eki_docomokiraiの音楽制作ブログ

作編曲家のえきです。DTM/音楽制作で役立つTIPSを書いています。

DTMをやっていると突き当たるちょっと難しい単語の話(1)位相

(人気記事!)DTM、コンピューター音楽、デジタル音楽に関する記事です。

これらの分野である程度勉強を進めて行くと、「なんじゃこりゃ?」という単語に突き当たることがあります。その中でも割りとよく質問を受ける幾つかの単語について、DTMの実務で必要になる対処法と共に簡易説明を書いておきます。

今回は「位相」の話とDTM実務でやるべき対処の話です。

(リライト中)

 

■あらかじめお断りしておく点

この記事の目的は「それらの概念をDTMの実務作業でどう意識し、対応するか?」と最終目的段階としますので、学術的な領域の説明における些細なミスについては意図的にスルーしていきます。

「こどもむけ科学本」のようなものだと思ってください。

子供向け、あるいは一般層の入門書で「地球は丸い」と書かれていることに対して「いや、それは違うだろ。地球は真円ではないのは事実だし、初歩の物理から演繹しただけでもわかることだ。間違ったことを教えるな!」とツッコムのは無粋だということです。

 

数学的、計測的な厳密さについては、それぞれの専門分野の視点から書かれているサイトをあたってください。

 

ツッコミがある人はご自身のブログで補足記事を書いてください

(2018年2月8日更新、リライト中)

--------------------

■シリーズ記事

 

eki-docomokirai.hatenablog.com

 

 

eki-docomokirai.hatenablog.com


--------------------
では本編。

--------------------

■位相の話題が意味不明になる理由

ネット掲示板で位相の話をすると、どの領域における位相の話なのかが明確に定義されないうちにバトルが始まり、個人攻撃・人格攻撃に発展するのがテンプレです。そのバトルを見ていた人の多くは「位相の話はしてはいけない」とだけ学びます。

が、位相について知ることはとても大事です。

 

しかし、位相について調べても音楽の分野ではない資料でガッカリする、ということになるはずです。出て来るのはマルチマイク録音での位相問題の処理方法くらい。

そしてなんだか分からなくなって「位相はオカルト」となるまでがテンプレです!

 

・位相はオカルトではない

「位相」はオカルトではありません。

 

「位相」というのは、「速度」や「距離」、「時間」と同じようなものだと思ってください。

 

位相というのはあらゆる「周期的な運動」のことで、円運動や振幅運動の性質を説明する時に使う言葉です。

 

DTMなどでオーディオデータを扱う時に、様々な「波」を目撃しているはずです。

波は上下に振幅する「周期」があるので、当然「位相」も存在します。

 

大雑把に結びつけると、「音=波=周期=位相」ということです。

 

・自由にできないタイプの位相がある

DTMの文脈では、「位相を完全に操作する」という意味ではなく、

「位相が狂って変な音になってしまう」とか

「位相がおかしくならないように、過剰な加工は控える」

という考え方をしていく程度で良いです。とりあえずは。

 

で、位相の全てを自由自在に扱えるわけではないので「オカルトだ」と考えてしまう人がいて、「位相」 という単語が出てきただけで「オカルトだ!」と騒ぎ出したり、「オーディオオタクは黙ってろ」という感じで人格攻撃をする人が暴れだすわけです。

 

・同じ単語でもいろいろな意味がある

言葉にはいろいろな意味があります。

 

例えば、「キック」という言葉。

音楽における「キック」はベースドラムのことです。

 

しかし、スポーツではサッカーや格闘技の「キック」があります。

ネットでは「キック」という言葉は強制的に退場させる意味になります。

 

ネット荒らしを「キック」することについて勉強しても音楽の「キック」の勉強にはなりません。

 

位相の話題になった時、その話題が「どの位相の話か?」をちゃんと認識しなければいけません。

 

音楽の話で「レンジ」の話になった時、それが「ダイナミクスレンジ(音の大きさ)」の話なのか、「インターバルレンジ(音域の広さ)」の話なのかをちゃんと認識しないとダメなのと同じです。

 

