eki_docomokiraiの音楽制作ブログ

作編曲家のえきです。DTM/音楽制作で役立つTIPSを書いています。

他分野から創作の真髄を学ぶ「岡田斗司夫ゼミ」の紹介

全クリエイター必見だと思っている『岡田斗司夫ゼミ』の話。

面白おかしく解説している姿そのものではなく、アニメーションという創作の裏側から、他分野にも通じる創作の真髄を知ることができるからです。

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このブログは音楽制作という立場ですので、音楽の側の視点から書きます。

(2020年5月18日更新)

 

岡田斗司夫ゼミとは?

自他ともに認めるオタクの王者、「オタキング」こと岡田斗司夫が、古今東西のアニメを中心に面白おかしく解説するネット動画番組です。

氏は現在、これをユニークな事業として行っており、その集客のために膨大な量の過去資産を無料で公開しています。

氏曰く、「ネットではこのくらいの質と量を無料で出さないと客は集まらない」とのことです。

 

有料番組もあります。その詳細については各無料番組の末尾に宣伝があるのでご確認ください。私もたまに入会して、内容をまとめてチェックし、すぐ退会しています。この「必要な時だけ入会」スタンスは岡田氏本人も推奨しています。

 

冒頭には「アニメ等を解説」と書きましたが、より正確には「より楽しむための解釈の方法」です。岡田氏もそう言っています。ペラいオタクは正解は1つだとしたがりますが、そうではない。作品の解釈は多種多様であり、どの解釈方法が多角的に見てもっても楽しく、なおかつ妥当性が担保されるか?ということです。

なお、このスタンスは私が大学(国文学)で学んできた文学研究のスタンスとほぼ同じであり、アカデミックな手法のひとつです。

 

岡田斗司夫ゼミの見どころ

今回紹介している「岡田斗司夫ゼミ」を見たとしても、インパクトのある部分に意識が行ってしまう人が多いでしょう。一般人が雑学自慢をする時のように「知ってるか?火垂るの墓の最初のシーンってこういう意味なんだぜ?」という具合に。

 

見るべきところはそういう一発雑学的な知識ではなく、氏の豊富な知識と人脈から紡ぎ出される創作裏話だと思っています。

どうでも良い情報を切り捨て、「他分野のエッセンスを学ぶ」という姿勢で見れば、岡田斗司夫ゼミは全クリエイターに役立つ優れた参考書になるはずなんです。

 

「つまりどういうことよ?」と思う人のために、以下に1つ紹介しておきます。

 

■客観視が作品をエンタメにする 

www.youtube.com

https://youtu.be/EQuThK34U5I?t=1781

火垂るの墓』の解釈動画ですが、私がピックアップするのは『となりのトトロ』について少し語っている部分です。

 

・客観視、アドバイスがいかに大事か?というお話

この動画で私が重要だと思う箇所をかいつまんでおくと、

  • エンタメとゲージツは違う(30分15秒~)
  • となりのトトロ』制作裏話。宮崎駿「俺も文芸をする!猫のバスなんで出してられない!」「駒に乗って飛ぶ部分もやらない!」(30分50秒~)
  • 鈴木敏夫が困り果てて高畑勲に話を伝える
  • 高畑勲「もったいないですね」
  • 鈴木「高畑さんがもったいないと言ってますよ!」
  • 宮崎「じゃあ出します」

これがどういうことかというと、作品を作品たらしめるためには客観視が大事だということです。

もし猫バスが出てこない、もしトトロが飛ばない内容だったらどうなるか想像してみてください。文芸作品として渋いかもしれませんが、エンタメとしてはクソつまらないはずです。

ストイックな文芸ではなく、より多くの人に見てもらうエンターテインメントとして成立させるために「フックする」何かは欠かせません。『となりのトトロ』で言えば上述の猫バスや、初期ジブリ作品で顕著な飛行シーンが欠かせないということです。

 

ここで触れられているソース書籍はこちら。

仕事道楽 新版――スタジオジブリの現場 (岩波新書)

仕事道楽 新版――スタジオジブリの現場 (岩波新書)

 

 

鈴木敏夫というファシリテイターの重要性

また、客観視によるアドバイスは、不特定多数の声ではなく「信頼できる誰か」の声であることが大事だということです。

 

「もったいない」と発言した高畑は宮崎が尊敬している人物です。

その間を取り持つ、重要な伝言役を努めたのが鈴木敏夫です。

もしその場で鈴木が「もったいない」と言っても宮崎は動かなかったでしょう。

 

言葉そのものの意味よりも、「誰が言ったか」が大きな価値を持った場面です。

「不特定多数の声を採用すると必ずクソになる」のはあらゆる創作分野で常識です。もし自分が進言しても無駄だと思ったなら、「誰の声なら信頼してもらえるか?」という作戦が必要になります。

こうした話は岡田斗司夫ゼミで紹介される他の作品でも何度か出てきます。多くの名作の裏に、ちょっとした一言、決め手となった一言が存在します。そして、それを引き出すために動いた人がいるんです。

 

なお鈴木敏夫がいつもこういう良い行動をしていただけではなく、誤解を与える悪い行動もしてしまっているということは、他の岡田斗司夫ゼミの動画で紹介されています。そういう人間模様を楽しめるのも岡田斗司夫ゼミの面白いところです。

 

■他分野からの学び

残念なことに、音楽家に限らず、他の分野からの栄養吸収能力をしっかり身につけている人は皆無です。他分野の作品に触れても、その上っ面しか観察できず、ただの消費者になってしまったり、権威主義に陥ってしまう人がほとんどです。

もっとも多いステレオタイプとして美術展や演劇を見に行っても「すごかった」という一般大衆の感想、それも底辺並みのことしか言えない人がいます。

そりゃそうですよ。多くの人は一芸に長けているぶん、他の能力が低いんですから。ましてや複数の分野を横断的に扱える人なんてほとんどいません。

 

なんだか分からないで美術展に行く「意識高い」行為をするくらいなら、見どころを咀嚼してくれる岡田斗司夫ゼミを見たほうがマシだと思います。

その際には「自分の分野でも応用できるポイント」を探すようにしてみると、異分野の芸術から栄養を摂取する能力を高められるはずです。

 

私が学生時代から周りと圧倒的に異質だった点は、この他分野からの栄養吸収能力だったと自覚しています。常に異分野の知人が多く、異なる価値観から生まれるエッセンスを学び続けていました。

もちろんそういう散漫さによって機会喪失したこともあるに違いないと自覚しています。それでもなお、異分野に触れることで身についた「横断的な解釈力」は常にアドバンテージとして機能してくれています。

 

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