eki_docomokiraiの音楽制作ブログ

作編曲家のえきです。DTM/音楽制作で役立つTIPSを書いています。

イングヴェイの"Far Beyond The Sun" をトランペットにアレンジした。(編曲話)

イングヴェイの初期代表作"Far Beyond The Sun"をトランペットソロ曲としてアレンジしました。

せっかくなのでアレンジ内容とトランペットの演奏技術についてちょっと解説。

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(2020年6月20日更新)

 

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ピアノ伴奏音源も付属しています。まずは自宅でひとりでチャレンジしてみてください!

・パクりについて

「あのゲームの曲とそっくりだ」と思った人は認識を改めてください。そのゲーム音楽の方がパクってるんです。 

■まずは原曲を聞け!

イングヴェイの初期ヒット曲。1984年作品。

多くのギタリストや作曲家に影響を与えた「まさにこれ」という速弾きギターサウンド

www.youtube.com

当時のイングヴェイは文句なしにかっこいい。

中高生のころからこういう超スピードの曲を聞いていたから、クラシックの曲で要求されるスピードとか余裕だった。ありがとうインギー。私に対する評価として「お前はクラシックの人だからなぁ」と言われることがありますが、別にクラシックだけやってたわけじゃないです。念の為。

 

が、その後インギーは太ってしまい「豚」とか呼ばれる始末。トランペット奏者、エリック宮城のように。

 

速弾きギターで世界を驚愕させた後、彼より速いギタリストは山ほど現れた。

しかし、ある友人はこう言った。

「インギーのギターは速いだけではなくかっこいい」。

 

■トランペット用にした。

エレキギターはかっこいい。

同様にトランペットもかっこいい。

 

ただ採譜してなぞるだけのアレンジはダメ、絶対。

その楽器の良さを出さないとね。

 

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結果、かなり難しい内容になりました。

当初から「今回は無茶な曲を書くぞ」と決めていたのでこれで良い。

 

が、ちゃんとトランペット曲の伝統的な書き方に準拠しています。スパニッシュ系のトランペットってこういうのあるよね、という内容。

youtu.be

聞いてもらえば納得してもらえるはずだが、、この曲は非常にトランペットに合う。

 

もちろんアレンジでトランペット曲として適合させるために多くの工夫をしているので、以下に色々書いておく。

 

たとえば冒頭のフレーズはラッパのファンファーレの音形そのものだ。

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・トランペットの限界音域

序奏が終わって、16秒からの下降フレーズ。ここでB♭トランペットの最低音(記譜F#、実音E)を使うように音域を設計。原曲より少し低いキーにした。

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この辺の限界低音は音程が著しく悪いが、吐き捨てるようなフレーズなので問題は無いと思ってる。和音を組むものでもないし。

なおこのフレーズは3つ目と4つ目の運指が両方2なので異様に難しい。が、これもスピーディな流れで「ごまかし」処理されても全く問題は無い。全部クリアに演奏できるなら硝酸に値する腕前だと思う。いや、腕前じゃなくて「口先」か?

ハーミニックマイナーの宿命なので仕方ないね。

 

・主題の変容

上の限界音域は28秒からの第一主題(?)。反復しながら3オクターブを上昇する部分。この部分の「タタタターン」は冒頭のファンファーレと同じリズム。音程を変えてクラシック理論で言うところの「変容」の手法で書かれている。 

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トランペットの限界音域にピタリと合わせた2オクターブ半のフレーズだということが分かる。この部分の演奏で音域を全て扱える柔軟さをアピールできる。

一番上は予備譜で記譜D(実音C)。難易度を下げた実音符ではその3度下。

そこから一気に最低音まで駆け下りる。

 

・テクニックと歌

51秒~ ロマンチックな第二主題。

イングヴェイの曲の魅力は高速テクニックだけではなく、こういう美しいメロディをしっかり盛り込むセンスにあると思ってる。

ここのリズムも冒頭の「タタタターン」の動機を引き継いでいる。

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順進行(スケールのとなりの音への移動)のみで書かれたメロディはロマンチックで歌い込みやすい。トランペットのメロディ楽器としての魅力が発揮できる。

それだけだと安直なので、管楽器ソロ曲らしさを出すために分散音+トリルでテクニカル領域を交互に配置した。難易度を上げすぎないために、省略可能な音符も指定してある。(楽譜買って確認してね!)

なお、動画用の参考演奏をコンピュータで作ったが、リリカルに聞こえるようにヨレた演奏に仕上げてみた。

 

シンコペーション

シンコペーションによる変則的なリズム。

それだけだとイヤミになるので、2小節目には直前のリリカルなメロディを複合してある。こういう点からもきっちり理論通りに作られていることがよく分かる。

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なお、強引な解釈かもしれないけど、ここの最初の3音の連続も「タタタターン」の動機とみなせるかもしれないけど、どうだろうね。(こういう分析をやると「お前の分析は強引すぎる」と言われることもあるので、ここの解釈は無理があるかもしれません。)

・タタタターン再び?

速弾きゾーンが終わって新しいフレーズ。

2分13秒~

これも「タタタターン」の変形だと読めると思うけど、どうよ?