DTMの話の中での「トラック」は車のことではありませんし、陸上競技を行う場所でもありません。「ピンポン」は卓球のことではありませんし、ドアチャイムのことでもありません。

 

文系だろうと理系だろうと体育会系だろうと、そういう「所変われば別の意味になる言葉」があります。それをいちいち言葉の定義から話していると、本題に入れないので、単に「位相が」という言い方になるわけです。

 

--------------------

以下、興味がある人向け。

--------------------

 

■位相にはいろいろあるよ

位相というのも単語でしかありません。

まずは「位相」という言葉を、

  • 音楽における「位相」
  • 他の分野の「位相」

 の2つに分けて考えることです。

これで「位相」について勉強するための50%が終わりです。

 

■音楽、DTMでの位相

さらに音楽で扱う「位相」もいくつかに分類できます。

代表的なものを挙げると、

  1. (位相ずれ1)複数のマイクで録音する時の問題
  2. (位相ずれ2)単一波形の位相不良
  3. (ステレオ位相)ステレオ感のための位相
  4. (位相による表現1)シンセ等の音作りでは位相ずれで音色表現する
  5. (位相による表現2)サウンドを変化・悪化させる位相(位相による表現)(ディストーション

という5つに分類できます。

 

これらをきっちり分けずに「位相」という言葉が関連するからと言って、どんどん話題をずらしていく人が多くいます。気をつけましょう。

 

--------------------

 

■1,(位相ずれ1)複数のマイクで録音する時の問題

音楽の位相の話で、たぶん最もよく知られているのがこれ。

スネアの上と下から2本のマイクで録音した際に生じる問題。

メジャーな話なので割愛します

 

■2,(位相ずれ2)単一波形の位相不良

単一波形の中での位相の話です。

モノラルの位相のズレは低域の位相不良はキックとベースの干渉によって生じることが多いです。

どちらかの位相の修正が必要です。

位相の問題が最も大きく現れるのが超低域の位相干渉で、これは「キックのアタックがはっきり聞こえない」という症状として現れます。

 

 

下の画像は「逆相」(anti-phase)と呼ばれる状態です。

f:id:eki_docomokirai:20170731122103p:plain

波形が下向きに開始されているのは逆相と呼ばれ、一般的にはNGです。

原則的に波形は上向きスタートするべきです。

 

上向きでも下向きでも同じ音で、その違いを判別できる人は存在しません。(稀に「逆相だと引っ込む音がする」「耳が引っ張られる音がする」と主張する人がいますが、単体で鳴らしたanti-phaseの音を区別することは事実上不可能です。確かにスピーカーは引っ込む方向から動作するのですが、それを感知することは不可能であり、完全なプラセボだと言えます。)

 

波形切り取りの加工で anti-phaseで切断されないようにするための機能が「ゼロクロスポイント」という機能です。

f:id:eki_docomokirai:20170731122113p:plain

これをオンにしておくと、ゼロ点でしか切断できず、また、上向きの位置でしか切断できなくなります。

 

たまに誤解している人がいるのですが、位相問題を自動で解決するスイッチではありません

 

・ゼロクロスポイント編集の欠点

欠点としては、小節線でのカットができなくなる副作用があるので注意が必要です。

下画像はアンチフェーズの波形をゼロクロスで切断した例です。

f:id:eki_docomokirai:20170731122651p:plain

小節線からズレてしまっているので、位置を直してあげる必要があります。

f:id:eki_docomokirai:20170731123159p:plain

これで正相(in-phase)で小節線ジャストになりました。

 

もちろんこの方法だと周期の半分が削れてしまうので、意図した波形ではなくなってしまいます

しかし、位相の問題によって生じる音ヌケの悪さを一発で解消できるので、割りと有効です。周期1回が削れてしまうことを気にするより、位相の良さを重視した仕上がりになるメリットがあります。

あやしげなサンプルファイル(フリーものや自作など)の場合には、まずこの加工をして使いやすい状態にしてあげる前準備が必要ということです。

 

・別の方法での解消「位相反転」

 もちろん「位相を反転」という方法での修正も可能です。

f:id:eki_docomokirai:20170731123325p:plain

ただし、「位相を反転」ではゼロクロスの処理ができません!

