eki_docomokiraiの音楽制作ブログ

作編曲家のえきです。DTM/音楽制作で役立つTIPSを書いています。

弦セクションで演奏困難なフレーズの分業化

弦レコーディング配信を見ていて気になったのでブログ記事として残しておきます。弦セクションの生演奏の運指話。

(2020年2月11日)

 

 

■演奏不能ではないけれど……

苦戦してたのはM01のアウトロの音形。

テンポはかなり速め。楽器はバイオリン等弦楽器。

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これの運指を考えてみてください。

使う音列はミレドシの「音階」なので、4本の指でナチュラルに演奏可能です。

が、テンポが速いと不器用な小指と薬指の運動が不自然になってしまいます。これでは「難しい運指の曲」になってしまうので、スリリングなサウンドを得られません

 

で、私の提案はこれ。

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2人の奏者で「ミレ・ド」と「ミ・シド」を分業させます。

こうすると運指が圧倒的に楽になり、曲が求めている「スリリングなサウンド」を得ることが容易です。

レコーディング実務としては一発でOKテイクを取れるメリットもあります。ライブでも確実にアツい演奏の姿が見せることができます。非常に些細なことですが、ライブでは弓の動きが見えるので、いい具合にバラついて見えることになり、そこまでの整然としたボウイングとは異質に見えて視覚的にも切迫感が出るはずです。

・誤解を避けるために追記

なんでも「飛び石」に配置すれば良いというものではありません!

今回のリフ的な音形でのみ使える書き方です!

原則的にすべての音符はすべての奏者が演奏するように「普通に」書かなければおかしなことになります。

まずは標準的な知識を仕入れて、その上での応用でこういう技術があるよ、ということです。くれぐれも誤解しないようにお願いします!

 

■難易度を下げる

こういう「分業」を知ったのはパーツラフ・ネリベルの『交響的断章』でした。

トランペット(コルネット)の楽譜に、延々と続く同音連打があります。

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ネリベルはこれを2人の奏者に分担させることで解決しています。

長いシーンを息切れを恐れて細々と演奏するのではなく、あくまでも激しいfの音を出すことが可能です。

もちろんこの方法はネリベルが初めてやったわけではありませんし、多くの曲をつぶさに研究していると稀に発見できる作編曲技術です。

・プレイヤーからは引き出せない

こういう「難易度を下げる」作編曲に対して『ナメんじゃないよ!』と反骨精神を燃やす奏者がいるのは事実です。

冒頭のような音形を「これ演奏できる?」と質問しても、プレイヤーは『できる!』としか言いません。できないと言えば演奏能力を疑われることに結びつくからです。

確かに1人ならできるでしょう。分かります。しかし複数人の演奏をピタリと合わせるのは困難です。

結局レコーディング配信ではこの部分に多くの時間を費やした挙げ句、あまり良いテイクが取れていなかったように見受けられました。(実際、妥協案として「一箇所良くとれていれば編集で増やせるから」という声も聞こえていました。

 

■で、どこで配信してたの?

時折レコーディング風景を配信してくれています。

興味のある方はぜひチェックを!

www.youtube.com

どういう理由で演奏を止めたのか?

どこが改善されたのか?

なぜ問題無いのに何度もとったのか?

などなど、しっかり考えながら視聴すると勉強になるはずです。

 

■バイオリン属の基本的な運指

どこの音にも自由に移動できるわけではありません。指板と指の形状を少しだけ考えてみてください。

下のリンク先では有名な『パッヘルベルのカノン』の運指が丁寧に説明されています。

 

www.violinonline.com

Canon harmony B

https://www.violinonline.com/colorall_canon-melody.html

上を踏まえて、楽器の基本的な奏法を知った上でフレーズを書くべきです。

 

もちろん高難易度の曲は困難な運指になりますが、難易度を下げることで良い録音を得られる可能性が高まります。録音時間も短縮されます。ライブパフォーマンスは飛躍的に上がります。

私達程度のヘッポコ作曲家の曲のために、必死に練習する人はいません。私達はベートーベンのような偉人ではありません。

 

知識としてだけでも知っているのと知っていないのとで、書ける内容は大きく異なります。

「あらゆる楽器の『らしさ』とは、その楽器の弱点・制約から来るものである」という考え方を否定するべきではありません。

・原則

4本の弦はすべて4度調律です。

他の楽器と同じように、音階は隣の指への移動です。

フレーズの一番低い音は人差し指(1)か開放弦です。

一番高い音は小指(4)です。

奏者は基本的に1つのポジション(肘の角度)を保って演奏したがります。

ポジションの移動するフレーズは難易度が上がります。

・例外

ただし、開放弦はビブラートができない(音程調整ができない)ので、忌避されることがあります。

特に長い音を開放弦にすることは稀です。

・移弦

指が交差する運動は無理です。

指の交差を避けるために、フレーズの途中で箇所でポジションを変更することがあります。可能な限り同一ポジションを保ち、スマートに処理されます。

移弦でフレーズに「折り目」がつくことがあります。

 

・重音

6度と3度の重音は最も容易です。

5度、4度、8度も可能ですが、自由度が低いです。

開放弦を使った重音は容易で、サウンドも大きくできます。

4度はギターのバレーコード的になり、これはフレットレス楽器では困難です。ポピュラーバイオリンでは多用されますが、不慣れな人には奇異に見えることもあります。

ポルタメント

原則的にNGだと思うべきです。

既存の録音物でポルタメントに聞こえるのは、ポジション移動によってやむなく生じたものである可能性が高いです。(ギターのフレットノイズのようなものだと思うべき、ということ。)

フレーズ最高音が1つだけ突出する場合、ポルタメントで上昇して対処することがあります。が、これもポルタメントを指定したものではありません。エレキギターで最高音にチョーキングで到達させるようなものだと思ってください。

・音域

DTMの人は音域をないがしろにしすぎです。

ほぼ全ての音域資料は「出せば出せる音」についてのデータでしかありません。その楽器が豊かに響く音域でおいしいフレーズを書きましょう。人間が歌うボーカルと同じです。

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