業の人にはほぼ不要です。)

 

ただ、誤解されているのはこういうエフェクタが「全ての位相問題を解決してくれるぜ!」というものです。音の周波数はさまざまですから、すべての周波数における位相の問題を解決することは不可能です。全ての位相が揃ってしまったら音楽になりません。

 

そもそも、音楽というのは位相を正しくするための行為ではなく、ほどよく乱れた位相によって生み出される芸術だと言うことさえできます。位相が揃っていることより、もっと大切なことがあることに気がつくべきです。

位相問題に対して神経質になってしまった末期患者は全ての位相を解決する手段があるに違いないと勘違いし始めます。そういう人に限って(ネットでの)声が大きいので注意してください。

 

■ディレイとコムフィルタ

音楽制作において解決が必要となる位相問題の多くはタイミングのズレだと言えます。

タイミングのズレ、つまりこれはショートディレイです。

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全帯域ノイズに対して0.6msの超ショートディレイをかけると、わずかに遅れた音によって位相干渉が起きた部分が打ち消されていることが分かります。複数箇所に凹みができているのは、0.6msの公倍数が影響を受けているからです。つまり、0.6の2倍3倍4倍の1.2ms、1.8m,s、2.4msなどが逆相になって凹むということです。

 

上の画像は測定用で表示できるデシベル数を大きくしていました。

下の画像では表示デシベル数を減らしています。

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このような形状に見えることから「コム(comb)=くしフィルター」と呼ばれています。

 

テストノイズではなく、実際の曲の中でわざとにおかしくしてみた例。

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実際にはここまで明確におかしなことにはなりません。 

 

 

忘れてはいけないのは「180度逆相が凹む」という結果だけではなく、「180度以外の部分も少しだが凹む」という点です。

つまり、逆相だけで位相問題が解決されるわけではありません。

もし逆相部分だけが影響を受けるのであれば、「くし」はもっと鋭くピンポイントで凹むということです。

音楽用の位相の話をする人の多くがこの点を見落としていて、逆相か正相かだけでしか語りません。位相には正と逆だけではなくて、ズレというものがあるということをまず知るべきです。

 

 

■コムフィルタの実験が有意義である理由

位相ズレしているサウンドを知ることができます。

知らないものは認識できません。

極端な状態から徐々にパラメタを下げて正常なサウンドにしていく途中で、位相が狂ったサウンドというものを体感できます

位相はオカルト用語ではありません。

 

話が脱線しますが、「音割れ」も同じ経験によって習得できます。極端に音割れした状態から徐々に戻していくと「あー、音割れってこういうことね。」とわかるわけです。

 

■位相ズレによるステレオ感の演出

位相ズレは良い方向に働くこともあります。

キックなど単一波形の中の「位相ズレ」は位相の悪化ですが、ステレオの左右の位相は「ステレオ位相」というカテゴリになります。同じ位相という言葉の領域ですが、まったく意味が異なります。

位相に関する話をする際には、どの位相の話なのかをきっちり分けて考える必要があります。

 

私達の耳が2個あることによって感じられるステレオ感とは、そもそも位相差によって生じているものです。

2個の耳がステレオを感じられるのは、ある1点から来た音が左右の耳に違うタイミングで到達していることを脳が処理した結果です。

 

DTM的にはステレオ感というとパンなのですが、パンは左右2個のスピーカーの「音量」を変えることによる演出であって、スピーカーの位置の話ではないです。

むしろここで疑問視するべきは、そもそも左右に置いてあるスピーカーから同じ音量だとセンターに聞こえるということの不思議さです。センターにはスピーカーは存在しません。

 

左右の耳に到達する時間差によって脳が左右の位置を理解しているわけです。

定位の問題http://yppts.adam.ne.jp/music/aud/teii.html

左右の音量差ではなく、左右どちらかのディレイによってより臨場感のあるステレオ感を得られるということは、位相の話の一環として覚えておいて損は無いです。

 

たまに語られている「スピーカー位置より外側に聞こえる加工」は、こういう効果によるものです。また、その実装方法として逆相を使うという手法が紹介されていることがありますが、これもやはり逆相と正相の二択ではなく、適切なディレイ長によってより精密に制御することが可能です。

何度も言いますが位相の話を正相か逆相かだけで論じるのはちょっとおかしいです。

 

なお、このディレイによる定位の感じ方には個人差があります。

なぜなら個人によって耳の距離が違うからです。

 

ダミーヘッドによる録音がおかしく聞こえる人は、その収録で使われたダミーヘッドと頭の大きさが異なりすぎているということです。

 

私個人はダミーヘッドの音は大嫌いです。臨場感よりも違和感の方が大きく感じてしまうからだと思います。

 

■極端なハース効果によるダブラー

ダブラはいろいろな楽器に対するエフェクトで使われています。特に多いのはエレキギターではないでしょうか。

1本のエレキギターのはずなのに、妙にステレオ感があるアレです。

ダブラーの音もステレオスピーカーとディレイで作られているのですが、どの方向に定位しているとか、位相を正すとか、そういうこととは逆のアプローチです。どこの音だか分からない違和感による演出です。

ダブラーについて考える際は位相のこととか考えないほうが良いそうです。

 

■ショートディレイで位相がずれるということは・・・

お察しの通り、リバーブでも位相に干渉が起きます。

バーブは無数のディレイの集合体だからです。

だからと言ってリバーブが悪だということはありません。

 

■なんでも位相の話にこじつけない

また、位相問題と長すぎる「風呂リバーブ」とはまったく別問題です。

長過ぎるリバーブやディレイが問題なのは、コードチェンジした後に手前のサウンドが乗ってくるからです。それは位相というミクロの問題どころではなく、コードや音符の重複、不協和音の問題だと考えるべきです。

 

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以上。位相の話と対処法おわり。

 

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