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eki_docomokiraiのブログ

作編曲家のえきです。DTM、音楽制作TIPS、およびゲーム(Diablo3RoS)の話を書いています。

室内楽、アンサンブル用アレンジのコツ(1)

DTM、作曲、編曲、生演奏に関する記事です。

こういうアレンジをすると良くなるよ!というノウハウの話。

主にDTMをやっている人が生演奏用の編曲をする際に注意するべきことを書いておきます。主に小編成の室内楽アレンジを対象として書きます。

近年はコンピューター音楽制作の環境も非常に良くなり、また、楽譜制作もやりやすい時代になりました。DTMで流行の曲を弦楽四重奏などに編曲して楽しんでいる人が多いのは、動画サイトを見ていると良くわかります。

しかし、「それ、演奏不能なんだけど……」とか「その楽譜、奏者に渡したら困った顔をすると思うんだけど……」という内容のものがあまりにも多いです。

ある程度の段階までできあがってきたら、一度見直してみてほしいです。

  • 演奏可能か?
  • 生楽器で良いサウンドになるのか?
  • 演奏していて楽しいか?

という観点が抜け落ちています。

 

たしかにDTMではすべての楽器を自由自在に演奏させることができますが、「なんかウソっぽい」と感じてしまう部分は、シンセ音源の音色が人間的じゃないとか、そういうことじゃないんです。

 

たとえば、同じ楽器がずっとメロディをやっていて、残りの人はコードを鳴らすだけのつまらない「伴奏」になっていると、室内楽「らしさ」は出ません。

 

■楽器ごとの音域について良く考える

音域には2種類あります。

1つは「限界音域」です。

これはその楽器で出せる最低音と最高音のことで、適当な本を見たりネットで適当に検索するだけですぐにわかります。しかし、この知識は実はほとんど役に立ちません。

もう1つは「常用音域」です。

常用音域には2つあり、「おいしい音域」と「演奏しやすい音域」に分けて考えると良いです。「最良音域」と呼ぶ人もいます。

ピアノには88の鍵盤がありますが、両端の音域は良い音がしません。効果音に近い使い方をする程度です。だからシンセキーボードや簡易ピアノは61鍵です。

また、声楽と管楽器の常用音域は特に定められた音域ではなく、奏者のレベルによって決まります。ボーカロイドではない、ちゃんと人間が歌う曲を作ったことがあれば分かるはずです。

 

よく目にする素人編曲の場合、「限界音域」でしか考えておらず、ひどいものだと「限界よりちょっとくらい越えても良いよね」という態度で作られていて、実質的に演奏不能な編曲になってしまっています。その考え方の使い方は逆です。詳しくない楽器であれば必ず限界音域より狭く考えるようにするべきです。

 

常用音域を制限する書き方ができるようになると、演奏者が一流プロではなくても十分に演奏できる、楽しくノーミスで演奏できる仕上がりになります。たとえ一流プロの人が演奏するとしても、短い練習時間で仕上げることができます。

また、楽譜の難易度が低ければ、演奏の完成度は高くなりますから、「良いアレンジャーだ」という評価を得やすくなることが期待できます。逆に言えば、限界音域ギリギリの難易度で作った曲は演奏にミスが生じるリスクが高まるので、アレンジャーとしての評価が低くなってしまう恐れがあります。

もちろんノーミスで演奏できるくらいしっかり練習して欲しいものですが、私達が作るアレンジは歴史的名曲ではないのですから、それほど練習時間を用意してもらえないのが実情です。

 

■休符を増やす

声楽や管楽器では息を吸うための休符を多めに入れるように作るのが良いです。

「一瞬隙間があるから、ここで息を吸えるよね」という考え方ではなく、明確に数秒間の休符を曲の数カ所に設けるべきです。

弦楽器や鍵盤楽器でも同じように考えるべきです。演奏中にちょっと座り方を直したりしたくなることがあったり、手汗を拭いたりしたくなるのが生楽器の演奏です。

 

・楽器の組み合わせの都合

ずっとすべての楽器が鳴りっぱなしになっているより、たまには薄い場面(同時に演奏する人数が少ない場面)を作った方がサウンドにメリハリが出ます。

 

■伴奏+やりがい要素を入れる

仮に伴奏だけをする楽器があったとしても、多少の動きを入れないと演奏している人が「この曲、つまらないんだよなぁ」という気分になってしまいます。やりがい要素を盛り込むと、それぞれの楽器が活き活きとした演奏になります。

で、その「やりがい要素」をどう作るのかというと、「その楽器らしい動き」を盛り込むと良いです。気楽にサクサク書いている文章なので具体例は挙げませんが、「あー、その楽器ってよくそういう動きするよね」というパターンを幾つか覚えておくと良いです。

そういうのは教科書を見ても書いていないので、普段から楽器ごとのおいしい動きをストックするように心がけておくと良いです。

ただし、こういうのを入れすぎるとサウンドが崩壊したり、演奏不能になってしまうことがあるので、たくさんのネタを身に着けた上で適切に使うのがベストです。

 

■コード演奏は原則的に禁止

上の「やりがい要素」に近接する話です。

ずっとコードをなぞるだけではなく、動けそうな場所では動きをつけたほうが良いです。メロディが動かないタイミングや、メロディが無い時には特に動きをつけるべきです。

また、瞬間的にメロディにハモる動きにすると、コードとの衝突を避けることもできて、美しいサウンドにできるという一石二鳥の効果もあります。

詳しくはクラシックの音楽理論(和声、対位法)の勉強をする必要があるのですが、普段から音楽をよく分析しながら聞くようにしていれば、ある程度は自然と身につくものです。普段からメロディやコード以外を聞くように心がけていれば大丈夫です。