ゼロクロスがずれたまま反転されるだけですので、過信するべきではありません。

 

・逆相スイッチは万能ではない

逆相スイッチは位相問題を「解決する」スイッチではありません。

逆さにして「どっちの方がマシか?」という二択スイッチでしかありません。

 

とにかくゼロクロスポイントを整頓しましょう。それをきっちり行えるのがデジタル編集の最大のメリットです。

 

・常に全ての位相を揃えることはできない

全ての位相を完全に揃えることは原理的に不可能です。音程が違えば位相も異なります。キックの音がダウンしていれば当然ベースと合わなくなります。

 

常に全ての位相が揃っている音は演算シンセの機械的な音だけです。

揃うべき時に揃っていると良いよ、という程度の処理しかできません。

 

特定の時に揃っていても、別の周期でズレるのが当然です。

 

 

 

■キックとベースの合成による低音位相問題

とあるメーカーのサンプル集のベースが逆相になっている。

f:id:eki_docomokirai:20180127223813p:plain

下の方が「位相的に」良好なのは言うまでもない。

逆相ボタンを押してどっちが良いか試してみると「そんなに違いは無いだろこれ」となるはず。マジおすすめ。

 

・808キック問題

サンプル集やPCMロンプラに入っているデータをいろいろ比較してみると、結構雑なものが多い。

 

下の画像はサンプリングデータ集に入っていた808キックのサンプル。

拡大してよく見てみると、アタック位置が明らかに遅れている。

f:id:eki_docomokirai:20180127224724p:plain

神経質な人はゼロ補正を掛けてから、再度サンプラーに入れてみても良いんじゃないでしょうか。

いろいろな加工の結果として位相はどんどんズレていくので、ある段階でキックだけを書き出してみると、めちゃくちゃなことになっているかもしれません。(EQによる位相の乱れについては後述します。)

 

(下の話は要出典な)

なお、聞いた話で正確なことは知らないんだけど、プレーンな状態のキックのサンプルの頭を意図的にカットし「プチ!」と鳴るようにした状態から加工を開始することで、よりアタックの強いキックになるんだとか。

実機808でもそういう出音をしていて、その「プチ」感がアナログ回路等を経由して加工されることで結果的に実機は良い感じのキックになっているのだとか。

品質管理的な観点から言えば欠陥品なんだけど、楽器としてはそれが良い結果になったのだそうな。

この話については明確なソースが無いので噂半分にどうぞ。

 

--------------------

■3,ステレオ感のための位相

別の位相の話です。 

 

ここまで説明した位相の話は「単一のトラック内における位相ズレによる悪化」の話でしたが、次は「ステレオ位相」の話です。

 

言葉にはいろいろな意味があると最初に言いました。

サッカーはボールを「キック」するスポーツですが、そのキックには「ドリブル」「パス」「シュート」「フリーキック」などの種類があります。更に言えばディフェンスのために相手のボールを奪うのもキックの一種ですね。

サッカーで「キック」が重要なのと同じで、音楽は「位相」が大事だということになります。

サッカーのキックが1種類だけではないのと同じで、音楽の位相も1種類ではありません。

同じ言葉でも状況によって使われ方が大きく異なるということは忘れないでください!

 

位相には上で述べた「単一トラックの中での位相干渉」の他に、「ステレオ位相」というものもあります。

 

・2つのスピーカー位で生じる位相問題

(以下は機器によっては例外的な処理をしていることがあります。)

 

ステレオ位相は2つのスピーカーから出てくる音の干渉のことです。

2つのスピーカーが揺れることで1つの空間に2つの波が生じます。

2つの波は干渉しあい、1つの音楽になります。

 

■2つのスピーカーで奏でるセンター音

モノラルを表現するためのセンタースピーカーは存在しません!

2つのスピーカーが同じ音を鳴らした時にセンターを擬似的に錯覚しているだけです。

2つのスピーカーが微妙にズレた音を出していると、センターが成立しなくなるということです。

 

「センタースピーカーが無い」というのは当たり前のことですが、とても大事なことです。

 

 

・ヘッドホンの位相?