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いずれにしても非常にトランペット的なフレーズ。なじむ。

他の楽器のための曲を無理やり演奏させる人が非常に多いけれど、「この楽器でやる価値」については常に自問自答しなきゃいけないと思う。ヘヴィメタルの決め台詞で言うなら「すべての似非アレンジに死を!」ということだ。

・高音の難易度処理

2分31秒~

シンコペーション部分に続く高音部。

 

記譜AからCに間の音をはさみつつ、非常にハイブローしても良い場面で使うことにした。手前に中高音域の準備があれば失敗は減る。

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今回の曲のような「超絶技巧曲」ならどんどん使っても良いんだけど、より良い演奏結果を出して欲しいなら、高音をむやみに使うべきじゃない。アマチュア・学生相手の曲なら論外だと思ってる。

 

・オルタネイト・トレモロ

とは言え、コンセプトは超絶技巧曲なので存分に無茶フレーズを書く。スーパーテクニックゾーン!

2分42秒~

最初のA(実音G)はオルタネイトフィンガリングのトレモロ。これは原曲のギターの演奏をそのまま再現している。

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通常運指では「12」で、替え指は「2」か「3」。

つまり「12」と「2」を高速で交互にくりかえすと、舌のタンギングとは全く異なるニュアンスのトレモロになる。

(なお、3&13でもできるが、その後が極めて不利な状況になる。)

 

他の有名なトレモロ運指は記譜音 中Dでの1&13や記譜 上Gの0&3など。ジャズアドリブで稀によく出てくる。

その他、オルタネイトフィンガリングについては下のリンクが非常に分かりやすい。

www.youtube.com

https://d3jc3ahdjad7x7.cloudfront.net/gXQPVRqgoELBApvR6mKgs1RP4bbptqZp1QE1NxEpru3GOsMb.pdf

 

・超絶技巧のつづき(画像なし)

その先は楽譜画像は出さないけど、無茶な超高速ゾーンが続く。

この場面は原曲のギター演奏を無視し、トランペットらしさのある超絶技巧を書いた。『熊蜂の飛行』とか吹けるなら余裕でできる難易度。

途中途中にリリカルなフレーズを入れたので、超高速ゾーンはぶっちゃけ「ごまかし」で荒々しく演奏しても問題無い。ロディアスな瞬間だけ綺麗にやってもられば楽譜を見てない人には「すげえ!」と思い込ませることができる仕掛けになっている。

こういうのはまじめに音符1個1個を追いかけず、フィーリングを重視して演奏した方がそれらしくなるし、実際そうやって演奏するものだ。ジャズとかの市販の耳コピ楽譜だって超テキトーだし。

 

この場面のピアノ伴奏も、この部分にしか登場しない分散和音と高音域を配置した。ここまでいかにもハードロック曲を下敷きにした、よくも悪くも退屈な伴奏をしている。しかもそれらを低難易度で書いてきたが、ようやく色彩感のあるピアノの本領が発揮される。

こういう管楽器のソロ曲の伴奏は、ソロ楽器以上に難しいものが多い。そりゃそうだ。管楽器は単音しか出ないし、その単音でさえ

 

・クライマックス手前

2分54秒~

クラシックの協奏曲的で頻出する、属和音(dominant)になる場面で頻出するテクニカルな部分。

こういう部分で攻めた書き方をすると、ちゃんと良い曲になる。

後述するブルッフの『バイオリン協奏曲第1番』でもソロの劇的な分散和音からオケ全体の大きな演奏を呼び込む場面があるのでぜひ聞いてね!

 

・最後の音?

なぜメジャーキーになるのか謎な曲。

たぶんヘヴィメタルの文法として、「戦いの果ての勝利」としてメジャーキーになるのだ、と好意的に解釈することもできる。

が、普通にマイナーのまま自然に終わった方が良かったんじゃないかなぁと感じる。

 

でもあえて原曲の構成に従い、メジャー主和音で終わることにした。

 

■ピアノ伴奏の難易度

三連符を間引きして難易度を下げています。

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緑の箇所はなんとなく入れた。瞬間的な連打なので問題無いと判断。曲の流れ的にも、リズムが崩れてもスリリングになるはず。だと良いな。

 

5度ベースのコードチェンジ時も最後の音を省略した。

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例外的に残した箇所もある。が、事前に間引きで記譜しておけば、難易度に難ありと思った奏者は「あっちに無いから、こっちも無くて良いんじゃね?」と判断できるはず。

そもそも経験上、こういうのを細かく読む人は少ない。流れでなんとなく同じ音形を連続しているように錯覚する人のほうが多い。




 

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以下、関係ない話。

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ブルッフのヴァイオリン協奏曲

関係ない曲の話。

イングヴェイを聞いていて無性に思い出すのが、クラシックの協奏曲。彼は本当にこういうジャンルの影響を強く受けていると思う。

 

たとえばブルッフの『バイオリン協奏曲第1番』の1楽章、2分50秒あたりからのハーモニックマイナー感と、音域レンジの広さとか。

 youtu.be

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1楽章に限って言うならめちゃくちゃ格好良い曲なのでぜひ聞いておいて欲しいです。

 

1楽章の終盤、23-24ページの伴奏部分のコード感とか死ぬほどカッコイイ。

(時間指定再生)

youtu.be

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https://imslp.org/wiki/Violin_Concerto_No.1,_Op.26_(Bruch,_Max)

なお、超個人的な趣味で言えば、この動画のソロバイオリンの演奏は硬くて好みじゃない。もっとヒラヒラした危うい感じの方が好き。

私はこの曲を昔演奏したことがあり、その時のソリストの演奏には本当に感銘を受けた。

 

■関連記事

技術話は別の記事にしました。

 

eki-docomokirai.hatenablog.com

 

 

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