そういうクラシック系の理論は流行のポップスやダンスミュージック(EDM)、ロックやメタルでも、しっかり作り込まれているものではちゃんと使われています。どのジャンルでもトップアーティストはそういう能力を持っています。

それらの優れた音楽を作った人が必ずしもクラシックの専門的な教育を受けたわけではありません。彼らは普段から「こういう時はこういう動きで合わせるものだよね」ということを常識レベルで身につけているということです。

 

音楽をメロディとコードだけで考えるのを卒業しましょう。

クラシックの理論を毛嫌いするのをやめましょう。

 

■メロディは交代する

同じ楽器がずっとメロディ担当というのはどのジャンルの音楽でもおかしいです。たとえ歌モノのポップスだったとしても、伴奏の楽器が目立つ場面があります。そういうバトンタッチを入れることによって音楽は立体的な構造を持つようになります。

アレンジする楽器の編成を決めたら、「この場所のメロディは、こっちの楽器でやったほうが雰囲気が合うんじゃないかな?」と考えながら、メロディをいろいろな楽器に分散してみるのがオススメです。

アレンジの技術が身についてくると、どの楽器がメロディをやっていても、他の楽器で的確な伴奏をつけられるようになります。低音担当の楽器がメロディをやる場面の伴奏の組み立ては難しいですが、「ここは絶対に低音楽器でメロをやるんだ!」という縛りプレイで試行錯誤すれば、必ず良い書き方にたどり着けます。安易な楽器にメロディをやらせてばかりだと、そういう工夫をする機会が得られないので上達できません。

また、メロディを分散する理由は、「ここは一番派手にしたい!」という場面で、一番威力のある楽器の一番おいしい音域でメロディを鳴らすことができるからです。

弦楽なら「ここはバイオリン1とバイオリン2のオクターブで!」というのが一番威力があります。金管なら「ここはトランペット1がやや高い音域で、その3度下ハモをトランペット2で!」というのが非常に華やかです。

編成を決めたら一番威力のある鳴らし方をどこで使うのかを決めましょう。その前後のつなぎを決めていくと全体的によい盛り上がりを組み立てることができるようになります。

 

■演奏が困難な場面を考える

DTMの打ち込みと違って、生楽器はどの楽器でも独特の難しさがあります。

「その楽器らしさ」「その編成らしさ」とは「その楽器の苦手な要素」によって生まれると言うことさえできます。

その楽器が得意な演奏パターンは「やりがい要素」として組み込まれる一方、「苦手要素」はできるだけ排除されるべきです。

「その楽器らしくない動き」をやらせると不自然になってしまうからです。

 

■楽器知識を仕入れる時によくあるミス

よくあるミスは、そういう「その楽器の苦手要素」を調べようとして、試作した楽譜をその楽器の奏者に見せて「ねぇ、これってフルートで演奏できる?」と質問してしまうことです。プレイヤーにもプライドというものがありますから、なかなか「できません」とは言えないものです。特に音大生やプロ奏者ともなると、「できない」なんて言ってしまうとダメ奏者だと思われてしまいますから、どんな困難な楽譜を見ても「できる!」と言ってしまいます。

経験上一番プライドが高いのがトランペット奏者で、どんな高い音でも「出せる!」と答えてしまいます。トランペットは高い音を出すだけでも相当な緊張をするものですが、緊張していると高い音は出ません。覚悟を決めて勢い良く吹き鳴らすこと以外では高い音は出ないので、気が強くなければできない楽器だからです。気が強い彼らに「できる?」なんて質問をしても「できません……」と逃げることは絶対に無いです。

 

・下手くそな人が真実を語る

ここは逆に考えるべきです。

弱腰な中高生の吹奏楽部の女子部員、しかも下級生の答えることが最も正解に近い答えを得られます。もちろん吹奏楽の名門校とかではダメです。そこらへんのへっぽこ吹奏楽部の1年生が「これならできます!」と笑顔で答えてくれるなら、それは演奏可能な楽譜です。もしくは市民楽団の2番バイオリン奏者などの、言っちゃ悪いですが下手くそな人に質問するようにするべきです。

そういう難易度を基準にしたものであれば、音大生やプロ奏者が演奏すれば、ほとんど練習をせずに初めて見た楽譜でもすばらしい演奏内容になります。

 

音大生やプロの奏者が真剣に練習しなければいけないレベルの難しいアレンジは、本番で結局ひどい演奏になってしまい、「アレンジが悪い」という評価になってしまうものです。

そういうハイレベルな奏者から依頼されたアレンジ仕事であれば難易度はいくら高くても良いのでしょうけど。

 

・名曲から学ばない

歴史的レベルの名曲のスコアを見て学習したとしても、そういう曲の中には難易度が異常に高く、楽器の基本的な奏法を無視したものも多くあるので注意が必要です。

そうした曲は、そもそも作曲家が「天才だ!」という評価になった後に作ったものですから、演奏する側も「天才が書いた曲なんだから我々も真剣に取り組まなければ!」と気合を入れて練習するわけです。

そういう難易度の高いものを「名曲だから」という理由だけで参考にしてしまうのは間違った勉強方法です。

また、それぞれの楽器の教則本を参考にするのも間違いです。教則本に書かれている「エチュード」は訓練のために使う筋トレグッズ、バーベルや鉄下駄のような負荷を与える目的で作られていることがほとんどなので、参考にするべきではありません。

もし上の「名曲」や「エチュード」を参考にするのであれば、「絶対にそれより難しくしてはいけない上限」の知識として仕入れるべきです。

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