ヘッドホンは2つの波2つの耳にそれぞれ入っていくので、2つの波は干渉しません。

左右で同じ音が鳴ると、脳が「これはモノラルだ」と錯覚しているだけです。

音は頭の左右2箇所で鳴っているだけです。

鼻の正面では何も鳴っていません。

 

 

 

 

・ステレオ位相に対する誤解

頭でっかちな人がステレオ位相の話をする際に間違った説明をしています。

曰く、「ステレオそれぞれに逆相を鳴らすと音は消える」とのことですが、残念ながら消えません。机上の空論です。

 

ともかくやってみれば分かりますよ。消えませんから。スピーカーを向かい合わせにピッタリくっつけても消えません。

 

音が消えるのは「ステレオ信号で逆相をモノラルスピーカーに流し込んだ場合」で、なおかつ「完璧な回路の場合」のみです。

この場合は音が消えるのではなく信号上で打ち消しが起きているので「スピーカーは振動しない」というのが正解です。

音が消えるのではなく、そもそもスピーカーが振動せず、音は出ません。消える音すら存在しないというのが正しいです。

 

DAW内部で実験をする場合にはLの逆相をRに送ればCが消えます。

この理屈が分からない場合、「スピーカーは左右の2個で、センタースピーカーは存在しない」ということを思い出してください。

 

・位相ズレによるステレオ感の演出

位相ズレは良い方向に働くこともあります。

キックなど単一波形の中の「位相ズレ」は位相の悪化ですが、ステレオの左右の位相は「ステレオ位相」というカテゴリになります。同じ位相という言葉の領域ですが、まったく意味が異なります。

位相に関する話をする際には、どの位相の話なのかをきっちり分けて考える必要があります。

 

私達の耳が2個あることによって感じられるステレオ感とは、そもそも位相差によって生じているものです。

2個の耳がステレオを感じられるのは、ある1点から来た音が左右の耳に違うタイミングで到達していることを脳が処理した結果です。

 

DTM的にはステレオ感というとパンなのですが、パンは左右2個のスピーカーの「音量」を変えることによる演出であって、スピーカーの位置の話ではないです。

むしろここで疑問視するべきは、そもそも左右に置いてあるスピーカーから同じ音量だとセンターに聞こえるということの不思議さです。センターにはスピーカーは存在しません。

 

左右の耳に到達する時間差によって脳が左右の位置を理解しているわけです。

定位の問題http://yppts.adam.ne.jp/music/aud/teii.html

左右の音量差ではなく、左右どちらかのディレイによってより臨場感のあるステレオ感を得られるということは、位相の話の一環として覚えておいて損は無いです。

 

たまに語られている「スピーカー位置より外側に聞こえる加工」は、こういう効果によるものです。また、その実装方法として逆相を使うという手法が紹介されていることがありますが、これもやはり逆相と正相の二択ではなく、適切なディレイ長によってより精密に制御することが可能です。

何度も言いますが位相の話を正相か逆相かだけで論じるのはちょっとおかしいです。

 

なお、このディレイによる定位の感じ方には個人差があります。

なぜなら個人によって耳の距離が違うからです。

 

ダミーヘッドによる録音がおかしく聞こえる人は、その収録で使われたダミーヘッドと頭の大きさが異なりすぎているということです。

 

私個人はダミーヘッドの音は大嫌いです。臨場感よりも違和感の方が大きく感じてしまうからだと思います。

 

■4,シンセの音作りにおける「位相」

位相のズレは良い方向にも働いています

シンセに限ったことではないのですが、あえて「シンセの音作り」として書きます。

シンセの音色を作る際に、音程をわずかにずらしたユニゾンや、タイミングをずらすことで作るフランジャーフェイザー、コーラスなどのエフェクトによる効果があります。これらの効果はどれも位相のズレによって生じる音色の面白さです。(※厳密には違う。)

言うまでもなく、オーケストラの中で大量のバイオリンが同じことを演奏するのは人力ユニゾンであり、これも位相のズレによる音色です。生楽器でも同じメロディを違う楽器で演奏すると互いの位相が干渉し、独特の音色になります。これを「人間的なブレの無い」サンプリングされたシンセの中で鳴らすと、均一すぎる位相ズレにしかならず、生演奏ならではの音色になりません。

ともかく、音色の領域における位相の話は「良い効果としての位相ズレ」ですから、位相という言葉が出た時に、その全てが悪影響の話だとは限らないということです。

 

ディストーションも位相

音の波を過剰に大きくした際に生じるディストーションエフェクトの音も、位相のひとつです。

あらゆる波には位相があり、音色の変化とは位相の変化です。

 

・コンプやリミッターも位相

特にリミッターはディストーションと同様の位相の乱れを誘発します。

波の振幅が大小するだけの状態なら位相の変化は無いですが、クリップは位相の乱れです。

 

■5,サウンドを悪化させる位相

別の位相カテゴリの話になります。

 

低音に限らず、どこの音域でも位相ズレは起こることがあります。

「ディレイとコムフィルター」の項目で後述します。

これを解消するためには「全体の位相がおかしいサウンド」を判断できる必要があります。

全体の位相ズレは波形で見ても判断することができないので、「なんかヌケが悪いな」「なんか変な音」と気がつくことができるようになるのがスタート地点です。

 

 

 

 --------------------

 

■位相干渉を正すエフェクター

そういう時には、やはりミキサーディレイの機能を使うのがベターです。もしくは位相干渉を解決するプ専用のラグインエフェクトを使うべきです。

MeldaのMAutoAlignなどが有名どころです。

www.meldaproduction.com

位相干渉を解決する専用のプラグインエフェクトは、複数のトラックの位相を自動で極限までそろえてくれます。

それまで波形を拡大して目視し、人力で整えるしかなかったものが自動化できるということで「録音物を扱うエンジニア」の間で話題になりました。(DTMで打ち込み専業の人にはほぼ不要です。)

 

ただ、誤解されているのはこういうエフェクタが「全ての位相問題を解決してくれるぜ!」というものです。音の周波数はさまざまですから、すべての周波数における位相の問題を解決することは不可能です。全ての位相が揃ってしまったら音楽になりません。

 

そもそも、音楽というのは位相を正しくするための行為ではなく、ほどよく乱れた位相によって生み出される芸術だと言うことさえできます。位相が揃っていることより、もっと大切なことがあることに気がつくべきです。

位相問題に対して神経質になってしまった末期患者は全ての位相を解決する手段があるに違いないと勘違いし始めます。そういう人に限って(ネットでの)声が大きいので注意してください。

 

■ディレイとコムフィルタ

音楽制作において解決が必要となる位相問題の多くはタイミングのズレだと言えます。

タイミングのズレ、つまりこれはショートディレイです。

f:id:eki_docomokirai:20170730023221p:plain

全帯域ノイズに対して0.6msの超ショートディレイをかけると、わずかに遅れた音によって位相干渉が起きた部分が打ち消されていることが分かります。複数箇所に凹みができているのは、0.6msの公倍数が影響を受けているからです。つまり、0.6の2倍3倍4倍の1.2ms、1.8m,s、2.4msなどが逆相になって凹むということです。

 

上の画像は測定用で表示できるデシベル数を大きくしていました。

下の画像では表示デシベル数を減らしています。

f:id:eki_docomokirai:20170730023640p:plain

このような形状に見えることから「コム(comb)=くしフィルター」と呼ばれています。

 

テストノイズではなく、実際の曲の中でわざとにおかしくしてみた例。

f:id:eki_docomokirai:20170731110947p:plain

実際にはここまで明確におかしなことにはなりません。 

 

 

忘れてはいけないのは「180度逆相が凹む」という結果だけではなく、「180度以外の部分も少しだが凹む」という点です。

つまり、逆相だけで位相問題が解決されるわけではありません。

もし逆相部分だけが影響を受けるのであれば、「くし」はもっと鋭くピンポイントで凹むということです。

音楽用の位相の話をする人の多くがこの点を見落としていて、逆相か正相かだけでしか語りません。位相には正と逆だけではなくて、ズレというものがあるということをまず知るべきです。

 

 

■コムフィルタの実験が有意義である理由

位相ズレしているサウンドを知ることができます。

知らないものは認識できません。

極端な状態から徐々にパラメタを下げて正常なサウンドにしていく途中で、位相が狂ったサウンドというものを体感できます

位相はオカルト用語ではありません。

 

話が脱線しますが、「音割れ」も同じ経験によって習得できます。極端に音割れした状態から徐々に戻していくと「あー、音割れってこういうことね。」とわかるわけです。

 

 

 

■極端なハース効果によるダブラー

ダブラーはいろいろな楽器に対するエフェクトで使われています。特に多いのはエレキギターではないでしょうか。

1本のエレキギターのはずなのに、妙にステレオ感があるアレです。

ダブラーの音もステレオスピーカーとディレイで作られているのですが、どの方向に定位しているとか、位相を正すとか、そういうこととは逆のアプローチです。どこの音だか分からない違和感による演出です。

ダブラーについて考える際は位相のこととか考えないほうが良いそうです。

 

■ショートディレイで位相がずれるということは……

お察しの通り、リバーブでも位相に干渉が起きます。

リバーブは無数のディレイの集合体だからです。

だからと言ってリバーブが悪だということはありません。

 

■なんでも位相の話にこじつけない

また、位相問題と長すぎる「風呂リバーブ」とはまったく別問題です。

長過ぎるリバーブやディレイが問題なのは、コードチェンジした後に手前のサウンドが乗ってくるからです。これは位相というミクロの問題どころではなく、コードや音符の重複、不協和音の問題だと考えるべきです。

 

 

--------------------

 

■EQと位相

EQの加工も、位相の加工です。

あらゆる音、波には周期があり、それを操作するのは位相の操作に他なりません。

 

位相が乱れにくいとされるリニアフェイズのEQでも位相は乱れます。

普通のEQ(ノンリニアEQ)も位相を乱します。

この2種類のEQはどちらも位相を乱します。リニアフェイズが位相に影響を与えないわけではありません。

乱れにくい要素をどこにするか、乱しても良い要素をどこにするかが違うだけです。

近年では基本的な2つの演算だけではなく、両方の良いところを採用する方式のEQも出てきていますが、逆に言えば両方の欠点を持っているということです。

 

位相を乱さないEQは存在しません。

加工の副作用としてプリ・リンギングやスミアリングと呼ばれる乱れが起きて、必ず音は劣化します。

 

つまり、どんな高いEQを使っても位相は乱れ、使いすぎれば聞いて分かるレベルで音を壊してしまうから気をつけてね、ということです。

 

とは言え、位相の乱れのすべてが禁忌されるものだというわけではなく、音楽的には「より浮き立つ音」になる可能性も秘めているので、最終的には耳で判断し、作品にとってふさわしいかを判断するしかありません。

なんだか分からない人は徹頭徹尾、自分の耳と美的センスを信じて作りまくれば良いだけのことです。

 

・EQ時に生じる位相の乱れ

EQは位相を狂わせます。

 

下は808キックに100HzローカットEQをした例です。

リニアフェーズEQは非常に急激なカット、ノーマルEQは-6dB/oct.のゆるいカットの例です。

(ノーマルEQで音量レベルが下がって見えていますが、これはゆるいローカットのせいで音量が削がれた結果です。)

f:id:eki_docomokirai:20180127222858p:plain

 

 

 

拡大すると、LPEQでは一番最初の時点でズレています。

f:id:eki_docomokirai:20180127222907p:plain

原理的にはEQによる位相ズレは左右の時間軸方向にしかズレないはずなので、どういう理由で縦方向にズレるのはか詳しくは分かりません。なんらかの理由でオフセットが起きてしまっているのかもしれません。なんでだろうね。

 

こういう位相のズレが音楽的に良いのか悪いのかは曲によります。

加工の結果「いいね!」と思ったなら何でもありです。

 

 

キック一発の長さ全てを表示すると下のようになります。

f:id:eki_docomokirai:20180127221222p:plain

 周期ごとにかなりズレていることが分かります。

© docomokirai 2017 楽曲制作、ミックス、マスタリング。DTMと音楽理論のレッスン。